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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

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 そのころ、ドリアードの神殿の一室では、囚われた武神牙竜がベッドの上でドリアードと向かい合っていた。
「ああ、とうとう、来てしまった。それにしてもエロい部屋だな」
「アタシのプライベートルームよ、気に入ってくれた?」
 ドリアードがくねくねしながら言う。
「気に入ったかどうかはさておき、さっき『種』とか言ってたのは種モミのことか?『光る種モミ』『種モミ袋』なら丁度持ってるからいるか?」
「バーカ! いらないわよ、そんなもの」
「誰がバカだ! 適者生存で俺の方が野生での上位であることを認識させてやろうか? 野生では優秀な上位者なんだぞ……って、つまり繁殖力が強いってことにならないか? ライオンとか……。……ってあれ? 「種」ってまさか「子種」かよ!」
「大・あ・た・り。っていうか、他に何があるのよ! 約束どおり枯れるまで使わせてもらうわよ。3日もすれば枯れちゃうかもだけど。枯れちゃったら森に埋めてあげるから大丈夫」
 濃厚に迫ってくるドリアードに、悲鳴を上げる牙竜。

「あぎゃー!」


「あれ? なんか聞き覚えのある声が聞こえない?」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が声のする方にむかって耳をすませた。
「牙竜の声だろう。ドリアードにさらわれたって聞いてるぜ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が答えた。二人とも先ほどドリアードにさらわれここに来た。今は、ドリアードとともに神殿に向かっている途中だ。
「いい思いしてるのかな」
「子供がそういう事を言うなよ」
「バカにすんなよ。こう見えてもオイラ4404才だよ。大体、世間知らずのエース1人じゃ心配だからついて来てやったんじゃないか」
 クマラはふてくされる。

 しばらくすると、一同は神殿の大広間に通された。そこにはドリアードの女王がいて巨木で出来た椅子に座っている。
 お姉様ドリアードが前に進み出て言った。
「下界から来た者たちの仲間の男をさらって参りました」
「まあ、いい男ばっかり。大収穫じゃない?」 
 女王が目を輝かせて言った。
「で、もちろん、他の奴らは倒しちゃったのよね! でかしたわ」
 既に決めつけている。
「いいえ」
 お姉様ドリアードは首をふった。
「この男達をもらうかわりに、他の奴らの命は助けると約束してしまいました」
「やーん。それじゃ、山が荒らされちゃうじゃない」
「しかし、この男達は仲間の犠牲になってここに来たのです。他の山を荒らす連中とは少し違うような気がします」
「違わないのー! 下界人はみんな乱暴者なの! 大嫌いなの! だから入って来た奴は、いい男をのぞいてみんな消しちゃわなきゃダメなの!」
「うっわー。お子様な女王……」
 クマラが小さな声でつぶやく。と、エースが前に進みでた。そして、上流社会の作法に則って彼女達の手をとって手の甲に口づけて
「素敵なお嬢さん、そんなに悲しまないで下さい」
 と言う。
「え?」
 思わぬエースの行動に、女王はきょとんとした。
「本当に素敵な方だ。あなたが人間なら花を奉げる所ですが、ドリアードの女王様あいてではそれも野暮な話……」
「まあ……」
 女王がぽっと頬を赤くする。
「この、人間はいい人間のようだわ」
 そういうと、女王はエースの手を取り
「別室へ行きましょう……」
 と促した。
「なんで、そうなる」
 クマラがあきれる。しかし、エースはぽーっとなっている。ミイラ取りがミイラに。美しいドリアードの女王の色香に迷ったようだ。エースの脛をクマラが思いっきり蹴りあげた。
「あいたたた」
 エースが正気に戻る。クマラが耳打ちした。
「マリアローズの事を聞かなきゃ駄目だろう?」  
「そうだった……」
 エースは我に返ると女王の手に自分の手をそっと重ねて尋ねた。
「その前に……マリアローズが何処で咲いているのかご存じではありませんか? 行き方を教えていただけませんか? 我々には、あなた達の助けが必要なんです」
 すると女王は答えた。
「マリアローズの咲いてる場所なら知ってるわ。でも、山全体の決まりで、下界人を行かせるわけにはいかないの」
「どうして?」
「数年前までは自由に下界人にもとらせていたわ。でも、その美しさと、効能のすごさに、下界人達が乱獲するようになって……ただでさえ10年に一度しか咲かないマリアローズは、すっかり数が減っちゃってさ、これ以上下界人達にとらせるわけにいかないわ。だから、あのあたりの空間を閉じて、わざと迷わせるようにしたのよ」

