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第四章 そして誰もしなくなった
「ふぅ。恐ろしい相手だったぜ。武術部部長、マイト・オーバーウェルム」
 にゃん丸が倒れているマイトを見下ろして溜息をつく。
「さて、そろそろ動く頃合か」
 そして、にゃん丸は部室で現場検証を行う涼司一行と合流し、なにやら推理を披露し始めた。
「犯人はメガネをかけて山葉涼司に成りすましバイブルを盗んだ。が、人が来てあわてて逃げた……」
「それはわかる。で、どうなんだ?」
 にゃん丸の言葉に涼司が訊ねる。
「犯人は光学迷彩を持たずメガネじゃないローグの蒼学生。つまり……」
 ゴクリと唾を飲む一行。
「つまり俺だっ!」
「なんですとー!」
 突然の告白に驚く涼司たち。
「いや〜バイブルか。性書違いね〜」
「てめー、にゃん丸!」
 涼司は怒りで拳を震わせる。
「お前のせいで修学旅行は散々! しかも今回仲間はずれにしやがって。涼司のばーか!」
 言い捨てるとにゃん丸はダッシュで部室を抜け出した。追いかける一同。
「え〜っと、隠したのは確か……」
 とある空き教室に入り本を確認。
「わぁお! 早速校長に提出しなきゃ〜!」
「そうはさせません。喰らえ轟雷閃!」
 ザカコがにゃん丸に必殺技を放つ。
「あーれー」
 にゃん丸は空高く飛んでいく。本は地上に落ちる。
「よし!」
「よくやった、ザカコ!」
 涼司が本を受け取ろうとするが……
「甘いですね山葉涼司。なぜ自分がグループを組んでまで本探しを手伝ったと思います? すべてはこの時のためです」
 そういうとザカコは携帯で本の最終ページ、すなわちロリ環菜のコラージュ写真を撮影する。
「最近イルミンの恥ずかしい姿を良く見られていますし、ここらで蒼学にも痛い目にあってもらいましょう!」
「てめえ!」
 涼司の怒りもどこ吹く風と、ザカコは携帯と本を手に蒼学のサーバールームへと走る。
「まてー!」
 しかし追いつかず、ザカコは蒼学のサーバーにロリ環菜の写真をアップする。
「涼司さん、あたし校長に報告してきます!」
「ああ、任せた!」
 花音が事態を環菜に報告すべく走り出す。

「……という訳で、写真がサーバーにアップロードされてしまいました。他にも何人かの生徒が携帯やデジタルカメラにコピーを取ったみたいです」
 校長室。花音が環菜に報告する。
「そう。わかったわ。ありがとう。ふっふっふ、涼司のバカにはどんなお仕置きが似あうかしら?」
「あの……涼司さんは悪意があったわけじゃ。その、だから、許してあげてください」
「珍しいわね。あなたが他の女に一瞬でも目を奪われた涼司をかばうなんて」
「あの……みんなに教えてもらいましたから」
 少しうつむいて怒り心頭の環菜にそう答える花音。
「そう……じゃあ、あなたはあのバカのところに戻って、携帯をアルミホイルで厳重に包むように忠告してあげなさい」
「……?」
「いいから。それから本は必ず私のところに持ってきてね」
「あ、はい」
「じゃあ、行きなさい」
「はい!」
 そして花音は再び走り出す。愛する男の元へ向かって。
 それから環菜は何を思ったのか工具を取り出すと校長室に置いてある業務用電子レンジをいじり始めた。

「クライス君、本が発見されたみたいよ?」
「そうですね、サフィさん。少々物騒ですが、実力行使で本を奪うとしましょうか。レイディスさん、シュレイドさん、協力お願いします」
「……たく、しょうがねぇな。連帯責任で退学とか食らったら元も子も無ぇし」
「俺様に任せな」
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)がここに至ってようやく登場。
 彼らは涼司一行に接近すると、必殺技を先手で放って有無をいわさず本を強奪する。
 が、その拍子にレイディスが本の中身を見てしまい鼻血を出す。純情少年である。
 レイディスは慎重に中身を見ないようにしながら光学迷彩を発動し、一路校長室へと向かう。しかし光学迷彩に鼻血がついていて追跡されているとは夢にも思わないレイディスだった。

「さがせーっ!」
「いたぞ、あそこだ!」
 回収派、閲覧派、処分派がこぞってレイディスを追う。
「くっ……光学迷彩使ってるのになんでバレるんだ?」
 鼻血がついているからである。
 そしてバトルは混乱を極める。
「椿 薫覚悟!」
 樹が容赦なしに殲滅対象のひとりとしている薫を発見して勝負を挑む。

