空京

校長室

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション公開中!

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション
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リアクション

 
●まだまだ祭りは終わらない!

 ロックフェスが終わった会場は、十二星華と五精霊、生徒たちが入り乱れての打ち上げ会場に入れ替わっていた。
「ふぅ……体力には自信があるとはいえ、流石にこれだけの人となると骨が折れるな」
 海の家から会場に料理やジュース、お酒を持ち込む作業に従事していた湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が、それらが詰まったケースを砂浜に降ろして一息つく。
「……で、祥子はどこに行ったのだ。給仕をしているはずだったが……」
 ランスロットが辺りを見回し、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の姿を見つけようとする。
「ティセラ様、ライブの方お疲れさまです」
「ふふ、ありがとう。あのような経験は初めてでしたけど、意外に面白かったですわ。機会があればまた是非」
「……ティセラがするなら、私も」
「あ、あたしはやらないわよ!? やるにしたってあんたたちだけでやってよ!?」
 その祥子は、早速杯を傾けていたティセラ、パッフェル、セイニィの所へ赴いていた。
「ティセラ様、時にお酒の方は嗜まれる方ですか? もしよければ、私と飲み比べなどいかがでしょうか」
 空いたティセラの杯にお酒を注いだ祥子が、微笑の内に確かな自信を忍ばせて勝負を持ちかける。
「その様子ですと、祥子さんは自信がおありのようですわね。わたくしも誇れるほどではございませんが……十二星華のリーダーとして退くわけにもいきませんものね」
 少しだけ上気した顔をほころばせて、ティセラが祥子の前に置かれた杯にお酒を注ぎ、チン、と杯を合わせる――。

(祥子、私の次はティセラにも勝つつもりでいるな。……いや、ティセラがどれほど飲めるかは聞き及んでいないな。これはもしや、面白いことになるかもしれんな)
 時折届く歓声を耳にしながら、藤野 赫夜(ふじの・かぐや)がそれらへ背を向けると、天 黒龍(てぃえん・へいろん)が視界に入った。向こうも赫夜を視界に捉えたようで、二人の距離が縮まる。
「……一目見た限りだが、今日という日を満遍なく過ごしたように見えるな」
「そうか? ……そうかも知れぬな。これほど多くの者達と、しがらみなど考えず過ごしたのはもしや初めてのことであろうな」
「折角だ、高漸麗にもその話を聞かせてやってくれ。私は飲み物を取ってこよう、先に行っておいてくれ」
 一旦黒龍と別れ、赫夜は海の家を少し出た所で波の音や砂の音などに耳を傾けていた高 漸麗(がお・じえんり)の所へ向かっていく。
「この声……赫夜さん? どう、今日は楽しんでる……は愚問だったね」
「黒龍にも同じようなことを言われたよ。隣、失礼する」
 頷く漸麗の隣に赫夜が腰を降ろし、そして二人今日という日についてを語り合う。
「待たせたな。何を話していたのだ?」
 しばらくして黒龍が姿を見せ、漸麗と赫夜にそれぞれ飲み物の入った器を手渡す。
「色々だよ。……うん、冷たくておいしいね、このお茶」
「ああ、そうだな……ん? 高漸麗、今何と言った?」
「え? 冷たくておいしいね、このお茶って……」
「私が渡したのは酒だったはずだが……」
 もしや、と黒龍が、どこか興味津々とした表情で漸麗が振り向いた先で、赫夜は――。

「赫夜さんですよね? 私、リースって言います。早速ですけど……その胸触らせて!」
 赫夜を見つけたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)が、『おっぱい党』秘書として党員の『おっぱい鷲掴み』を成功させるべく、果敢に囮役として正面から両手を伸ばして赫夜の胸を狙う。おそらく自分の行動は失敗する、そう思っていたリースは、両手に伝わる弾力のある感覚に、面食らった表情を浮かべた。
(……へ? これって、胸、だよね? ということは……)
 恐る恐るリースが顔を上げると、

「……脇が甘い!」
 
「えっ――ひゃんっ!」
 突如伸びてきた赫夜の両手に胸を掴まれ、リースが甘さの混じった声を漏らす。
「胸を揉む覚悟があるということはすなわち、胸を揉まれる覚悟もできているということであろう?」
「赫夜さん、何を言って――んんっ!」
 引き寄せられ、背中に胸の感触を感じながら胸を揉まれるリースは、まさか赫夜にこのようなことをされるとは欠片も思っていなかったであろう。
「ええっと……リースちゃんが胸を揉みに行って、どうして逆に揉まれてるのかしら?」
 そして、遠くでその光景を目の当たりにしていたミリル・シルフェリア(みりる・しるふぇりあ)も、当然のように戸惑いの表情を浮かべていた。
「……何も無ければいい、とはもはや言えぬな……せめて怪我人が出ぬことを祈るばかりか」
「赫夜さんが酒乱って本当だったんだねー。うーん、こればかりは見てみたかったな」
 ミリルの隣に座って状況を眺めていた黒龍と漸麗が、後は見守るしかない状況を見守っていた。

