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二章 誘導

 エースから洞窟の地図のデータを受け取った柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は複雑に入り組んだ洞窟の袋小路で大量の爆薬を設置していた。
 二十も三十もある爆弾を見て、芦原 郁乃(あはら・いくの)は不安そうに声をかける。
「こ、こんなに爆弾置いて、洞窟崩れたりしない?」
「安心しろ、爆弾っていてもでかい音を出すのが目的の巨大な爆竹みたいなもんだ。……にしても、お前のパートナーはえげつないこと思いつくな、ゴブリンと盗賊をここに集めてつぶし合わせるとか」
「ふふ〜ん、そうでしょ? 私のパートナーはすっごいんだから」
「なんであなたが偉そうにするんですか」
 そう言って冷ややかな目線を送るのは蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)だった。
「恭也さん、爆弾はそのくらいでいいですよ。準備はよろしいですか?」
「ああ、導火線が短いからこの場で着火するけど、鼓膜が破れないように注意しろよ?」
 恭也の注意を聞いたメンバーは全員頷くと爆弾から離れて全力で耳を塞ぐ。
 その様子を見て、恭也は導火線に火をつけて耳を塞ぐ。
 瞬間、まるで空気を叩いて振動させるような爆音が洞窟の中で響き渡る。
 予想以上の大音量に全員が眉間にシワを寄せて耳を塞いだ。
「……さすがに、すごい音ですね」
「うう……頭の中がビリビリするよ……」
 音が止んでもマビノギオンと郁乃は眉間のシワが戻らず、しばらくその場をフラフラしていた。
「……さて、これからどうする?」
 恭也の質問の要領が掴めず秋月 桃花(あきづき・とうか)は小首を傾げる。
「どうするって、逃げるんじゃないんですか?」
「だから、どうやって? これだけ洞窟が入り組んでたら下手に動くと挟撃されるぞ」
「……あ」
 マビノギオンはしまったと言うように口元を隠した。
「あってなに!? ひょっとして逃げること考えてなかったの?」
 郁乃のこの質問に、
「……ごめんなさい」
 マビノギオンは深々と頭を下げた。
「それは、困りましたね」
「のんびりしてる場合じゃないよ桃花ちゃん! 早く逃げないと盗賊が……」
「おい! さっきの爆発はこの辺りじゃねえか?」
「ゴブゴブゥ!」
「な……! ゴブリンの仕業かよ、てめえら相手してやれ!」
 袋小路の外ではゴブリンの鳴き声と男たちの怒号が響き渡り、金属のぶつかりあう音が響く。
「も、もう来ちゃったよ……どどどどうしよう……」
 郁乃は盗賊の声を聞いて、わたわたと駆け回る。
「爆弾で壁に穴を開けて逃げるっていうのはどうですか?」
 そんな郁乃を無視した桃花の提案に、恭也は首を横に振る。
「近くの壁に空洞はないし、爆弾はそんなに早く設置できるもんじゃない」
「困ったわね……どうしましょうか?」
 マビノギオンは一つも困った素振りを見せず、落ち着き払ってため息をついた。
「そんなもん、やることは一つだろう。
 そう言って声をかけてきたのは椎葉 諒(しいば・りょう)だった。
「なにか、提案があるんですか?」
 桃花の質問に諒はニヤリと口角を上げた。
(おい、諒! あんまり物騒なことするなよ?)
