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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

リアクション

 19:20

 琳 鳳明(りん・ほうめい)はずり落ちる赤の腕章を引っ張り上げると、腕時計で時間を確認し、首を傾げた。
「おかしいよね、これまで全然、敵はおろか味方にも遭わないなんて」
「(……たまたまじゃないかな)」
「【殺気看破】使ってるのに、全然引っ掛からないもんなあ」
「(やられなくて、いいじゃない)」
 傍から見れば、鳳明が一人で喋っているように見えるだろう。パートナーの藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)は、離れたところから【精神感応】で鳳明に話しかけていた。いや、よしんば近くにいたとしても、天樹は決して口を利かない。その声を知る者は、琳 鳳明ただ一人だった。
「今、どれぐらいの人が残ってるのかなあ? 負けたくないよね」
「(ボクは別に。鳳明だって、禁止されたって構わないんじゃない?)」
 鳳明の好きな相手は、教導団にはいない。だからといって、友人たちが苦しんでいるのを尻目に、さっさとチョコを持って出かける、なんてことは彼女には出来なかった。
 だからゲームに参加した。それも、とにかく生き残ることを優先して。――取り敢えず今のところ、成功してはいる。
「(一つ提案があるんだけどな)」
「何?」
「(もう、後四十分しかない。このまま歩き回るより、どこかで隠れていたほうがいいんじゃないかな?)」
「……それも一つの手ではあるけど」
 それはちょっと卑怯な気もするよ、と言外に鳳明は言った。
「(生き残ることが一番だろ? 戦いは避けたいだろ?)」
 鳳明は寸の間迷って、頷いた。
「そうだね。……取り敢えず、ここにする? 害意は感じないし」
 鳳明は「教官室」と書かれたドアを開けた。しん、として誰の気配もない。
 鳳明と天樹は、そうっと足を忍ばせて入った。あはは、と鳳明はぎこちない笑みを浮かべる。
「偽物とはいえ教官室はちょっと緊張するねえ……今にもそこから、教官が出てきそ、う、で――」
 指差した先にクレアの姿を認め、鳳明は硬直した。
「(そんな……! 【殺気看破】を使っていたのに!)」
「私だって! どうして――」
 そこまで言って、鳳明はハッとした。クレアには、害意がないのだ。彼女はここで待っていたにすぎない。ただひたすら、「敵」が来るのを。
 天樹は唇を噛んだ。大人数の敵を避けた結果――ちなみにそれは、パティのチームだった――、うっかり敵の懐に飛び込んでしまったらしい。
「仕方ないよ」
と、鳳明はデザートイーグルを抜いた。「援護して!」
 言うなり、【神速】を発動し、「ダッシュローラー」を使って滑るように走り出す。
「(鳳明!)」
 天樹は支給されたAIアークティクウォーフェアを構える。射線に鳳明が入っているので、撃つことが出来ない。
「試みに問う」
 ゆっくりとトカレフTT33を持ち上げ、クレアは言った。
「命令と恋愛と、分別を持って両立しうると証明出来るか?」
 しかし、鳳明の耳には届いていない。彼女はグラップラーだ。そもそも射撃は得意ではない。使い慣れない銃、まして走りながらとなれば当たるわけもなく、クレアは平然とそこに立っていた。
「軍人ならば、恋愛感情よりも命令を優先すべきだ」
 クレアが引き金を引いた瞬間、鳳明は【軽身功】に切り替えた。ふわりと飛び上がり、クレアの眼前が空いた。
「何!?」
「(今だ!)」
 天樹が引き金に力を込めたその時、額に強い衝撃を感じた。
「(え……?)」
 クレアの背後、今まで全く気づかなかったのは【カモフラージュ】を使われていたからか。ここまで殺気を抑え、この一瞬、【とどめの一撃】で天樹の額を撃ったのは、クレアのパートナー、エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)のレミントン M1100だった。
「伊達にスナイパーやってんじゃねえんだよ、こちとらは!」
「(あー、やられちゃったかあ)」
 せっかくここまで生き残ったのになあ、とちょっと残念に思ったが、まあいいや、というのが天樹の正直な感想である。
 だがその時、【軽身功】で壁を駆け上がり、天井にいた鳳明がエイミーに狙いを定めていた。
「よくも天樹を!」
「(鳳明! よすんだ!)」
「ちっ! やるじゃんか!」
 エイミーは楽しげに笑みを浮かべ、天井へとレミントンを向けた。しかし、鳳明は速かった。続けてクレアも引き金を引いた。
 ――ただ一人生き残ったクレアは、クレーメックと合流すべく、音楽室へ急いだ。