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【蒼空に架ける橋】第4話 背負う想い

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【蒼空に架ける橋】第4話 背負う想い

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■第31章


 参ノ島を経由して肆ノ島へと向かっている者たちとは別の高速船を用いて伍ノ島へ向かった面々は、地上人ということで伍ノ島上空で検問を受けることになったが、「謝罪とマフツノカガミの返却」という理由から上陸の許可を得ることができていた。
「この前来たときとは雲泥の差ね」
 道中、馬車を囲む伍ノ島のキンシたちの姿を見て、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)はため息をつく。
 彼らは参ノ島から派遣されている者たちだが、当然こんな末端までミツ・ハの考えが行き届いているはずもない。
 1人残らずよそよそしい無表情で、歓迎する雰囲気などかけらもなく、さりげない威圧として携帯した武器を見せ、いつでも届く位置に手を添えている。
 これではまるで護送される犯罪者だ。いや、実際彼らのなかでは自分たちは窃盗犯で脱獄幇助者で殺人容疑者なのだけど。でも、分かっていても、やっぱりこういう目で見られるのは慣れない。
「堂々としましょう。私たちは濡れ衣を着せられた、無実の者なのですから」
 落ち着きなく視線をあちらこちらへ飛ばすマリエッタに、ゆかりが声をかけた。まっすぐ前を見据え、毅然と上げられた面からは、ここ最近彼女がまとっていたムードは鳴りを潜めてしまっている。事ここに至り、もはや休暇旅行などと悠長なことは言っていられないと判断したのだろう。これはシャンバラに波及する、由々しき事態だ。
 すっかり仕事モードになっているゆかりを見やって、「そうね」とつぶやいたものの、マリエッタの胸中は晴れず、馬車の窓から伍ノ島太守の屋敷が見えてきたところでまたもや不安げに肩を揺らす。
「ねえ……、やっぱり渡すのは本物にしない?」
 外のキンシたちに聞こえることをおそれてひそめられた声は、車輪が地を噛む音にかき消されて、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)の耳までも届かなかったようだった。
『偽物を渡して、そのあとどうするの? ただ単に偽物を渡すというだけなんて、あまりにも不用意すぎるわ。それに、失敗した場合、さらに私たちは「嘘つきで信用がおけない人間」になって、ますますクク・ノ・チの言い分に対して正当性を与えかねないことになるのよ。もう何千年もだれも見たことない物とはいえ、クク・ノ・チとオオワタツミがつながっているとしたら、本物と偽物を見分けるための知識をオオワタツミから伝授されてる可能性だってあるわ。それを考えたら、偽物を渡して誤魔化すなんていうのはあまりにも安易すぎる! 渡すと決めたのならそれは本物であるべきよ!』
 ここに来るまでの船のなかで、マリエッタはそう主張した。
 しかし残念ながら、彼女の意見に賛同する者はいなかった。ゆかりもまた
『本物のマフツノカガミを渡せば、すべてのカガミがクク・ノ・チの手元にそろうことになります。クク・ノ・チが悪事を働く悪者か、それともわれわれやオオワタツミ、自分以外のすべての者を偽って1人カガミを用いて再封印を狙っている善者か――まあ、この独りよがりな行為を善行と言っていいかは分かりませんけれど――、それはともかく、大前提部分として、クク・ノ・チがオオワタツミを完全にコントロールできているかどうか、かなり疑問です。むしろクク・ノ・チ自身が、いいようにオオワタツミに操られているだけという可能性もあります。もしそうだとしたら、カガミを渡すのは致命的です』
 全部まとめて破壊されることだってあると言いたいのだろう。しかしマリエッタは懐疑的だった。
(そんな面倒なことするかなあ? 役立たずにしたいなら、見つけた時点で砕いていけばいいんじゃん)
 それをわざわざ集めてるのはクク・ノ・チだろうけど、それを許すオオワタツミにも何か考えがある気がする……。
 そんなことを考えるマリエッタだったが、ふいに聞こえてきた言葉で意識がそちらへ流れた。
「見えた。あれがここの太守の館だね」
 腰を浮かせ、遠野 歌菜(とおの・かな)が身を乗り出す。
 歌菜の肩越しに見えた、ドアに付けられた小さな馬車窓には、赤レンガが敷き詰められたゆるやかな坂を上った先に、鉄柵で囲われた大きな館が姿を現し始めていた。



 通された応接室で、歌菜はソファに腰かけることもなく、まっすぐ窓際へ向かい、そこに立った。
