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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

リアクション

「……静かだ」
 部下の傭兵を引き連れ、ドッグに着いたメ・イが周囲に目をやり呟く。
「けど気配はするで」
 リ・クスがそう言って銃を構える。気配はメ・イも気づいているようで、金属製の左の拳を強く握りしめる。
「気を抜くな。相手は武器庫を襲っている。丸腰ではないかもしれない」
 部下にそう言うと、メ・イがゆっくりと足を進める。それに続き傭兵達が銃を構える。

「これでも食らってろコノヤロウ!」

 叫び声と同時に、メ・イの足元に数発の弾痕が作られる。
「――艦か!」
 メ・イが武装艦に目を向ける。デッキで銃を構えるナオシの姿があった。
「ちぃッ外した! おいてめぇらまだ準備できねぇのかコノヤロウ!」
 ナオシは振り返り、ブリッジに向かって叫ぶ。
「アイツら……艦を奪うなんか!? とんでもない奴らやな!」
 リク・スが呆れた様に言う。
「させるか! 私はブリッジへ向かう! お前達は他を制圧しろ!」
 そう叫ぶとメ・イが走り出す。
「おい来やがったぞ! さっさとしろバカヤロウ!」
 ナオシが叫びながら走るメ・イに向かって引き金を引く。だが放たれた弾丸は、その金属製の左手に全て弾かれてしまう。
 銃撃は何の足止めにもならず、メ・イの侵入を許してしまう。その様子を見たナオシは「ちぃッ!」と舌打ちする。
 デッキへと向かうメ・イ。他の傭兵達は、艦内へと駆けていく。
 メ・イはデッキへ続く扉を開け、飛びだす。直後、
「バカヤロウがはえぇんだよ!」
銃弾が扉の一部を削る。メ・イは咄嗟に身を隠すが、銃撃が止んだ隙を突くと左手を盾にして飛び出す。
 ナオシは弾丸をばら撒くが、メ・イは致命傷になりえる物のみを弾き、真っ直ぐにナオシへと向かってくる。
 弾倉が果てる程の銃撃であろうとも、メ・イの足を止めるには不十分であった。あっという間に距離を詰め、ナオシの持っていた銃を叩き落とすと地面へと組み伏せる。
「随分と派手に暴れたな。だがここまでだ」
「ああ、そうだな。ここまでだな」
「……随分と余裕だな。立場が解っているのか?」
「解ってるさ」とナオシが笑みを浮かべる。直後、「副官!」と慌てた様子の傭兵が駆けてくる。
「どうした、制圧は完了したのか?」
「……いないんです。艦の中に、誰一人としていないんです!」
「なんだと?」
「あーあ、バレちまったか。間に合うかなこれ」
 そう呟いたナオシの胸ぐらを、メ・イが掴む。
「どういうことだ貴様、一体何を企んでいる!?」
「その内解る。成功すりゃ、だけどな」
 その時だった。ドッグ内で大きな音が響く。
「メ・イ! 一体どういう事や!? 漁船が動いてるで!」
 外で待機していたリ・クスが叫ぶ。メ・イが横に目を向けると、あったのはモリ・ヤの漁船だ。漁船が動いていたのである。
「貴様……これが狙いか!」
「ああそうだ。ま、もう遅い」
 ナオシがニヤリと笑った。
――ナオシの狙いは、漁船抜錨の時間稼ぎだ。
 然も武装艦を狙っているように見せかけ、その間に漁船の準備を進めさせるというものだ。
 メ・イが大きく舌打ちし、今にもドックから出ようとしている漁船に呆気にとられている部下に叫ぶ。
「砲台の準備だ! あの漁船を撃ち落とすぞ!」
「は、はい!」と部下が走り出そうとする。
「あーっと、それは止めておいた方が良いんじゃねぇか?」
「命乞いは聞かん!」
 メ・イがナオシから手を離し、立ち上がろうとする。

「――ウヅ・キ、とか言ったっけか」

 その名を呟いたナオシの胸元を、メ・イは再度掴んだ。
「貴様、今なんて言った?」
「ああ、そうそう。ウヅ・キとか言ったよなあの牢にいた小娘」
「貴様何をした!」
「あー……説明したいがうまく言葉にできねぇ。自分の目で確かめてみな」
 そう言われたメ・イは立ち上がり、モリ・ヤの漁船を見る。
 漁船には不自然な一本の柱が立っていた。その柱は、何かを縄で括りつけている。
 メ・イが目を凝らしその柱を見る。

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 その柱には、風圧やら恐怖やらですんごい顔をしたウヅ・キが縛られていた。
「砲台準備止めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 メ・イの叫び声が、ドッグ中に響き渡る。
 普段見たことが無いのであろうメ・イの様子に一体何事か、と動揺する傭兵達を尻目に、漁船はドックから離れていく。
 やがてその姿はどんどんと小さくなり、見えなくなっていった。
(……これで良し。とりあえず全滅は免れた、か)
 もう姿が見えなくなった漁船が去っていった方向にナオシが視線を向ける。

――砲台への対策が一切為されていないこの状況では、例え漁船を抜錨したとしても撃ち落とされる。
 それを避けるためには傭兵側が漁船に手を出せない状況を作るしかない。
 その為にウヅ・キを盾にしたのである。彼女が漁船に乗っている、という事を知らせれば手を出しづらくなるかもしれない。あくまでも『かもしれない』という、賭けであった。
 しかしその賭けは成功したようである。漁船は無事、参ノ島を離れたのである。
 だが、一つ誤算があった。

「っぐぉ!?」
 胸倉、ではなく喉元を掴れナオシの息が一瞬止まる。そのまま持ち上げられ宙に浮いた状態となる。
 視線を下げると、そこには先程とは比べ物にならないほどの恐ろしい表情をしたメ・イがいた。全身から殺気が溢れる――というより抑える気など更々ない様子であった。
「覚悟しろよ――うちのマスコットに手を出した罪は重い
 地の底から響いてきそうな声であった。ナオシの全身に一瞬、ぞくりと怖気が走る。
(あの小娘……想像以上に可愛がられてたんだな……俺生きてるかな、これ)
 命の危険を、ナオシは感じていた。