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図書館の自由を守れ

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図書館の自由を守れ

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4日目 水曜日




 昼休み・図書館。
「男性だと思われると警戒されるかもしれないから、柳川教諭に会いに行く際には男前度を下げなさい!」
 ベアトリクス・シュヴァルツバルトは支倉遥に言われた言葉を思い出し、憂鬱な気分になった。
 確かに自分は男前である。それは自覚している。だが、直接指摘されるのは辛いのだ。
 今日は遥の指示で、柳川先生に直接コンタクトを取り、調査をする事になっている。一応、言われた通りに、ミニワンピースに黒のロングカーディガンを羽織り、黒のパンプスなんてものも履いてみたりし、男前度を下げてみたが自信はあまりなかった。
「あれが柳川先生か……」
 今日も貸し出しカウンターに座り、柳川先生は書類の整理に励んでいる。
「先生。少し相談にのってはもらえないだろうか?」
 まずはその口調をなんとかしなくては、男前度が下がらない事に彼女は気づいていなかった。
 カウンターには先客がいた。
 言うまでもなくそれは義純であり、その後どうなったかは、これまで通りなので以下略。
「ご用件はなんです?」
 そう言った先生の指先は、落ち着き無くカウンターを叩いていた。
「……随分、落ち着かない様子だな。どうしたんだ?」
「え? そ、そんな事ありません」
 先生はぎゅっと指先を握ると、恥ずかしそうにカウンターの下に隠した。
「まあ、いい。民俗学の講義で必要な文献を探しているのだが、最適な本を調べて欲しいのだ」
 勿論、本当に必要なわけではない。ベアトリクスは用意した台詞を言っているだけだ。
「どう言った内容の文献が必要ですか?」
「ああ、キマク方面の文献をだな……」
 そう言いながら、彼女は遥に言われた調査事項を思い返す。
 一つ目、一番のポイントは、昨日トアル先生が言った『好きなのに、何故遠ざけるのか』である。もう一つは、恋愛について。葉月の調査で得られなかった確証を得るためだ。
「……不躾な質問をしてもいいだろうか?」
「私に答えられる事でしたら」
「貴公は好きなものを遠ざけたくなる時があるか?」
「……ありますよ」
「何故だ?」
「何かに夢中になっている時……、他の何かを犠牲にしているものですから」
 その言葉を聞いて、ベアトリクスははっとした。
 本に夢中になり過ぎて、何か大切なものを失ってしまったのだろうか? それはもしかしたら、家族かもしれない。親の死に目に会えなかったとか……。いや、それは恋人じゃないのか……? クリスマスの夜、デートの待ち合わせ。喫茶店で恋人を待ちながら、お気に入りの文庫本を読む先生。だがその時、恋人は交通事故で危篤状態。先生の元に緊急の連絡が入るが、先生は本に夢中になって携帯の着信に気がつかない。そして、恋人は帰らぬ人に……。あとに残された先生には、ただ悔しさだけが……。
 ベアトリクスの脳裏に、悲しい恋の物語が次々に展開されていった。
「あ、あの……、大丈夫ですか?」
 突如、目を潤ませたベアトリクスに、先生はおそるおそる声をかけた。
「許してくれ、先生。私とした事が何と言う残酷な質問を……!」
「ほ、本当に大丈夫ですか……?」
 ベアトリクスにはもう一つ、調査しなくてはならない事があるのだが……、それ所ではなかった。
「許せ、遥。恋人の事など……、恋人の事など……、とても訊けん!」


