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願いを還す星祭

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星の祭 昼過ぎ〜黄昏 「強き者 弱き者」

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 魔法の竹周縁  昼過ぎ

『ミアがこの先悲しい思いをせずいつまでも笑顔でいられますように 羽瀬川 セト』
『全盛期の魔力を取り戻したい エレミア・ファフニール』

 二葉の短冊が魔法の竹に結ばれる。
「よし!」
 セトは魔法の竹から飛び降りるとエレミアの元に駆け寄る。
「ミア飾ってきたよ。ミア?」
「ふっふふ」
「ミア、どうしたんだい?」
 エレミアの様子にセトは首を傾げる。
「魔力が湧き出してくるぞ!」
「ミア! ダメだ!――」



 魔法の竹の近くで爆炎が上がる。
「狼煙が上がった! 行くぞ! ロージー!」
「了解です」
 ブレイズ・カーマイクルが密かに高めていた魔力を解放する。放たれた灼熱の弾丸が魔法の竹を――。
「なにぃ!?」
 ブレイズの渾身の火術は何者かに阻まれ、空中で爆散する。
「何者だ!」
 ブレイズは気配を感じ、空中を見上げる。
「立川るるなの!」
 空飛ぶ箒に跨った魔法少女が力強く名乗る。
「危ないでしょ! 何でこんなことするの!?」
「何をする? あの危険物を排除するに決まっているだろう」
 ブレイズは魔力を集中する。
「な、何でそんなことするの!?」
「あの竹が忌々しいからさ」
「おかしいよ! そんなの勝手だよ!」
「つまらんおしゃべりはやめだ! 行くぞ!」

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 中央  昼過ぎ

 ――戦場と化したエントランス。強き者と弱き者。相容れない想いが交錯する。



 傷つく人々を見過ごせない蒼空学園の騎士がいた。

 フィル・アルジェントは天瀬 悠斗(あませ・ゆうと)のランスをアサルトカービンのストックで受け流す。
「魔法の竹には指一本触れさせませんわ」
「どいて下さい。あの魔法の竹は危険です。このままにはしておけない」
 悠斗は申し訳なさそうに言葉をかける。だがその瞳に迷いはない。
「ごめんなさい。こちらも事情がありまして――汀さんのために譲れないのです」
「百合園のお嬢様と戦いたくありません」
「優しいのですね。ですが、わたくしを甘く見ると怪我をしますよ」
 フィルは戦闘の邪魔にならないように焦茶色の長い髪を結わえると深く息を吸い込み悠斗を見据えた。悠斗はランスを構え、腰を落とす。
「参りますよ! 蒼空学園の人!」
 


「困ったものですね――」
「余所見をするな! ユウ!」
 ルミナ・ヴァルキリーはユウ・ルクセンベールを襲った流れ弾を剣で弾き飛ばす。
「ありがとうルミナ」
 ユウとルミナは戦場と化したエントランスで背中を合わせて戦う。
「どちらにつく?」
「そうですね。私はロマンチストなので――」
「わかった! 竹を守るぞ!」



「カレンさん! 死守しますよ」
「汀の短冊を確実に守るためだね! 解ったよ!」
 アスタ・クロフォードとカレン・クレスティアは魔法の竹に襲いかかる攻撃魔法を相殺していく。
「箒で飛んで行った人たちが汀の短冊を確保するまで、頑張らないと!」
「いえ、それじゃダメ――全ての短冊を守って見せます! 想いが込められているんですから!」
「うん、解った。そうだよね!」



 魔法の竹に攻撃魔法を撃ち込んでいた生徒の一人が小さく咳き込んだ。
――それは伝染するように周囲に広がり、やがて幾人もの生徒が喉を押さえ苦しみもがきはじめる。
「はじまっちまったもんは仕方ないが、どうやって終わらせるかだな」
 アシッドミスト――気絶する程度に酸の濃度を調整しながら緋桜 ケイは溜息をつく。
「や、やりすぎなのでは――」
 隣にいたソア・ウェンポリスが呟く。ケイはソアを無視して歩き出す。
「どこへ行くのです?」
「校長室」
「私もお供します」
「ふん、勝手にしろ」
「はい」



