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星影さやかな夜に 第二回

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星影さやかな夜に 第二回
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リアクション

 十五章 伝説の復讐者

 戦いの音が聞こえる。絶え間なく、聞こえてくる。
 しかし、その場所ではそんな騒音ではない、異質な音が響いていた。

「……うわー、ルベルっちたらほんとに食べちゃってるよー。うげー」

 その音の原因を見ながら、デメテールは苦虫を噛み潰したような表情をした。
 彼女の視線の先では、ルベルがベリタスだったモノをずっと食べ続けていた。

 ルベルは道具を使わない。
 自分の力で皮膚を引き裂き、己の歯と顎だけで自身より大きな生物を喰らい尽くす。
 ――やがて、食事は終わりにさしかかった。
 彼女は紅い血液がぶちまけられた地面から、しなびた二つの眼球を拾い上げる。

「ああっ……ベリタス」

 ルベルは手のひらを目の高さまで掲げ、乾ききった眼球を愛おしそうに眺めた。
 眼球を手のひらで滑らせ、自らの口の中に流し込む。喉が膨らみ、ごくりと嚥下した。

「……これで、いいの? これで、アタシはアイツラに復讐出来るの?」

 周りを囲む契約者たちを振り向いた彼女の口は、自分の髪よりも赤い血にまみれていた。
 それは人を食べたからではない。肉を、骨を、かまわず噛み砕こうとして彼女自身の顎が砕け、肉が裂けてしまったのだ。

「――そうね。あとは、あなたの頑張り次第かな」

 ヴィータが魔法陣を描く作業を終えて、くすくすと嗤った。

「さぁ、憎みなさい。あなたの大切なモノを壊した全てを。
 その憎悪と悪意が、あなたをより強い存在へと昇華させてくれるわ」

 彼女の声を、ルベルはうつろな瞳で聞いていた。

「何者にも囚われぬ超越者、常軌を逸した生命としての特別性。
 世界に存在してはいけないほど強力な存在へと生まれ変わる――覚悟はいい?」

 ヴィータの声が、ルベルの麻痺した脳裏に焼き付く。
 自らの血で喉を濡らした彼女は、救いの神に祈るように、こくりと首を縦に振った。

「きゃは♪ これで、あなたが二人目よ」

 ヴィータが頷く。
 闇色の笑みが広がり、独り言を呟く。

 彼の者は愛する者を食し その血と肉を腹に収めた罪人

 独り言、否。
 夜風に踊るそれは、歌のような詠唱だった。

 その決意は鋼より硬く その憎悪は奈落よりも深い

 ヴィータが語る度に、血の魔法陣が輝く。
 煌々と照らすその光は、中央に立ったルベルを照らした。

 ゆえに 彼の者は戦場に立つ
 あらゆる刃も あらゆる者も 
 この世のありとあらゆるモノ総て その者を抑える力を持たない
 あらゆる総てをもってしても止めることが出来ない 泣き叫ぶ悲劇の勇者
 ゆえに 神は問うた 貴様は何者だと――


 紡ぐ言葉が一瞬途切れる。
 それは、詠唱が終わる合図。残すのは最後の一小節。
 ヴィータはそれを前にし、一瞬、ほんの少しだけ――昔を思い出し、唇を噛み締めた。

(……くだらない感傷ね。人間らしい感情なんて、とうの昔に捨てたはずでしょ)

 ヴィータは、自嘲するように笑い――。
 敗者の魔法を、禁忌の術式を、完成させるために最後の言葉を詠んだ。

 召喚――人喰い勇者

 刹那、ルベルの身体に異変が起こった。
 心の奥の奥にある何かが音を立てて壊れた。
 その音は、とても美しい音色。
 花開くような、美しいうつくしい音色だった。
 それに続いて、彼女の心に言葉が――。

 

