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令嬢のココロを取り戻せ!

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令嬢のココロを取り戻せ!

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 金色のウエーブのかかった髪をかきあげつつ、女誑しの美男子ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は、黒髪の端正で温和そうな外見を持つ本郷 翔(ほんごう・かける)を説得していた。
「俺とイケナイことをして俺の色に染まって貰えれば、自然と感情を取り戻してもらえると思うんだよ。ほんとにただ、そういうことだからな?」
「正直、ソールの言うことは信用できませんが、私も他に良策あるわけでもなですし……仕方がない、協力します」
翔は仕方なく、お茶を手にしたばかりのエレーナ嬢のところへ静かに歩み寄った。
「エレーナ様、私のパートナーのソールがお話したいことがあるそうで……大変申し訳ないのですが、私とあちらにいらしていただけますでしょうか?」
そう言って見事なバラの咲き誇る、しかし人の少ない一角を示した。
「はい、なんでしょう」
 エレーナはつと立ち上がると、翔の後について、庭園のバラの花壇のそばへとやってきた。待ち構えていたソールが、
「エレーナ嬢、あなたは心を喪ったとお聞きしている。それを回復する為には、個人レッスンが必要だと俺は考えるんだ。魅力的な貴女と共に頂に上がれたら嬉しいと思う。……だから、一緒に寝室に行って、イケナイ世界で良い思いをしてみないか?」
そう言って令嬢に口づけをしようとした、まさにその瞬間。金髪の美女リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が横手から現れ、エレーナの手を不意に引っ張った。よろめくエレーナを、翔が慌てて支えた。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
エレーナは答えた。
「おいおいそこのお嬢さん、いきなりなんだい、危ないじゃないか」
ソールが言ってリカインに向き直る。
「エレーナお嬢様は私のものだわ。勝手に手を出さないでちょうだい」
「なんだって? いつそういうことになった?」
「たった今よっ!」
「ええ、なんだそれ……」
 
「どうだお嬢様よ、これだけの人に構ってもらった感想というものは。なーに、難しく考える必要などない。ただただ素直に言葉にすればいいだけだ、無理に飾ろうとしたりなどするからおかしくなるというものよ」
 禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)が横から口を出す。ものすごく横柄でなれなれしい口調だ。河馬そこで咳払いをひとつして、
「さあ……胸をはだけて語ってみせるがいい! さあ、さあさあ!!!」
と迫った。その瞬間翔が河馬をつまみ上げ、はるか向こうに放り投げた。
「だあああああああ!!!」
絶叫をひとつ残して、河馬は視界から消え去った。
「そうですわねえ……」
令嬢は考え込んでいた。いつの間にか河馬が消えたたことには気付いていない。エレーナそっちのけで、どこかテンポのずれた掛け合いになってきたソールとリカインをチラッと見て、翔は言った。
「……エレーナ様、大変騒々しいことになってしまい、申し訳ございませんでした。あちらに戻りましょうか」
「あ、はい」
 二人はその場を後にして、ティーテーブルの方へ戻っていった。

 ぼさぼさの髪に眠そう表情のアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、手持ちの鞄から最終兵器を取り出した。精巧なつくりの、ゴキブリのおもちゃである。色といいつやと言い、申し分ない出来だ。
「フッフッフッ……。こいつを前にして恐怖におののかない女性はそうはいない! ショック療法で凍りついた心を動かしてやる!」
それをつかみ、まさにエレーナに投げつけようとした瞬間。
「ちょっと待て」
手首を掴れ、振り返るとそこにいたのは山葉だった。
「そのゴキをどーするつもりだったんだ?」
「何って……エレーナ嬢の顔に投げつけようと……『驚き』や『恐怖』だって立派な感情だろ!」
すねた子どものようなアキラを見て、山葉はため息をついた。
「あのな? それは確かにそうだが、嫌がることをして……ってのは、逆に余計に心を閉ざしてしまうだけだろう。沈んでいるとき、辛いとき、人から嫌な事をされてみろ? どういう気持ちになる? 元気な時だって気持ちが沈まないか?」
「……そっか」
「ま、そういうことだ」
 いつの間にかそばにやってきていたエレーナが、アキラの手にした作り物のゴキブリを見て、おっとりと言った。
「あらぁ、よく出来ていますのねえ」