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夜更けのゴーストバスターズ

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夜更けのゴーストバスターズ

リアクション

 食堂の入口は、大きな観音開きの扉だった。
 それまでの教室とは違って、がっちりと閉じられている。
「ちょっと、待っていてくれ」
 手の動きだけで、シイナは全員をその場に待機させた。
(そうは言ってもな……)
 【護衛隊】の面々は彼女に気付かれぬよう、距離を取る。

「鍵は掛かってないんだがな……」
 シイナは扉の取っ手をつかんで引いてみた。
 開かない。
 力いっぱい引っ張ってみる。
 びくともしない。
 その後何度か試しても、扉はピクリとも動かなかった。
「幽霊の仕業なのか?」
 爪を噛んで、暫し熟考する。
「仕方が無い。こうなったら、最終手段で……」
 彼女は「シャンバラ製手榴弾」を軽い動作で投げようとする。

 そこで。

 パシッ!

 ツッコミが入った。
 ハリセン1回目。

「もー、まずは話が先でしょ! 爆弾ちゃん」
 止めたのは、1番手・小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
 ナナちゃんありがとうね、とナナにハリセンを返しつつたしなめる。
 ミニスカからのぞく、交差させた長い脚が目に眩しい。
「それに、万一本当に幽霊の仕業だったら、まずは話を聞かなくちゃ!」
「だがそいつが鏖殺寺院の悪霊だったらどうするっ!」
「はあ? 鏖殺寺院?」
「そうだ、悪業はすべからく奴らの手によるものと決まっている。疑うのは当然だと思うが、違うか?」
「まあ、そう言われれば、そんな気もするけど……」
 気弱になった美羽の台詞に、だろ? とシイナ。
「では、仕切り直しで、いざっ! 勝負!」
 再び手榴弾を手に持ち、投げようとする。

 その時。

「わーっわーっわーっ! ちょっと待った手榴弾はナシナシ!!」
 甲斐 英虎(かい・ひでとら)が飛び出して、手榴弾のピンを抑えた。
 その隙に、ナナから紙製のハリセンを借りた甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)が。
「ご、ごめんなさい! 失礼致します!」
 目をつぶって、えいっとばかりに振り下ろす。

 パシパシッ!

 ハリセン2回目。
 しかも手元が狂って、力いっぱいの連続攻撃になってしまった。
「ご、ごごごごごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! シイナさん」
 ユキノは驚きのあまりハリセンを放り出し、英虎に背に隠れる。
 その隣から、
「シイナ、シイナ、って。俺のこと?」
 ひょこっと真が首を出し、東條 カガチ(とうじょう・かがち)に指先でツッコまれる。

 当人は軽く後頭部を抑えつつ。
「何だかなあ、仕方がない! 気を引き締めて行くかっ!」
 手榴弾片手に軽くスローインの体勢。

 パシッ!
 
 サラ・アーネスト(さら・あーねすと)如月 空(きさらぎ・そら)が同時に打ち込み。

 パシッ! パシッ!

 手なれた音が繰り返される。
 ハリセン3回目。
 止めたのはレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)橘 恭司(たちばな・きょうじ)2名である。
「悪いですね、ナナさん。勝手にお借りてしまって」
 レイナは拾ったハリセンをナナに戻す。
 その隣りではマイハリセンの恭司がクールに佇んでいる。
 しかも、材質は紙ではない。
「軽量合金製・接触部分にはスポンジを装着し手加減し損ねても怪我をしない安心設計」というこだわりようだ。
 マイハリセンを懐に仕舞いつつ、恭司が静かに尋ねる。
「勝負とは。誰に仕掛けるのだ? 鹿島 シイナ」
「鏖殺寺院に決まっているだろうっ!」
 シイナはイライラとした口調で後頭部を抑えつつ立ち上がる。
「早くしないと! 関係もない見ず知らずの一般生徒達が、無抵抗なままいいように……ああああああ、あんなことやこんなことや、されちゃっているかもしれないんだぞっ!」

