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第二章「それぞれの思いが絡み合う」

 激しい戦いが繰り広げられている雪合戦の会場、から離れた場所では東條 カガチ(とうじょう・かがち)シオン・プロトコール(しおん・ぷろとこーる)がスコップ片手に雪かきをしていた。
 カガチは北国出身。大量の雪を見ると雪かきをしたくなるのだ。何よりも生徒会会長としてこの惨事を放って置けるわけもなく。雪合戦や、かまくらを造って遊んでいる生徒たちを尻目に、せっせせっせと雪かきをしていた。
 雪かきを手伝っていたはずのシオンはつまらなそうな顔をして、楽しげに遊ぶ生徒たちを見ていた。が、突如集めた雪の中にダイブ。
「見てみてカガチ。僕の型」
「はいはいすごいねぇ。で、雪かきの続きな」
 見事にできたシオンの型に、カガチは容赦なく雪を乗せていく。シオンは軽く文句を言いつつも、また手伝いを再開する。
「ねぇこの雪もらってもいい?」
 そんなシオンに話しかけたのは布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)だ。
「いいと思うけど、何に使うの?」
「かまくらを作ろうと思って」
「へぇ……カガチに聞いてくるから。できたら後でボクも入れてよね」
「もっちろん!」
 笑顔で頷いた佳奈子を見て、一つ楽しみができたシオンは元気よくカガチに聞きに行った。
「ああ。かまわないよ。むしろどんどん使って欲しいねぇ」
「オーケーだって」
「ありがとう! 休憩所にするつもりだから、後で遊びに来てねー」
 佳奈子が喜んで雪を持っていく。シオンも密かについていこうとしたが、カガチに捕まり断念した。
 一方、大量の雪が苦労なく手に入った佳奈子は、運んだ雪の山をスコップで叩いたり踏みつけたりと、雪を固めていく。しっかりと固めないと崩れてしまうのだ。
 そうやってしっかりと固めた後、掘っていく。
 そんな佳奈子の手際を見ていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は感心した。
「上手ですね。僕たちも負けてられません。ね、クナイ」
「ええ。立派なかまくらを作りましょう」
 北都に声をかけられたクナイ・アヤシ(くない・あやし)は微笑んで同意する。
「まずは雪を集めようか」
「分かりました」
 2人はスコップを手に雪を集めていく。この時クナイの脳裏には
「(かまくらの中でしたら少しぐらいイチャついても大丈夫ですよね)」
 そんな妄想が繰り広げられていた。妄想をしつつ、どんどんと雪を雪山に乗せていくのだが
「クナイ。クナイってば」
「え、どうしましたか北都」
 北都は困った顔をしてクナイを見下ろしていた。クナイは
「(そんな困った顔もまたかわ……はて)」
 頬が緩みそうになって首をかしげた。クナイの方が北都より身長が高く、北都に見下ろされるはずがない。その謎の答えは北都からもたらされた。
「掘りすぎ」
「あ」
 妄想に集中しすぎたのか。一箇所の雪を掘り返し続けたクナイは、雪を通り越して地面を掘っていたのだ。
「コタツなんかあるといいなぁ……て、ひゃ。な、何で穴が」
「すみません。彼を引き上げるの手伝ってもらっていいですか?」
 かまくらを完成させた佳奈子が近くを通りかかり、クナイが掘った穴を見下ろした。そうして2人がかりでクナイを引き上げた、のはよかったのだが。
「つ、疲れた」
「すみません、北都。それと」
「私は佳奈子。あ、良かったらあそこでゆっくりしていかない? お茶あるよ」
 いくら身体能力に優れた契約者とはいえ、人を1人引き上げる作業は中々骨が折れる。さらにはかまくらを作るため奔走していたのだからなおさら。
 佳奈子の誘いを断るわけがなかった。佳奈子にしても、作ったかまくらを休憩所にしようと考えていたので最初の利用者が出るのは好ましかった。
 指し示された大きく立派なかまくらを見て、クナイが肩を落としたのを北都が慰めた。
「またいつか作ろう」
「はい」
 その休憩所近くでは、なんとも香ばしい匂いが漂っていた。
「釣りたて焼きたての脂が乗ったサンマ、食べていかねぇかい?」
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)が焼きサンマを売っていた。どこから持ち込んだのか、七輪の上に網を乗せ、この場で焼いているようだ。
 サンマの売れ行きは好調だ。自然とアキュートの頬も緩みそうになる。
「アキュートよ」
 腹の底を打つような漢らしい声が響く。アキュートは人を呼び込みながら、ちらと目線を上げた。そこには……宙に浮かんでいるマンボーがいた。
 アキュートのパートナーである守護天使ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)である。つまり、魚に見えるが魚ではない。
 魚に見えるが、魚ではない。大事なことなので。
 ウーマは、【サイコキネシス】でサンマを網の上に乗せ焼いているのだが、
