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A Mad Tea Party

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A Mad Tea Party
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リアクション

 庭園から抜け出たと思ったら、彼女達の前に広がったのはガーデンパーティーの会場だった。
 長い長いテーブルの一等端の席で頬杖を付いていた彼は、まるで彼女達がくると知っていたかのようなタイミングでシルクハットのツバを摘み上げる。と、見事なゴールデンブロンドが目に飛び込んだ。
「やあ皆、冒険を楽しんでるかな?」
「ハインツさん! すっごくキラキラっ」
 空かさず写真を取り始めた歌菜に、ハインリヒは首を傾げる。帽子屋『役』として派手な服装に身を包んでいるが、彼自身はいつも通りだからだ。常時キラキラした妙な男、と言えなくもないが。
「ねえハインツ――」
「ジゼル、ミルクを取ってくれる」 
 出かけた言葉を笑顔で遮られ、ジゼルは素直に兄に従ってしまう。質問はお預けらしい。
「おちびさん、子やぎ達、女性を立たせてはいけないよ」
「はーい!」
 元気よく答えた兄タロウに続いて、リーダー格スヴァローグ・トリグラフ(すゔぁろーぐ・とりぐらふ)が先んじて動くと他の四匹の子やぎ達も続く。こうして彼女達は小さな生き物へエスコートされてお茶会のテーブルにつくことになってしまった。
 引いて貰った席にめいめい腰掛けて、彼女達はじっとハインリヒを見つめた。そして一体此れはどういう魔法なのかと問いかけたかったのだが……、どうしてもテーブルの上のお茶とお菓子がを攫ってしまう。甘い匂い、可愛い形は心を惑わすのに恰好の材料だ。
「あのあの!
 此方のお菓子とお茶は全て頂いて宜しいのでしょうか!?」
「わたしも、お茶会に参加してもいいかな?」
 フレンディスとノーンにそう言われて、ハインリヒはにこりと笑顔で返す。
「勿論、これは皆の為に用意したんだからね。
 さあ召し上がれ」
「やったあ、丁度お腹も空いてたのよね!」
 まずさゆみがスプーンを手に取ると、それを合図に彼女たちはきゃっきゃとお茶の時間をスタートさせる。

(おまえなんかには)
(負けませぬ)
 と視線でやり取りしながら兄タロウとフレンディスが低レベルな争いを繰り広げる様子を歌菜がカメラに収める。
 可愛いトリグラフ達にお菓子をサーブされてはしゃぐさゆみを、微笑ましく見守るアデリーヌ。
 陽気に歌と踊りを披露するノーンに、「おかしい」の言葉を忘れたジゼルが飲まれ
 お茶の時間は十分二十分、一時間、二時間――。
 時計の針が動いているのを知っているのは、金の懐中時計を見ていたハインリヒだけだ。
 その文字盤を横目に見た瞬間、ジゼルががたんと椅子を引いた。
「そうよ兎!」
「……っと、いけない!」歌菜も思い出したようだ。
「ツライッツさん、見ませんでした?
 彼を放っておいて、こんな所でお茶会してていいんです?」
 その質問に頬杖をついた顔をあげたハインリヒは、ふんわり微笑んで、俄にテーブルクロスを持ち上げ自分の足の下を覗き込むようにしながらこう言ったのだ。
「プディングはもういい? 他に何か食べたいのはあるかい?」

 下からの衝撃にがしゃんとテーブルの食器が音を立て、囁く抗議の声と共に白くて長くてふわふわの兎の耳が、ぴんと下から伸びて出た。
「……!! だ、だめです、見ないでくださいーーっ!」
 皆の視線が一点に集まっているのを感じて、ツライッツはあわあわと耳を押さえると、顔を真っ赤に染め上げて再び駆け出すのだった。

 彼女達が此処へ辿り着く少し前の事……。
「ハインツ、これはどういう事なんですか!?」
 白い顔を真っ赤にして、ツライッツは珍しく焦った様子でハインリヒに食って掛かった。
 プリンを目一杯食べたかっただけなのに――そんな抗議にも、ハインリヒはそ知らぬ顔だ。
「本当に長い耳が生えちゃったね。なかなか似合ってるじゃないか、僕の兎さん」
 軽口など聞いている場合では無いのにと必死になっている兎の耳をのんびり弄びながら、同じ調子で続ける。
「ほらツライッツ、彼女達がやってきたよ。
 急いで逃げ出さないと見つかってしまうんじゃない?」
「!!」
 その言葉で、近づいてくる足音を拾ったツライッツはあわあわと視線を彷徨わせた末に、先程まで問い詰めていたもすっかり忘れて、「助けてください」と縋るような目でハインリヒを見やった。
 という次第である。

「白兎は、逃げちゃったね」
 けらけらと笑ったハインリヒは、スプーンとすっかり空になったプリンの容器をテーブルに置くと、両手を広げて彼女達へ問いかけた。
「さあどうするアリス達。まだ兎を追い掛ける? それとも――」
 人の悪いからかう口調に、アデリーヌは首を振る。
「冗談はもう結構ですわ。
 ハインツ、この魔法の世界から抜け出す方法を教えて頂けるかしら」