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風になった童貞

ザンスカールの東、イナテミス。

初夏の精霊の街には風が吹いていた。
生温かい風が。

その風に吹かれながら街を歩いているのは、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)ミニス・ウインドリィ(みにす・ういんどりぃ)

パートナーである神野 永太(じんの・えいた)が過労で亡くなり早3年。
その寂しさを胸に秘めつつ、ザイエンデは日々の暮らしを送っていたのだ。

「この風、永太を思い出すね!」

「……そうですか?」

その言葉を聞いて永太はギクリとした。
永太は風になって24時間二人を見守っていたのだ。

(童貞は魔法使いになるって聞いてたが、まさか風になるとは……)

大工としてザイエンデたちを養っていた永太であったが、
互いに恋心を抱いていたザイエンデとは結ばれる事はなかった。

しかし永太に後悔はなかった。
ザイエンデが暮らせるだけの遺産は残せたからだ……だが、

「お姉ちゃん、このティッシュを持っていって!」

「わかりました」

「いいよ!」

ザイエンデたちに出会い系サイトのティッシュが配られようとした!

(やめろっ!!)

「な、なんだっ!」

ティッシュは永太の突風によって空の彼方へ。
その拍子にザイエンデは転んでしまった。

「な、何が起こったんですか?」

「そこの機晶姫さん、バランサーに異常があるかもしれない。
見てあげましょうか?」

「メンテナンスですね。ありがとうございます」

次はイケメンのアーティフィサーがザイエンデに近づいてきた。

(吹き飛べーーーっ!!)

「ぶおっ!!」

アーティフィサーは永太によってパラミタ内海まで飛ばされてしまった。
ザイエンデとミニスはそれを茫然と見ていた。

「何で、男の人が近づくと風が吹くんでしょうか」

「永太が嫉妬してるんじゃないの?」

「そうなのでしょうか。でしたら、少し嬉しいです」

ミニスの呟きに、ザイエンデは顔を赤らめた。

永太がどこかで自分たちを見てくれている。
それだけで生きる意欲がわいてくるのだ。

(……ザインさん)

永太はザイエンデたちに言葉を届けることは出来ないが、
こうした生き方も悪くないと思っていた。