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リアクション
3.さくらんぼの会
「続いては、『さくらんぼの会』のPVです。ご覧下さい」
空京大学キャンパス内、グラウンド。
集合した、何十人ものモヒカン頭や首狩り族らの前で、壇上に上ったエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が拡声器で告げた。
「一番高く飛んだ者には特別に景品を出すであります!」
その宣言に、集まった者達の間に「おおぉ――」とどよめきが広がった。
「藤原優梨子マル秘写真であります!」
おおおおぉぉぉぉ
「とても表には出せないような写真ばかりでありますよ!」
おおおおおおおおおおお――ッ!
どよめきは鬨の声と化し、足を踏み鳴らす音が響き、集まった者達は腕を突き上げた。
「空京大学って、ずいぶんパンクなやつらが揃ってるんだな」
「つまり何かい? 俺達ここで勉強して、学校卒業して進学するとあんなのがいっぱいいる大学に行く事になるのかい?」
「いやいや、あれは一部の人間でね。空京大学ってのはそういうパンクな人達にも門戸を開いているリベラルな所なんだよ。彼らはパラ実――波羅蜜多実業の卒業生のようだね」
「あ、そうなんすか先輩」
「ここは、学校毎に個性がやたら強烈ではあるけれど、それだけで人や物事の善し悪しは決められるものじゃない」
「まぁ、理屈じゃ分かるんですけどねえ」
「僕のもっとも信頼できる友人のひとりは、金髪モヒカン鼻ピアスがファションだよ。何かあったら、借金以外なら一番最初に相談したいのがそいつだな」
「借金以外、ってのが妙に現実的っすね」
「できない事を頼んで、相手を傷つけたくはないんだ……下手すりゃ僕が借金を頼まれる事になり兼ねないってのもあるけどね」
(ひょっとしてこの先輩、友達に恵まれてないんじゃないかなぁ?)
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が壇上に立ち、モヒカン頭や首狩り族達にスキル『空飛ぶ魔法↑↑』をかけ、グラウンドの真ん中に準備してあった「巨大天秤」へ一行を誘導。その片側の皿に、2人ペアでモヒカン頭や首狩り族を載せると、もう片側の皿を殴りつけた。
殴りつけられた皿を中心に、画面全体に同心円状の「ひずみ」が広がった。
ペアになったモヒカン頭や首狩り族が、空に舞う。
その近くで湯島 茜(ゆしま・あかね)がスキルの「激励」と「妖精のチアリング」を用いながら、「がんばれー、ふぁいとー」と応援する。
映像は上空からの視点に切り替わる。地上から次々打ち上げられる者達は、ある者はどこかのヒーローものの主人公のように両手を前に突き出し、ある者は腕を翼のように広げ、空を舞った。
「人が自在に空飛ぶのって……こう、解放感に溢れてるのは確かなんだけどさ……」
「何かさあ……女の子とか小さい子とかなら、見てて楽しいかもだけどねぇ……?」
「ムサい兄ちゃんが自在に空飛んでても、なぁ?」
「しかもそんなのがふたりでペア、ってのもなぁ……」
「いや、むしろペアは間違ってないよ。顔が良ければアリなんだけど……」
「「「「黙れ腐女子」」」」
客席で囁かれる感想を耳にして、湯島 茜(ゆしま・あかね)は(失敗したかな?)と首を傾げた。
(最初の「ソロで空に飛ばす」ってままの方が良かったかなあ?)
撮影途中で「もっとさくらんぼっぽさを出すべきだよ! 2人一緒に飛ばすとか!」と主張して、ペアでの打ち上げに段取りを変えたのだけれども。
――いや。
空飛ぶ姿が一般ウケするような人員を揃えなかった段階で、微妙な感想は避けようがなかったかも知れないけれど。
画面に文字が被さった。
「会員の活動の一例:『学生下宿・夜露死苦荘』での講座開講」
「専門技術を学んで空大入試に受かった人々が大勢」
「勇躍せよ!」
宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の力強い声が入った。
「夜露死苦荘って何です?」
「空大受験をするパラ実生達のための、無料下宿所、らしいよ」
「空京大学って人間大砲で空飛ぶのがテストに出るんですか?」
「少なくとも僕は、入学する時にそんな科目を受けた事はないね」
「勇躍せよって、勇ましく空に躍っているけどさ」
「で、このサークルって何やる所なんだろう?」
「いやあ、なかなか不思議な味わいのある映像でしたねぇ?」
映像後、藤原優梨子にマイクが向けられた。
「お恥ずかしい限りです。撮影なんて慣れていないものですから、最後までご覧頂けた事を感謝します」
「えー、それで、『さくらんぼの会』さんの活動内容は何なんでしょう。手作りアクセサリー、という話は伺っておりますが」
「『干し首』を作っております」
――間。
「はぁ、『干し首』ですか」
「はい。『干し首』です」
――間。
「戸惑われるのも無理はございませんね。
これは地球にも存在する風習です。第一印象では『生首を干す』という行為が刺激的で、そちらにどうしても意識が持ってかれがちでしょう。
が、人の『霊魂』についての考え方や視点の多彩がうかがわれて、様々な問題を含んだ研究・追求をするに足る大変興味深いテーマなのですよ」
「そういうものなのですか? 無学ですみません」
「お気遣い無く。メジャーになり得ないのは自覚しております。
作り方としては、まず生首から頭蓋骨を抜いて……」
「すみません。
後の時間が押してますので、この辺で……」
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