 神経が立って、とても座ってなどいられないのだろう。これからすることを思えば無理もない。敵に陥れられ、いわれのない罪で糾弾されて、しかもそれを受け止めなくてはならないのだ。
「歌菜」
 名実ともに彼女の真のパートナーである月崎 羽純(つきざき・はすみ)が歩み寄り、肩を抱く。自分を心配する気持ちが伝わってくるその手に手を重ねて、歌菜は首を振って見せた。
「ナ・ムチさんに聞いたんだけど、キ・サカさん、まだ15歳なんだって。あの映像では対外的に繕っていたけど、本当はもっと幼い、普通の少女なんだって言ってた……。遅くできた1人娘で、コト・サカさんはとても大切にかわいがっていた、って」
 自分をそんなにも愛してくれた存在が突然いなくなった。それだけでもひどいことなのに、死因は事故でも病気でもなく殺人で。しかも理由はカガミを奪うことだった。
 そんな理不尽なことを、たった15歳の幼さで受け止めないといけないなんて。
 そしてその悲しみにひたり続けることもできず、彼女は太守にならなければならない。
『彼女は苦痛を武器に、あなたたちを傷つけようとするでしょう。それはあなたたちにとって道理に合わないことだと思います。でもできれば、彼女に優しくしてやってください』
 ナ・ムチは最後にそう言ったが、言われなくても歌菜はそうする気だった。
「ね、羽純くん。きっと彼女にとっては、この会見すら苦痛なんだと思う。私たちは自分たちが犯人でないことを知っているから、そういった苦痛も、本当の意味での申し訳ないって気持ちもない。でも彼女は私たちをお父さんを殺した犯人だと思っていて、その犯人と真正面に向きあわなくちゃいけないの」
 そしてそのつらくて悲しい怒りを、彼女は本当の敵にぶつけることはできない。だって敵はあまりに強力で、大きくて、無慈悲な存在だから。
「だからそのすべてを、私たちが受け止めてあげなくちゃ。そして私たちが、キ・サカさんのその思いを本当の敵に届けてあげるの」
 正義の鉄槌という名の下に、必ず15歳の少女から愛する父親を奪った報いを受けさせる。
「そうは言うが、大変なことだぞ。相手の負の言葉、感情をただ黙って受け続けるというのは」
「大丈夫」
 にこっと笑う。
 心に誓う歌菜の決意を瞳に見て、羽純はふっと表情をやわらげた。
 たしかにそうかもしれない。歌菜ならそのすべてを受け止めて、相手の心を抱き締めて返すのだろう。
「そうか」
 なら俺は何も心配はするまい。歌菜のとなりにいて、向こうが冷静に話ができるようになるまで、粘り強く、気持ちを受け止め続けるだけだ。
「一体何なのよ、もう!! 十分でしょ!! これ以上あたしに何をさせたいっていうの!!」
 壁越しにもはっきりと分かるヒステリックな女性の声が廊下の向こうから聞こえてきて、歌菜たちは同時にそちらを向いた。
 ほかにも2名ほど、何かなだめているような声。ただしこちらは相応の音量で話しているようで、何を言っているかまでは聞こえない。
「あたしは用なんかないわ!! ここはあたしとお父さまの家よ!! そんなやつらをどうして入れたりしたの!!」
 そしてまたも使用人がなだめる声がしている。
「……始まったようだぞ」
 これは大変そうだとため息をつく羽純から離れて、歌菜は急ぎソファの元へ行くと、横に置いてあった自分のカバンを開いた。2つ並んだカガミのうち、偽物の方をひっぱり出して胸に押しつけるように抱き込む。羽純のかたわらへ戻ると同時に部屋のドアがバンっと強く押し開けられた。
「あなたたち、よくもいけしゃあしゃあと雁首揃えてうちの門をくぐれたものね!! この人殺し!!」
 ぎらぎらと憎しみに燃える目で、部屋のなかにいる全員をにらみつける。
(ずい分と感情的な娘だ)
 自分たちへの憎悪と嫌悪を隠そうともせずぶつけてくるキ・サカの激情に、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は内心舌を巻く。
(あの映像では、深い悲しみに耐える可憐な少女に見えたんだが……あれもクク・ノ・チの施した演出というものか)
 とてもあの映像の少女と同一人物とは思えない、とさりげなく手で隠した口元でそっと息をついて、視線を横のエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)へと流した。
 エルデネストは笑んでいて、どこか機嫌が良さそうに見える。
「なんですか?」
「いや。面白そうだなと思って」
 視線に気づいて問いかけてきたエルデネストに答えると、エルデネストはにこやかな笑みをさらにもう少しだけ深めた。
「まあ、否定はしませんが。