 その時

「苗木や種を託したい方は申し出て下さい」
 バイクのうなる音とともに、そんな呼び声が聞こえて来た。不思議に思ったドリアード達が神殿の外を見ると、草薙 武尊(くさなぎ・たける)がメガホン片手に軍用バイクで走っている。
「あの男、いつの間に抜け出して……」
 お姉様ドリアードが顔面蒼白になった
 武尊はおかまいなしで宣伝を続ける。

「あなたの苗木や種を、希望の場所に責任を持って移植致します。気軽にお声をおかけ下さい」

 すると、近くにいたドリアード達が駆け寄っていった。
「本当にアタシ達の子を植えてくれるの?」
「もちろんだ」
「どんなにたくさんでも?」
「どれだけ量があっても大丈夫だ。このバイクはサイドカー付き故それなりにモノが運べるのでそれなりに需要を満たせるだろう」
「素敵! ちょうど子供達を植える場所がなくて困ってたの」
 ドリアードが手を叩いて喜ぶ。そして、いつの間にか武尊の周りは苗を持ったドリアードで一杯になっていた。

「あいつ、勝手な商売をはじめて……」
 お姉様ドリアードは色をなして武尊の妨害に出ようとする。と、
「ちょっとちょっと」
 女王が止めた。

「確かに、アタシたちの苗を遠くに植えてもらえれば、アタシ達も助かるわ。だって、アタシ達ったら『自分の木』からあんまり遠くに離れると死んじゃうんだし。だから、いつまでもこの山から領域を広げられないのが、悩みの一つだったのよねえ……」
「た……確かにそうではございますが……」
「今回、あんたの連れて来た下界人達ったら、ちょっと気が利いてるんじゃないの?」
「そ……そうでしょうか?」

 ……しめしめ。女王の心を動かしたようだ。

 武尊は内心ほくそ笑んだ。彼の目的は、苗の移植はもちろんだが、ドリアード達と友好を結んで、少しでも今後の武者修行に役立てる事が第一義だ。そのことによって本隊の行動を少しでも円滑にできれば、なお、言う事はない。勿論請け負った移植はキチンと行うつもりだ。


「ドリアード殿」
 ずっと、影のごとく仲間に寄り添っていた叶 白竜(よう・ぱいろん)が口を開いた。
「私たちに悪意のない事は分かってもらえたと思います。どうか、我々にマリアローズの採取をお許しください。私たちとしても山を荒らしたくない。だから……できるだけ最低限の行動で終わらせるためにも、お願いします」
「そうねえ……」
 女王が考え込む。
「確かにい、あんた達ってちょっと気が利くし、顔もいいし、思ったよりはいい連中だけどお……」
 女王はさらに考え込んで答えた。
「やっぱりダメ」
「女王様……少し、考えてやってはどうでしょう?」
 お姉様ドリアードとりなすように言う。しかし、女王はナカナカ首を縦には振らない。
「ダメよ。軽々しく下界人を信用したりしちゃ。絶対にマリアローズを乱獲するに決まってるんだから」
「いいえ。約束します。マリアローズは1株以上は絶対にとりません。ですから……」
 白竜は女王に取りすがる。それでも女王はうんとは言わない。
「ダメなもんはダメなの。これは、山全体の意志なんだから」
「女王様のお仲間への忠実さは尊敬に値します。しかし、分かって下さい。この一件には一人の少女の命がかかっているのです」
「アタシの知った事じゃないわよ」
「どうか、聞いて下さい。その少女の兄は、どんな無茶をしても……たとえ、自分が死んだとしてもマリアローズを探して山をさまよい続けるでしょう。あなたにもご家族があるはず。その気持ちは分かるでしょう」
「……そりゃ……アタシ達ドリアードにとっては、山のみんなが家族みたいなもんだし……」
「だったら、兄の気持ちを分かってやって下さい。どうか、お願いします」
 再度頭を下げた白竜を見て、他のドリアード達が心を打たれたらしい。
「女王様あ…聞いてあげましょうよ」
「そうよ、なんかかわいそうよ、この人たち……」
「それに、その兄とやらに山をさまよう霊になられてもメーワクだし」
「ウン……もお!」
 女王がふてくされた。
「分かったわよ。マリアローズの繁殖地までの道を教えてあげるわよ。でも、教えてあげるだけ。無事にたどり着けるかどうかはアンタ達次第よ!」
「……! ありがとうございます!」
 白竜は頭を下げた。