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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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【1】SKY【1】


 シャドウレイヤーによって閉ざされた海京を、夜の闇にも昼の陰にも似た灰色の澱が満たしている。天御柱学院をクルセイダーが襲撃したのが夕暮れ時、したがって時刻は夜中を過ぎた頃となるが、空間内はただただ色のない世界が続くばかりで、まるで時の針が止まってしまったようだった。
 黄金の大型飛空艇”ゴールドノア”は滞留した空気を震わす駆動音を上げながら、海京都市の谷間をガーディアンを引き連れて進んでいた。東の居住区を北東から南西に抜けて、南部にある学院地区に進路をとる。
 帯同するガーディアンの3割りは第二形態、残る7割りは第一形態だった。第一形態は暴力を発散するのが第一の目的であるかのように、目に留まった建造物を手当り次第に破壊していた。対し、第二形態は隣接する区画に通じる幹線道路や橋梁、また通信設備、電源設備を正確に判別し、破壊を行う。シャドウレイヤーが展開されている状態では、市民は海京から逃れる術を持たないが、空間が解除されればその限りではない。それを見越した上で、彼らが脱出出来ないよう先手を打って破壊し始めているのだ。
 このまま海京上空を一周しながら重要施設を壊滅させ、徹底的に逃げ道を封じる算段なのだろう。
 無論、海京の防衛を司るイコン隊も指をくわえて見ているわけではなかったが、彼らの多くは天学のパイロット科の出身、魔法少女だけが活動を許されるこの空間に適応出来る人材は居なかった。泥の中を進むように空気は重く機体にまとわりつき、攻撃は実弾、ビーム兵器ともに見えない何かに押し返され、本来の威力の三分の一も発揮出来ない。イコン隊はなす術なく、次々に撃墜されていく。

「何と言うことだ……、これでは一方的ではないか……!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は怒りと悲しみを込め拳を握った。
 天御柱学院普通科校舎の屋上から見える、東ブロックの空には無数の黒い影が踊り、時折、爆発と黒煙が広がるのが散見された。
 鋼鉄の身体のロボットであるハーティオンだが、その身には何よりも熱い正義の心が宿っている。胸に光るハート・クリスタルが碧の光を放つ。
「行くぞ! 龍心咆哮! ドラゴランダー!」
「ガオオオオン!」
 曇天の空から稲妻が降り注ぐ。雷光を身に纏い現れたのは、鋼鉄の恐竜型ロボット龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)だ。
 ハーティオンとドラゴランダーの心が一つに。二人は合体する。
「龍心合体ドラゴ・ハーティオン!」
 イコンサイズにまで巨大化したハーティオン……いや、ドラゴ・ハーティオンは拳を突き上げ、更なる力を呼び起こした。
「来い! 龍帝機キングドラグーン!」
 出現した黄金の機械龍が校舎の上に巨大な影を落とす。ハーティオンを発掘した高天原教授が作った、彼をサポートする為の大型飛行機型追加ユニットである。
「行くぞ! 黄龍合体! グレート・ドラゴハーティオン!!」
 キングドラグーンとドラゴ・ハーティオンは合体した。まばゆく光る閃光の中から、雄々しき勇者の姿が現れる。
「心の光に導かれ、勇気と共にここに見参!」
 灰色の世界を引き裂くように、高らかにグレート・ドラゴハーティオンは言い放った。
 とそこに……。
「ハーティオーーン!」
「!?」
 妖精ラブ・リトル(らぶ・りとる)が小さな羽をはためかせ、ハーティオンの目の前に飛び込んで来た。
「これ、忘れてるよ!」
 そう言って見せたのは魔法少女仮契約書だった。
「出発する前に寿子から貰っておいたの。一応、マスコットになれる奴にしといたから。これならそんなに姿形に影響しないでしょ?」
「ありがとう、ラブ」
 それからハーティオンは、屋上でこちらを見送る高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士と大文字勇作(だいもんじ・ゆうさく)博士に視線を下ろした。
「高天原博士! 大文字博士! 海京は必ず守ってみせる!」
 グレート・ドラゴハーティオンは大きな翼で風を斬り裂き、不安に覆われた海京の空に飛び立った。

「……行っちゃったね」
「ええ」
「……さぁ我々も司令部に戻ろう。直接戦う彼らには及ばんが、我々にも出来ることはある」
 踵を返しながら、大文字は燃える眼差しで小さくなる勇者の影を見送る。
「……ねぇ大文字博士?」
「む?」
「未来で博士の研究が実証されていて、しかも形になっているって事は、貴方の”グランガクイン”も完成してる可能性があるって事よね?」
 鈿女の言葉に大文字は目をしばたかせた。
「……そうかもしれんが?」
「そして、博士は過去の今日に敵の攻撃を受ける事が判っている……私の希望的観測なんだけど、”未来の博士”が増援や敵の弱点を送って来てくれたりしないかしら?」
「?」
「っていうか、現在(いま)の貴方の心の持ちようで実現出来たりしないかしら? ”絶対に送る!”って強く誓うとか……」
 大文字ははっとする。
「そ、そうか! 私はこの騒動が2022年の何時発生するか知っている。ならば、今日ここに援軍を送り込むことも可能というわけだ! その手があったか!」
「それは難しいでしょう」
 いつの間にか、そこに風紀委員の鈴木がいた。
「グランツ教はそもそもグランガクインを手に入れるためにこの時代に来ているんです。そこから推測されるのは、未来にグランガクインは存在しないということ。おそらく海京崩壊とともに失われてしまったのでしょう」
「……なんと」
「そして今、グランガクインを発見する前に、教団の目論見を暴かれてしまった彼らは、グランガクインを完成させないよう海京を沈めようとしています。ここで歴史を変えない限りグランガクインが存在する未来は生まれません」
「未来に期待するのは難しそうね……」
 鈿女は東の空を見つめた。
「未来から訪れるのは災厄ばかり、か……」