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恐怖! 森がモンスターになった!?

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恐怖! 森がモンスターになった!?

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 序章 「人型の木」


 〜森・村近郊〜


 森を大きな黒い影が覆う。黒い影は鈍い駆動音を響かせながら、森の中心。人型の木を目指していた。

「……ふふ、ふっふっふ……あーはっはっはっは! こんな昂揚感久々だ。
 血が湧き、肉躍るとはこのことか……くっくっく、笑いが止まらんなア――」

 ギリシャ神話に登場する百手族の名を冠するイコン……重巡航管制艦 ヘカトンケイル
 その戦闘ブリッジにて、狂ったように笑い声を上げ、自己陶酔に浸る赤髪の女性ベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)
 その青い瞳には、狂気じみた光がチラついており、声をかけづらい雰囲気を醸し出していた。

 テクノクラートでもある彼女は、自らの開発した兵器ヘカトンケイルの力を
 見せつける為にここまでやってきたのである。

「巨大な木人形風情が――人間様に盾突くとどうなるかア……たっぷり、思い知らせてやろう」

 狂気じみた笑顔を見せ、彼女は手を振り上げ命令する。

「あんな木人形なぞ恐るるに足らんッ! 二連磁軌砲、発射用意ーッ! あいつの頭をブッ飛ばしてやれッ!!」
「了解。二連磁軌砲、発射用意」
「……電力使用可能領域まで約十秒」

 オペレーターが淡々と充填状況、艦の各部の状態、敵の状態などを読み上げ、報告していく。
 ヘカトンケイルの武装ハッチが音を立てて開き、黒く長い砲身がその姿を現す。

「充填完了、発射用意完了致しました」
「目標、人型の木、頭部! てーーーッッ!!」

 砲身内部に電流が走り、砲弾を加速させる。二本の黒い砲身から勢いよく砲弾が発射された。
 空気を切るような音が響き、数秒も経たないうちに人型の木の頭部が爆散する。
 頭部を破壊された人型の木は体勢を崩してよろめくと地上に両手をついた。

「敵、沈黙!」
「よし、この機を逃すな! 先行部隊を降下! 次弾の用意も忘れるな!」
「……!? て、敵、頭部……再生していきます!」
「なんだとッ!?」

 人型の木の胴体からツタのようなものが蠢き、頭部のあった位置まで伸びると頭部の形を取り始める。
 ツタが絡まり合い、見る間に頭部へと変貌していった。頭部を再生した人型の木は赤い瞳を輝かせ、大きく咆哮した。

「グオオォォォオオーーッッ!!」

 恐怖に顔を引きつらせる他の者とは違い、ベスティアの顔に浮かぶのはやはり狂気じみた笑顔だった。
 妖しさと恐ろしさの混じり合うその笑顔は、見るものを引き付ける妙な魅力がある。

「くっくっく、どこまで生きがいい実験台なのだ、貴様は! 頭部の再生など、見たこともないぞ!
 まったく……楽しいパーティーになりそうだ――」


 〜艦内トレーニングルーム〜


 ヘカトンケイルに随行するイコン輸送艦。
 多くのイコンを輸送する際に使用される大型艦である。

「ふんっふんっふんっ!」

 その艦内にて一心不乱にトレーニングに励む獣人が一人。
 戦闘時の為か、トレーニングルームには彼しかいなかった。
 
 戦闘に伴う揺れや振動に驚く様子もなく、トレーニングを続けている。

「今日は、ちとゆれるのぅ……じゃが、このぐらいが鍛錬にはちょうどよい」

 彼はレオパルド・クマ(れおぱるど・くま)。その逞しい体躯を生かし、モンクとして戦場の最前線で戦ってきた漢。
 トレーニングをしながら彼は待っているようだった……自らに相応しい戦場を。


 〜イコン輸送艦・格納庫〜


 戦闘が始まり、普段は静かな格納庫も慌ただしくなっていた。
 カタパルトにて発進準備の進む白い機体。アイディート。第一世代のクェイルではあるが
 サブパイロットでありアーティフィサーの高崎 朋美(たかさき・ともみ)によってチューニングされ、カタログスペック以上の
 戦闘力が引き出される。

 アイディートはメインパイロットである強化人間のサイオニック、ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)の戦い方に合わせ、
 氷獣双角刀が装備されており、足回りも通常のクェイルとは比べ物にならないほど強化されていた。

