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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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●Intermission

「こちら和輝。定時連絡だ―――――」
 ニュースを伝える電光掲示板、その日のニュースがつらつらと文字で流れる。
 右から左へ流れていくその文字の真下、奥まった暗がりに佐野 和輝(さの・かずき)の姿があった。灯台もと暗し、と云う。このすぐ上の掲示板が明るく、人の注目を集める一方で、彼が潜む暗がりは盲点のように他人から認識され難い。絶好の場所なのである……ツァンダの街をゆく人間を監視するには。
 ホークアイと呼ばれる超視力を用いて、彼は仁科耀助を観察していた。
 とりわけ、耀助が何度も開いては書き込んでいる手帳は念入りに。
「仁科耀助は失踪事件について嗅ぎ回っている。あの手帳、本人は『ナンパノート』などと呼ばわっているが実際は捜査メモとしての意味合いのほうが強いように思える」
 和輝は、誰かと直接話しているわけではなかった。実際はテレパシーで、とある『依頼者』に経過報告をしているのだ。
 依頼者と和希の関係は、単純に仕事で結ばれた関係でしかない。依頼者の考えには賛成も反対もないし、そもそも興味すらない。また、依頼者と自分とは完全に対等であると和輝は考えていた。和輝は情報を提供し、依頼者はそれに見合う対価を払う……ただそれだけだ。だから卑屈にへりくだりはしない。かといって、尊大にもなっていないつもりだった。
「あんたらについてか……? さあな、なんとも……」
 いや、待てよ、と和輝は口を閉ざした。依頼者とのテレパシー接続を切断する。
 代わりに彼は、精神感応を使って自分のパートナーアニス・パラス(あにす・ぱらす)に呼びかけていた。
「アニス、仁科耀助の足を止めろ」
 アニスは和輝のはるか下、耀助の十数メートル先に待機している。「スパイ活動だ」と言って和輝が連れてきたのだ。なお、本人も「スパイごっこだよ〜♪」と喜んでいたものの、現時点まで活動らしい活動はなかった。
「え? どうやって……?」
 急に呼びかけられたもので、アニスは困ったように掲示板を見上げた。
「自分で考えろ」
「そんな〜」
 頭を抱えるアニスだが、すぐに『御託宣』を使えばいいと察したようだ。意識を集中させる。ここではない世界の声を求める……やがて、電気がピリッと走るような感覚がアニスの頭の中で弾けた。
「……っと、『あの娘』からの声が聞こえたよ〜♪」
 御託宣の発想に従い、アニスはててーっとリスのように小走りして、すてん、とやや大げさに耀助の前で転んだ。
「あいたっ」
「キミ、大丈夫?」
 耀助が駆け寄ってくる。ここで大げさにアニスは痛そうな顔をした。といっても声は出さない。極端な人見知りの彼女は、よく知らない耀助と会話などできないのだ。やむなく耀助は手帳を傍らに置いてアニスに手を貸そうとした。
 アルビノで小動物的な容姿のアニスに生まれもった才能があるとすれば、それは『他人の保護欲をそそる』ということになるだろうか。彼女を目にした者はほぼ例外なくアニスに手を貸したくなるのだ。元来女好きの耀助であるが、彼ならずとも今回は同様の行動に出たことだろう。
「怪我はしてないかな……?」
 色々と話しかけてくる耀助には恐怖心を感じるが、それでもアニスは思っている。
 ――このまま話さなくても良いし、今回は和輝も人見知りについて、何も言ってこないからラクチン、ラクチン♪
 これでいい。
 アニスに注意力を奪われている耀助は気がつかなかった。背後に和輝が音もなく着地し、すっと手を伸ばして手帳を瞬間的に確認し、すぐにまた姿を消したということに。
 再度掲示板下の暗がりに身を潜めた和輝は、アニスに「もういい」と指示した後、テレパシーを再び使った。
「定時報告を再開する。確認した―――あんたのことも手帳に出ている」
 依頼主に報告するのだ。
「ツァンダで見かけた美女、としてな……カスパール」
 依頼主、つまりカスパールのグランツ教が、いささか胡散臭いのは和輝も警戒している。だから情報は断片的なものにとどめておこう。
 ――耀助がグランツ教に関心を持ち始めたかどうか、そんな推測はカスパールに任せればいい。