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【学校紹介】蒼空学園新入生歓迎会。

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【学校紹介】蒼空学園新入生歓迎会。

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第一章 スタンプラリーのはじまり、はじまり。


 世間一般な生き方をしてこなかった。だから思い切ってこの世界に来た。だけどこれからどうしよう?
 そう考えていた時に目の前に差し出されたそれ。麻姫 灼那(あさひめ・やいな)は、スタンプラリーのカードを、ただ惰性で受け取った。
「スタンプラリー……」
 聞いていた話によると、この学園の様々な箇所を回り、チェックポイントにあるハンコを捺していく。
 ただそれだけの、何の意味があるのかもわからないイベントの、カード。
「誰かと知り合うきっかけになる、ということ?」
 可愛いイラストの描かれたピンク色のカードを、透明なケースに入れて首から下げた。そして、辺りを見回す。
 長い黒髪が特徴的な美少女と、金髪碧眼のポニーテール美少女が、「シズルさん、行きましょう!」「はいはい……」と話し合っていた。お互いスタンプカードを首から下げている。スタンプラリーの参加者だ。
 体育館を出て行こうとする二人を眺める。ああやって、誰かと一緒に居た方がいいのだろうか。きっと、いいのだろう。気持ち的にも、迷子になる可能性を減らすためにも。
 なによりこれからの学園生活を楽しむためにも。
 声をかけよう。
 そう思った。やると決めたら即行動、と灼那はシズルと呼ばれた黒髪少女に近付いて、
「あの、……えーと……」
 初対面の相手に話しかけることに少しためらいつつも、
「……シズル、さん。よかったら、一緒に回りませんか……?」
 声をかける。
 シズルは少し驚いた顔をして、金髪ポニーテール少女と顔を見合わせ、それからにこりと微笑んだ。
「いいよ! 楽しもうね!」


*...***...*


 周りで、「一緒に見て回らない?」とか「誰か一緒に行きましょうー」とか、そんな声がちらほらと上がる中。
 台 いのり(うてな・いのり)は冷めた目でスタンプカードを見た。
 別に、友達を作ることが目的ではない。ただ、浮かないためだ。スタンプラリーに参加するという新入生が多い中で、自分だけ参加せずにいて浮いてしまわないため。
 だからさっさと歩きだす。
 体育館を抜けて、廊下を歩いて、昇降口まで歩いてみて、さてどこから回るかと考えているとき、それは目に飛び込んできた。

「うふふ、可愛い子……そう、校長室に行きたいの? 校長室はね……」
「ちょ、ちょっとねーさま、相手の腰を抱いて頬をすりよせながら説明する必要はないと思うの! もっと私みたいに真面目にやるんだもんー!」
「あら、沙幸さん。それはつまり、わたくしが真面目ではないと仰っているのですか? 心外ですわ……わたくしはとても真面目ですのに」
「も、もっと真面目に道案内するのっ! あ、あ、校長室はあっちだからねっ」
「真面目、ですか?」
「そうっ。
 きみは? 美術室に行きたいんだね。それなら、この廊下を道なりに行けばたどり着くよ。
 ……こんな感じ! ……って、ねーさまーっ! 女の子にちょっかいかけてないで、ちゃんと道案内するのーっ!」
「沙幸さん、そんなにやきもちを焼かなくともちゃんと後で構って差し上げますわよ?」
「なっ…………、うぅーっ!」