 憎悪と悪意の言葉が――。

 
 殺
 殺
 殺す
 殺す
 焼いて、潰して、壊して
 、跡形もなく全部ぜんぶ、微塵も
 灰燼に、その全てを、きっかけとなった
 撒き散らせて、肉も、体液も、内臓も、骨も、血液
 から許さない、だから皆はアタシが許さない、許してやるつ
 根元を断ち切って、至る所を槍で貫いて、謝っても炎で焼き尽くし
 ザラザラにグチャグチャにしてとってもとっても響く絶望の声を喉から洩れさ
 細切れにバラバラに晒して並べてそれでも飽き足らずそいつらに関係する者を全てすべて殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して――


「あ゛ああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 心を埋め尽くす怨嗟の声が、彼女の心を破裂させた。
 心が壊れ、復讐心で再生される。脳の回路が焼け突き、機能を入れ替える。脳が、彼女の肉体を戦闘用に作り変えた。
 すなわち、殺し合う為だけの肉体、生き残る為だけの頭脳に。
 熱風の如きエネルギーが五体に流れ込む。
 身体中の血液が入れ替わるような興奮。身体中の細胞が生まれ変わるような歓喜。込み上げる破壊衝動。
 手足が暴れ狂い、地面を砕く。裂けた皮膚は、すぐに再生する。叫ぶ声は、人のソレからもっと手のつけられないモノへ。
 ――数分後。
 やがて手足を制御した彼女は、死んだように静かになり、その場に膝をついた。

「る、ルベル?」

 心配して声をかけた鴉に、ルベルが鋼の声で答える。

「……アタシはもうルベルじゃない。
 弱くて愚かなルベルはもう死んだ。ベリタスと、ゲヘナフレイムとともに」

 業火の瞳が、全員を射抜いた。

「復讐を果たすために、アタシは全てを捨てる。
 アタシの大切なモノを奪った、全ての者を殺しつくすために。
 アタシの大切なモノを壊すきっかけになった、この街を灰燼に帰すために」

 ヴィータを除く全ての者が息を飲んだ。
 ルベルが抱える、無明の絶望と悲しみの深淵さに。

「だから、アタシに力を貸して。
 この状況を生み出したコルッテロに、ベリタスを追い込んだ契約者どもに、ゲヘナフレイムを壊したあの裏切り者を壊すために」

 ルベルの眼差しは絶対的なものだった。
 ヴィータは欠片も迷わず、新たな復讐者を見てうなずいた。

「きゃは♪ お安い御用よ。わたしはあなたに協力してあげる。その代わり、多少の取り分は頂くわよ」
「ええ、勝手にすればいいわ。コルッテロという組織も、それが蓄えた財産も、復讐できた暁にはもっていくといい。アタシは、他に何も望まない」

 伝説の復讐者の誕生を祝うかのように、風が叫び、天が唸っていた。

「……そうよ、アタシこそが復讐者、新たな勇者」

 ルベルが曇った夜空を見上げる。
 その顔は無表情だった。仲間には見せたことがない顔。見せてはいけない顔。
 心の奥深く、その暗い暗い暗い場所から、冷たい声が這い上がってくる。

「そして、アタシこそが――」

担当マスターより

▼担当マスター

小川大流

▼マスターコメント

大変長らくお待たせして申し訳ございません。
様々な事情が重なり、一ヶ月以上の大遅延となってしまい、お詫びの言葉もございません。
本当に、申し訳ございません。

リアクションについて、少しだけ書かせていただきます。
今回、ご参加いただけた皆様は、リアクションの中ではその部隊の主力と言った風に扱わせて頂いております。
なので強奪戦等には、MCやLCの皆様やNPC以外にも、モブのキャラクターが存在しております(特別警備部隊だと契約者、コルッテロだと構成員です)。

また、今回はご招待と称号をお贈りした方にのみ個別コメントをお送りしました。
励ましのお言葉、私如きの体調を気遣ってくださるお言葉、コメント等楽しく拝見させて頂きました。
ありがとうございます。
そして、前回のマスターコメントで書いた約束を破ってしまい、申し訳ございません。