 図書館内を泣きながら走る男前の姿が目撃されたとの情報が流れてから、三十分後の事である。
「すみません。本の返却に来ました」
 この少年の名は樹月刀真(きづき・とうま)
「返却ですね。あら……?」
 渡された本の間に、栞が挟まっているのを先生は見つけた。
 それは四つ葉のクローバーを押し花にして作った栞だった。
「新しい司書さんですよね? 始めまして樹月刀真と言います。これお近づきの印に」
「いいんですか?」
 ささやかなプレゼントだったが、そのささやかさが良かったようだ。
「良かった。受け取ってもらえて」
「高価なものは受け取れませんが……。あ、これが安いと言ってるんじゃありませんよ?」
「いえ。先生に喜んでもらえればいいんですよ」
 そう言って微笑む刀真を書棚の影から、刀真のパートナーの漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が見つめていた。

「刀真の悪い癖が出た……」
 なごやかな二人を見ていると、月夜は胸がむかむかし始めるのを感じた。
「……そんな所で何をしているんだ?」
 月夜を見つけたベアトリクスは、ふと声をかけた。
「ちょっと、脅かさないでよ……、って!」
 目を真っ赤にはらすベアトリクスの姿に、月夜は思わず声を上げた。
「な、泣いてたの……?」
「泣くものか。ただ少し、人間の証がこぼれ落ちただけだ」
 そう言って、ベアトリクスは刀真を見た。
「貴公はあの者のパートナーか?」
「そうだけど?」
「悪い人間ではないだろうな?」
「当たり前でしょ!」
 むっとして月夜は言葉を返した。
「そうか。なら、伝えてくれ。先生を悲しませるなと……」
 彼女は刀真が先生を口説いていると完全に勘違いしたようだ。
 そして、勘違いしたまま踵を返すと、出口に向かって歩いて行った。
「な、何よ。悲しませるなって……」
 残された月夜は、空に向かって言葉を投げた。
「刀真は孤独でいる人を放っておけないだけなんだから……」
 その言葉はどこか自分に言い聞かせているようだった。

「あの、噂で聞きました」
 刀真は思いきって言ってみた。
「本を撤去した件で生徒から反感を買ってるって……」
「……まあ、仕方ありません」
 クールな先生と言えど、やはり生徒に恨まれるのは悲しい事なのだろう。
「……大丈夫ですか、先生?」
「覚悟はしていた事ですから」
「本を遠ざける理由を聞くつもりはありませんが、もし手助けが必要なら頼って下さい」
 刀真の言葉に、先生は思わず顔を上げた。
「どうしてそんな事を?」
「理由ですか……、何となく手を差し伸べたくなったんです」
 しげしげと刀真を見つめていた先生は、穏やかな笑みを浮かべた。
「……そうですね。何かあった時は遠慮なく」


