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【GWSP】サルヴィン川、川原パーティ

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第2章 小憩

 飛空艇でたまたまこの近くを通りかかったミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)は、クイーン・ヴァンガード特別隊員や十二星華のテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)、パートナーの皇 彼方(はなぶさ・かなた)達と共に降り立って、集まっている人々と交わることにした。
 肉類は持っていなかったけれど、訪問先で戴いたチョコレートの詰め合わせを持っての参加となった。
「こちらへどうぞ」
 クイーン・ヴァンガードの伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、隊員達が用意したテーブルへとミルザムを招く。
「あれ、女王候補様じゃない?」
「うそっ?」
「おおー」
 参加者達の目がミルザムに向けられていく。
「楽しませていただきます」
 と、ミルザムは皆に微笑みを見せる。
「よろしくねー」
「肉足りなかったら言ってくださいね」
 若者達から元気な声が返ってきて、ミルザムはほっと息をついた。
「ま、ここでヤボな騒ぎ起こして八学全部敵に回すほど寺院も十二星華も馬鹿じゃないと思います。学園よりむしろ安全かもしれませんよ?」
 明子がそう言い、ミルザムは「そうですね」と頷いてテーブルにつく。
「ミルザム様、皆さん、こんにちは」
 少女が1人、笑顔を浮かべて走り寄って来た。ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)だ。
 皆と挨拶を交わした後、ソアはミルザムの後ろに控えている人物に歩み寄る。
「テティスさんこんにちは、以前はお世話になりました。偶然こんな場所でお会いできるなんて! よかったら一緒にバーベキューしませんか!?」
「ええ、喜んで。私もお会いできて嬉しいわ」
 声をかけられたテティスも笑顔を見せて頷いた。

 クイーン・ヴァンガード達の手で、肉や野菜が焼かれていく。
 彼らだけではなく、差し入れ持参でミルザムの元に若者達が集ってくる。
「素敵ですね……」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)がそう声を漏らしながら、ミルザムに近づく。
「こうして、学校など関係なく集いあって、楽しく時間が過ごせることを、とても素敵なことだと思います」
「ええ」
 ナナの言葉に、ミルザムが微笑みを見せる。
 こうして各学校共に、手を取り合ってゆければいいのにと思いながら、ナナは持参したパイをテーブルに乗せて、ナイフを取り出す。
「イルミンスールの森で採れた果物を使って作ったんです」
「美味しそう。自然の中の学校って、心が和みそうですよね」
「ええ……とはいえ、毎日様々な問題が起きていますけれど。校長が起こしていることもあったりして」
 笑いながら、ナナはパイを切り分けていく。
「ミルザムさん、どうぞ」
 特別隊員の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が、ミルザムに紙皿とフォークを渡す。
「ありがとうございます。こうして様々な立場の皆様とお話が出来る機会が持てたことを嬉しく思います」
「あー」
 明子が肉を焼きながらミルザムの言葉に、声を漏らす。
「僭越ながら進言いたします。『様々な立場の人とお話する機会』ってのは今回頭から追い払って下さい」
 はっきりと言って、明子はミルザムの皿に焼けた肉を乗せていく。
「パーティなんです。楽しまなきゃダメです。余計な事考えると皆の気分に水差します」
 ミルザムの目を見て軽く首を傾げると、ミルザムは淡い笑みを見せた。
「そうですね、私――以前はどんな会話をしていたんでしょうね」
 踊り子シリウスとして旅をしていた頃と今では、生活ががらりと変わっており、自由もなくなってしまっていた。
 自然な会話が出来ていた頃のことを思い出しながら、ミルザムは肉にフォークを刺していく。
「旅をして回っていた頃も、このように食材を持ち寄ってパーティを行う機会はありましたか?」
 そんなミルザムに、優斗は他愛無い話をふっていく。
「ええ、その地方により、集まる食材が全く違いました。ここには地球の方が多く集まっていますから、地球でよく食べられているものが多いようですね」
 ジャタの森で採れた甘い果物のことや。
 荒野で飼われていた不思議な動物。
 パラミタ内海で漁師が釣り上げた巨大魚の話。
 優斗の誘導で、各地に住む一般の人々の話や珍しい食べ物について、ミルザムは皆に話していく。
 その話はとても興味深く、若者達は目を輝かせて聞いていた。
「あの村の牛乳はとても美味しいですよね。僕も戴いたことがあります」
 時折、優斗は言葉を交えて、ミルザムが浮いてしまわないよう、話を弾ませて、自然に溶け込めるよう努めていた。

