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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 
「……?」
 浅瀬に座り込んだ夕菜の様子に、ノルニルは何があったのかとてこてこと歩いていく。夕菜の場所は、流されそうもない安全区域だがとりあえず浮輪は装備したままだ。
「夕菜さん、大丈夫ですか?」
「ノルンさん、エイムさんにしてやられました……」
 下と上を押さえて身動き出来ない夕菜を見て状況を把握し、ノルニルは周りをきょろきょろする。下の部分は、濡れた砂の上に残っていた。水に入る前に脱いだらしいスカート部分とそれを持ってきて、涙目の夕菜に渡す。
「これを履いてください」
 さて、上はどこにいったのか――

「つまり、泳げないんだな」
 明日香の言い分に、1つ弱みを握ったような気分になってラスは言った。
「違います。魔力が浮力を……」
「あー、魔力がね、はいはい、魔力が……」
「本気にしてませんね〜?」
「それはどうでもいいけどよ、お前さ……」
 ラスは借金王の汚名を返上するためにも、というか人として借金は返さなければならない故に彼女に口座番号を教えるように言った。とりあえず、一括返金するくらいの貯金はある。
「明日香、何を話してるんですぅ〜?」
 そこで、エリザベートが首を傾げて見上げてきた。
「なんでもないですよ〜? エリザベートちゃん」
「そうだ、あなた聞きましたよぉ〜、特殊な才能が環菜にあったから近付いて、無くなったら興味を示さないってどういうことですかぁ〜?」
「? 聞いたって、誰から……」
 誰からも何も、1人しかいない。当然の如く、エリザベートは明日香を見ている。しかし明日香もそれを何処から知ったのか……。地の文からである。
「それってどうなんですか〜? 軽蔑しちゃいますよ?」
 イニシアチブを取り返した、とばかりに明日香は言う。
「いや、それは……もう入り浸る必要は無くなったってだけで……普通の知り合い程度には関心もあるって」
 元々、環菜にはそんなに興味があったわけじゃないし、とか言ったらエリザベートに殺されそうだからやめておいた。
「海は楽しいですの」
「……?」
 そんな話をしている3人の所に、エイムが砂を蹴って走ってくる。なかなかに軽快な走りだ。楽しそうに走るその様は何かのCMに使えそうな程である。……手に、ホルターネックのブラを持っていなければ。
「そこにいるとあぶないですよ〜」
 何が危ないのか、とエイムから明日香に視線を移す。彼女はいつの間にか後方に下がっていた。近場にある危険といえば――
「きゃっ……! ですの」
 再び足をとられ、エイムはラスの傍で転びそうになった。夕菜の時と同じように、咄嗟に水着を掴んで踏みとどまろうとする。
「ちょ……っ!」
 脱がされるのを避けようとして水着を押さえ、その直後にエイムの手にあったブラが顔に直撃して前が見えなくなる。適切な対処が出来ないまま、というか適切な対処が何たるかを把握できないまま、仰向けに倒れた。
「…………」
 とりあえずブラを顔からひっぺがす。戻ってきたノルニルが拾っていったのが横目に見えたがそれはどうでもいい。それよりも。
「シーラさん! デジカメで撮って撮って! 証拠写真だよ!」
「シャッターチャンスですわ〜」
「何の証拠写真だ……!!」
 ぱしゃぱしゃと写真を撮っているシーラの方が気になる。ピノに言われての行動だが、シーラ自身も乗り気のようだ。明日香が近付いてきて、彼女に言う。
「その写真、ほしいです〜。あとで何かに使えるかもしれません〜」
「あ、やっぱりそう思う? 明日香ちゃん!」
「じゃあ、後でお送りしますね〜」
 ……何を話してるのだろうかこの女どもは。
「そしてお前は、いつまで抱きついてんだ……!」
 どこかの柱代わりにされたようだが、抱きついてきたエイムの胸の感触が割とダイレクトに伝わってきてなんとやら……である。彼女は気にしなさそうだがこっちが気にする。
「ごめんなさいですの」
 エイムは夕菜の時と同じ台詞を言って起き上がる。ラスはずりさがりかけた自分の水着を元に戻しつつ、エイムに言った。
「さっきまでコケそうになかっただろ! なんでいきなりコケるんだよ!」
「走ってるところずっと目に入ってましたけど〜、エイムちゃんは誰もいないと何故か転ばないんですよ〜。わざとじゃないです」
「何だそれ……」
 普通ならそんな馬鹿な、と本気にしないところだが、相手がエイムだとそうかと納得しかけるのが恐いところだ。しかし、何だか怒るのもアホらしくなってくるのも事実で。
 明日香はラスの耳元に近付き、小声で続ける。
「この前、ラスさんがエイムちゃんの胸触ったのちゃんと見てましたよ〜」
「胸……? あっ!」
 花見でエイムが酔っ払った時のことだ。
「エイムちゃん、あんまり嫌がってなかったです〜。あ、一応誤解のないように言っておきますけど、これはイジるつもりで言ってるんじゃないですよ〜」
 ――亡くなった妹について語るラスは格好よかった。全然ときめかないけど。
「…………?」
「エリザベートちゃん、お昼にしましょ〜」
 怪訝な顔をするラスに背を向け、明日香はエリザベートの所へと歩いていった。