 刀真と月夜が図書館を後にして数分後。昼休みも終わりに近づいた時間。
 大きな胸を強調するかのような、ミニのメイド服を着こなし、秋葉つかさ(あきば・つかさ)が襲来した。
 ちらちらと柳川先生を見ていた図書館の利用者たちも、ストレートな色気を振りまく彼女に釘付けとなった。ちら見だけでは損とばかりに、誰も彼も揃いも揃ってガン見である。
 つかさは大量の本を抱えて、カウンターの前に立った。
「本をお借りしたいのですが、よろしいかしら?」
「え……、ええ。ではこちらに……」
 つかさの服装に眉をひそめながらも、先生は本を預かろうと手を伸ばした。
 だがその瞬間、つかさは手を滑らせた。厳密に言うならば、手を滑らせたフリをしたのだ。
 ドサドサと本がカウンターの下に落とされた。
「あら、ごめんなさい。うっかり落としてしまいましたわ」
 わざとらしく言い、つかさはカウンターを乗り越え、先生のそばに進入した。
「すぐに拾いますわ」
「大丈夫です。私が拾いますから」
 と、先生がかがんだ瞬間、あらわになった首筋に、つかさは口づけをした。
「なっ!」
 先生は驚いて首筋を押さえた。
「何をするんですか!」
「あんまり奇麗だったものですから」
 悪びれる様子も無く、つかさは言った。その姿に先生は寒気がした。
 狙われてる……。先生の脳裏にそんな予感が走ったのだが、そんな事は誰の目にも明らかだった。
「あ、あなたね……。何を考えて……」
 と、先生は拾い上げた本に目を落とし、さらなる動揺に教われたのだった。
 本には『女が女を愛する時』のタイトルが。他の本にもそうそうたる名前が並んでいた。『エロスにまつわるエトセトラ』『女同士のちんちんかもかも』『シャンバラ古流技巧全集』『百合って最高!』『その夜私は本当の愛を知った』などなど。中には、タイトルを挙げるのが不可能な本もあった。
 完全に狙われてる……! 先生が確信するのに、時間はかからなかった。
「こういう本はお嫌いかしら?」
「嫌いも何も……」
「あら、それなら興味がありますの?」
 つかさは先生の後ろに回り、肩を抱いた。
「や、やめなさい……」
「怖がらなくていいのよ、先生」
 そう言って、先生の耳にふっと息を吹きかけた。
 ビクリと先生の身体がこわばったのは、勿論言い知れぬ恐怖のためである。
「男は優しくしてくれましたか? 私が先生の幻想以上の快楽を与えてあげますよ」
 つかさはペロリと舌を舐め、先生の唇を奪うべく急接近した。
「ちょっと待ちなさい!」
 突然、つかさは肩を掴まれた。
 つかさの唇は先生の唇まで、あとわずか数センチの所で止まった。
 肩を掴む人物を見上げ、つかさは不満をあらわに言った。
「……邪魔しないでくださらない?」
 彼女の強襲を食い止めたのは、エドワード・ショウ(えどわーど・しょう)
 蒼空学園の臨時講師にして、パラミタ情報誌『空京ウォーカー』の特派員でもある。
「女同士でもったいな……、あ、いえ」
 思わず本音が飛び出し、エドワードは咳払いをした。
 彼も決して硬派な人物とは言えないが、つかさの前では彼もジェントルメンである。
「先生に対して失礼ではありませんか。愛の告白ならしっかり手順を踏みなさい」
「あの、そう言う問題では……」
 どこか論点のズレたエドワードの説教であった。
「……興が削がれましたわ」
 つかさは先生から離れ、妖艶な笑みを浮かべた。
「では、先生。続きはまた今度」


「恐ろしい生徒ですね……」
「ええ。久しぶりに恐怖を感じました……」
 そう言った先生の顔からは、血の気が引いてるようだった。
「助かりました。ありがとうございます」
「同僚ですからね。困った事があればいつでも言ってください」
 先生はエドワードの顔を見つめたが、どうしても名前が思い出せなかった。
「すみません。お名前が……」
「エドワード。エドワード・ショウと申します’」
 彼は先生の手を取り、軽く頭を下げた。努めて紳士的な自己紹介である。
「見覚えはあったのですが、名前が出てこなくて……」
「いえ。こうして直接覚えて頂けたのですから、私としては光栄ですよ」
「あの……」
「どうしました? 御気分が優れないのですか?」
「その、そろそろ手を……」
 先ほど先生の手を取ったまま、彼はずっと先生の手を握りしめていた。
 いつもの癖である。彼の手は油断をすると、女性に悪さ、いや、女性を喜ばせようとしてしまうのだ。
「……これは失礼」
 手を放すエドワードは、どこか名残惜しそうだった。
「しかし、図書館も随分騒がしくなりましたね」
「……すみません。私が原因ですね」
 娯楽図書撤去事件から、図書館の利用者は減ったにも関わらず、騒々しさは増しているのが現状だ。図書館の周りで演説を行う学生活動家たちに、先生の説得に来る生徒たち。そして、この事件で先生の人気が高まったのか、先生を口説きにくる手合い。やかましさは通常の四割りほど増しているようだ。
「柳川先生が悪いわけではありませんよ」
 エドワードは首を振った。
「柳川先生は理由も無く生徒に恨まれる事をする人じゃないでしょう?」
「エドワードさん……」
「私で良ければ、理由を聞かせてもらえませんか?」
 じっと先生を見つめ、エドワードは言葉を紡ぐ。
「カフェで紅茶でも飲みながら……、どうです?」
「あの……」
「どうしました? やはり私の部屋のほうがいいですか?」
「その、手が……」
 気がつけば、エドワードの手は弄ぶかのように、先生の唇を押さえていた。
 いつもの癖であるが、習慣とは、まこと恐ろしいものである。
「……お忙しい所すみません、先生」
 エドワードと先生が戯れている所に、二人の図書委員がやってきた。
「貴重書の整理が終わりました」
 と言ったのは、一人目の図書委員、藤原すいか(ふじわら・すいか)
「あたし達がお手伝いしますから、貴重書書庫に運びましょう」
 と言ったのは、二人目の図書委員、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)である。
「そうですか。今そちらに行きます」
 そう言うと、先生はエドワードに向き直り別れを告げた。
「すみませんが、エドワードさん。私はこれで……」
「そうですか。では、今日の出会いにこれを」
 エドワードは華やかな赤いリボンを取り出し、そっと先生の手の中に押し入れた。
「明日、お迎えにあがりますね。奇麗に部屋を片付けておきます」
「え、あの……。私一言もそんな事……」
「それでは、また」
 先生が呼び止めるのも聞かず、エドワードは軽やかな足取りで去っていった。



