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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 ハイ・シェン所縁の地。
 オリュンポスの戦闘員によって騒がしくなったこの場所で、東 朱鷺(あずま・とき)は変わらず探索を続けていた。

(パラミタ内のあらゆる戦争や派閥争いに関わったと伝えられるラルウァ家。
 ……彼らが本当に存在していれば、歴史の闇や新たな真実に出会えると言います)

 朱鷺の目的はラルウァ家の者と出会うことだ。
 <博識>によってその存在を知ってから、いつか会いたいと思っていたのだった。

(彼らがこの御伽の街に居ると聞いて来たのはいいですが……中々出会えませんね)

 朱鷺はこの街に着いてから、あらゆる場所をめぐった。
 そして、【八卦術師】という自分の<名声>も使ったが、一向に出会えない。

(簡単に会えないのは承知の上でしたが……この場所は……)

 朱鷺は辺りを見回した。
 ハイ・シェン所縁の地のあちこちで騒ぎが起こっている。
 それは多分、特別警備部隊の者達とコルッテロの傭兵が戦闘を繰り広げているのだろう。

(……これだけ騒がしいと、この場所にはいないかもしれませんね。次に行きましょうか)

 と、朱鷺が早々に諦め、新しい場所に向かおうとした時。

「待てよ、八卦術師」

 ずしりと胸の奥に響く低い声が、朱鷺の背後からかけられた。
 と、共に背筋にぞわりと冷たいものが這い上がる。彼女は慌てて振り返った。

「キミは……ラルウァ家の者ですか?」
「おおっ、ご名答。そうだ、俺は【百鬼夜行】ニゲル・ラルウァだ」

 笑いながら、ニゲルは言った。
 染めてあるのか生え際が黒い金髪に、和服をザラっと着流した長身の青年。
 片手を懐に入れ、腰に刀を差している姿は、さながら時代劇に出てくる武士のようだ。

「で、八卦術師。てめーはラルウァについて嗅ぎまわってたよな。どういう了見だ?」

 ニゲルは見透かすような瞳で、朱鷺を見つめる。
 朱鷺はその瞳から視線を外さず、口にした。

「いえ、キミら一族と密接な関係を持ちたいと思いまして」

 朱鷺の言葉を聞いて、ニゲルは目を丸くした。

「へぇー、久しぶりの試験志願者か。覚悟はできてんのかよ?」
「試験ですか?」
「あー……、そうか。知らねぇのか。
 試験ってのはあれだよ、ラルウァになれるかどうかの試験。
 つまりは、仕事を手伝ってもらって、その間に俺達が判断するっていうもんだ」

 試験の説明を聞いて、朱鷺が問いかける。

「……暗殺や闘争を生業にしてるとの噂ですが……そういった関係のお仕事で?」
「ああ。なんだ、怖気づいたのかい、八卦術師?」
「いいえ。朱鷺にとって、それはデメリットにはなりませんので」
「そうか、なら試験をやるかい?」
「ええ。やらせていただきます」

 ニゲルはその言葉を聞くと、くくくと可笑しそうに笑った。

「でも、気をつけたほうがいいぜ。
 ここ百年間でラルウァになれたのはたった二人だからな。
 なれなかった奴は仕事中に死んだか、お目にかからなくて仕事が終わった後に殺された」
「それでも、過程がどうあれ結果を求める朱鷺には、手段はどうあれ今も生きている伝説のキミら一族の力は認めるところですので」
「認めると来たか。面白いねぇ、八卦術師。いいぜ、案内しよう。ついてきてくれ」

 そして二人はハイ・シェン所縁の地を後にするため、歩き出した。
 と、朱鷺はニゲルの後をついていきながら、自分の疑問を解消するため問いかけた。

「人喰い勇者ってなんなんでしょう? ラルウァ家となにか関係が?」
「どうしてそう思うんだい、八卦術師?」
「人喰いと勇者は相容れるものでは無いと思うのです……。この違和感の隙間にきっと、キミ一族が潜んでる気がしましたから」
「ははっ、そりゃそうだよ、八卦術師。ラルウァ家はハイ・シェンによって出来たようなものだからな」
「? それはどういうことですか?」
「おまえがラルウァになれたら教えてやるよ」

 そう答えたニゲルはとある人物を見つけて、足を止めた。
 不思議に思った朱鷺が声をかける。

「どうしたのですか? いきなり立ち止まって」
「いや、ちょいと懐かしい顔を見つけたからな。
 ……挨拶をしてくるか。すぐに帰ってくるから、ちょっと待っててくれ、八卦術師」

 ――――――――――

 蒼灯鴉は聞き込みを行うアスカとルーツの二人を見張っていた。

(ここから聞いている限り、情報は特に無し……か)

 オリュンポスの戦闘員も、手一杯なのかこちらには来ていない。
 そろそろ潮時かもな、と鴉が思った時。

「久しぶりじゃねぇーか、蒼灯鴉。元気にしてたか?」

 不意にかけられた聞き覚えのある声に、鴉は慌てて振り向いた。
 そこに立っていたのは、不敵な笑みを浮かべるニゲルだ。

「ニゲル・ラルウァ……!」
「おおっ、覚えておいてくれたのかい。嬉しいねぇ」
「忘れるわけがないだろう! おまえらは、俺から、両親を……!」

 鴉は憎悪に満ちた目でニゲルを睨む。
 ニゲルは見下すような目で鴉を一瞥し、「んー?」と顎に手を添え、

「俺らはそんなことしたか? 忘れちまったなぁ……」
「ッ。ふざけるな! おまえらはあれだけのことをして!!」

 鴉の叫びに、ニゲルはぼりぼりとこめかみを掻く。

「あー……、一々覚えてたら、こんな仕事出来ねぇよ」
「ッ!!」

 鴉はニゲルに襲いかかろうと、<疾風迅雷>で地を蹴りだす。
 が、ニゲルはニヤリと口元を吊り上げ、腰の刀《断罪者ギロチン》の柄に手を添えて、

「<落雷の術>!」

 二人の間に、雷が落ちた。
 突然の落雷に二人が後方に跳躍し、距離を開ける。

「も〜、なにをしてるのよ。鴉〜」
「それだけ頭に血が昇っていたら、勝てる戦いも勝てないだろう」

 アスカとルーツが鴉に近寄り、声をかけた。

「おまえら、なんで……?」
「それだけ殺気を出してたら、流石に気づくよ」

 ルーツは<殺気看破>を使い、警戒をしていた。今回の場合はそれが功を奏したのだろう。
 アスカは鴉ににこりと笑いかけ、次に視線をニゲルに移して冷たい声で言い放った。

「あなた、私の鴉をここまで怒らせたんだもの。勿論、覚悟は出来ているわよね〜?」
「ハッ、いいぜ。上等だ。百と三、文字通り格の違いを見せてやるよ。……と、言いてぇんだが」

 ニゲルは刀の柄から手を離し、代わりに一枚の陰陽符を取り出した。

「お生憎様、用事の途中でな。人を待たせるのも良くねぇから、ここらで退散させてもらうぜ」

 ニゲルは言い終えるやいな、<滅焼術『朱雀』>を発動。
 魔力を込めて陰陽符を地面に投げつけ、大きな火柱を上がらせた。

「じゃあな。縁が合ったらまた会おうや」

 火柱が消えた時。
 ニゲルは既にいなくなっていた。