「馬鹿にして! 馬鹿にしてええええええ! こんな竹丸焼きにしてやる!」
 アスティニア・ローストラッテは両腕をくるくると回し火術を放りまくる。小さな火の玉はひょろひょろと放物線を描き魔法の竹に届く前に燃え尽きる。アスティニアは本気で怒っているのだが気の毒なことに可愛いだけで全く怖くない。
 心優しい如月陽平が放っておけずに声をかけてしまう。
「やめなよ。火傷したら危ないよ」
「だって! だって! あいつが!」
「あいつ? 誰かに虐められたのかい? 許せないなこんなにちっちゃな子を――ん、どうしたんだい?」
 アスティニアは涙を拭い優しく冷たく微笑む。
「お兄ちゃん、何歳?」
「僕は15歳だけど――どうしたの?」
「あたしは――16歳だよ!」
「えっ、冗談――だよね?」
 アスティニアの両手に巨大な火球が形成されていく。
「ばいばい! 年下のお兄ちゃん!」
「ちょっ、待って! ごめん! 謝るから――」



 ――気持ちの良い音が響いた。
 周囲はにわかにざわめき――潮が引くように静まり返る。魔法の竹を巡る攻防に参加していた生徒も手を緩めて二人の様子を固唾を飲んで注視する。
「タ、ターラ、何を――」
 ターラ・ラプティスはジェイク・コールソンの頬にもう一発――。エントランスに平手打ちの音が綺麗に響く。周囲にいた生徒は感嘆の声を上げる。
「ジェイクの馬鹿! 甲斐性なし! 意気地なし!」
「タ、ターラ! 落ち着いて、どうしたんだい!?」
 ジェイクはターラの両腕を捕まえて、落ち着かせようとする。
「そ、そうか幻覚か! でも、どこが幸せな家庭なん――」
 ターラの蹴りがジェイクの急所を直撃した。
「ぐお、う……。タ、ターラ……」
 崩れ落ちるジェイクにターラは追い討ちをかけるように言い放った。
「ジェイクの――(自主規制)!!」
 ジェイクに冷たい視線が一斉に突き刺さる。
「ち、違う! 僕は何も、そ、そんな目で見ないでくれ!!」



 医師を志すクトゥルフな魔法使いがいた。

「凄いことになってきたな――さて、どうする?」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はいつも持ち歩いている六面体ダイスを宙に放る。
「ここに留まって赤十字ごっこをするか、或いは――」
 涼介は六面体ダイスをはたくようにキャッチする。
「エリザベート様に話を聞くか――」
 涼介は掌を開く。 
「そうか――んじゃ、行くとするか」
 涼介は走り出した。



 陰陽師な魔法使いと封印されていた有翼のヴァルキリーがいた。

「これは流石にやばいんじゃないか?」
「そうね」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は頭の上で飛び交う攻撃魔法見上げて頷き合う。
「それでどっちにつくの?」
「――どっちにもつかない」
「逃げるの?」
「逃げるんじゃない」
 芳樹はアメリアに力強く答える。
「エリザベート様と一戦交えてみよう――行くよ、アメリア!」
「お、おい、芳樹! 待て――」
 校長室に向かって駆け出す芳樹の背中をアメリアは慌てて追う。

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 魔法の竹 周縁  昼過ぎ

「ふあああああ」
 目を覚ました吸血鬼は暢気に欠伸をした。
「騒がしいでございます。おかげで目が覚めてしまったでございます」
 深見 ミキは気持ちよさそうに背伸びをする。
「ですが、幸せな夢でございました」
 ミキは満足そうに微笑む。目の前では攻撃魔法が飛び交っているのだが、ミキはまだ少し寝惚けているのか、全く気にしない。
 ふと、ミキのお腹が可愛く鳴った。
「ふむ――そうでございますね」
 ミキは脇目も振らず駆け出す。

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 上空 魔法の竹 7合目 昼過ぎ

「この辺でいいか――」
 愛沢 ミサは独り呟くと掌に炎をつくりだす。
 ――風が吹いた。
 短冊が一斉に踊る。ミサの視線は一葉の短冊を無意識に追ってしまう。
「――ったく、くだらねぇ」
 誰かの純粋な願いをミサは直視ししてしまう。掌の炎が激しく揺らぐ。
「何をしてはります!」
 鋭い声がミサを貫く。
「ちっ!」
 ミサは掌の炎を一点に収束させず撒くように空中に放射し距離を取る。
「くっ、何をするつもりどすか!?」
「気持ち悪いのよ。どいつもこいつも欲丸出しで――私が全て焼き尽くしてやるわ」
「仕方ありまへんなぁ。有栖川 喬華がお相手つとめさせて頂きます」
「面倒くさいわね!」
「こっちの台詞どす。――汀はんの短冊!頼みます!」
 喬華は自分を抜き去っていく仲間に向かって叫んだ。

