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守り人なき、いにしへの祠

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守り人なき、いにしへの祠

リアクション

「なんかスゲー音が聞こえたな……そういえば祠を一度崩すって話だったか」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はソニックブレードで切り落とした木を運びやすいように加工しながら、空を見上げた。
 上空では鳥が群れを成して飛び回っている。
 それはまるで、なにかを警戒しているようであった。
「巣が無いの選んで切ってはいるが、この辺りの動物にとってはやっぱ騒々しいかね……」
「当然じゃろう。わらわ達はあくまで“よそ者”じゃからな」
 と切り取った木材に腰かけ、白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)は偉そうに答えた。
 その手には銃型HCが握られているが、ぷらぷらと足を振ってHCを弄ぶ姿はどう見ても少女が遊んでいるようにしか見えない。
「おい白姫。オートマッピングは終わったのか?」
「何のことじゃ?」
「何のって……HCでマッピングしとけって言っておいただろう」
「えー、嫌じゃ。どうしてわらわがそんな事を……」
「……何を偉そうなことを。使い方教えただろう。お前も手伝うんだよ」
 エヴァルトはぎろり、と白姫を睨みつけた。
 性格はともかく、彼の見た目は完全に悪人のソレである。
 白姫は「うぅ……」と詰まった声をあげると、しぶしぶ銃型HCを手に立ちあがるのだった。
「やればいいじゃろ、やればー。ええと、おーとまっぴんぐとかいうのをするには……ん?」
 と白姫が探索に行こうとしたところであった。
 目の前に、厳しい顔をした夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が現れた。
「うひゃぁ!?」
 銃型HCから目を上げた瞬間に甚五郎の顔を見つけた白姫は瞬間、悲鳴をあげる。
 そんな白姫をよそに甚五郎は彼女が座っていた木材を触ると、
「うむ。いい木材だ」
 と頷くように呟いた。
「さすが未開の地というだけある。これなら神仏を祀るには相応しい!……ん?」
 ふと、足元で「あわあわ」と座り込む白姫が目に入った。
「おお、すまんすまん。驚かせてしまったか。おぬしは……この土地の地祇か?」
 と甚五郎は白姫に手を差し伸べるのだった。
「ええっと……いやわらわは二子島の……」
 と言ったところでピコーン、と白姫の頭に電灯が灯った。
「そうじゃ!わらわは、ここの地祇がいないので代行者として……」
「寝言は寝てから言え!」
 エヴァルトは後ろから白姫に近づくと頭を掴む。
 そして。
「あわわわわわ……!」
 体ごとぐらぐらと揺らすのだった。
「俺の地祇が言ったことは一切気にしないでくれ。俺はエヴァルト・マルトリッツってんだ。おまえさんは……?」
「わしは夜刀神甚五郎だ。この木材を選んだのはおぬしか?」
 甚五郎は積まれた木材に触れ、エヴァルトに問いかけた。
「ああ、そうだが」
「おぬしなかなかいい見識をしておるな。わしは神社仏閣で生まれたものとして、祠の建築においては手抜きを一切したくないのでな。わしもおぬしを手伝おう」
「それはありがたい。だが、この辺りはもう切りすぎると自然に良くないからな。この白姫にマッピングさせて他を当たろうとしていたところなんだ」
「そうか。ならわしもスキルを利用して……」
 と甚五郎がエヴァルトと共に木材と石材の目星を付けようしていたところであった。
 どこかから「お〜い」と声が聞こえてきた。
 それは甚五郎の後をひらすら追って来た、阿部 勇(あべ・いさむ)であった。
「はぁ……やっと追いついた」
「おお、勇。姿が見えぬと思っていたが、何をしていたのだ?」
「何って、ずっと甚五郎を追いかけてたんですよ!?どんどん一人で先に進んじゃうんですから……僕は甚五郎と違って技術畑で……」
「そういえばおぬし、いい時に来たな!」
「無視ですか!?」
 と甚五郎はツッコミを入れる勇に構わず、木材をぽんぽん、と叩いた。
「勇。これを祠まで届けてはくれぬか?」
「ちょ、これを!?僕には材料運びとか無理ですよ!?僕では製材くらいしか……」
 積まれた木材はエヴァルトが持ちやすいように加工しているとはいえ、一本一本は大きな原木のままである。
 大の大人でも、軽々と持てるものではない。
「安心しろ。こうして……!」
 と甚五郎は木材に対して戦斧【フラグメント】を構える。
 そして「はぁ!!」と気合と共に木材を切り刻んだ。
 『金剛力』による強化と相まって木材は豆腐のように切れ、瞬く間に小さくなるのであった。
「こ、この場で製材する気ですか!?……まあ、その方が運びやすいですしね。そういう事なら僕も寺社の子、手は抜きませんよ!甚五郎、そこはもう数cm右で切ってください。その方が融通が利いて……」

「いくぜー。せーっの!」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は声をあげると、石材を持ち上げてそのままストーンゴーレムの肩に載せた。
 バランスをとって安定させるとゴーレムと石材をロープで縛り固定させる。
「うーし、そんじゃ運ぶぞテメェ等ー。間違っても落とすなよー」
 そばに連れたシボラライガーには、伐採した木材を載せていた。ゴーレムと同様にロープで固定し、自然には落ちないようにしている。
 本人も持てる限りの木材と石材を手に、それらを祠へと運搬するところであった。
「地祇の為ならエンヤコラー、と……お?」
 資材を運搬する途中、なにやら賑やかな音色が聞こえてきた。
 軽やかなフルートの音色のする方を見ると、一人の女性が目に入った。
 『桃幻水』によって女性化した想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)であった。
 フルートから奏でられる童謡に引かれ、山の動物達が顔を出す。
 動物達に紛れる形で、一人の少女が木々の間から顔を出した。
 件の、地祇の少女である。
 夢悠はそれを確認すると、フルートから口を離し、即興の歌詞で『幸せの歌』を歌うのだった。
「歌おう 歌おう 一緒に歌おう
楽しい気持ちが膨らむように
寂しい気持ちが無くなるように
小さな声で ラララララ?」
 地祇の少女は歌を聞いて、夢悠の元へ向かう。
 興味深げな様子で近づく彼女の表情からは、知らない人に対する怯えの色を失くしつつあった。
「楽しくなったら ラララララララ!
歌おう 歌おう 楽しく歌おう
歌おう 歌おう 一緒に歌おう」
 歌を口ずさみながら、夢悠は地祇の少女へ近づく。
「はじめまして、お嬢ちゃん。お近づきのしるしに、どうぞ」
 と歌うように言うと『雲海わたがし』を地祇へ差し出すのだった。
 と。
「おーい、なにやってんだー?」
 恭也は資材を担ぎながら夢悠に話しかけた。
「ぴっ!?」
「あ、待って!」
 地祇は突然やって来た恭也に驚き、山の奥へと逃げてしまった。
 後には地祇に手を伸ばしたままの夢悠と、よくわからないまでも「なんかまずいことしちゃったかな……?」という表情の恭也だけが残されていた。