              ◇◇◇◇◇◇

「エリザベートちゃん、ちゃんと手をふいてくださいね〜」
 海の家にある食事用テーブルをいくつかくっつけ、大きな食卓が作られている。明日香は、自身と夕菜が作ったお弁当を広げ、エリザベートのお世話をしていた。朝から結構遊んで動いたはずなのだが疲れた様子はない。エリザベートに関してのみ、底知れぬ体力らしい。
 夕菜の水着も無事上下揃い、さてお昼――いや、1人足りない。
「アイスクリームください」
 その頃、ノルニルは売店にてアイスクリームを求めていた。
「はいなのですー。バニラ、チョコ、抹茶、イチゴ、オレンジ、どれがいいですかー?」
 ハルカちゃんがにっこりとした笑顔で各種アイスを紹介する。ディッシャーを持ったその姿もまた可愛い。
「いろいろありますね。……全部ください」
「全部、ですかー?」
 笑顔ながら、ハルカちゃんは内心でちょっとびっくりする。しかしノルニルは真剣だ。
「わかりましたー。がんばりますですー」
 コーンに5種類乗せるのはなかなか技術が要るものである。

「焼きそば出来たぜ。食うか?」
 ファーシーと朔、スカサハと花琳と2対2でビーチバレーをしている間に、1人余ったのを幸いにカリンは焼きそばを焼いていた。結構な量のそれを、勢ぞろいした皆の中央にでんと置く。
「うわあ、おいしそう!」
 皆が盛り上がる中、ノルニルは5段重ねのアイスを見守りながら注意深く歩いていた。
「…………」
 そんなノルニルと同様に真剣な表情で歩いているのは諒だ。彼は、人数分のカキ氷を買って運ぶという偉業を成し遂げようとしていた。普通だったら絶対に持てない量だ。10人前くらい。
「諒くん、カキ氷買ってきてくれたんですか〜?」
 作ってきたお弁当を広げていたシーラが言う。彼女にほめてもらおうと運んでいただけに、諒は嬉しくて早足になった。
「はっ、はい! 好きなの取ってください。ほら……あっ!」
 だが、渡そうとしたところでバランスが崩れてカキ氷はひっくりかえってしまった。8個全部。
「あ、ああ〜……」
「全員分、頑張って買ってきてくれたんですね〜」
 砂に手をついて悲しそうな声を出す諒の頭を、シーラはやさしくよしよしと撫でた。その手の感触が気持ちよくて、しっぽが振られて涙目が笑顔に変わっていく。そこで、氷カップの数を数えていたピノが言う。
「あたしの分も買ってきてくれたんだね! そうだ、今度は2人で買いに行こうよ! それならきっと大丈夫だよ!」
 彼女も、彼の複雑な気持ちには気付いていたらしい。
「あたしもね、シーラさん大好きなんだよ。ね、おんなじだね!」
 そして、2人で売店に行く途中にピノは諒に笑いかけた。
「……うん」
 好きな経緯はちがったかもしれないけど、好きなことは、同じだから。

              ◇◇◇◇◇◇

 昼を過ぎ、海はますますの盛況を見せていた。休日にゆっくりと睡眠を堪能して海を訪れる者、用事を済ませてから海を訪れる者。憂いの無い表情でそれぞれが歩く中、見慣れない物が浜に立っていた。巨大な砂の城ではない。こちらはまだ建設途中である。そうではなく――
 太い、1メートル半程の高さの氷の柱が数本、大体等間隔に円を描くように屹立していた。その脇には、Yシャツサングラス姿のガタイの良い男が葉巻を銜えて立っている。
 海岸で過ごす人々のとある一幕として浜に馴染んで――馴染んでいるかは賛否別れそうな微妙な感じだがまあとりあえず。
 氷柱に囲まれて座り、日本酒を飲んでいるノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)は、脇に立つニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)を見上げた。
「そんな所に立ってないで座ったらどうだい」
「必要ない」
 二クラスはそう言って、葉巻をふかした。
「暑くないのかねえ……」
 それきり黙ってしまう彼に、ノアは呆れたように小さく肩を竦める。しかし、それ以上気にする素振りもなかった。彼が必要ないと言えば、ないのだろう。
 そしてノアは、ハーフパンツ型の水着姿で楽しそうに遊んでいる平賀 源内(ひらが・げんない)を眺めやった。3人の中で水着を着ているのは源内だけで、ノアも普段着である。
「まったく……何でこんな暑い中、太陽の下で遊ぼうとするかねぇ……」
 ノアとニクラスは今日、半分無理やり源内に連れて来られたのだ。ノアは、最初は暑さと人の多さにうんざりしていたが、どうせなら酔狂な事でもやってみようかと思い立った。
 それでこうして、氷術で冷やした日本酒を飲みつつ、氷術で作った氷の柱に囲まれてまったりと過ごすことにしたのだ。これがまた、なかなか涼しい。二クラスも、無理やり連れて来られたのを面倒だと感じていたが、暑いこの環境下、氷で過ごそうとするノアの発想を面白く思っていた。
 立っているだけでも、汗をかく氷からは冷気が時たま漂ってくる。
「真夏の海で氷に囲まれて飲む酒ってのも……また乙なモノかもしれないねぇ……」
 キンと冷えた日本酒を飲みながら、ノアが言う。そこに、海で騒いでいた源内がやってきた。
「こうやって海を楽しむのもいいもんじゃのう!」
「ああ、そうかい……」
 としかこちらとしては言えないのだが。
 源内も特別海が好き、というわけでも無いが、周りのお祭り騒ぎに踊らされてテンションが高い状態だった。たくさんの人が集まっての海開きというのは初めてだ。
「せっかくの海じゃ! そんな所におらんで出てきたらどうじゃ?」
 そう誘う彼に、ノアは余裕を持って言葉を返す。
「炎天下の中、氷に囲まれて過ごすってのも面白いじゃあないか」
「そうかの? それじゃあ、わしはもうひと遊びしてこようかのぅ!」
 源内はそう言うと、再び海へと走っていった。まだまだ体力がありそうだ。