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第二章 先手必勝です!
「こういうゲームは勢いが大事だよね。いくら旗を取られないように防御しても、奪われるときは奪われてしまうし、相手のチームから旗を取らないと勝つことができないから。積極的に旗を取りに行くよ!」
 先手必勝、とばかりに飛びだしたのは佳奈子とエレノアだった。
 空飛ぶ箒に跨った佳奈子とその背の翼を羽ばたかせたエレノアが、スタートダッシュを決め。
「こっちも突撃ぃぃぃぃぃぃっ、だよ!」
「先ずは一本、決めるであります!」
 負けじと青チーム、ミョルニルを振りかざした翠や、軽いフットワークの吹雪が飛び出してきた。
 両者が狙うは中央、隣合う青と赤の旗だ。
『空で遅れを取るわけにはいかぬな!』
 させじと、佳奈子とエレノアに襲いかかるブリザード。
 避けながらの飛行に、流石にスピードも落ちる。
『こちらとて、そう簡単には進ませぬぞ』
 同じく、冬将軍の放った冷たい風が、翠と吹雪の肢体にまとわりつく。
「迂回するよりココはイチかバチか、正面突破だね!」
「甘いわね」
 梢の目の前、弾けたセレアナの【光術】(威力は落としてあるわよ)が赤チームの視界を暫し、奪う。
『うぬぅ、卑怯な!』
『何、戦術という奴じゃ。お主のような単細胞には無縁やもしれぬがな』
『『……っ!!!!!』』
「……マズい、です」
「ちょっ、熱くなり過ぎないでって!」
 どれだけ沸点が低いのか、怒りマークを浮き上がらせる精霊達にエンジュとジェニファが嫌な予感を覚えた、正に次の瞬間。

 雪の女王と冬将軍、怒りに任せた両者の力が、真正面からガチでぶつかり合った!

 吹き荒れるブリザード。
「きゃっ!?」
 煽られ吹き飛ばされる佳奈子を抱きとめるエレノア、共に場から少々弾き出され。
「……くっ!?」
「わわわっ?!」
「場所が悪い、無理は禁物であります!」
 中心部から僅かに離れた場所にいたエンジュと翠と吹雪は、腰を落とし何とかその場に踏みとどまった。
 そして、正にその中心部にいた者たちは。
 上……空に巻き上げられる『青』。
 視界の隅を掠めたその色にジェニファは咄嗟に手を伸ばした。
「……ジェニファ!」
 暴風に舞い踊る金色、空にさらわれる華奢な身体、マークはそれこそ縋る様に抱きついた。
 腰元を両手で抱き、必死に留める。
 心臓が胸から飛び出しそうな、永遠にも感じられる一瞬。
 だが、この事態に反対に踏み込んだ者達もいた。
「どっかに飛んで行っちゃったら、ゲームが台無しだって!」
 小さな翼を握りしめた梢は、雪原を蹴り空に……青に手を伸ばした。
「ピンチはチャンスってね」
 セレンフィリティもまた、【ポイントシフト】で旗へ一跳で距離を詰め、その赤を掴んだ。
 風に強く翻るロングコート、いつもの如くメタリックブルーのトライアングルビキニ姿は白い凍えた世界とは相容れぬ筈だが、セレンフィリティが怯む筈もなく。
 不意に、暴風の洗礼は終わった。
 その唐突ささえ予定調和だったように、
「ちょっとは焦った?」
「いつも通りでしょ」
 引き寄せる腕の中、セレンフィリティは当たり前の顔で帰着した。
 同じく、梢も……。
「ひぎゃっ!?」
 ……あ、梢サンの方は着地に失敗したようです。
「でっでも、旗は落としてないよ〜」
 雪に受け止められた身体は幸い、ケガ一つない。
「よくやったわ!」
 戦果に喜色を浮かべたジェニファは、ふと動けない事に気付いて、未だ自分を引き倒したままのパートナーを見つめた。
「……っ、ゴメっ!?」
(「姉さん、柔らかっ……てか、名前、つい……っ」)
「ううん、助かったわ。それにしてもやっぱり男の子なのね。意外と力強くてビックリしたわ」
 慌てまくり離れたマークとは対照的に、ジェニファは何事もなかったように笑い。
「残り二個ね、さぁこっちも負けてられないわよ!」
 すっくと立ち上がり移動を開始した。
「勝利の為には、冷静さが必要であります!」
「私達の動きを……ていうか周りをよく見る事だよ」
『う、うむ。すまなかったのじゃ。お主らにケガがなくて良かったのじゃ』
 既に敵チームの翠や吹雪達は、次のターゲットへと動き出した後なのだ。
「冬将軍も、そんな緩んだ顔しないでさっさと行くわよ」
『……承知!』
「……ッ!」
 マークは真っ赤な顔と、まだまだ収まりそうにない心臓を抱え、急いでジェニファと冬将軍を追うのであった。

「エンジュ、どうかした? ケガでもしたの?」
 ジェニファとマークを、セレンフィリティとセレアナを、じっと見つめていたエンジュにティナは問い掛けた。
「いえ、大丈夫です……ただ……ただ、どうして私は一人なのかと……そう思って……」
 エンジュの答えは不明瞭だった。
 自分でも何を言っているのか分からない、ように。
 奈夏とケンカをして、というかエンジュからすると一方的に詰られて、今は敵同士というのは分かっている、のに。
「私は……壊れてしまったのでしょうか……?」
 不安げなエンジュに、ティナとミリアはふるふると首を振った。
「エンジュ、それは『寂しい』って気持ちだわ。エンジュさんは奈夏さんと同じチームじゃない事が、一緒のチームで協力出来ない事が、寂しいのよ」
「……寂しい」
「私はエンジュさんが大好きだから、奈夏さんと仲直りして欲しいです。でも、それはエンジュさんが心から望むなら、です」
 その姿を見、思わず告げたのは瑠璃だった。
 瑠璃もまたエンジュを友達だと思っているから。
「エンジュさんがどうしたいのか……答えを出すのはエンジュさん自身ですよ」
 心配だけれど、答えが出せるのはエンジュ自身しかいないと思うから、ただ願いを込めて背を押すのだ。
「だから、いってらっしゃい」
 大切な友人達に背を押されたエンジュは、一度頷き敵陣……否、パートナーの元へと走り出したのだった。