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リアクション
第一章 それは穏やかな日でした
「今日も良いお天気です」
「本当だよね」
蒼空学園に通う春川 雛子と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は楽しく話しながら、花壇へと向かっていた。
雛子の目的は勿論、キレイな花を咲かせた花々であったが。
「で、その猫さんってまだちっさいんでしょ?」
「はい、ようやく歩けるようになったばかりで、可愛いのです」
「見たいです、撫で撫でしたいです」
美羽とベアトリーチェの目当ては、最近花壇に住み着いているらしい、猫親子だった。
「それで、例の装置はどうですか?」
そして、そんな女の子達をニコニコ見つめるクロード先生の目的は、花壇に設置したとある装置だったりした。
「今のところは何とも……でも、確かに花の成長とか色つやは普通より良い、ような気はします」
「そうですか。これはもしかするかもしれませんね」
遺跡から発掘された、『植物の育成を促す』と思われる装置。
真偽の程や詳細を検証する為、数日前から花壇に設置されているのだった。
そんな風な和やかな会話を止めたのは、
「……陸斗先輩ってホント、カッコいい!」
という弾んだ声だった。
そして、新入生らしい少女にアタックされている井上 陸斗の姿に、美羽は「あちゃあ」と呟きベアトリーチェは「あらあら」ともらした。
陸斗→雛子への気持ちは、結構知られている……というか、見ていてものすごく分かりやすいので。
「ち……違うんだ」
慌てた陸斗が少女から距離を取ろうとし、母猫の尻尾を踏みつけ、「ふぎゃ」と飛びあがった母猫が件の装置にぶつかり、倒れた装置のレバーが、ガゴンと思いっきり動いて。
「「「……あ」」」
美羽達は茫然とそれを見た。
というか、見ている事しか出来なかった。
盛り上がる大地から突き出た、蠢く木の根。
めちゃくちゃに伸び出した枝、花の茎や葉。
鞭のようにしなる、植物の蔓。
「きゃああああ!」
上がった悲鳴は青井場 なな(あおいば・なな)のものだった。
突如、蔓みたいなものに襲われたなな。
だがその身体を吊りあげられた瞬間、その瞳が捉えたのは小さな小さな命だった。
母猫の悲鳴に、駆け寄ろうとしたのだろうか、跳ね上げられた、小さな小さな身体。
「ボクの事は後回しでいいから、とにかく猫ちゃんたちを先に!」
叫んだのは、無意識だった。
「ボクは自分でなんとかなるけど、猫ちゃんたちは誰かが助けてあげなきゃいけないから!」
「う、うーん、ビックリした。急に引っ張られたから、一瞬貧血を……ん?」
偶然通りがかり巻き込まれた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)の意識を引き戻したのは、ももの叫びだった。
一瞬混じった視線は、直後せり出してきた緑に遮られてしまった、けれど。
「みゃ〜」
「あ、猫だ」
ももがこちらに向けた視線の先、東雲の近くに小さな小さな子猫がいた。
震えているのは、足場の悪さだけではないだろう。
「……か、可愛い……っ」
蔦に絡まりつつ、母猫を呼ぶその姿に東雲は思わずもらしていた。
「可哀相に……待ってね、いま助けるからね」
言いつつ、伸ばそうとした手はしかし、届かない。
「もうちょっと、なんだけど……っ!?」
自らも巻き上げられているし不安定だし何か絡まってるし、仕方ないのだが。
焦る東雲の耳に届いたのは、パートナーであるンガイ・ウッド(んがい・うっど)の声だった。
「恐ろしいな蒼空学園、モヒカンでなくとも金を巻き上げようというのであるな?」
東雲と共に散歩中にこんな状況に陥っているンガイは、だが、元気そうだった。
「だがしかし! 我は無一文! 残念であったな! ふはははは……は? 我がエージェントよ、何をしているのであるか?」
無駄に元気に高笑っていたンガイは、東雲に気付き首を傾げ。
「シロ、騒いでないで手伝って」
「猫? 可愛い?」
可愛い猫ちゃんを助けるの!、という主張にムッとした。
「可愛いニャンコならここにも居るであろう!」
「わっ、ちょっと揺らさっ、ないでっ!」
ふわふわした銀色の毛を僅かに逆立て、不満気に身体を揺らすンガイに合わせ、緑がわさわさと揺れ、東雲は堪らず悲鳴を上げた。
「あぁぁぁぁぁっ、揺らさないでぇ」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」
勿論、それは東雲だけではなく、ななや陸斗も同じ。
「陸斗くんっ!」
「やだ、陸斗先輩ったら、ドコ触ってるんですか♪」
「いっいや、ちょっ……離れ……」
「………………まぁ楽しそうな陸斗くんは放っておいて。先生、猫さん達が大ピンチです」
陸斗を案じた雛子は、直後のやり取りに直ぐにフイと視線を逸らし。
「確かに、巻き込まれた猫は心配ですね」
駆けつけた御凪 真人(みなぎ・まこと)に、美羽とベアトリーチェもコクコクと頷く。
「とにかく、被害を最小限にする為に装置の停止ですね」
クロード先生の話を聞いた真人はすぐさま言い、表情を引き締めた。
だが、その為には、刻一刻と成長する植物や虫を何とかしなければならないのは、必至で。
「その為には皆の力を合わせなければなりません。猫や囚われている人達を助け、装置への道を切り開きましょう」
装置を止めた瞬間、植物が枯れ落ちる可能性もあり、そうすれば大変な事になるのだから。
不安そうになる雛子やクロード先生に、
「大丈夫、皆で協力すればきっと全部上手くいきますよ」
今までだってそうでしたから、真人は言ってから、笑って付け足した。
「陸斗君も…まあ、大丈夫でしょう。彼も修羅場を潜ったコントラクターですから。自力でどうにかするんじゃ無いんですか」
「……ですよね!」
言ったもののやはり案じていたらしい雛子はほっと頬を緩めつつ、女生徒とむぎゅっとなってる陸斗の方は見なくて。
焦れば焦るほどに、どんどん締まって女生徒と密接していく陸斗に、
「陸斗殿……不憫だ」
藍澤 黎(あいざわ・れい)はそっと、目元を抑えるのだった。
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