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リアクション
第4章 闇ばーべきゅー
「ねぇ塩振ったほうがいいよね? 嫌って言っても、振るけど」
桐生 円(きりゅう・まどか)は、用意してきたレバー、ハツ、タンに心を躍らせながら塩を振っていく。
「好きにどうぞです。円は内臓系がホント好きですね〜っ」
桐生 ひな(きりゅう・ひな)は、料理の準備をしながら、にこにこ笑みを浮かべている。
そしてバターとマヨネーズ、沢山のキノコを鉄板の方へと運んでいく。
「じゃーん、バーベキューの定番、フランクフルト〜」
久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、ぱぱぱっと取り出したフランクフルトを焼きだした。何故か少し怪しい笑みを浮かべている。
「遅くなりました。ちょうど料理を始めたところでしょうか」
そこへ、髪から水を滴らせ、体にもどろどろの液体を纏わらせた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が川の方から近づいてきた。
彼女が持つバケツの中では、魚達が混乱しているかのように奇妙な動きを見せていた。
水着のいろんな部分に餌をはさみ、体にも塗りたくって自らの体を餌に魚を酔わせて捕まえたのだ。
「な、んか……」
御堂 緋音(みどう・あかね)は、そんなつかさの……マイクロビキニ姿を見て目を丸くした。なんというか……恐ろしい子だと感じてしまう。
「いえ、バーベキュー始めましょう。それにしても、誰ですか、闇バーベキューにしようなんて言い出したのは」
言いながら、緋音は衝立を用意してまな板が見えないように隠す。
まな板の上に、紙袋の中から取り出した赤いパプリカを置く。
ちらりと円を見れば、彼女はレバーに夢中な状態だった。
軽く笑みを浮かべつつ、緋音はパプリカをみじん切りにしていく。
闇バーベキュー。
最初に誰がそのようなことを言い出したのかは分からない。
闇鍋とは違い、暗闇のなかで行うわけではなく。
食材の中に何かを仕込もうという少女達の可愛い遊びだった。
「召し上がって下さいませ」
つかさは焼いた魚を皿に乗せて皆に配っていく。寧ろ自分をも召し上がってくれといわんばかりに、可愛らしく誘惑的な笑みを浮かべて。
ここに男性がいたのならつかさの方にむしゃぶりついていただろう。
「ありがと。これは……普通の焼き魚っぽいよね」
沙幸は、つかさが魚を焼く様子を見ていたが、特に不自然なところはなかったので、ちょっぴりどきどきしながらも、箸で割いて戴くことにする。
「うん、美味しい。ちょっと変わった味付けだけど」
「ふふ……何の味でしょうね」
にっこりつかさは微笑む。ちなみにその魚に味付けなどはしていない。つかさが纏っていた汁にまみれていただけで。
「こっちも味に自信あります〜。普通の味のものも必要ですから」
ひながバターとマヨネーズで炒めて、醤油を垂らしたキノコの炒め物をテーブルの中央に置いた。
ぱくっと一口自分で食べて、にっこり笑みを浮かべる。
つかさと沙幸も自分の皿にとっていき、どきどき食べてみる。
「美味しいです」
「ホント、とても」
「こっちのキノコはもっと美味しいですよ〜」
ひなは皆の皿に、シイタケのようなキノコを乗せていく。
「うーうーうー」
突如、うなり声を上げたのは円だ。
円は緋音が作った、焼きおにぎりを食べていた。
ドライカレーの大辛・中辛・小辛三段階の味付けらしいので、一番色が薄いものを選んだ。
見かけは普通の焼きおにぎりで、舐めてみたけど普通の味で、割って中も見たけど変な具は入ってなかった、入ってなかったはずなのに。
「苦い」
ごくごくと、円は水を飲んだ。口直しに、キノコの炒め物もばくばく食べる。
「苦い? 辛いじゃなくて?」
「……苦い。あげる」
円は沙幸に、食べかけのおにぎりをパスする。
