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【初心者さん優先】『追憶のダンスパーティー』

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【初心者さん優先】『追憶のダンスパーティー』

リアクション


■Epilogue


 長かったようで短かった束の間の宴は、会場内に夕陽が差し込み始める頃に終わりを迎えた。
 様々な経緯を持った参加者たちのドラマは終わり、パーティーは成功したと言える。
 だがパーティーの運営はまだ終わっていない。この会場を元の体育館に戻すまで、スタッフたちのダンスパーティーは終わらないのだ。
 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は後片付けに勤しんでいた。パーティー中も忙しく動き、足りなくなった飲み物を足してはどこかの大食いがすごい勢いで減らしていく皿を下げ、新しい料理を運んだ。
 息をつく暇もなかった。彼女が本来得意としているのはどちらかというと調理班なのだが、人数は足りているようだった。そこで普段はやろうとも思わない給仕に立候補したのだが、これがまた恐ろしい選択なのである。
「やっと、終わりました……あっ」
 参加者たちがいなくなったことにふっと気を抜くと、紫翠の手から料理の大皿がこぼれ落ちる。紫翠は息を呑んだが、それは割れることもなければ下に落ちることもなかった。
「大丈夫か?」
「ああ、ナイスキャッチです」
 紫翠はパートナーのシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が皿を受け止めてくれたことにほっと胸を撫でた。
「だから気をつけろと言ったろう」
「すみません、なんだか気が抜けてしまって」
 シェイドは紫翠の手に大皿を持たせ直す。
「それで、どうだった? 初めての給仕役は」
「正直、大変でした。色んな方にお話を伺ったりアドバイスをしたりは良かったんですけど、こんなに大変なものだったとは……普段こなしてる方はすごいですね」
 二人は皿を下げながら話す。
「まぁ慣れれば平気だぞ? さて、一通り片付いたな」
「ふぅ、お疲れ様でした」
 紫翠が笑みを向けると、シェイドは閃いたように言った。
「そうだ、疲れたからな。お前の膝枕や寝顔でもいいんだが、たまにはいいか?」
 そう言うと顔を真っ赤にする紫翠に笑いながら、吸血鬼であるシェイドは彼女の首筋に顔を近づけた。
 
     #
 
「玉兎さん、運営のみんなにドリンク配ってきました!」
「お帰り、ほら」
 スタッフ全員に労いのドリンクを配ってカクテルカウンターに帰ってきた加夜に、玉兎は笑顔でピーチジュースを差し出した。
「わっ、ありがとうございます」
 加夜は無邪気に喜んでストローに口をつける。
「美味しい〜」
 そんな彼女を見て、玉兎は微笑んだ。
「今日はどうだった?」
「色んな方に会えて楽しかったです! 玉兎さんは?」
「俺も、こうして加夜と接客してると楽しいものだなと思ったよ」
「玉兎さん……」
 加夜はカウンターに肘をつく玉兎を見た。
「しかし、たまには頼りにしてくれよな。お兄ちゃん、寂しいぞ?」
「うぇっ!? えっ、えっと、あの、その――」
 不意打ちを食らった加夜が慌てふためいていると、その頭に玉兎の手がぽんと置かれた。
「冗談だ」
「え? え〜?」
 頭を撫で回されながら、からかわれたのかなんなのかわかっていない加夜は終始疑問の声を上げていた。
 
     #
 
「刀真っ」
 片付けを終えた刀真は不意に呼ばれて振り返る。
「月夜」
「今日はお疲れ様」
「ありがとう。月夜も」
 今日を忙しく過ごした二人はお互いに労い合う。
「終わっちゃったね、パーティー」
「そうですね。最中はあんなに狭く感じたのに……」
 参加者も料理もなくなった夕陽の差し込むダンスフロアは、今やただただ広いばかりだ。それも、悲しいほどに。
「今日は散々だったわ」
 月夜が少し不満そうに言うと、刀真は笑った。
「そうですか?」
「そうよ! だからね、私たち、パートナーでしょ?」
 そう言って、月夜は刀真に向けて手を差し出した。
「うん?」
「うん? じゃないわよ。踊りましょってこと!」
 もう一度月夜が手を強調すると、刀真はふっと頬を綻ばせた。
「やれやれ、おてんばなお嬢様ですね」
「結構でしょ?」
 刀真が優しく手を取って、二人は誰もいないダンスフロアの中央に立った。
 
「お?」
 ピアノの傍で楽譜を整えていた英一が茜色に染まる二人に気付く。
「おい、シエラ」
「何、英一?」
 もらったドリンクを飲んでいたシエラはパートナーの呼ぶ声にぴょこんと反応する。
「まだお前の出番は終わってないみたいだぞ」
「あ、ほんとだ」
 英一が親指でくいっと視線を促すと、シエラは急いでピアノの前に座った。
「準備よーし! さて、本日最後の曲目は何に致しましょう?」
「お前に任せる」
「オッケー! じゃあ、これ!」

「なんじゃ、今日はショパンづくしじゃのぅ」
「あ、舞。目が覚めた?」
 最後の旋律が響き始めると、カーズは上体を起こす舞を振り返った。
「まったく、忙しい一日だった。おや、もうお開きになったのか?」
「舞が寝ている間に、とっくにね」
 カーズが彼女に一杯の水を手渡しながら微笑む。舞は中央で静かな旋律に身を揺らしている二人を見た。
「いい画じゃ」
「そうだね」
 カーズも彼女の隣に腰を下ろすと、二人はしばらく踊る刀真たちに見とれていた。
 みんな始まりがあった。パートナーとの出会いがあって、この大陸へと足を運ぶことになったのだ。誰一人として、例外なく。
 ここへ至るドラマの中には様々な感情が溢れている。しかしそのどれもが、誰かを、あるいは何かを大切にしたいという想いから生まれたものだった。
 これから先、このパラミタ大陸から始まる冒険に、どんなことが待ち受けているかは誰にもわからない。だからこそ、時には振り返ることが必要なのだ。振り返って、お互いの立場や気持ちを明白にする。そうすると、自ずとこれからに対する姿勢も定まってくる。
 舞は、隣に座るカーズの手にそっと自分の手を重ねた。
 やがて美しかった夕陽も闇へと色を変え始める頃、龍牙がステージに立った。
「さぁ、貴様ら! 今日のパーティーは大成功だった! 撤収だ!」
 威勢よくそう言い放つと、彼は頭上で二度手を打った。
 こうして、彼らのダンスパーティーも終わりを告げた。


『追憶のダンスパーティー』  ― END ―

担当マスターより

▼担当マスター

とむ

▼マスターコメント

 初めまして、今回のリアクションを担当させて頂いたとむです。
 沢山のご参加ありがとうございました。『追憶のダンスパーティー』はいかがでしたでしょうか?

 今回は、前半の伏線を後半で回収するという手法がいくつかあります。また、シナリオ進行上不可能なものはやむなく削ったりしましたが、なるべく皆様のアクションを多く取り込んだつもりです。

 シナリオに当たりながら、やはり初めの出会いは運命的なものが多く、また人気のないところが一般的なのかなと皆様のアクションを膨らませながら楽ませて頂きました。

 それでは、またいずれかのシナリオでお会いできることを楽しみにしております。