「……木の根は危ねえから壊す、まさに俺向きだよな」

 アイディートのメインパイロットシートに座ったウルスラーディーが楽しそうな顔を見せる。
 金髪を一本の三つ編みにしている彼の笑顔はどことなく、儚げで美しく見える。

(あの青い瞳で見つめられたら……)

 ぼーっと、そんなことを考えていた朋美はウルスラーディーの心配そうな声で我に返る。

「おい、大丈夫か? もし調子悪いなら艦に残ってろよ」
「ううん……大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
「……そうか、ならいいんだが」
「もしかして、心配してくれたの……?」

 朋美の不意を突くような一言につい動揺してしまうウルスラーディ。
 動揺を悟られまいと、青い瞳を泳がせて言葉を探しているうちにオペレーターから通信が入る。

「先行して調査に向かっている方がいますので、敵を撃破しつつ合流を」
「ハッチ解放、進路クリア……CHP001アイディート、発進どうぞ!」
「あ、ああ! アイディート、出るぞッ!!
「ちょ、ちょっとそんな急に……きゃあああああーーーッ!!」

 カタパルトの加速によって、シートに押し付けられる朋美。
 ぼそりと呟くウルスラーディー。

「ったく……心配してる、なんて言えるかよ」
「え、今なんて……」
「なんでもねえッ!!」

 空中に射出されたアイディートは強化ブースターをうまく使い、降下姿勢を保ちつつ地上に降下する。
 ふいに敵接近を知らせるアラートが、けたたましい警告音を発した。

「ウルスラーディーッ! 真下よ!」
「ちいっ! 降下なんてさせねえってことか!」

 強化ブースターを吹かし、アイディートの真下にアサルトライフルの銃身を向ける。
 すると、目視でも確認できるほどの距離に木の根が3本ほど接近してきていた。

「くそっ! 人間様に逆らうか、木の分際で!?」

 アサルトライフルを連射し、最も近い木の根の動きが一瞬止めると、落下速度をそのまま利用してその木の根を一刀両断する。
 氷獣双角刀によって斬り裂かれた木の根は凍り付いていき、崩れるように地上に落下していった。
 
 挟み撃ちにするように、木の根が左右からアイディートに迫る。

「なめるなああーーーッ!」

 氷獣双角刀を水平に構えて回転すると、迫る木の根を両方とも叩き斬った。
 木の根は瞬く間に凍り付き、粉々に砕け散って地上に降り注ぐ。

「人間様に逆らうから、そうなるんだよ!」
「そろそろ地上が近いわね。パラシュートの準備を」

 アイディートはパラシュートを開くと、地上へと降下していく。特に妨害もなく、無事に地上へと着地した。
 地上についてから数歩歩き、パラシュートを切り離した所で再び警告音が鳴り響く。
 朋美はレーダーに目を向けると、その様子を見て驚きを見せた。

「敵、反応多数……えっ、こんなにいるっていうの!? 森全体が敵ってこういう事なの……これじゃ、勝ち目なんて……」

 恐れる朋美とは対照的に、ウルスラーディーは自分の内側から込み上げてくる昂揚感に似た衝動を感じていた。

「どこ向いても敵だらけ、壊しちゃいけねえ物はない……面白いじゃねえか。
 さぁ、かかってこいよッ! 向かってくるモノは全部ッ! 破壊するッッ!!」


 〜森・人型の木付近〜


 人型の木の真下では、先行して向かった調査部隊と人型の木から延びる木の根との激しい戦闘が繰り広げられていた。
 木の根は飛び回るパワードスーツを捉えようと扇状に枝を展開、枝は別々の方向からパワードスーツに迫る。
 しかし、枝は軽快な動きを見せるパワードスーツ……A.V.S.スィーパーズを捉えられずにいた。
 
「……そんな攻撃には、当たらない」

 ヴァルキリーの少女はそう呟くと、対神像ロケットランチャーの引き金を引く。
 大きな爆音と共に木の根が爆砕され、辺りに木片を撒き散らした。木の根は多少動きが鈍ったものの、
 木の根から伸びる枝はダメージに怯むことなく、なおも接近する。
 
 ヴァルキリーの少女……セイバーのピュラ・アマービレ(ぴゅら・あまーびれ)は発射の反動で崩れた体勢を整えながら右腕を突き出し、
 付近の木にワイヤークローを射出する。鉤爪が木に食い込んだのを確認すると、一気に巻き上げを開始した。
 駆動音を響かせながら、ワイヤーに引き寄せられる彼女の足元を勢いよく枝が通過、さっきまで立っていた所を容赦なく貫く。

 伸びている枝自体を足場にし、跳躍。
 
「距離を取る……優先すべきは、倒すことではない」

 仏斗羽素にエネルギーが集まり、轟音が辺りに響いた。パワードスーツを纏った少女は大きく弧を描き、
 木の根から離れた位置に着地する。着地の瞬間、彼女は異様な気配を察知したのだが、経験の少なさが災いして
 反応が一瞬遅れ、異様な気配に対して数秒無防備となってしまった。
 
「……し、しまった!?……くぁぁあーーッ!」!