 心配はいりませんよ。たとえあの少女が激昂してその辺の花瓶や額絵などを手あたり次第投げつけだしたとしても、そしてさらに警備員を呼んであなたに銃口を向けたとしても、あなたにはかすりもしません。あなたはすでに私の保護下にあります」
 悠然と、どこか勝ち誇っているかのような口調で告げる。
 彼の自信を裏付けるような、それらしいものは何も見えないが、おそらくは彼のフラワシがいるのだろう。
「それにしても、かわいらしいお嬢さんだ」
 エルデネストの言う「かわいい」とは、まず間違いなく一般的に用いられる褒め言葉としての意味ではないだろう。それでもその言葉を耳にして、グラキエスをはさんで反対側に座るウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は複雑な表情を浮かべた。本当は眉をひそめたいのだろうが、今この場でそれをすると――そしてそれをあの少女にでも見つかれば――勘違いされかねなかった。
 その視線をグラキエスに流す。
「エンドロア、調子はどうだ」
「ん? いや、べつにどこも――ああ」
 なぜそんなことを訊くんだ? と困惑気味だった面が、言い終わる前に思いあたって晴れた。
「まだ昨日のヨモツヒラサカでのことを気にしているのか。つくづく心配性だな、おまえは」
「……おまえに聞く耳がなさすぎるんだ。自分のことなのに全く顧みないから、俺がこうするしかなくなるんだろう」
「面倒な性格だ」
 くつりと笑って、次の瞬間グラキエスは表情を引き締める。
「俺のことはともかく、警戒は怠るなよ」
「ああ。分かっている」
 ウルディカはバレットペンダントトップに触れたい衝動を押し殺し、小さくうなずく。
 もともとこれは、成功率が低い行動だ。殺人という行為が謝罪ひとつでチャラになるわけはないし、マフツノカガミが偽物であることがばれれば完全にご破算だ。二度と信用は取り戻せない。なのになぜこうしているのかといえば、島の人々の関心の目をできるだけこちらに引きつけて敵の気をそらす、おとりのようなものなのだが……。
「私たちは、浮遊島の皆さんと争うつもりはなく、彼等を殺す理由はないのです。
 それだけは信じて欲しいと……私たちは、謝罪と、誤解を解きたくてここに来ました。
 どうか、お願いします。私たちに真犯人を探す時間をいただけないでしょうか」
 歌菜の真摯な言葉を聞いた瞬間、キ・サカは立ち上がり、とっさに卓上のカップを掴むとなかのお茶を歌菜にかけた。
「口ばかりのごたくはもうたくさんよ!!
 それで、ヒノ・コはどこよ!? あのツク・ヨ・ミのバカ娘は!? カガミなんてこんなガラクタじゃなくて、あの2人を連れてきなさいっ!! あたしがこの手で撃ち殺してやるんだから……!!」
 キ・サカの人物像を全く考慮していなかった。これでは本当にエルデネストの言うように、警備員を呼ばれて銃を向けられかねない。
 視線を天井に向け、やれやれとため息をついた。



「口ばかりのごたくはもうたくさんよ!!
 それで、ヒノ・コはどこよ!? あのツク・ヨ・ミのバカ娘は!? カガミなんて、こんなガラクタじゃなくて、あの2人を連れてきなさいっ!! あたしがこの手で撃ち殺してやるんだから!!」

 キ・サカのヒステリックなわめき声は、廊下を挟んだ別室にいる南條 託(なんじょう・たく)の元までも届いていた。
 驚きのあまり、ぴたりと紅茶を飲む手を止めてドアに目を向けた託に、壱ノ島太守夫人セ・ヤはまるで自分のことのように申し訳なさそうに詫びた。
「ごめんなさいね。彼女は少し……幼いの。まだ感情を抑えることを学んでいないのよ」
「あ、いえ。ちょっと驚いただけですから。お気遣いなく」
 託は止めていた手の動きを再開して、カップを下に戻す。
「それも、これからおいおいと覚えていかざるを得ないでしょうけれど……こればかりは、コト・サカさまも難儀していたみたいね。奥さまをご出産で亡くされて、その寂しさもあって、つい甘やかして育ててしまったと。でも娘さんのわがままが、父親としては楽しかったようで」
 そう話していたコト・サカの様子を思い出してか、セ・ヤはふふっと笑う。
 穏やかそうな彼女の様子に、託は居住まいを正し、話を切り出した。
「このたびはこのようなことになってしまって……お悔やみを申し上げます。
 私としては信じたくないのですが、もし本当にこの件に地上の者が関わっているのであれば、その1人として謝罪いたします。いくら責められてもかまいません。しかたのないことだと思っています。
 もちろん、それですむ問題ではないことは分かっていますが……ただ、ひとつ、これだけは言わせてください。全ての地上の者がこのようなことを望んだわけではないと。なかには確かに、この国交回復を心から喜んでいた者がいるのだと」