 そう言って奈落人のパートナーに身体を預けている椎名 真(しいな・まこと)は心配そうに声をかけた。
「大丈夫だって、俺だって人様の身体で無茶は……」
「おい! お前らそこでなにしてる!」
 諒の言葉を遮ったのは、袋小路を覗いていた二人の盗賊だった。
 刹那、諒は近くにあった拳大の石を頭上に放り投げると、ミスリルバットで打ち抜いた。
 石は真っ直ぐ盗賊の額目がけて飛んでいき、
「ぎゃ!?」
 盗賊の一人は小さな悲鳴を上げて地面に倒れた。
「な……! おい、てめっ!」
 相棒の急襲に面食らった盗賊が再び顔を上げるのと同時に、
「もう一丁!」
「ぐぁ!?」
 諒の弾丸ライナーが鼻っ面に直撃した。
「ったく、ゴブリンだって財を成すために努力してるのにこいつらときたら……ああやべ、ちょっとイライラしてきた……」
(諒、落ち着けよ? 今は他の人たちと脱出することが、)
「ああ、分かってるよ……」
「? なにか?」
 心の中でしか聞こえない声に返事を返している諒に、桃花は怪訝な顔をする。
「いや、なんでもない……。とりあえず、出口に向かって逃げて敵が来たら相手しようぜ? このままじゃジリ貧だ」
「……それしかないか、皆もそれでいいか?」
 恭也の問いに郁乃たちは黙って頷く。
「本当ならまともな労働もしないで甘い蜜だけ吸おうとしてる盗賊共に一発お見舞いしてやりたかったが……まあ、逃げる最中にも出くわすだろう……その時は……」
 諒は右手に持ったミスリルバットを握り締めると再び薄く笑みを作って脱出の先陣を切った。


「おーい! ここに侵入者がいますよー! お宝とか持っていっちゃいますよー!」
 バシャバシャとぬかるんだ地面を音を立てて歩きながら志方 綾乃(しかた・あやの)は大声で叫んだ。
「あ! 綾乃さん危ない!」
 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は慌てて呼びかけるが時すでに遅し。
 綾乃は無警戒にトラップのワイヤーに引っ掛かり、壁の隙間から矢が飛び出した!
「おっと!」
 綾乃は服を破られながら紙一重でトラップを回避する。
 傷こそ負ってはいないものの、肌の露出が増えたことで、淳二は思わず目を逸らす。
「ん? どったの?」
「いや……別に……」
 淳二のパートナーであるルル・フィーア(るる・ふぃーあ)は目を吊り上げた。
「ちょ、ちょっと! 少しはトラップを警戒してください! こっちにも被害が出たらどうするんですか!」
「あ、ごめん。なんか踏んづけちゃった」
「話を聞いてくださ……きゃあ!」
 必至の叫びも虚しく、ルルは天井の切れ間から噴き出した放水を頭から浴びた。
「ルルさん! 大丈夫……です、か?」
 淳二はルルに声をかけるが、徐々に声はしぼんでいく。
 濡れたルルの服はうっすらと透けて、胸の谷間に雫が落ちる。
「おい! お前らそこで何してるんだ、……うほぉ!?」
 騒ぎを聞きつけてやってきた盗賊は、服が破れたり透けたりしている女の子の姿に目を奪われていた。
「……っ!」
 自分の痴態を見られたルルは顔を真っ赤にして、銃の引き金をデタラメに引きまくるって銃声が洞窟に木霊する。
「危なっ!? ちょ、ルルさん落ち着いて!」
「大丈夫だって! 先っぽは見えてないから! セーフだよセーフ!」
「綾乃さん、それフォローになってない!」
 二人は身を屈めながら言い争い、それを見ていた逢見 繭(ほうみ・まゆ)はため息をつく。
「やれやれ……仕方ない人たちですね」
 繭はデリンジャーを片手にブラックコートで気配を消すと弾丸の射線に入らないように身を低くして盗賊たちに近づいていく。
「ぐぁっ!?」
 盗賊の背後に回りこむとデリンジャーの台尻で殴りつけ、次々に意識を奪っていく。
「ゴブゴブッ!」
 盗賊の後方で機会を窺っていたゴブリンたちに繭は容赦なくデリンジャーの銃口を向けて、引き金を引き絞った。
「ゴブゥ!?」
 撃ち出された弾丸は正確に額を貫き、ゴブリン達は力なく崩れ落ちる。
「皆さん、終わりましたよ」
「……え?」
 半狂乱から脱したルル達は辺りに倒れている盗賊とゴブリンたちを見て、しばらく呆然としていた。
「ルルさんはこれで身体を拭いてください」
 そう言って、繭はルルにタオルを渡す。
「あ、ありがとうございます……」
「よし、それじゃあまた陽動作戦再開〜!」
 綾乃は高らかに宣言して、先頭に立つと再びバシャバシャと足音を出しながら再び歩き始めた。