「な、何と嬉しい状況……いや違う! 党員のピンチに党首である俺が行かなくてどうする! ……すまない赫夜さん、一人に多数は卑怯かもしれない……だがこれは、おっぱい党として負けられない戦いなんだ!」
 リースの危機に――酔っ払った赫夜がリースに絡んでいるだけともいう――、『おっぱい党』党首の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が立ち上がり、突撃の覚悟を固める。
「ゼファー、俺に続け! 今はやるしかないんだ!」
「え? えとえと、手伝えって言われても、何をすればいいの〜?」
「魔法で注意を引く……はリースさんも巻き添えにする……ならば、この身をもって突撃あるのみだ! 逆に揉み返されるかもしれないから覚悟しておけ!」
「そ、そんなぁ〜」
 ちょっぴり涙目のゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)を引き連れ、正悟が大きく迂回して背後から赫夜の胸を揉みにかかる――。

「背後からとは卑怯な!
 男なら正面から来い!」


「ご、ごめんなさーーーい!」

 直後、赫夜の喚び出した星双頭剣『デュエ・スパデ』の一撃をもらって、正悟が宙を舞い砂浜に埋没する。
「あうあう……ご、ごめんなさい! ご主人様に付いて来いって言われたのが嬉しくて……この服をあげますから許してください〜」
 一人残されたゼファーがすっ、と一着の服を赫夜に差し出す。それは、よくゼファーが家で魔法少女ごっこで遊んでいる時の魔法少女な衣装であった。
「…………」
 すっかり弄ばれ、息も絶え絶えなリースを解放した赫夜が、その衣装に手を伸ばす――。

「星双頭剣捌き、刮目して見よ! 魔法少女アルタルフ!」
 魔法少女な衣装、そして名乗りをあげ非常に楽しそうな様子の赫夜を目の当たりにして、カヤノがはぁ、とため息をつく。
「ちょっと、あんたの仲間が早速暴走してるわよ。何とかしなさいよ」
「……どうでもいい。私はティセラにしか興味ないから」
「……十二星華ってこんなんばっかりなの!?」
 離れた所からティセラをうっとりと見つめるパッフェルに、カヤノが頭を抱える。
「皆さん、今日新たに雪だるま王国にカヤノさんとパッフェルさんが入国することになりました! お二人の入国に、そしてこれからのより一層の雪だるま王国の発展に、乾杯!」
 そこへ、赤羽 美央(あかばね・みお)の口上が響き、この場に集まった『雪だるま王国』国民たちが歓声と共に杯を鳴らし合う。
「……もう、勝負の結果が『雪だるま王国に入国してください!』なんて、何事かと思ったわよ。で、ここであたいは何をすればいいわけ?」
 ここに来る前、美央とジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)とのビーチバレー勝負に負けて、雪だるま王国国民としてこの場に呼ばれることとなったカヤノの質問に、挨拶を終えた美央が答える。
「うーん、特に何かしてもらおうって思ってなかったんですが。雪が少なくて困った時に助かるかなって」
「雪ねぇ……正直、そっちはレラの得意分野なんだけど――」
 カヤノが掌に氷柱を生み出し、空に投げるようにそれを放る。すると、空から小さな氷の粒が落ちてきた。
「あたいにはこれくらいが限界ね。ま、こんなんでよければ、気が向いたら何かしてあげるわ」
 美央とカヤノが話に興じるその横で、同じくビーチバレー勝負で鬼崎 朔(きざき・さく)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)に敗れ入国を強いられたパッフェルはというと――。
「これでお前との決着も付いた。これからは雪だるま王国のため、働いてもらうぞ」
「……そう上手く行くかしらね。国を維持するということは、大変なことよ。どんなに小さなものであったとしてもね」
 杯を寄せてきた朔に相変わらずの無表情で応えつつ、まるでかつての自らの経験を語るように呟く。
「それくらい分かっている。たとえどれほど困難が待ち受けていたとしても、私は雪だるま王国の一員として女王にお仕えするまで」
「……ま、好きにするといいわ」
 朔の言葉を肯定するでも否定するでもなく、パッフェルが杯を傾ける。

「俺は、アムリアナ女王が連れて行かれるのを見てる事しか出来ませんでした。
 ですが、彼女は必ず取り戻します。
 そして、リフル、君を女王と会わせてあげる……いや、別にいいけど君食べ過ぎじゃない?」
「……大丈夫。腹八分目はわきまえてる」
 樹月 刀真(きづき・とうま)に頷きながら、リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)が次の皿に手を伸ばす。
「ここの場は刀真が持つって話だから、好きなだけ食べるといいよ!」
「……そうする」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に勧められた料理を、リフルが有り難く受け取って平らげる。
「いや、そんな話してませんから。……しかし、これだけの料理を用意し、なお俺たちのバイト代まで支払うようなスポンサーとは一体……まさか環菜が?
 考えに浸っていた刀真が視線を感じて振り向くと、リフルと視線が合う。
「……私も頑張るから」
 それが、先程自分が話した女王のことに関するリフルの返事だと気付くのには、少々の時間を要した。
「……だから、今はお腹いっぱい食べる」
 再び料理に手をつけ始めるリフル、そんな彼女を見遣って刀真がフッ、と微笑み、自らも料理の皿に手を伸ばした。