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第2回ジェイダス杯

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第2回ジェイダス杯

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第六章 それぞれの騎士道


 美しい景観に誘われて、ヴァイシャリー観光を楽しむ選手が続出する中、バイクや馬といった水上都市のレースでは不利な乗り物に乗りつつも、あくまでも勝負にこだわる選手もいた。
 軍用バイクにまたがった松平 岩造(まつだいら・がんぞう)だ。水路を避け、迂回した路地に樽やバリケードが置いてあれば、問答無用で吹き飛ばす暴走ぶりだ。
「行くぜ、行くぜ、行くぜ!!!!!」
 松平選手の叫びは、すでに人語としての意味を成しているのかすら妖しい。これでは松平が運転する軍用バイクのサイドカーに乗った百合園生はたまったものではない…と思いきや。
 ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、松平選手の荒っぽいながらも一心不乱な走りに満足していた。実はジュスティーヌ、姉であるジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)との勝負の真っ直中だったのである。正々堂々と勝負することこそ「騎士道」と考えるジュスティーヌに対して、波羅実生のナガン選手をパートナーに選んだ姉ジュリエットの考える騎士道とは「傾奇通す」こと。その主義主張の違いから「ならば、勝負よ!」となったのだが…。
「これなるはナガン・ウェルロッドが乗機で候〜!!」
 激走する松平選手のバイクの後方から、ジュリエットの高らかな声が聞こえてきた。姉達がすぐそこまで迫ってきているのだろう。
「松平さんっ、頑張ってっ!」
 ジュスティーヌは思わず両手をギュッと握りしめた。
「岩造様、ジュスティーヌさんっ、頑張ってっ!」
 観客席からは松平選手の契約者フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)も声援を送る。すでに優勝戦線からは脱落していることは分かっていた。それでも戦いを止めるわけにはいかない。あくまでも正々堂々と最後まで全力を尽くすこと。それこそが松平選手とジュスティーヌ嬢の「騎士道」なのだから。

 
 そのときメリナ・キャンベル(めりな・きゃんべる)嬢は「騎士道」について考えていた。チェックポイントで参加者を待っている間も考えていた。考えるあまり、同じ百合園の友達は次々にパートナーを見つけて出発してしまい、一人取り残されそうになったくらいだ。
 そのとき、声をかけてくれたのが薔薇学生の清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)だった。二人は百合園生に声をかけるつもりはなかったらしく、馬にはすでに等身大ジェイダス様フィギアが括り付けてあったのだが、メリナの前にすたりと降りると、爽やかな笑顔で「どうぞ」と言ってくれたのだ。
 それからメリナに手を貸し、馬の背に乗せてくれたのだが。移動はいつも馬車ばかりで、メリナはこれまで馬に乗ったことはなかった。馬がこんなに揺れるものだなんて知らない。しかし、北都は優しかった。
「次、曲がるから。身体を右に傾けて」
 角を曲がるたびにメリナに声をかけてくれる。
「私みたいなとろい子よりも、ジェイダス様フィギアを抱えて走る方が早かったんだろうなぁ。たぶんこんな騎士って、こんな風に優しい人なんだろうけど……」
 自分なりの騎士道…となると、やっぱりメリナには分からない。ゴールである騎士の橋に付くまでに答えが見つかると良いのだけれど。長考を続けるメリナはそっとため息をついた。


 一方、百合園生七瀬 歩(ななせ・あゆむ)にとっての「騎士」とは、「白馬の王子」と同意語だった。往々にして女子校に通う生徒が男子校に通う生徒に憧れるように、歩もまた遠くタシガンの地にいる薔薇学生に対して憧憬の念を抱いていた。
 だから、薔薇学主催のジェイダス杯がヴァイシャリーで開かれると知ったとき、絶対に参加したいと思った。レースを通して薔薇学生と仲良くなれると思ったからだ。
 レース前日、はばたき広場を散歩していた歩は、薔薇学の制服に身を包んだ少年を見つける。
「ライラ、明日はここを走るんだよ」
 漆黒の髪を肩で切りそろえた少年サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)は、騎乗していた白馬の首を撫でながら優しく語りかける。その姿はまさに歩が想い描いていた王子様そのものあだった。
 気がついたときには自分から声をかけていた。
「あのっ、明日のレースっ。私とペアになってくれませんかっ」
 あのときはきっと耳まで真っ赤になっていただろう。すっごく恥ずかしかったのを覚えているから。しかし、サトゥルヌスは、優しく笑って頷いてくれたのだ。
「こちらこそ。明日は道案内、よろしくお願いしますね」
 サトゥルヌス・ルーンティア…彼こそが歩の騎士だった。
 しかし、歩は知らない。彼女の王子様が、校長の機嫌を取るためだけに出場しているという事実を。そして、彼の契約者であるアルカナ・ディアディール(あるかな・でぃあでぃーる)に至っては、馬の尻に括り付けた等身大ジェイダス様フィギアに対して「バラバラにして運べたらどんなにラクか…」と嘆いている事実を。