 真正面から見つめ、一途に告げる託の誠実な態度に、セ・ヤは何か答えようとするかに口を開いたが、言葉よりも先にほおを涙が伝った。
 さっと手でおおい、隠すように顔をそむける。
「ごめんなさい。見苦しいわね」
「いえ、そんなことは……」
 セ・ヤは託の母親と言って通じる歳の女性だ。そんな女性に目の前で泣かれて、内心あせる託の前、セ・ヤは涙を払うしぐさをして、小さく深呼吸をするように肩を上下させた。見るからに動揺している彼女に、さらに言葉をかけるべきなのかどうなのか、ためらって沈黙しているうちにセ・ヤは落ち着きを取り戻すことができたのか、再び託へ正面を向ける。
 その面には、あきらめのような微笑が浮かんでいた。
「謝罪をありがとうございます……」
「受け、入れるんですか?」
 少し拍子抜けな気もした。この分別のありそうな婦人がキ・サカのように癇癪を爆発させるとは考えにくかったが、それでも恨み言の1つや2つ、ぶつけられる覚悟でいたのだ。
 そんな託の気持ちを見抜いたように、セ・ヤは首を振るしぐさをする。
「何をしても、何を言っても、あの人が戻ってくるわけではないから……。
 こちらへ来て、犯人が分かったと言われたときは……そしてあの映像を見せられたとき、あなたたちの目的があのカガミだったと知ったとき、本当に腹が立ちました。あんな物のために、夫は殺され、わたしは愛する人を失い、娘は父親を失ったのかと……。そう思ったら、吐き出さずにはいられなかった。
 あのあと、もう声を出して思い切り泣いてしまったわ。まるで娘時代に戻ったみたいに。ふふっ、恥ずかしいわね、いい歳をして……。
 あなたはここへ来て、こうして謝罪をしてくれたわ。それを突っぱねて、どうなるっていうの? どうにもなりはしないでしょう。受け入れても、受け入れなくても。なら、わたしは受け入れるべきなんだわ……たぶん」
 話すうち、手元に落ちていた視線が上がって、託を見る。
「わたしがもし受け入れなかったら、地上との戦争になるのかしら? クク・ノ・チはああ言ったけれど、わたしはそんなもの、望んではいないし、その原因の1つにもなりたくない。夫だって自分の死が争いの引き金になるなんて、そんなこと、望んでいなかったでしょうし……それにたぶん、クク・ノ・チもあの映像に腹を立てていて、大げさに口にしただけだと――」
「そのことなんですが」
 託は、訊くなら今しかないと判断した。
 キ・サカとセ・ヤで応接が別室になると分かったとき、羽純から「機会があれば訊いてもらえるか」と頼まれていたことがあった。
『モノ・ヌシの死の前に、何か気付いたことはなかったか。どんなささいなことでもいい、思いあたることはないか、訊いておいてくれ』
「そうねえ……」
 託からの質問に、セ・ヤは考えこむ。彼女はこちらに敵意を持っていないようだと、託はさらに一歩踏み込むことにした。
「クク・ノ・チどのとの関係は良好でしたか?」
「ええ、それは――あ」
「なにか?」
「いえ、最近のことじゃないんだけど……あれは、3年前、かしら。ちょうどうちの島の様子がおかしくなったときで……」
 カナンの世界樹セフィロトからの恩恵が途絶えたときだと、託は直感した。
 壱ノ島はもろにその影響を受け、作物は不作に陥り、雲海の魔物の勢力圏が広がったという。
「夜遅く、夫がクク・ノ・チと通信していたの。「きみのおかげだ」と夫が言うと「礼には及ばない。同じ浮遊島群の太守同士、助け合わねば」あの声は間違いなくクク・ノ・チだったわ。それでも夫が重ねて礼を言ったら「ではいつか、わたしがきみに助力を求めたとき、この貸しを返してくれるといい」と。
 夫は彼の寛大さにとても感謝していたわ。これはわたしの想像だけど、あの危機を乗り越えられたのは肆ノ島の助けがあったからではないかしら。具体的には分からないけど。
 だから、夫とクク・ノ・チの仲はとても良好だったと思うわ」
 ――はたしてそうだろうか?
(これはもしかして、そもそもの根本からひっくり返るんじゃないかな)
 疑問に押し黙った託に、もぞもぞと落ち着きなく身を揺らしていたセ・ヤが、思い切ったように尋ねた。
「今度はわたしの方から質問していいかしら? あの……ちょっと、失礼な話だけど」
「何でもどうぞ」
「あの……あなたが知っているか、知らないけど……わたしの夫は、腰のところで真っ二つにされて、死んでいたの。クク・ノ・チは、地上人はそれをするだけの能力があるって言ってたけど……」
「はい。あります」
 そこを取りつくろってもしかたない。託自身、それなりの武器があれば、そして相手がずぶの素人であれば、一刀で人の体を断ち切ることができる。
「じゃあ、夫の上半身は、どこに消えたのかしら? 部屋は血まみれだったけれど……検死の人が言うには、血の量が少なすぎる、って……。そういうことをする能力も、地上人にはあるのかしら?」