「焼きそば出来たぜ〜!」
 トライブが皿に焼きそばを盛り付けていく。
 テーブルについている女性がミルザムだとは分かっていたが――薬などは入れていない。普通のキャベツと豚肉入りのシンプルな焼きそばだ。
 青海苔とからしマヨネーズをかけて、皿に山盛り盛った後、紅しょうがを添えて1人前完成だ。
「あんたにはこれ、キミにはこれで、そっちの子はこれな〜」
 次々に配っていくが、量が全く違う。
 なんだかミルザムに渡した焼きそばの量が異常に多かった。
「嬉しいのですが……こんなには1人では食べられません。5人前でしょうか?」
「というか、どういう基準なの?」
 明子はミルザムと自分が受け取った焼きそばを見比べながら問う。
「基準? ……胸の大きさ?」
「は?」
 眉を顰める明子にトライブはにやけ顔で説明をする。
「ほら。やっぱり、大きいとそれなりに燃費の問題が……」
 冷たい視線を感じ、トライブはそこで一旦言葉を切った。
「う、嘘です、冗談です。チビッ子にも食わせてやるさ。沢山食って、大きく(胸が)なれよ!」
「心の声が聞こえた気がする……」
 明子は変わらず冷たい目をトライブに向けていた。
「気のせい気のせい〜」
 笑いながら、トライブは子供達にも焼きそばを配っていく。

「楽しそうですね。皆日ごろ頑張ってますから、ゆっくりしてもらいたいです」
「ほんと」
 そんな様子をソアとテティスはミルザムの後方で、談笑しながら見守っていた。
「お、釣りとか水浴びやってる奴等もいるな。散歩しようぜ!」
 ソーセージをかじりながら、彼方が川の方を指差す。
「構いませんでしょうか?」
 テティスがミルザムに尋ねると、ミルザムは首を縦に振って。
「いってらっしゃい」
 と、微笑んだ。
「ありがとうございます」
 テティスはソアと微笑み合い、彼方と一緒に川の方へと向うことにする。

 ナナが持ってきたフルーツのパイを食べ、紙コップに入った紅茶を飲みながら、若者達は談笑を続けていた。
 一般の生徒との会話を終えて、一息ついているミルザムのコップに紅茶を注いだ後、ナナは隣へと腰掛ける。
「本音でいいので、ミルザム様は、このシャンバラの為にミルザム様御自身が何を出来ると御考えですか?」
 ナナのその問いに、紅茶を飲みながらミルザムは考えを巡らせて。
 ゆっくりと瞬きをした後、こう答えた。
「真のシャンバラ女王が起った時のために、シャンバラ女王に仇為す者を少しでも減らすことです。……今は、そう思っています」
 こくりと頷くナナに、ミルザムも問う。
「ナナさんは、何が出来ますか?」
「私は……」
 ナナはミルザムと一緒に、笑いあっている若者達へと目を向けた。
「自分の周りにいる人達の笑顔だけでも守っていければと思ってます」
 と、言う。
 ミルザムは微笑んで頷き。
 明子と優斗も顔を合わせて頷きあう。
「またいつでも、歓迎いたします。時間が取れた時には、一緒にこうして楽しみましょう」
 優斗はミルザムにそう囁いて微笑んだ。
 ミルザムはゆっくりと頷いて若い女性らしい華やかな笑みを見せた。