 昼休み・図書館・立ち入り禁止区画。
 貴重書書庫の前には、一体の石像が堂々とそびえ立つ。
 ただの石像ではない。書庫を守るためのガーディアンゴーレムである。身の丈は三メートル。髪と髭を長く伸ばし、古代ギリシアの哲学者を思わせる姿だ。その手には石で出来た本が開かれ、それを読む姿勢のまま彼は止まっている。台座には『万学の守護者・アレキサンドロス』の名。作者のラウル・オリヴィエの名は隅のほうに小さく刻まれているのであった。
「これが噂のガーディアンゴーレムですか……」
 上から下に視線を動かしながら、すいかは言葉を漏らした。 
「強そうと言うより、賢そうですわね」
 その隣りで、精巧に作られたゴーレムの姿に、ユーベルも感嘆の声を漏らした。
「ありがとうございます、二人とも。運ぶのを手伝ってくれて」
 ここまで貴重書を運んだ二人に、先生は感謝を述べた。
「図書委員ですから、当然ですよ」
「その通りですわ」
 そう言うが、これは嘘だった。
 すいかとユーベルは図書委員名簿に細工をし、図書委員になりすましている。図書委員と言っても、さまざまな人間がいる。真面目に活動する者も入れば、サボって年一回しか顔出さない者も。なので、彼女が図書委員のフリをしていても、幽霊委員がたまに顔を出した、ぐらいにしか思われなかったのだ。図書委員ですらそれなのだから、新任の柳川先生が気づかないのも無理は無い。
 二人はそれぞれ違う目的でなりすまししている。
 そして、互いに偽図書委員である事を知らない。
「ここから先は司書しか入れません。二人は先に戻ってください」
「はーい」
 と、元気に返事をする二人。
 だが、先生が扉に向かって進んで行っても、戻ろうとしない。
「あの、ユーベルちゃん。先に戻ってください」
「いえ。すいかさんこそ、お先に戻りなさいな」
 二人は怪訝な顔で見つめ合った。
「……私、ちょっとトイレ」
 そう言うと、すいかは走り出した。その方向は明らかにトイレではない。
「む、向こうは……!」
 すいかの向かった方向に何かあるのか、ユーベルは顔をしかめた。
「ま、待ちなさい!」
「な、なんで着いてくるんですか?」