「それがしは天使。このサンマたちと同族では無い。だが何故だ! 何故涙が止まらぬのだ」
「そりゃ煙のせいだ。瞬きしな」
「アキュートよ。それがし、瞼など持ち合わせておらんのだ」
「……美味しいサンマだぜ。そこのあんた、どうだい?」
 アキュートは、聞こえなかったように1人の男を呼び込んだ。巨大雪玉を転がしていたルイ・フリード(るい・ふりーど)は、その声に振り返った。
 ルイは巨大雪だるまを作るためずっと作業をしていた。なので昼食はまだとっておらず、アキュートのそばで焼かれたサンマを見て、思わずお腹をさすった。
「これは美味しそうですね。1ついただけますか」
 サンマがまた1つ売れた。ルイは脂乗ったサンマを見て嬉しげに笑い……その場でかぶりつく。
「っ!」
「ん〜。やはり美味しいですね。焼き加減もまた絶妙です」
「そ、そうかい。そりゃよかった」
 ウーマの動きが完全に止まった。アキュートは苦笑気味にルイへと相槌を打つ。ばりばりぼりぼり遠慮なく、サンマがルイの腹の中へと納まった。
「ふぅ。ご馳走様でした。これでまた力がわいてきました! 【雪だるま王国】のシンボルになるような、巨大雪だるまを作れそうです」
 やたらと元気になったルイは、意気揚々と再び雪だまを押していく。
「アキュートよ、もうそれがしには、それがしには耐えられぬー!」
 目の前でサンマが食べられるのがよほどショックだったのだろう。ウーマは漢泣きしながらアキュートのそばを離れた……とはいっても、隣にある佳奈子の造ったかまくらの上に横になっただけだが。
「その、悪い」
 アキュートは思いつつもサンマを焼き続けたのだった。

 この機会に店を出しているのはアキュートだけではない。
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)も粕汁を販売していた。やはり温かい粕汁を求める人たちは多く、彼女の店はかなりの賑わいをみせている。
「おういらっしゃい……って、どうしたよ。そんな辛気臭い顔して」
 忙しそうに動いていた菊だが、深刻な顔をして歩くメチェーリたちを見て眉を寄せた。
「うちの子を見ませんでしたか?」
 メチェーリの言葉に菊は首を横に振った。
「なんだ迷子かい。そりゃ心配だね。……そうだ、あたしも手伝うよ」
「でもお店は」
「実はそろそろ材料が切れそうでね。もうすぐ閉めるつもりだったのさ。それより子供の好き嫌いや特徴を教えてくれよ」
 菊はさっさと店じまいをしつつ、尋ねる。
「好きなものは氷……えと、あいす? です。嫌い、というより苦手なものは温かいもので、あまりにも身体が熱くなると……このぐらいの雪だるまになります」
「えっ雪だるま?」
 声を上げたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)には、雪だるまに心当たりがあった。
 ちなみに彼女たちはシャーロットの流した噂で集まった協力者である。
「わたくし見覚えがあります。雪合戦をしていたセレスティアーナ様の頭に雪だるまが乗っていました」
「バランス悪そうなのにしっかり頭にくっついてるから、変わった髪飾りだなって思ってたのよね」
 2人の目撃証言に、メチェーリが飛び出そうとしたのをリリィと菊が止める。
「落ち着いてください」
「そうそう。というより、あたしにもう少し事情を教えてくれないかい」
「この方は雪女でお子様は雪ん子のグラートくんで、雪だるまなんです」
「リリィちゃん、ちょっと訳分からないよ〜」
「なるほどな。分かった」
「分かっちゃったんだ」
 ナカヤノフがリリィと菊に突っ込みを入れていると、
「その雪だるまがお子さんという説は濃厚ですね。白い着物の子供がセレスティアーナ様とぶつかった後、いきなり雪合戦が始まったそうなので」
 情報収集に行っていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がどこからともなく現れて告げると、皆、真剣な顔になる。
「どうも雪だるまがグラートくんなのは間違いなさそうですが、雪合戦の会場はかなり危険です。慎重に行かなくては」
「そうだよね。かなり白熱してたし」
「たびたびうちの子がご迷惑を」
 恐縮するメチェーリに対し協力者の1人、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がぽつりと口に出した。
「でもなんでグラートくんはこんなことをしたのかな。雪を降らせるのは暑いのが苦手だからで分かるんだけど、そんなに雪合戦したかったのかな?」
「分かりません。決してこんなことをする子では」
 詩穂とメチェーリは顔を見合わせてしばし考え込む。
「ここで考えていても仕方ありませんわ。雪合戦の会場に行きましょう。わたくしたちが先陣を切りますので、詩穂さんと菊さんたちはメチェーリさんの護衛をお願いします」
「分かったよ」
「おう。任せろ」
 リリィの指示に頷きつつも、詩穂は
「(ただの雪合戦なのに物々しいね)」
 そんな疑問を抱いていた。……嫌でもすぐに納得することとなるが。