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ジャンクヤードの一日

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ジャンクヤードの一日
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■遺跡調査1


「ジャンクヤードの事件は気になっていたんだ」
 榊 孝明(さかき・たかあき)は遺跡へと降り立ちながら言った。
 遺跡には、既に桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が降りており、周囲の様子を確認していた
 円が振り向く。
「事件のことはテレビで?」
「ああ。まさかアイツの親戚が事件の関係者だとは思わなかったけどな。報道を見る限り、かなり危険だったようだが……よくまた来る気になったな」
「危険だった……のかなー? まあ、それはともかく友達は選んだ方がいいと思うな。あの人、結構……馬鹿だよ」
 孝明の友人の従姉妹である円の言葉に、遺跡へ降りて来た益田 椿(ますだ・つばき)がうなずく。
「知ってる。ま、でもそのバカの紹介で、こうして調査に加えさせてもらえたのは感謝しなきゃね」
 遠慮無い物言いを並べながら、椿が円を品定めするように、色んな角度からじっくりと眺め。
「ふーん……アレの身内にしては可愛らしいじゃない。おまけにお嬢様だっけ?」
「そうですよぉー、円お嬢様にオリヴィアおねーさんですよぉー」
 円の肩口に、にょきっと顔を出したオリヴィアが言う。
 若干、びくっと肩を揺らした椿が口の端を上げる。
「……ま、どう見ても一癖も二癖もありそうだけど。一応、百合園のお嬢様たちはあたしと孝明で護衛してあげるわ……」
 と、後方の暗がりに降りたらしいロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の声が聞こえる。
「そう言っていただけると心強いです。でも、私も守られてばかりではいけないと思うんです。ぜひ、戦いのお手伝いをさせてくださいっ」
 椿がそちらへ振り返りながら、
「別にいいけど……か弱い乙女が無理をしないようにね。モンスターと出会って気絶でもされたら、いくら私たちでもフォローしき…………」
 言いかけて固まった。
 ぎっちょんぎっちょんと明かりの中に姿を現したパワードスーツのフル装備のゴツイ塊が、乙女ちっくな動きで両手を体の前に合わせてコクコクと真剣にうなずく。
「気をつけます」
「…………」
 衝撃の展開にフリーズした椿の横で孝明は、ふむ、と零した。
「……何故?」
「あの、私、か弱い乙女ですから……」
 パワードな塊が無骨な指先をもじもじと合わせられる。
「こういったもので身を固めませんと危ないですし、怖くて」
 パワードなヘッドの光るアイパーツがヴィンヴィンと恥じらうように滑る。
 というかむしろ君の姿が恐怖に値する、という言葉を孝明は腹の奥深くへと飲み込んでおいた。

「はーいー、じゃぁー、みなさんに魔法をかけますよぉー」
 オリヴィアは、ふらふらと両腕を遊ばせるようにしてから、ばちこん、とウィンクをした。
 全員が地面よりわずかに浮き上がる。
 悪路対策の空飛ぶ魔法だ。
「それにしても、ゴミ捨て場の下にこんな空間があるなんて……ね」
 魔法で浮き上がった身体の動きを軽く確かめながら椿がボヤく。
「ゴミ捨て場にする前にもっときちんと調べておくべきだったと思うんだけど……」
「ジャンクヤードを廃棄場に指定した頃は、もう遺跡の入口に亡霊艇が墜ちていたようですね」
 ロザリンドが、んーっと思い出すようにパワードスーツに包まれた人差し指をパワードスーツの頬に当てながら言った。
 そちらを振り向いた椿の肩がびくっと震える。
 まだ慣れないらしい。
「……その当時、亡霊艇の調査は?」
「一応、調査はしたみたいだよ。でも、機能は死んでたし、ほとんどの隔壁は閉まっていたし、技術的にも歴史的にも面白い物は無さそうだからって、大して調べない内に終わらせちゃったんだって」
 円の言葉に、椿が「……怠慢ね」と呟く。