 書棚の影から、先生とゴーレムの様子を見つめる生徒。
 彼女の名前はリネン・エルフト(りねん・えるふと)。ユーベルは彼女の相棒である。
 こちらに向かってくる気配を感じ、彼女は気配に向かって注意を促した。
「静かに……!」
「だ、誰ですか?」
 すいかは走るのをやめ、その場に立ち止まった。
 目の前のリネンに対し、彼女は怯えるでもなく不思議な表情を浮かべた。
「あらら、見つかってしまいましたわ」
 そう言って、あとから現れたのはユーベルだ。
「あなた達、もしかして仲間なんですか……?」
「よく聞いて欲しいの、すいかさん。あたし達はあなたに危害を加えるつもりはありませんわ」
 ユーベルは怖がらせないよう、言葉を選びながら話した。
 騒がれてしまったら、元も子もないのだ。もっとも、すいかは騒ぐつもりは微塵もなかったが、ユーベルはまだ彼女が図書委員でない事を知らない。しかし、誤解もすぐに解ける事になるのだ。
「まさか、あなた達も貴重書を狙って……?」
「も?」
 リネンとユベールは顔を見合わせた。
 そんな助詞を使う人間は同業者しかいない。
「……もしかして、貴重書を狙ってここにいるの?」
「そうです。あなた達は違うんですか?」
「私たちはそんなものに興味ないわ」
 それを聞いて、すいかは安心したようだ。
「それを早く言ってくださいな。だったら、手を組みましょう」
 そう言うと、すいかは書棚に張り付き、先生の動向を見守った。
 先生が扉の前まで来ると、侵入者を排除するため、ゴーレムは本から顔を上げた。
 それに対応して、先生もすかさず言葉を発した。
「熟読せよ!」
 これは司書だけが知っている、ゴーレムを停止させる合い言葉である。
 ゴーレムは再び本に視線を戻し、ただの石像のように動かなくなった。
「熟読せよ……、ね」
「お手柄ですわね、リネン」
「あなた達、ゴーレムの停止法を調べてたの?」
 すいかは思った。お宝目当てでもないのに、そんなものを調べるなんて不思議な人もいるものだ、と。
「詳しくは話せないけど、そうよ。この事は他言無用でお願い」
「お互い様ですよ。私の事も秘密にしてくださいね」
 二人が話していると、ユーベルが緊張した声で言った。
「……なんだか様子が変ですわ」
 見れば、先生は開いた扉の前で立ち止まったままだ。
 三人が様子を伺っていると、突然先生はこちらに振り向き、軽い身のこなしで迫ってきた。
「……見つかったわ!」
 その場から離れようとする三人だったが、時既に遅かった。
 目の前の書棚の上で大きな物音。何かがその上に立った音が響いた。
「……あなた達どうしてここにいるんですか?」
 青白い照明を背景に、先生は三人を見下ろしていた。その表情は伺い知れない。
「ど、どうしてバレたんですか?」
 動揺するすいかを諭すように、先生は落ち着いた口調で言った。
「ディテクトエビルと言う力をご存知ありませんか……?」
 ディテクトエビル。周囲の敵意を持つ者を探知する事が出来る、ウィザードの能力である。
 先生は警戒のため、貴重書書庫に入る前に必ずこの能力を使うのだ。
「忘れていたわ。柳川先生はこの学園の卒業生。こんな能力があっても不思議じゃない……」
 そう言いながら、リネンは武器を構えた。
 しかし、勝てる気がまるでしない。先生からは遥か高レベルの凄みが感じられた。
「……どうしますか、リネン?」
「……図書館じゃ、強力な魔法は使えないはずよ」
「……それなら、逃げ切れるかもしれませんね」
 三人は目配せし、そして、出口に向かって駆け出す。
 だがその瞬間、先生の放った氷術によって、三人の足下は凍り付いた。
 靴と床が張り付けられ、まるで身動きが取れない。
「捕らえるだけなら、ささやかな魔法で十分です」
 先生は眼鏡を押し上げ、戦慄する三人を見下ろした。