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 上空 魔法の竹 3合目 昼過ぎ

「うひー! なんでこんなことになってんのよ!」
 魔法の竹に向かって撃ち込まれる火球や氷柱の嵐に八神 九十九は身動きが取れない。軽やかに避けているようにも見えるのだが、本人はかなりいっぱいいっぱいらしい。九十九の限界を示すように徐々に高度と速度が落ちていく。
「くっそー! とにかく――よし! あそこに飾る!」
 魔法が途切れた瞬間を見計らい九十九は短冊を結ぶ。
「よし、逃げる!――って、うっそー!」
 九十九が振り向くと目の前に火球があった――。



「うぅー、お尻痛い……」
 九十九はお尻をさする。火球を相殺するまでは良かったのだが、そのままバランスを崩して、箒から落ちてしまった。幸いなことに、竹の枝にお尻をぶつけながら落ちてきたので、大きな怪我はない。
「もう! 最低!」
「大丈夫〜? ちょっといいかなぁ?」
「え、う、うん」
「あたしはクラーク波音。こっちは――」
「弓納持 呉羽です」
「クラウン・ウィンドシード」
「というわけで――」
「どういうわけよ?」
 波音の不思議なペースに九十九は呑まれない。お尻の痛みでそれどころじゃないのかもしれない。
「あんたの願いごと教えて!」
「は、はぁ?」
「私達は正気を失った生徒を助けるために調査をしているのです」
 呉羽がフォローに回る。呉羽は笑顔を顔に張りつけているが、そろそろ限界らしく、こめかみの血管が痙攣している。
 呉羽は波音に声をかけてしまった迂闊な自分を呪いまくっている。その隣の調査に飽きてきたらしクラウンが欠伸をしている。未だに調査に情熱を燃やしているのは波音だけのようだ。
「そういうことなら――魔法がうまくなりたいって短冊に書いたわ」
「それで、どうなんだい?」
「そうねぇ――少し調子が良い気がしないでもないわ」
「ふむふむ、他には?」
「――お尻が痛いわ」



「こんな竹信じてばっかじゃねぇのぉ!? エリザベートぉ? 上等じゃねぇか! 何もかも俺がぶっ壊してやんよ! 四露死苦ぅ!」
 織機 誠は張りぼて攻撃魔法もどきをばら撒き、魔法の竹に近付こうとするものを牽制していた。
「図らずもこんな状況ですから、私がこんなことしなくてもいいのでしょうけどね」
 誠が邪悪に哂う。
「ククッ、昔の血が騒ぐ――。おっと、お嬢の方はどうなってるでしょうか? 四露死苦ぅ!」
 右手で携帯を操作しながら、左手で火球を放つ。
「あ、お嬢ですか? そっちはどうなってます」
 誠が放った火球が壁を抉り取るが本人は気付いていない。

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 上空 魔法の竹 5合目 昼過ぎ

 上連雀 香は空飛ぶ箒を撫でながらゆっくりと上昇していく。
「すっかり、置いていかれてしまったのぉ。屈辱じゃ――」
 香の携帯が鳴る。
「おお、誠か! 下は随分と騒がしいようじゃな? どうなっておる」
「大混乱ですよ。誰かが魔法の竹を破壊しようと扇動したようです」
「ふむぅ、わらわは今、やっと半分ほど昇ったところじゃ。わらわ以外の者は先行しているようじゃが、それでもまだ時間は掛かるじゃろう」
「万が一のことを考えて、急いで下さい」
「解った。何とかしよう」
「はい、よろしくおねがいします。四露死苦ぅ!!」
 爆音が響き携帯が切れた。
「誠もはしゃいでおるようじゃの。――仕方あるまい」
 香は誠から預かった空飛ぶ箒を背中から降ろすと自分の箒に連結させた。
「この鼓動! お前も嬉しいようじゃな!」
 周囲の空気が震えだす。
「汀とやら、お主の願い、確かに還すのじゃ!」
 香は恐るべき速度で上昇をはじめた。