それでは、また、皆様とお会い出来る日を心待ちにしております。


※これ以降は、今回の大まかなシナリオ結果となります。
 ネタバレを含みますので、ご了承ください。

 以下に六日目の結果、状況とNPCがどうなったのかを記載します。

●六日目を終えた、大まかな状況。

・強奪戦。
 特別警備部隊の勝ちで終わりましたが、アウィスに約束を守る気など最初からなかったようです。
 六人の子供達の救出には成功しましたが、逆に強奪戦の特別警備部隊の者達を人質にとられてしましました。
 人質にとられた特別警備部隊の者達は、廃墟に篭城し、徹底抗戦しているようです。

・礼拝堂のような廃墟。
 コルッテロの者達が攻め込んできましたが、明人とリュカを守ることに成功。
 また、ペンダント(計画の鍵)は特別警備部隊の手の内にあります。

・動かない時計塔。
 三百年前にポーラタカ人の援助を受け、造られた大型の機晶兵器だと判明。

・コルッテロの計画。
 大型の機晶兵器である動かない時計塔を手中に置くことで、カーニバルを訪れた観光客ヤプレッシオの住民を人質にとることが目的。

・新しい勢力の誕生。
 【人喰い勇者】となったルベル・エクスハティオが全てに復讐するために新しい勢力を立ち上げました。
 ヴィータもこれに参加して、自分の目的を達成するつもりのようです。


●六日目を終えた、NPCの結果。

【特別警備部隊】

・彦星明人
 特別警備部隊の詰所に居ます。
 特別警備部隊と共に戦うことを決め、カーニバル七日目の最後の戦いに向かいます。

・リュカ。
 特別警備部隊の詰所に居ます。
 コルッテロの魔の手から逃れることが出来、今は詰所のベットで眠っています。

・李梅琳。
 強奪戦の会場に居ます。
 参加したメンバー全員を一箇所に集め、廃墟に籠もって篭城をしているようです。

・煤原大介。
 強奪戦の会場に居ます。
 負傷により戦える状態ではなく、武器を失って、他の仲間に守られている状態です。

・フラン。
 特別警備部隊の詰所に居ます。
 無力なため戦いには参加できず、六人の子供達やリュカの看病に当たるそうです。

・六人の子供達。
 特別警備部隊の詰所に居ます。
 疲労やストレスが溜まっていたのか、全員ベットで眠っています。子供達が目を覚ますのは、七日目が終わった時かもしれません。

・アルマ・ウェルバ。
 礼拝堂のような廃墟にて、死にました。
 その遺体は応接間の爆発に呑まれたようで、見当たりません。

【コルッテロ】

・アウィス・オルトゥス。
 コルッテロのアジトの最上階に居ます。
 計画通りに進んでいるのかご満悦で、最上階にて洋酒を楽しんでいます。

・ニゲル・ラルウァ。
 強奪戦の会場に居ます。
 六日目の戦いで満足出来なかったためか、少々気が荒立っています。

・アルブム・ラルウァ。
 強奪戦の会場に居ます。
 六日目の戦いで押されてしまったため、借りを返すことを誓っています。

・ルクス・ラルウァ。
 強奪戦の会場に居ます。
 アルマを殺した本人であり、六日目の戦いでヘヴン状態のようです。

・コルニクス。
 礼拝堂のような廃墟にて、死にました。
 その遺体は喰われてしまい、肉片一つも残っておりません。

・ストゥルトゥス。
 強奪戦の会場にて、死にました。
 その遺体は、アルブムに使われることになりました。

【新しい勢力】

・ルベル・エクスハティオ。
 強奪戦の会場に居ます。
 ベリタス・ディメントの遺体を喰らい、人喰い勇者となりました。
 新しい勢力を誕生させて、特別警備部隊とコルッテロの両方と敵対しました。

・ヴィータ・インケルタ。
 強奪戦の会場に居ます。
 コルッテロを裏切り、ルベルの新しい勢力に加わりました。
 その勢力のメンバーを増やすため、自分に協力してくれた人達に声をかけているようです。

【その他】

・イグニート。
 どこかに行ったようです。