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 卒業式を終えた後。
 短大を卒業した桐生 円(きりゅう・まどか)は、寮に戻る前に校長室へ向った。
「今までごめんね。迷惑かけて」
 円は、この学院の実質のトップであるラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に挨拶に訪れたのだ。
「卒業できるだなんて、入学したては、全然思ってなかったなぁ。どこかでのたれじぬだろうって思ってた」
 そんな円の言葉に、ラズィーヤはくすっと笑みを浮かべる。
「そうですわね。桐生円さんがこんなに長く在籍してくださるとは、思いませんでしたわ」
 苦笑しながら、円はぺこっと頭を下げた。
「ソフィアの件はありがとうございます」
「ええ。これからどうしますの? 百合園を去られるのでしたら、寮を出るのですよね」
「えっと、恋人がロイヤルガードをやめるまでは、ヴァイシャリーでサバゲショップをやっていこうと! 野球で広報担当やってたから、宣伝のノウハウはあるし、うん、頑張っていくつもりです」
「ふふ、のたれじなないでくださいね」
「大丈夫!」
 断言できる。大切な恋人と一緒だから。
「サバゲショップ、学生にも勧めてね!」
「その前に、どのようなお店なのか下見をさせていただきませんと」
「うん、ラズィーヤさんにも気に入ってもらえる店に……出来る、かな」
 サバゲーをするラズィーヤの姿が思い浮かばず、円は腕を組んでちょっと考える。
「あ、それから」
 お礼の他に、話しておきたいことがあった。
「ロザリンドさんなんですけれど、ダークレッドホールの事件の時、罪を一人で被っちゃって。シストに確認すれば分かるかと。……って、知ってます?」
「……はい」
 ラズィーヤは普段通りの、底の見えない笑みを円に向けた。
「そっかそれならいいんだ。誤解をといて欲しいわけじゃなくて、上の人が覚えていてくれたなら、双方とも幸せになれるかなって」
「ロザリンド・セリナさんにつきましては、公にも評価をされていますので、幸せになれるかどうかはご本人次第ですわ。こうして心配してくださるご友人がいるのですから、大丈夫でしょう。
 あともう一人、名前を上げられた方につきましては……しばらく忘れてくださいませ」
 彼が、このパラミタに戻ってくるまでは。
 小さな声で、ラズィーヤはそう続けて。
 それから。
「今まで、ありがとうございました。これからも、ヴァイシャリーをよろしくお願いいたしますわね」
 円にそう言って、微笑んだ。

「お疲れ様でした」
 生徒会室に訪れたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)に、ティリア・イリアーノが、お茶を出した。
「ありがとうございます」
 ロザリンドはお世話になった友人達への挨拶を済ませてから、この場に訪れていた。
 白百合団の副団長としてティリアと一緒に活動するのも、今日が最後だった。
「実はお願いがあるのです」
 出されたお茶を一口飲んだ後、ロザリンドはティリアに秋の事件のことについて、自分の指示であったという証拠を作って、報告をしてほしいとお願いをした。
 折角新しい形になろうとしている時に、不安と諍いの種火を残しておきたくないから、と。
「うーん、そうねぇ……私には嘘の証拠は作れないかな。学院に残る役員が学生たちに虚偽の報告をしたのなら、それが私達への不信の火種になるかもしれないし」
 ダークレッドホールに関しての白百合団員の行動は、ロザリンドの指揮で行われたことになっている。
 そして、百合園生全員帰還、生存者救出といった成果を収めたこと、その後の調査活動も含め、ロザリンドの指揮、団長の風見瑠奈、そして白百合団は人々に評価されていた。
「証拠は作れないけれど、セリナ副団長の指揮であったとされていることについては、問われなければ触れるつもりはないわ。そして、そのセリナ副団長の指揮に問題があったと指摘されたとしても、団員の行動が個々の判断だと公になったとても、どちらにしても私達副団長を含めた団員の行動の責任を負うのは団長の瑠奈よ。
 元々瑠奈は、地球に戻ることを考えてはいたけれど、この白百合団の改革を終えた後には、自分はパラミタにはいられないということも分かっていたはず。
 この先、何か問題が起きた時。恨まれ、憎まれ、責められる対象は――彼女なのよ」
 ティリアはお茶を飲んで、ほっと息をついて。
 ロザリンドに微笑みを向けた。
「勿論、功績を一番称えられるのも瑠奈だけどね。
 大丈夫、種火は瑠奈が全部持って行ってくれる。だから、私はここで新たな学生達のグループの立ち上げに尽力を尽くして、後輩達を守っていくわ。
 ロザリンドさんは? 神楽崎先輩のように、百合園とヴァイシャリーを離れ、国に仕えますか?
 それとも、これからは別の立場で、百合園の皆や、校長を続けていく桜井静香さんを側で助けてくれますか?」
 ロザリンドには既にロイヤルガードという立場がある。
 今後は、より公務に携わっていくか。
 それとも、別の立場と所属を得るのか――。
(決めなければなりませんね)
 校長を続けると言っていた静香の顔。
 虚勢を張り続け、最後まで微笑みを見せていた瑠奈を思い浮かべながら、ロザリンドは立ち上がる。