「カンナ様、これが偽造も含めて聖典を閲覧していた生徒のリストです」
 ルーシーが集めたリストを環菜に提出する。
「ご苦労様。あと5分以内に放送でこの生徒を校長室に呼び出しなさい」
「わかりました」
 そして放送室で呼び出しがかかる。
「……以上の生徒は至急校長室に出頭しなさい。繰り返す。名前を呼ばれた生徒は至急校長室に出頭しなさい」
 ルーシーの呼び出しに生徒たちは恐怖した。
 そこには当然涼司の名前も含まれている。
「どうする山葉? 行くのか?」
 ウィルネストが尋ねると涼司は
「行くしかないだろう」
 と答える。
「仕方がありませんね。カンナ様にすべてを提出して謝罪するしかないでしょう」
 同じく呼びたし対象に含まれていた刀真がそう言う。
「なんで俺まで……」
 ブロードキャストした罪で出頭を命じられたクロセルがぼやく。
「はう……みらびちゃん、どうしよう?」
 波音が困った顔をみらびにむける。
「おとなしく出頭しましょう……」
 みらびは諦めの境地で波音にそう言う。
「そうね……しくしく」
「くっそー、涼司を陥れる俺の計画が……」
 同じく出頭対象のにゃん丸が悔しそうに言う。
「なんとか俺たちは呼び出されずにすんだか」
「だが、副会長にはなれなかったな」
 虚雲と海已が溜息をつきながら愚痴をこぼしあう。
「まあ、仕方あるまい。他にも手段はあるし、別の機会を狙おうぜ」
「そうだな」
 二人は納得するとせめてもの誠意と聖典狩りに励んだ。
「スケベ男子ざまーみろね♪」
 美羽が満足そうにそう言う。
「ああ、環菜会長のお仕置き……どんなのだろう……ドキドキ」
 環菜スキーをこじらせてしまったらしい陽太は密かに楽しみにしながら校長室に向かった。
「くそ……俺らの活動もバレたか。翡翠、珠輝出頭するぞ」
「仕方がないですね」
「ふふ、それもまた宿命」
 武と翡翠、珠輝が放送を聞いておとなしく出頭する決意を固める。
「はぁ……俺のロマンが……」
 侘助が意気消沈して校長室に向かう。
「サバト兄ぃ、宝探し中止?」
「そうだな。幸い俺らは呼び出されていないし、お宝は諦めるか」
 出頭を免れたサバトは未練を引きずりながらも写真探しを諦めると、りをを伴い学園をあとにした。
「くっ……ばれたのか。どうする……?」
 迷う凶司にパートナーのディミーアがトドメを刺す。
「私がカンナ様に報告しておいたから。オバカさん」
「なんだとっ! ディミーア、お前!」
「おとなしく出頭したら? 退学になるよりはましでしょ?」
「ディミーア! 覚えてろよ!」
 そして凶司は捨て台詞を残しながら出頭した。
「ふん。男子どもめ、ザマを見ろだ。だが、カンナ様の手をわずらわせるまでもない。スカサハ、里也、男子を粛清するぞ!」
「頑張るであります!」
「あいよ」
 朔はパートナーたちに呼びかけると男子の粛清を続けた。

 そして涼司一行はレイディスから本の奪取に成功すると、校長室を目指した。
「あ、涼司さん、校長がなんか携帯をアルミホイルで厳重にくるんでおくようにっていっていましたよ」
 花音がそういうと涼司は不思議そうな顔をする。
「なんでだ?」
「わかりません。でも、おとなしく従った方がいいと思いますよ」
「じゃあ、家庭科室によるか」
 家庭科室でアルミホイルを手に入れた涼司たち一行は校長室に向かった。そして――

「集まったようね。まずは聖典とやらを提出しなさい」
 環菜が女王然とした様子で命令する。
 デスクに積まれる本や写真の数々。
「あー、あたしの写真!」
 花音が叫ぶ。
 そこにはあられもない姿の花音の写真があった。
「これは私が処分するわね。それから、あなた達のコピーしたデータも消させてもらうわ」
 そう言うと環菜は改造した業務用電子レンジの蓋を開けたままスイッチを入れる。
 電子レンジから放出される高出力のマイクロ波は、学校中の電子機器――携帯、デジカメ、コンピュータの類をすべて故障させる。
 アルミホイルでくるまれていた環菜と涼司一行のものを残して――
「処分はこれで勘弁してあげる。それから涼司、こっちに来て」
「お、おう……」
 涼司が環菜の前に出ると、派手な打音がした。
 強烈なビンタが一発。
「ってぇ……」
「あなたが写真を提供しなきゃこんな騒ぎにはならなかったんだから、反省しなさいね」
「ああ……すまない」
「これだけで許してあげるわ。感謝なさい」
 そう言って環菜は携帯電話を取り出し、コンピュータの入れ替えをするように業者に依頼すると、解散を命じた。
「これだけですんでよかったな……」
 男子生徒の誰かが言うと
「でも、携帯がパーだぜ」
 と別の男子生徒が言う。
「まあ、自業自得じゃないの? しゃあないさ」
 また別の男子が言う。
「問題は、無関係なのに携帯やデジカメやパソコンが壊れた学園の連中に、俺らは相当恨まれるってことだな」
「とほほ……これからしばらく辛いな」
 そう、色んな意味で辛い。だが、これも自らの行為が招いた咎である。諦めてもらいたい。
 こうして、聖なる書物をめぐる騒ぎは収束した。一分に禍根を残して……


担当マスターより

▼担当マスター

樹 和寿

▼マスターコメント

 はじめまして樹 和寿です。
 初のシナリオですがいかがだったでしょうか?
 出番が少ない方は傾向的に確定ロールだったりアクションの幅が狭いようでした。
 初めてのこともあり私がうまくアクションを生かせなかったのもありますが、個性的なアクションの方はそれなりに出番がありましたね。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 では、また機会があったらお会いしましょう。

▼マスター個別コメント