 足元が隆起し、数本の枝が彼女を突き上げる。ゴリゴリと音を立て、パワースーツの装甲が削れていくのが伝わった。
 脱出しようとするも、金属のように固い枝に阻まれ、身動きが取れない。
 空中戦の頼みの綱である仏斗羽素は幾本もの鋭い枝に貫かれ、その機能を停止していた。

 ピュラは枝に絡め取られ、中空にて無防備な姿を晒す。その時を待っていたかのように、彼女目掛けて木の根が迫る。

「あ、あぁぁあ……」
(ま、まずいッ! やられるッ!)

「ピュラを確認……射撃準備完了、いつでもいけます」

 通信機から聞こえる声を聞き、ピュラはほっと息を吐く。
 彼女にとって、絶対的信頼を置く人物……彼女の対の存在。

 ピュラの遥か上空からもう一つの同型のパワードスーツが狙撃姿勢を取ったまま急降下してくる。
 頭を下にして対神スナイパーライフルを構え、足をまっすぐ伸ばしたその姿は、まるで一本の剣のようにも見える。

「距離……測定完了。対象ブレイクポイント算出……完了。コンタクトは一瞬だ、ミスは許されないぞ……いいな?」

 男性とも女性とも取れない中性的な声が彼女に射撃データを送った事を告げる。
 通信の相手はソルジャーのメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)。彼女達の契約者である。

「了解……」

 彼女は、セイバーのモニカ・アマービレ(もにか・あまーびれ)。ピュラと同じくヴァルキリーである。
 一言だけ答えると、彼女はスコープの先に意識を集中させる。射程距離に入ったことを知らせる赤いランプが点灯。
 彼女は静かにトリガーを引いた。対神スナイパーライフルの砲身が続けざまに3度火を噴く。

 1発目、2発目が着弾……数本の枝を吹き飛ばしながら貫通し、、ピュラの上半身を開放する。間髪入れずに3発目が着弾。
 下半身を拘束している枝を完全に粉砕し、ピュラを開放する。
 ピュラはそのまま重力に引っ張られて、地上に落下していく。

「こ、の……動いてッ」

 ピュラは何とか動こうとするのだが、パワードスーツの損傷が激しく、身動きが取れない。

 モニカは対神スナイパーライフルを背中に背負うと、仏斗羽素によってピュラの元まで加速する。
 轟音が響き、風を切る音と共に高速で落下していくピュラに接近するモニカ。
 ピュラを抱き留めると仏斗羽素を逆噴射し姿勢を変更する。

「……なんとか間に合ったわね」
「ごめんなさい、モニカ……私のミスで……」
「……いいわよ。サンプルは入手できたんでしょう?」
「うん……」

 ピュラを元気づけると、モニカはメンテナンスとの通信回線を開く。

「ピュラを回収完了。主、一時帰還の許可を。」
「わかった、サンプルの入手は?」
「問題ありません」

 一瞬の沈黙の後、帰還の命令が下る。

「……よし、帰還しろ」
「了解、帰還します」

 通信を終え、メンテナンスはレーダーと時計を交互に見る。

「まぁ……時間稼ぎとしては十分な戦果か。あとは、サンプルの質だが……」

 彼の隣にポータラカ人の女性が立つ。
 赤色のツインテールが活発な印象を与えるが、その整ったボディラインは何とも言えない魅惑的な魅力を放っていた。

「どこぞの引きこもりよりは、役に立つんじゃないかしら〜」
「――ッ! 引きこもりではない!」
「誰があなたのことだって言ったのかしら? ……ふふっ、早とちりじゃない?」
「……ッ」

 サイオニックの女性……ミアリー・アマービレ(みありー・あまーびれ)にいいようにからかわれるメンテナンス。
 仮面で隠された彼の表情はわからないが、きっと悔しがっているに違いない。

 彼らが乗っているのはA.V.S.輸送艦。ヴァルキリー達を運用する為に調整された輸送車両である。
 A.V.S.輸送艦は前線基地としての能力を重視されており、簡単な分析とデータの収集などに優れる。