○     ○     ○


 卒業生を見送った後。
 百合園女学院、部室棟。
 1階の隅の暗い部屋。しばらく使われていなかったその部屋に机や椅子が運び込まれていた。
「こういう机や椅子じゃなくて、早くソファーとテーブルが欲しいわね」
 クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)が、電気をつけて部屋の中を眺めまわす。
 窓はあるが、北側で校庭からも遠いその部屋は、人気がなくしばらく使われていなかった部屋だ。
「新学期には届く予定だよっ。新入生呼び込んで、うふふな歓迎パーティやろうねー」
 神月 摩耶(こうづき・まや)は部屋の中を歩き回って、家具を置く場所を考えていく。
 クリームヒルトと摩耶。
 それから、彼女達のパートナーのアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)リリンキッシュ・ヴィルチュア(りりんきっしゅ・びるちゅあ)は、4人で新しい部活を立ち上げたのだ。
 名前は『多文化交流研究会』
 地球やパラミタ、各国、各地に住む色々な人々との交流と相互理解を図ることを目的とした部活だ。
 ……という建前のもと、活動の許可を得た部活なのだが。
「ソファーはね大きいのにしたよ。大きなベッドにもなるやつ」
 無邪気な笑顔で摩耶がそう言うと、クリームヒルトが摩耶の腰を抱き寄せて耳元に口を寄せた。
「うふふふ。では、ソファーが届いたら思う存分そこで、語り合いましょう」
 クリームヒルトの手が、摩耶の服の中へと入り彼女の柔らかな体を撫でていく。
「うんっ。沢山遊ぼうね。見学に来たコとか、ボクらのテクニックでもっていっぱい気持ちよくしてあげるんだ♪」
 摩耶の手も、クリームヒルトの服の中へと滑り込み、背を撫で、胸へと到達する。
 甘い吐息が2人の口から漏れていく。
「ま、まさか……実態は、摩耶様とクリム様がお愉しみなされるための場、なのですか……!」
 リリンキッシュは2人の様子を見てうろたえて、後退りし窓やドアの方に目を向けて、おろおろしだす。
「よもや学内でこのような行為に及びだしてしまうとは、私は一体どうしたら……」
 くすっと小さな音が響いた。
「!!」
 リリンキッシュの身体がぴくっと震える。
「お2人だけではありませんわ」
 アンネリースが、リリンキッシュを背後から抱きしめ耳に、息をふきつけていた。
「アンネ様……」
「貴女にはわたくしがいますわ……。わたくしたちも、存分に語り合いましょう」
「語り合う、とは……?」
 アンネリースの手が、リリンキッシュの服の上から彼女の胸へと回った。
「リリン様。わたくし達は、主達の素晴らしい性活を支える義務がございますわ」
「!? た、確かにアンネ様には良くして頂いていますが、今はそういう話をしているのでは……」
「貴女様には、わたくしが居るではありませんか。それではご不満ですか?」
 リリンキッシュの腕が、アンネリースの胸を包み込み、強く抱き締めていく。
「ふふ、これがボクらの多文化交流なんだよ」
「素敵な活動が出来ると思うわ。あたし達なら、ね♪」
 めくるめく交流をしながら摩耶とクリームヒルトが言うと。
 摩耶に依存して生きているリリンキッシュは、異質と思いつつも受け入れ染まっていってしまう。
「……これも交流、と言えば確かにその通り、でしょうか……」
 アンネリースの抱擁と、甘い吐息を受けて、大きく息をつき。
 リリンキッシュはこう続けた。
「……アンネ様。その……私とも、お互いに理解を深めて頂けますでしょうか……?」
「勿論で御座います、リリン様。それでは早速、んぅ、ちゅっ♪」
 アンネリースの唇が、リリンキッシュの首筋に触れ、強く吸った。
「あ……っ」
 リリンキッシュの口から声が漏れて、呼吸が荒くなっていく。

 少女達の楽しげな笑い声と、可愛らしい甘い声が響いていた。
 この薄暗い部屋で、新学期から彼女達の本格的な活動が始まる。