 チョイチョイッ。

 シイナの背中をつつく指。
 シイナが振り返る。
「お取り込み中すまないんだけどねぇ」
 止めたのはカガチである。
「立てつけが悪いだけじゃないのかねえ」
 カガチはのんびりとした口調で宥める。
「それに、ここで使ってしまってはいざという時困るじゃないの? しまっときなさい、シイナちゃん」
「ん? 呼んだ?…あ、俺じゃない?」
 首突っ込んだのは、シイナ……ではなくて、椎名 真(しいな・まこと)
「とにかく、そんな危ないものはむやみに使うものじゃない」
 ね? と真は凄む。
「威圧」の効果もあって、シイナは一瞬「うっ」とひるむ。
 が――。
「そうだ、シイナちゃん。そんな物騒なものはしまいなさい、ね? シイナちゃん」
 カガチの説得に。
「え? 俺のこと? カガチ」
「…………」
 見えないブリザードが一行を包み込む。
 特技の効果は薄れてしまったようだ。
 
「さ、行くかっ!」
 2人を完全に無視して、シイナは本日5度目の体勢に入る。
 と、その時。

 ヒュウウウウウウウウウウー……。

 天高く舞い上がり……かと思えば、空を切り裂く音が。
 ハリセン4回目。
 しかも今度のハリセンは、なぜか力強く光り輝いて。

「暁の力を借りて、今必殺のシャイニングハリセーン!」

 雄たけびと共に、光術とヒロイックアサルトで「シャイニングコーティング」をしたエル・ウィンド(える・うぃんど)が、舞い降りてきながらツッコんでくる。
 だが滞空時間がいかんせん長い。
 その間にシイナに避けられ、作戦は失敗。
「くそ、下準備が必要だったか!」
 そういう問題ではないと思うのだが。
 床にめり込んだハリセンを抜き去り、ナナに渡す。
 だが彼女はいたくエルが気に入ったようで。
「わたし、一生懸命な人って、大好きですっ!」
 ニッコリと笑って、手を取り。
「お友達になってもいいですか?」
 何だか、とても積極的だ。

 その後ろでは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が「おかしい……」と呟いてカウントダウンをはじめていた。
「5、4、3、2、1……0!」
 その直後。
 カーン、と金ダライがエヴァルトとデーゲンハルトの頭上に落ちてくる。
 廊下の水飲み場に置かれていたものだ。
 鼻血を出してあおむけに倒れる2人。
 その後ろで、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が申し訳なさそうなそうに謝っていた。
 眠そうに目をこすりつつ。
「寝ぼけて間違えちゃったよー。ごめんね、お兄ちゃん達」

「もう、何なんなんだよ! お前ら! 邪魔ばかりしやがって」
 イテー、と頭を押さえつつ、シイナはスローインの体勢に入ろうとする。
 その手をつかんで。
「馬鹿、危ない真似してんじゃねーよ!?」
 見ちゃいられないとばかりに皐月は叫んで、首を傾げた。
「……なぁ。ひとつ聞くけど、何だってそんな爆弾が好きなんだ?」
「別に爆弾が好きな訳じゃないさ!」
 シイナは振り向きざまに答える。
「ただ力がなくちゃ、生きていけないだろ? だから鏖殺寺院が暴れた時、空京に行った先輩は戦って死んでしまったんだ。満足なスキルもない、一生徒だったから……」
「そいつのこと、好きだったんだ?」
「…………」
 無言が答えだった。
「女の子を助けにいく」――そう言って、皐月はこの場に参加したのだ。
 七日は自分の思い違いを恥じて、静かに扉に手を当てる。

 と、その時。
 あらっ、という短い叫び。
「扉、開きましたけど……」
 七日は軽い動作で扉を静かに「押し開く」。

 一件落着。
 一行は何事もなかったかの如く、サッサと食堂へ入ってゆく。
 その最後尾で
「ねーねー、シイナって俺のこと?」
 真が言って、
「まだ、あんたはゆーかっ!」
 カガチからツッコまれていたとか。