 いのりはそのやりとりを白い目で見る。
 なんだろうあれは。夫婦漫才と言うのか。それにしては両方とも女性で、可愛い人と妖艶な人で、
「……どうして私の顔が赤くなってるんだ……」
 頬に手を当てて、熱を冷ます。
 と、すぐ隣にさっきの妖艶美女が立っていて、「っ!?」いのりは驚きに息を飲む。
「こんにちは。新入生ですか? わたくし、藍玉 美海(あいだま・みうみ)と申します。あちらの可愛らしい方は、久世 沙幸(くぜ・さゆき)さん。わたくしのパートナーです」
 美女……もとい、美海はそう言って丁寧に頭を下げる。
「……、こんにちは。新入生の、台いのりです」
 一瞬ためらってから、返事をした。さきほど百合百合しくイチャついていたとはいえ、挨拶されて返事をしない理由にはならない。
「いのりさん。大人の魅力溢れる素敵な方ですわね」
「そんな、お世辞なんて」
「お世辞じゃないですわ。ねぇ、沙幸さん?」
「……うん、そうだね。私と違って、大人っぽくて、綺麗な人だね」
「あら? また嫉妬ですか? ふふ、今日は激しいんですね」 
「知らないもんっ」
 勝手に痴話喧嘩なんて始めてしまって。
 いのりは戸惑う。
 こういった先輩方ばかりなのかしら。それとも、ここが高等部だから? 私が進学する先は大丈夫なのか……。
「パートナーが拗ねてしまいました」
 困ったように美海が笑い、「なので、ろくに案内ができませんでしたが――」言葉を切った。
「この学園は、とてもいいところです。わたくしたちは、確かに少しズレたところがあるとは思いますが、そんなズレた人たちも受け入れ平等に接してくれる。素敵なところです」
「……そう、ですか」
「ええ。では、失礼します」
 ぺこり、と再び頭を下げて、美海はそっぽを向いてしまった沙幸の手を繋いで歩いていく。
 二人の後ろ姿を見送っていると、
「緑茶、紅茶、炭酸ジュース。どれがいい?」
「あとあと、お茶菓子もいかがでしょうか〜♪」
 元気な声が聞こえてきた。
「こんにちは、新入生さんですか? ハッピー☆シスターズ次女の広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)です♪」
「ボクはウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)だよ。飲みものどれがいい?」
「台いのりです。……えぇと、それじゃあ紅茶を」
「はいっ。砂糖やミルクは?」
「いりません」
 簡潔に受け答えをしたいのりに差し出された紙コップ。受け取って、一口飲んだ。悪くない味だ。紅茶の香りがしっかりしていて、けれど苦みはない。
「こちらもどうぞ〜♪」
 ファイリアがドライフルーツを混ぜ込んだクッキーを差し出してきた。一枚とって、かじる。バターの風味と果物の甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「美味しい……」
「ファイの自信作なのですよ♪」
 呟きに、ファイリアがとても嬉しそうに笑った。満面の笑みとはこのことだな、といのりは思う。
「いのりさん、学校はどうですか?」
 再び紅茶に口をつけた時、ファイリアが問いかけてきた。
「どう、って」
 感想を抱くほど見て回っていないため、口ごもる。と、ファイリアは照れくさそうに笑い、
「ファイが蒼空学園に入学した時は、ファイにとって初めての学校だったから……どうすればいいか色々不安だったです。
 でも、パートナーのウィノナちゃんがフォローしてくれたり、ファイが勇気を出して話しかけたり、話しかけてもらったりして……今、とっても楽しい学園生活を送れているのですよ!」
 それからウィノナを見て、次にもう一度いのりを見て、笑顔を見せた。
「ファイ、最初すごい不安がってたもんね。
 ね、学園生活に不安がらないでね。とても楽しいところだよ。それでも不安だったら、パートナーでも友達でも、しっかり話をして。話すことで不安が軽くなったり、楽しさが増したりするから」
 ウィノナも笑い、そう言った。
 話す相手。パートナー。友達。
 ……友達、か。
 別にそんなの、いらないと思っているから。
 私は大丈夫だと。
 でも、ちょっとだけ、本当にほんのちょっとだけ。
「そうですね」
 友達、というものが居ても、いいかもなと思った。
「ファイさん、ウィノナさん、友達にしてあげてもいいですよ?」
「む、上から言ってくるとはナマイキだね。嫌いじゃないけど」
「ファイはお友達が増えるの、嬉しいですよ〜♪」
 なるほど、確かに誰かと話すのは、まあ、悪くない。
 自然と、いのりの口元に笑みが浮かんでいた。


*...***...*


 Q.蒼空学園と言えば?
 A.のぞき部。

 と、いうわけで。
加能 シズル様!」
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は見込みある新入生である、シズルに声をかけた。
 声をかけられた側のシズルは、突然名前を呼ばれたとあってきょとんとした顔をしている。彼女の隣に居る、レティーシア・クロカスは「なんですの?」と訝しんでいる。もちろん彼女も『対象』だ。さらに、同じく新入生である麻姫 灼那も、小柄ながら引きしまった体つきをしていて、
「ああ、こちらの方も素敵ですわ……是非のぞかせていただきたい……」
 思わず呟きが漏れてしまう。
 けれどやはり一番はシズルだ。実に良い身体。のぞきたい。えぇ身体の隅々までどこまでも。
 では将を得るにはまず馬から、と。
「学園の案内をさせていただきますわ」
 レティーシアと、灼那に微笑みかけるのだった。
「こちらへまっすぐ行けば、部室棟でございます。部活動の見学などもしてみましょう」
 言いながら、つかさはシズルの手を握って歩きだす。
「どんな部活があるの?」
「そうですねぇ……例えば、」
 おもむろに部室のドアに手をかけ、開けた。
 そうそこは、女子のぞき部。
 壁にぴたりと張り付く生徒。双眼鏡でどこか遠くを見ている生徒。機械をいじる生徒もいる。
「こ、これは……何をしているの?」
 ドン引きしたような、シズルの声。
「のぞきです。ようこそ女子のぞき部へ――」
「ふっ、ふふふ不埒よ! 不埒だわっ!!」
 両手を広げて歓迎の意を示そうとした時に、シズルが顔を真っ赤にして叫ぶ。
 あら、刺激が強すぎたでしょうか……と思いつつ、
「入部しませんか?」
「するわけないでしょーっ!! レティーシア、灼那ちゃん、行こう!」
 勧誘するも断られ、大股で廊下を歩いて行ってしまった。
 その後ろ姿を見て、ああやはりいい身体、とうっとりしながら、
「諦めませんわよ、シズル様?」
 つかさは一人呟くのだった。