リアクション
「綺麗だな……まあ環菜も俺にとっては同じくらい綺麗だけど」 〇 〇 〇 「うわっ、でかい花火だな。下から見ても丸いぜ〜!」 間近で打ち上げ花火を見ながら、レオン・ダンドリオンがそんな感想を漏らした。 「な、なぁ、レオン……」 花火を見上げているレオンに、そっと北斗が近づいた。 「ん?」 振り向いたレオンの後ろに、美しい光の華が咲く。 「オレ、お前の事が……」 バーン、パパパン! 大きな音が鳴り響き、空の沢山の花が咲く。 「大好きだ……!」 同時に発されれた北斗の言葉に、レオンは少し驚きの表情を浮かべた後、嬉しそうな笑みを浮かべる。 「嬉しいこと言ってくれるなー! じゃ、まずは友達から始めてお互いのことをもっと良く知っていこう」 言って、レオンはパンパンと北斗の背を叩いた。 続いて夜空に浮かび上がったのは、開催中のろくりんピックのロゴだった。 子供達が「あのマークしってる〜!」と声を上げていく。 (今年はろくりんピックの準備で大忙しだったなぁ) そんな中、その仕掛け花火の提案をしたキャンディスは、のんびりと花火を見上げながら振り返っていく。 「大会が終わったら、ろくりんピック年金を貰って、手記を書いて悠々自適に暮らすネ〜」 ぼーっとそんなことを妄想しながら、一人着ぐるみの中でにんまり笑みを浮かべる。 その為にも、最後まで気を抜かずに頑張らねばと思うのだった。 ドン、ドドドドン、パパパパパパン、ドン、パン 最後の花火が、盛大に華やかに咲き誇っていく。 人々の口から、簡単の声が溢れ。 拍手が沸き起こった。 〇 〇 〇 「失礼してよろしいですか?」 花火が終了し、客達がラズィーヤの元に挨拶に訪れるより前に、エミールはラズィーヤの手を自らの手でとった。 ラズィーヤは普段どおりの微笑みを浮かべている。 「聡明なフロイラインに、安寧を」 エミールはラズィーヤの細く繊細な手に、唇を近づけた。 2人の洗練された美しさに、近づきかけた者達が一瞬足を止める。 「お疲れ様」 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)と共に、要人達を迎えの者の元に送り届けた後、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は紅茶の入ったティーカップを2つテーブルに並べた。 屋上ではまだ片付けを行っている者もいたが、野々が花火の最中も掃除に勤しんでくれていたこともあり、さほど汚れてはいなかった。 テーブルなどの片付けは明日行うことになっている。 「ほら、座って。ずっと立ちっぱなしだったでしょ」 亜璃珠は優子を座らせて、紅茶を勧める。 「ありがとう」 礼だけ言って、優子は紅茶を飲む。 亜璃珠も辛い想いを抱えてはいたけれど、そのことに関しては何も言わず。 ゆっくりと、紅茶の香りと味を楽しんでいく。 「そういえば、この前川原で言ってた事」 カタンとカップを置いて亜璃珠はちょっとだけ視線をさまよわせた。 「正直に白状するなら、私は優子さんのことが好きよ」 「……」 「でも……まあ、分かってるつもり」 優子が言葉を発するより早く、亜璃珠は多少早口で言葉を続けていく。 「公私は分けたいし、私達は百合園生だもの。いずれ卒業するか、結婚するか……一緒にはいられなくなる」 それから優子の目を見て、少し切なげにはっきりと言う。 「だから今あるひと時を大事にしたいの。したいことはする。好きな人は好き。他人の愛には応えます」 そこまで言った後、苦笑に似た笑みを浮かべながら。 「……ああでも、あなたとの痴話喧嘩もしたいかな?」 と、小さく亜璃珠は言った。 「そうか」 優子もカップを置いて、肘を立てて手を顔の前で組んだ。 「ごめんなさい、こんな時に付き合ってもらって。……ありがとう。少しだけすっきりした」 抱えていた気持を1つ、話したい相手に話すことが出来て、亜璃珠の心が少しだけ軽くなった。 優子は以前こういった話をした時と違い、無口だったけれど。 亜璃珠の気持を全て聞き終えた後、ぽつぽつと、語り始める。 「……少子化問題もない、同性間の結婚も可能なこのパラミタであっても。相手が男性であれ、女性であれ、子を儲けられない種族であっても……私が一度に愛に応えられるのは1人だけだ。いつか誰かと望まぬ政略結婚をすることになったとしても、恋人として愛するのはその人物だけだ」 次第に語調を強めて真っ直ぐに、優子は語り続けていく。 「唯一愛することが出来ないのに、愛を告げることも、愛を受け入れることも、不義理だと思う……多分、その点においては、キミとは議論しても平行線じゃないかと思うし、意見や感情をぶつけ合ったら、痴話喧嘩じゃ済まされないだろう。私はその1度に1人だけを愛するという信念は曲げるつもりはない、生涯貫いてみせる」 強い意思を感じる言葉だった。 「亜璃珠、私はキミのことが好きだよ。親しみを感じているという意味で、凄く好いてる。いつかキミにも私にも、唯一無二、その人物だけと思える相手が現れるといいな」 それから優子はそう言って微笑んで、立ち上がった。 「ありがとう、紅茶美味しかったよ」 亜璃珠の方をぽんと叩くと、優子は寮へと帰っていった。 「陽太が飛空挺を準備してる、送って貰いな」 校舎の前まで一緒に歩き、刀真は環菜にそう言った。 環菜は「ええ」と答えると、護衛達と共に陽太が待つ校門の外へと向う。 「環菜また明日」 刀真の言葉に、軽く振り返って。 「ちゃんと帰ってきなさいよ」 彼にそう言い残した。 「どうぞ」 陽太は環菜を小型飛空挺アルバトロスへ、エスコートする。 環菜が座った後、護衛が2人乗り込み、最後に陽太も飛空艇に乗った。 飛空艇を発進させ、高度を保ってから、陽太は環菜に聞いてみる。 「どうでしたか?」 環菜は少し間を空けた後。 「つまらなくはなかったわ」 と、答えた。 「そうですか。良かったです」 陽太の顔に笑みが広がる。 環菜のその言葉は、来て良かった、楽しかったという意味が含まれているのだと解ったから。 また来年も――こうして来ることができるといいなと思いながら、ツァンダへと飛空艇を走らせるのだった。 翌日。 百合園女学院に、生徒達が朝早くから訪れていた。 片付け、そして昨晩の記事を纏めていき、登校時間前に掲示板へ張り出していく。 百合園女学院の掲示板には、今年は写真だけではなく夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が描いた街と花火、そして楽しむ人々の絵も飾られた。 のろくりんピックのロゴの仕掛け花火や、種族も性別も、東西も学園も関係なく笑いあう人々の姿が、心を和ませる柔らな画風で描かれていた。 来年もまた、皆仲良く、花火が観れますように……。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
今年は少ししんみりとした内容も入りましたが、大きな問題もなく、皆で仲良く楽しい時間が過ごせたかと思います。 |
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