「いやはや、実際に目の当たりにすると、なんとも奇妙な“枝”ですなぁ」
 海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)は、壁面から生えた“枝”に触れながら零した。
 まるで壁の一部が、そう伸び上がったように枝の根本と壁は綺麗に同化している。
 枝の先は、やはり天井と同化し、その先へと潜り込んでいた。
「崩れてはいるものの、何らかの意図を持って複雑な構造をしているような遺跡内部の地形にも興味がありますが――」
 言いながら、海豹仮面は、ひょいっと上半身を斜めに傾けた。
 後ろから海豹仮面の仮面に手をかけようとしていた八九澪 死乃神(やくみお・しのかみ)の手が何も無いところを掴む。
「今は止めておきましょうかねぇ。で、何してるんですか、この悪戯っ子は」
「意味は無い」
 海豹仮面の問いに正々堂々と言い切った死乃神が胸を張る。
「まさかとは思いますが、もう飽きたってことはないでしょうな? この遺跡探索に誘ったのは君の方でしょう?」
「飽きちゃいないけど、腹ぁ減っちった」
 目深に被られたフードから覗く口元が、むぅ、と曲がる。
「あれだけあった携帯食料はもう食べてしまったんですか、君は。なんとまあ、さすがの食欲ですな」
 と――。
「……なんて怪しい二人組……」
 ぽつりと聞こえた声。
 そちらを見やれば、黒猫の耳を生やしたユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)と、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が立っていた。
 海豹仮面は神妙にうなずいた。
「なにせ仮面男にフード男ですからな」
「そこは否定してこーぜ! とゆーか、俺たちは怪しい者じゃねぇし!」
「亡霊艇で説明を受けている時に居たな」
 マクスウェルが思い出すように軽く目を細めながら言う。
「じゃあ、私たちと目的は一緒かぁ」
 彼らは共に遺跡調査を行うために協力し合っているようだった。
 仮面は鷹揚にうなずき、
「そのようですな。であれば、死乃神、ここは私たちもこの方たちに同行させてもらうようお願いするというのは如何でしょうかねぇ?」
「俺は構わねえよ。ただし旨そうな物があった場合は早い者勝ちだからな!」
「食べ物なんてあるかなぁ」
 ユイがもっともな疑問を口にしてから、
「一緒に行くことについては、私は構わないけども」
 横髪に指を絡めつつ、眠そうな目をマクスウェルへ向けた。
 マクスウェルが彼女の視線にうなずく。
「問題無い。というより、そうした方が良いだろう。モンスターとの戦闘が考えられる現状では、出来る限り纏まって動いた方がいい」



ジャンクヤードの一日 〜遺跡調査〜



 冷えた空気の中には、濁った水と枯れた土の匂いが満ちていた。
 壁、床、天井、この辺りは縦横無尽に“枝”が張り出ている。
 そして――
「シュヴァルツ・エンゲル!!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が振り伸ばした腕の先へ鉄のフラワシが滑り出る。
 そして、それがイェクの一撃を阻んでいる間に、エヴァルトは後方の枝と枝の間に、ずるっと身をくぐらせた。
「こう狭いと戦いにくいな」
 枝の影に身を沈め、グッと鉄甲を握りしめる。
 次の瞬間、フラワシを退けたイェクが、頭上の枝の間からヌッと顔を出す。
「っと」
 イェクの顎に、ドラゴンアーツを乗せたアッパーを叩き付け、エヴァルトは側方へと身を滑らせた。
 天井の端から飛び出して来ていた、もう一体のイェクの爪がエヴァルトの龍鱗化された体を掠めていく。
 そのイェクへステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)のマシンピストルの銃撃が叩き込まれていく。
「その上、囲まれてしまっていますしね」
「足りない頭で小細工を弄するより、いっそ力任せに対処した方が良いかもしれない、か……」
 エヴァルトは素早く構えを取って、周囲の枝ごと即天去私でイェクをふっ飛ばした。
 ステラが、フッと短く息を捨てながら、銃口を巡らせる。
 その先ではエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、更にもう一体のイェクと戦っていた。

 エリーズのチェインスマイトがイェクの両腕の爪を打ち弾き、開いた相手の懐へフィリッパが金色の髪をなびかせて滑りこんでいく。
「このままでは、少し大変ですわね」
「一度、退いた方がいいのかなぁ。せっかく楽しくなってきたとこなのにー」
 フィリッパがエクスカリバーでイェクの胸から顎を裂き、たんっと後方へ飛び退る。
 フィリッパを狙って虚空を切ったイェクの脳天目掛け、空中へ身を翻していたエリーズは白の剣を走らせた。
 それは、イェクの爪に弾かれた。
 強引に振り回されたもう一方の腕による追撃が視界の端に映る。
 それをフィリッパの剣が絡め留めている間に、エリーズは後方へと逃れた。
 と――
「皆さんこっちですぅ」
 場の雰囲気に合わないメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)ののんびりとした声が聞こえる。
「あ、あの……抜け道を、セシリアさんが発見してくださって……」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)がメイベルと共に枝の隙間から顔を覗かせる。
 その向こうでは、枝の一つに端を括られたロープが地面に空いた穴へとロ垂れており、その穴からセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、ひょっこり顔を出しているのが見えた。
 セシリアが懐中電灯を振り回してみせる。
「下から逃げられそうだよー! 急いで急いで!」


 亡霊艇に仮設された調査本部――。
 通信を通し、レジーヌがニコロへ、先ほどまでの自分たちの状況を説明していた。
『――ワタシたちは全員無事です。ただ……あの辺りはイェクが多いようですので……他の方も注意した方が……良いかなと思います』
「了解です。では、皆さんの方にも改めてポイントをお伝えしておきます」
 レジーヌたちが多くのイェクと遭遇したポイントが探索者たちに伝えられる。
『その……皆さんの戦いを見ていた思ったのですが、イェクの能力にはそれぞれ個体差がある、ような……。大きさ、強さ、反応……一定ではないように感じました……』
「……なるほど?」
『あ……ああの、すみません……。感じた、だけで……その……確信は、ありません。――こ、これから、ワタシたちは、ここで遺跡内部の調査を行います……』
「了解しました。くれぐれもお気をつけて」