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ハロウィン・ホリデー

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ハロウィン・ホリデー

リアクション

「残念ながら樹様には途中で逃げられましたが、ワタシ達は最後まで楽しめましたね!」
 更衣室に戻ってきたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は、パートナーの林田 樹(はやしだ・いつき)が先に帰ってしまったことを悔やみながらも、しかし満足した様子で、連れ合いである新谷 衛(しんたに・まもる)を振り向いた。
「さ、普段着に着替えて下さいまし!」
 そして、鞄の中から着替えを取り出すと衛に差し出す。
 ジーナは可愛らしい魔法少女の衣装を、樹は肉体派魔法使いの衣装を身につけていたが、それももうおしまいの時間だ。
 ジーナは衛に着替えを押しつけると、自分の分の着替えを取り出して、さっさと着替えを開始しようとする。
 しかし。
「……ジナ……お前、この状況、わかってねぇだろ……」
 衛ははぁ、と深いため息を吐いて、押しつけられた私服を机の上に置いた。なんですの、とジーナが振り向く。
「鍵の掛かる、こんな個室に二人きり……襲ってくれと言っているようなもんだろ?」
 きょとんとして居るジーナの正面に立って、その肩を掴む。乱暴にならないように気をつけながら、けれどどうしたって勢いが付いてしまう。そのまま二人もつれてベッドに倒れこんだ。ジーナは呆然と、衛の事を見上げている。
「いいかジナ、何回も言ってるとおり、オレはお前が好きだ。お前はどうなんだ?いい加減オ レ返事聞きてぇんだけど……言わねぇと、このまま襲うぞ」
 衛の真剣な顔と言葉に、ジーナは見る間に顔をぐずぐずにする。
「ワタシ、こんな身体ですよ……こんななのに、あんたに、好きって、言われて、どうしてい いのか、わかんないでございますですよう……」
「ったく、泣くなよ、オレは体のことは気にしねぇって言っただろ! オレだって野郎の心に 女の体だぜ! ……んで、お前はオレのこと、好きなのか?嫌いなのか?」
 瞳に溜めた涙をぽろぽろと落とすジーナに、衛は少しやりにくい物を感じながら、その涙を拭ってやる。けれど、問い詰めることはやめない。
 ジーナは尚も涙をこぼし続けながら、ふいっとそっぽを向いた。
「大嫌い。いつもどきどきさせるし、いっぱいワタシの作ったご飯食べるし食べたあとお腹ポ ンポコ叩いて喜ぶし、それにそれにあんたが笑うと胸がきゅーってなるから嫌いです!」
「……あのさ、自惚れていいなら、ジナの台詞は『オレが好き』って答えてるじゃん」
 そっぽを向いた唇が紡いだ言葉に、衛はふっと笑顔になる。そして、まだ泣き止まないジーナの頭をそっと撫でてやった。
「でさ、今のジナ、とっても可愛いから襲っていい?」
「うるさい、うるさいでやがります、バカマモ。そういうのは、きちんと手順を踏むべきでご ざりやがりますっ!」
 嬉しさを抑えきれない衛の言葉に、しかしジーナは頬を膨らませてどん、と衛の胸を押し返した。今此所で無理に手を出すのは、これから先の為にならない。そう判断した衛は大人しく引き下がる。
「わかったわかった……じゃ、キスだけな」
 今度はジーナも不満を言わない。それを良い事に、衛はそっと唇でジーナに触れた。

