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第三章 センス山へ


「いいのかい? あんなに突然出発しちゃって」
「いいんだ。俺がいると、姉さんが無理するから」

 センス山への道中。
 気遣わしげに問うのは霧丘 陽(きりおか・よう)に、レインは沈んだ声で答える。
「これ以上、姉さんに無理させるわけにはいかない」
「ところでさぁ、弟くん」
 のんびりした口調で話に割って入ったのは、師王 アスカ(しおう・あすか)
「弟君その2って、どんな人なのかしら〜?」
「その2って……クラウドのことか?」
 勝手につけたアダ名に悪びれずこくこくと頷くアスカ。
「クラウド殿の情報なら、私にも是非教えていただきたい」
 同じくクラウドを探す予定のマクフェイル・ネイビー(まくふぇいる・ねいびー)も身を乗り出して話を聞きに来る。
「クラウドか……」
「そうですね、外見や性格など」
「あいつの見た目は、俺とほとんど同じだ。不本意だがな。性格は、どっちかというと姉さん似で、かなり自由だなあ。
「そんじゃさぁ、何か弱点とかないかなぁ」
「弱点?」
「そうそう。説得する時に役に立つかもしれないし。恥ずかしい思い出とかさぁ」
 アスカの問いにレインはうーんと腕を組むと、首を傾げる。
「弱点は、姉さんかなあ。勝った所を見た事がない。恥ずかしい思い出……そうだ」
 レインはぽん、と手を打つ。
「1年前、家を出る際に『俺はパラミタの風だ、一所には留まっていられないのさ』とかいう台詞を残して出ていった」
「……それは、たしかに恥ずかしいねぇ」
 暴露された可哀想な思い出にアスカは思わずクラウドに同情する。
 まぁ、このネタはほんとにいざというときに使わせてもらおうかなぁ、と心に留めておいた。

「もっふもふー、もっふもふー」
「もふもふ……もふもふ……」
「ん?」
「ん?」
 元気よく歌いながら歩いていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、同じ単語を呟いている少女、立川 るる(たちかわ・るる)に気づき、足を止める。
「もふもふ?」
「もふーん!」
「もふふ?」
「もふ!」
「もふー!」
「もふー!」
 がしっ!
 二人は固く握手した。
「え、と……何が起こったのでしょう?」
 眼前の光景に困惑する、レキのパートナーのカムイ・マギ(かむい・まぎ)
「仲良しっていいよねー」
 カムイの問いに、るるのパートナーのラピス・ラズリ(らぴす・らずり)はにこにこ笑顔。

 センス山までの道のりは、決して平坦なものではない。
 道中、何度か大きな岩を乗り越えなければいけない場面もあった。
「この手に掴まって」
「は、はい、です……」
 芦原郁乃(あはら・いくの)がパートナーの荀 灌(じゅん・かん)に自分の手を差し出す。
 そして引っ張り上げる時。
「ファイトォ〜ッ!」
 郁乃の元気な叫び声が周囲に響く。
 しかし、いくら待ってもその続きは聞こえない。
「……何か言わなきゃいけなかったですか?」
「いや、いいの……やっぱり分からないよね、はは……」
 岩を乗り越えてからしばらくの間、何故か体操座りをして影を背負っている郁乃に、灌が不思議そうに質問する。
 しかし、明確な返事は来なかった。