沙幸はぱくりと食べてみるが、普通に美味しい。大して辛くもない。
「おかしいですね。もう少し味が濃いものを食べれば平気ですよ。皆さんも食べて下さいね。色鮮やかで美味しそうではないですか?」
言いながら、緋音は円の皿に濃い目の焼きおにぎりを置いて、その一部を自分で食べて見せる。
「美味しいですよ」
「ダメ。……ピーマンの味がする」
円は受け取りを拒否し、皿を押しのける。
「でもピーマンではないでしょ?」
緋音が、焼きおにぎりの中の緑色の野菜を取り出して見せる。
「うん、ピーマンじゃない。ピーマンじゃないのなら、そのおにぎりが美味しくないってことだね」
円の言葉に緋音は真っ直ぐ誠実そうに彼女を見つめながら話していく。
「パプリカの味をピーマンと間違えてるんですよ。いいですか、円さん。ピーマン嫌いの子供は沢山いますが、それはピーマンに微量な毒素が含まれているからなのです。敏感な子供の舌では苦味を感じてしまうんですよ。つまり、ピーマンが食べられないということは、自ら私は子供ですと宣言しているようなものなのです」
がーん。
好物のレバーに箸を向けていた円の手が止まった。
「いつまでたっても、そんな可愛らしいふふ、子供のままでうふふ、いいのですかーあははははっ!!」
真剣な表情で語っていた緋音が突如笑い声を上げた。
「ううっ、いくらボクの……とかが小さいからって。子供子供ってヒドイ」
確かに慎重も低いし、胸も無いようなものだけど、でも今日はちゃんとパットかパットとかパット胸に詰めているしッ!
「さあ、お食べなさい。ピーマンを! そして大人になるのです」
ぐいぐいと、緋音は焼きおにぎりを円の方へと押す。
「な、に……」
円はポロリと箸を落とした。
焼きおにぎりが消え、目の前には巨大ピーマンが突如現れて、円に迫ってきたのだ。
「どうか、お食べください……」
ぴとっと、ピーマンは円に張り付いた。
「無理、無理無理無理無理無理無理無理無理無理むりむりむり……」
ただただ、円は首を横に振る。
「ああ、ダメ。そんなに大きいピーマンは流石に可哀そうです。円さんから離れなさい!」
緋音は巨大ピーマンを慌てて剥がそうとする――。
「……で、どーなってるの、これ」
ちょっと離れて見ていた沙幸は、皆が変になっていくことに唖然としながら、フランクフルトを口に運んだ。
「ん、あっ、辛ーいっ!」
皆に配ろうとしたチョリソーの方だった、気をとられていて間違って食べてしまった。
涙目になりながら、沙幸はごくごくと水を飲む。
「ふむ。つかさがピーマンになりきっちゃってるみたいです。流石に大きすぎて食べられないですよね。緋音ちゃんが止めてくれてるから安心です〜」
のんきにひなは言って、自分は円が持ってきたとっておきの高級黒毛和牛をぱくぱくと食べるのだった。
「んー、一体どうしてこんなことに?」
沙幸が痛そうに口を押さえながらひなに問うと、ひなはキノコの炒め物を手ににっこり微笑んだ。
「ハイになって混乱する毒きのこを一緒に炒めてみたんですっ」
「う、うわあ……」
「……でもそろそろ止めましょうか」
言って、ひなは水をこぽこぽと注ぎだす。
「ああ、拒否されるなんてそんな……」
ピーマンことつかさはとても悲しそうに円にすがりついている。
「ダメです。まずはパプリカから慣れていただきませんとーっ。あはははっ、美味しいですよー」
つかさを引き離しつつ、緋音は円の口におにぎりをぐいぐい押し付けていく。
「むぐーむぐーっ」
円がピーマンのように青く青く真っ青になっていく。
「とゆー、わけでお願いします〜さゆゆ」
ひなが笑顔を沙幸に向けた。
「え? あうん、これの出番ねっ!」
沙幸は偽フランクフルトを掴むと、えいえいえいっと皆の口に突っ込んでいった。
「か、辛ーい!」
少女達の悲鳴が響き渡った。
こうして円のトラウマがまた1つ増えたのだった。
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