――世界樹イルミンスール下層 イルミンスール魔法学校 エントランス 上空 魔法の竹 8合目 昼過ぎ

 心優しい騎士がいた。

「そうですね。校長先生にも考えがあると思います」
 新宮 こころ(しんぐう・こころ)は哀しそうに呟く。
「ならば――!」
「でも、ボク、夢は、魔法とか、自分以外の誰かに叶えてもらうものじゃなくて、自分の頭で考えて、自分の力で叶えるものだって、そう思うんだ。だから――ごめんなさい!」
 こころはランスを構え魔法の竹に向ける。
「ならば、わらわはおぬしと闘うしかないのぉ」
 御厨 縁は新宮 こころの前に両腕を広げ立ち塞がる。巫女服が雄雄しくはためく。
「闘いたくないです」
「すまぬな。わしらも引けぬ。譲れぬ想い――約束があるからのぉ」
「約束を守るんだよ!」
 サラス・エクス・マシーナが力強く応える。
「悔しいが汀の短冊はおぬしらに任せるぞ」
「うん……気……をつけ……て……」
「任せて!」
 春告 晶と永倉 七海――昇っていく仲間の言葉に縁は不適に笑う。
「さて、はじめるかのぉ!」
「負けないよ!」
 サラスが武装を展開する。
「行きます」
 こころは震える小さな身体を抑えるようにランスを握り締める。
「くるがいい――今日のわらわは一味違うぞ!」

――世界樹イルミンスール上層 イルミンスール魔法学校 校長室前廊下  昼過ぎ

 松平 岩造が漢の闘いを続けていた。シャンバラ教導団の軍服は裂け、千切れ、既に上半身裸と変わりがない。その隣でフェイト・シュタールは懸命に援護を続ける。正に美女と野獣だ。
「うぅ……」
 上半身裸の岩造が輝く汗を飛び散らせながら闘う姿は神楽坂 有栖にとって光球より厄介だった。
「大丈夫ですか? お嬢様」
「目の焦点を合わせないように、目の焦点を合わせないように――」
 ミルフィ・ガレットは有栖に攻撃を仕掛けようとする光球を華麗に両断していく。激しく動き回っている筈なのに浴衣は全く着崩れしていない。
「無理をしないで下さい。お嬢様は私が守りますから――」
「っせぇのぉ!」
 ルーシー・トランブルが渾身の雷術を放ち光球を一掃する。
「ふぅ、今度こそ片付いたかな――ガス欠寸前だよ」
 しかし、静寂は長くは続かなかった。再び壁面に魔法陣が浮かび上がり光球の召還がはじまる。
「これじゃ、キリがないよぉ!」
「こ、困りましたね」
「どうなさいますか? お嬢様」
「えっ――うーん、頑張りましたし、撤退しましょうか?」
 嬉しそうな有栖の声が聞こえたのか岩造の咆哮が空気を揺らす。
「ひっ!」
 岩造の辞書に撤退の二文字は無いらしい。
「フェイト!出せ!」
「解りました!」
 フェイトが光条兵器を顕現させる。
どうやらエリザベートとの闘いに備え温存していたらしい。
 岩造は大剣を握りしめ廊下を突き進む。
 岩造の視線の先は――校長室の扉。防衛魔法が危険に反応したのか――光球が岩造の背中に殺到する。
「岩造様」
 フェイトが叫ぶ。――振り返った岩造は白い歯を輝かせ不適に笑っていた。
「待っていたぞ! この時を! うおおおおおおおおおお! こいつでトドメだぁっ!!!!」
 鋭い閃光が全てを白く塗り潰すように走った。

――世界樹イルミンスール中層 イルミンスール魔法学校 展望台 黄昏時

 アーデルハイドを師と仰ぐ赤毛の魔法使いがいた。

「アーデルハイド様!」
 セレン・ディアス(せれん・でぃあす)が息を切らせながらアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に駆け寄る。
「アーデルハイド様!」
「聞こえておる。落ち着くのじゃ」
「も、申し訳ありません――」
 セレンは深く息を吸い込み吐き出す。
「失礼いたしました。わたくし、セレン・ディアスと申します」
 呼吸を整えるとセレンは丁寧に名乗りを上げる。
「して、何用じゃ」
「エリザベート様が用意した竹のことをご存知でしょうか?」
「視えておる」
「では――」
「私は何もせぬよ」
「お認めになるのですか?」
「エリザベートには悪気はない。可愛いではないか」
「しかし――」
「心配する必要はない。あれはお主が考えておるよりもずっと単純で簡単な代物じゃ」
「そ、そうなのですか?」
「しかし、あの程度の願望機(おもちゃ)で、これ程の大騒ぎになるとは未熟じゃのぉ」
「――面目ありません」
「生徒達にも良い勉強になるじゃろう。エリザベートにとってもな――」