 数分後、モニカ達が帰還しパワードスーツの修理とサンプルの分析が行われた。
 分析室から頭をかきながらミアリーが出てくる。その表所は浮かないものだった。

「どうした? 何かよくないことでも判明したのか?」

 メンテナンスの問いかけにミアリーは溜め息交じりに答える。

「……そうだな、よくないというか……うん、【わからなかった】んだ、何も」
「そうか、わからなかったのか…………は? 何も!?」
「ええ、その通りよ」

 冷静に答えているようなミアリーだったが、メンテナンスにその姿は悔しそうに映った。
 その証拠に彼女は片手で、エスパーマントの裾を弄っている。

「そうか、お前ほどの知識をもってしてもわからないとは……あの木はなんなんだ一体」
「さあね……あとは、イコン輸送艦の学者様にでも任せておけばいいんじゃない?」

 ミアリーには後で何かしらのフォローでも入れておこう、そう思いながらメンテナンスはヘカトンケイルに連絡を取った。


 〜人型の木付近・上空〜


「パワードスーツ隊が撤退……急いだ方がよさそうね」

 森の上空を高速で滑空する黒い鳥のようなイコン……スクリーチャー・オウル
 赤い軌跡を描きながら人型の木を目指すその機体の中で彼女は言い知れぬ不安を感じていた。
 彼女は天貴 彩羽(あまむち・あやは)。トランスヒューマンの少女である。

「得体の知れない人型の木……パワードスーツ隊が撤退して、相手するのは私達だけ……か」
「ふむむ〜敵の戦闘力が判断できないのは、ちと恐ろしいでござるなぁ」

 サブシートでコンピューターと接続されている機晶姫の少女スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)
 彼女はテクノクラートとしての技術も生かして彩羽をサポートする役目である。

 戦闘力のわからない敵との一騎打ち、不安を感じないはず者などいない。
 しかし、彩羽は一人ではない。頼れる相棒、スベシアがいる。その事実が彼女を勇気づけた。
 彼女は不安を振り払い、顔を上げて真っ直ぐに前を見る。

「……何があったとしても、目の前の危機を見過ごすことはできないわ!」
「そうでござるよ、それがし達で脅威を排除するでござるッ!」

 レーダーに敵接近のアラートが表示される。
 数は4つ。レーダー上で赤い丸が左右から迫っていたが、目視では確認できない。

「きっと森の中に潜んでいるのでござる! こういう時こそ心の目で……」
「心の目って……そんなのどうやって――」

 機体の左後方から木の根が貫こうと一つ伸びてくる。
 右へとスクリーチャー・オウルをロールさせ、すれ違いざまにスタビライザー兼用の蛇腹剣で木の根を切断した。

「この程度の動きで捉えられると思わないことねッ!」
「彩羽ッ! 前から来るでござるッッ!!」

 機体前方からに二本の木の根が、鎌首をもたげた蛇のごとく立ちはだかっている。
 木の根は細い枝を無数に放ち、スクリーチャーオウルを包み込むように迫った。

「避けられないならッ! 突破あるのみッ!!」

 機体を右回転させながらツインレーザーライフルを放つ。
 放たれた閃光は枝を焼き切り、広がる枝の中心に楕円状の穴を開けた。
 その隙を逃さず、ブースターを最大出力で孵吹かして機体を急加速させる。
 スクリーチャー・オウルは追撃しようとする枝を紙一重で躱し、枝の包囲網の外へと離脱した。

「あんた達に構ってる暇なんかないのよ」

 木の根の追撃をかわし人型の木へと接近する。
 スクリーチャー・オウルは{ICN0004101#スクリーチャー・ゲイル}へと可変し、ツインレーザーライフルを構える。

「さぁ、人型の木さん……私に君の限界を見せてよ」


 〜ヘカトンケイル付近・上空〜


 木の根の追撃を躱し、銀色の機体がイコン輸送艦を目指していた。
 IRR-SFIDA_F……Space Sonic
 魔法少女騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の駆るイコンである。

 木の根は重要な物を持っている事に気づいているのか、執拗にSpace Sonicを追う。
 直撃は避けているものの、余りの執拗さに徐々に機体は損傷していった。

「まだ……墜ちるわけにはいかないッ!」

 サンプルの入った箱を大事そうに抱え、詩穂はヘカトンケイルを目指す。

 ヘカトンケイル付近まで来ると、木の根は諦めたのか追撃をやめる。
 詩穂は着艦指示に従って、イコン輸送艦に着艦した。