●○●○●

「今年は……まともだったわね……」
 身につけていた衣装を外しながら、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はほっとため息を吐いた。
 去年、パートナーであり恋人でもあるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に着せられた衣装のことが頭を過ぎる。あの、羞恥心という言葉が裸足で逃げ出すような、衣装、というか包帯。今年はまたどんな衣装を持ってくるのかと思ったが、セレアナの予想を裏切り、今年セレンフィリティが用意してきたのはゴシックパンク風の魔女の衣装だった。アクセサリーなどもトータルコーディネイトされていて、奇抜ではあるがセンスは良い。
 が、セレンフィリティのことだ、例えば時間差で透ける素材を使っているとか――と、余計なことを考えて気が抜けなかった。パーティーはパーティーで楽しめたけれど。
「セレアナったら、人を露出狂か何かみたいに。そんな毎年きわどい衣装ばっかり用意しないわよ」
 ふふん、とからかうように言うセレンフィリティが身につけているのは、こちらはゴシックロリータ風の魔女衣装。トレードマークのツインテールに良く似合っている。
「どの口が言うんだか……」
 衣装の方が遙かに露出度の低い「私服」――つまりはビキニ姿に着替えようとしているセレンフィリティの背中を見ながら、セレアナは呆れたように呟く。
 なんだか今日はすっかり弄ばれたような気分だ。セレアナの心に、ふと復讐心が宿る。
 丁度セレンフィリティは着替えるために衣装を脱いだところ。今だ、とばかり、背後から襲いかかる。
「きゃっ、せ、セレアナ?」
「散々からかってくれて、覚悟はできているんでしょうね、セレン?」
 一糸まとわぬ姿のパートナーをベッドの上に縫い付けて、セレアナは勝ち誇ったように微笑む。
 とはいえ、セレンフィリティがこうされることを嫌がる訳も無くて、復讐になんてちっともならないのだけれど。それでも今日は少しくらい翻弄してやろう、と思いながら、セレアナは噛みつくように、唇を合わせた。

●○●○●

 三々五々、参加者達が帰って行く中、一人屋敷に向かう影があった。
 樹月 刀真(きづき・とうま)だ。パートナーの漆髪 月夜が潰れてしまったと連絡を受けて迎えに来た。
 と、向こうから歩いてくる玉藻 前の姿が目に入る。その背中には、ドレス姿のままの月夜が乗っていた。
「代わるよ」
 玉藻に言って、玉藻の背中から月夜を受け取り、自分の背中に背負う。いつもより少し体温が高いような気がした。アルコールの所為だろうか。
 むにゃ、と月夜の口元が動いたような気がして、耳を傾けてみると。
「とうまの……ばか……」
「な……」
 突然寝言で馬鹿呼ばわりされた刀真は、驚いたような不満なような、複雑な表情を浮かべる。
 隣を歩く玉藻はただ、ニコニコとそんな二人の様子を見守っていた。

●○●○●

「うん、楽しかった」
「うん、楽しかった」

 全ての参加者が帰った後のホールで、ののとパトリックは二人だけで乾杯していた。
 ジュースだけど。

「今回は何事も無くて良かったな」
「余計なことはしなかったもの。経験には学ばないとね……」
 ののはちょっと遠い目をした。パーティーを盛り上げるために余計なことをすると、余計な厄介を呼び込むのだと以前のパーティーで学ぶ羽目になったから、今回は素直に、ゲームの用意だけに留めておいた。
 ゲームもほどよく盛り上がり、用意したお菓子の類いもほとんどが無くなった。参加者達はみな、それぞれに幸せそうな顔で帰って行った。――中には、そうでもない人達も居たようだけれど、きっと、彼らなりに超えなければならないステップを超えていったのだろう。
 自分達の欲のためだけに開催して居るパーティー――そんなことは参加者には口が裂けても言えない――とはいえ、楽しんで貰えるのは心地が良い。

「次はそうね……何をしようかしら」
「……ま、面倒ごとが起きないなら手伝ってやるよ」

 屋敷の夜は、更けていく。





――おわり。

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

お待たせ致しました……ハロウィン・ホリデー、リアクションをお届け致します。
遅くなってしまい申し訳ございませんでした。

産休前最後〜とアナウンスを入れた所為か、沢山応援の私信を頂きまして、ありがとうございました。
復帰した暁には、かわらぬご贔屓のほどお願い申し上げます。(ぺこぺこ

さて、今回は特に何の事件も起こらず、思う存分いちゃいちゃしてね! というシナリオでしたが、ちょっと導線をミスりましたね。ええ、更衣室大混雑でしたよね。
このお屋敷の客室は一体いくつあるんだろう……と思いながら。沢山あるんでしょう、きっと。

気合いの入ったアクションを沢山頂きましたが、イベシナということで描写は原則として1カップルワンシーンに限定させて頂きました。
(……の、割にはなんか、イベシナとは思えない文章量があるわけですが……)

そんな訳で、一度お休みに入らせて頂きますが、身辺が落ち着き次第戻ってくる予定です。
春先には戻って来たいな、と思いつつ……また、状況が明らかになりましたらマスターページなどでお知らせして参ります。
では、またお目に掛かる日まで。