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第6章 峡谷

6‐01 オークの森・遭遇戦パートII

「オーク見たら即やっちゃう?」
「勿論! やつらの死臭でこの先危険の立て札にしてやるんだからさ♪」
「へえ〜」
「ぶんた〜い! 前へっ!!」
 にゃんにゃん♪ にゃんにゃん♪





 後背の森にて警護にあたっていたのは、黒乃と比島そして彼女らの率いるにゃんこ部隊。
 ちらほらと森から現れるオークを、宣言通り、葬ってきた黒乃だが、ちょっと息切れしてきていた。オークの数は、先ほどから、葬れど葬れど、増える一方なのだ。
「これ、ちょっとどころじゃないよ〜〜っ」
「こらっ、にゃんこっ。あまり前へ出ては危ないでござる。あーんあまりちらばるなでござる〜〜」
 にゃんこ兵を必死で統制する、黒乃とフランソワ。それを見て、
「……大変でありますね。っと」
 バキュン。近寄ってきたオークを撃ち殺す、比島。
 はっ! はっ! サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、ドラゴンアーツでまじめに、オークを討ち取っている。
 と。ついに、この戦力侮り難しと見たのか、森でオーク残党を再集していたのだろう頭目らしきオーク戦士が、小隊を率い、駆けつけてきた。数は、いよいよもってかなり多い。
「ああーやっぱり!」
「あいつ、やばいんじゃない、でござる」
「黒乃殿、包囲殲滅するであります」
「うん! ようし、いくよ?」
「了解! 我はフランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)! ぶんた〜〜い、逆V字型オフェンス・フォーメーション形成でござる〜〜」
「逆ヴィの字でござるニャ!」「逆ヴィの字でござるニャ!」
「ああーん、かわいい〜〜♪」
「……これをフォーメーションと呼ぶかは、疑問でありますけれども」
 ともかく、にゃんこ兵は黒乃らの号令によって、オーク兵に突撃していった!
 サイモンは、敵の後方に回り、ドラゴンアーツで討ち続ける。
 比島は、これを味方に知らせるため、信号弾を放った。
「ようし、ボクもいくよ〜〜」
 黒乃は、背負っていた光条兵器の狙撃用ライフルL96A1をするっと手にとると、ズダダンっとオークを掃射し始めた。
「ところでアンテロウム副官一緒に来てた筈なのにいないじゃん!!」
「……ダブルアクションだったでありましょうか」



6‐02 罠

 多数を相手に、木刀一本で相手をする、橘 カオル。
 二匹はすでに、面、胴を食らい、草地に突っ伏している。
 しかしこの間にも太鼓の音が響き渡り、その度に、オークの数は増えているのだった。
「くっ。これでどうだっ」
 橘が踏み込んだ瞬間、オークの一匹が鉈を振り回して背後のマリーア目がけて突き進んできた。「ゲヘヘ!」
 橘が木刀を振るう、ガッ。ヒューン。木刀はとうとう、半ばから折れて、飛んでいってしまった。
「しまった!」
「ゲヘヘ」「グヘヘ!」「エヘヘー」
「そこまでだ!」
「おいそこのいやらしいオーク、お嬢さんにその汚い手を近づけるな!」
 放たれた銃弾が、オークの手をかすめ、鉈をはじいた。
 現れたのは、久多 隆光、高月 芳樹、アメリア・ストークス、それに続くは……にゃんこ部隊、だった!
 有翼のヴァルキリー、アメリアがひゅっ、とオークの前に下り立ち、打ち払った。
「やはり、オークの罠だったわけか。よし、にゃんこ! 二人ほど本陣に伝令に行」
「ヤァァァァ」
 かけ声いさましく、にゃんこ達は槍をかまえてオークに特攻していった。
 あっけにとられる久多。苦笑しながら、高月、
「では僕が発光弾で、本陣に合図を送ろう」
「大丈夫?」
 アメリアが、マリーアに駆け寄る。高月、久多も、橘のもとへ。
「君、さっきの木刀……この先、どうする?」
「ま、なんとかなるさ」
 橘は、背中からするりと、こんなときのための予備刀をとり出した。もちろん、木刀だ。
「ってことだな」
「なるほど」
「じゃあ、とにかくこの場を……」
「久多! なにしてるにゃ! 早くオリ達を援護しろにゃ!」
「ああわかってるよ!!」
「切り抜ける!」
「ってことだな!」
 久多は銃をかまえる(初めてなのでちょっと手がふるえているけども)。高月は、メイスを振りあげ、魔力を高めた。アメリアがその前に剣を持って立つ。橘は再び、木刀でオークの群れへと切り込んでいくのだった。





 ドン。ドン。ドン。
 さて、戦いの繰り広げられる丘陵麓から、視点を頂きの方へと伸ばしてみよう。
 ドン。ドン。大きくなる、太鼓の音。
 ここには、すでに、黒炎が達していた。
 彼らは、オークに気づかれることなく、ここまで来ることに成功していた。それもその筈……
「クロ、抜かりはないね」
「ああ、もちろんだ、匡」
 草汁、泥塗りにてにおいを消し、武器防具の類には外衣を羽織り、音、反射を防止。匡が周囲を確認する遠眼鏡も、布で覆って敵に見つかるを防いでいる。四人で常に周囲を警戒し、姿勢を低くし、茂みに隠れながら、慎重に移動してきた。黒軍師、匡の策は完璧だ。
 オークの数は、たもとより格段に増えている。
 やがて四人の眼前に、あやしい廃墟が姿を見せた。
「付近住民の姿はないようだな。やはりあそこにいるのは……」剣を用意するクロ。
「件の廃墟は、身を潜めるには絶好の地と思いますけれど……(くすり、」と微笑する匡。
 準備は万端だ。
「さぁ、行きましょうか、クロ」
「あぁ、往こうか、匡」
 ガサガサガサ……物陰伝いに、素早く移動する黒炎。
「あやしい……いかにもあやしいわ」
「どうする〜?」
「捕らえるでアリマス!! ハアアア!!」
 ついに、廃墟の入り口脇に達したところで、永久の禁猟区が危険を探知した。「クロ! 匡(命名失敗に付き勝手に呼び捨て御免ね匡)! レイ!」
「匡! 敵だ!」
「……完璧な筈だったのに?!」
 バッ バッ
 黒炎の前に、巨大な影が立ち塞がった。片方は、逆にとても小さい。
「ツインスラッシュ!」クロードの剣が吼える。――「交わされた?」
「ならば」匡がひらりと飛び、敵の背後につける……が、敵も素早い。振り向きざま、互いにつきつけ合うデリンジャー。
 マリー・ランカスターが現れた!
 クロードの攻撃を避け、レイユウの前に下り立ったのは、小さな魔女。
 カナリー・スポルコフが現れた!
「ねえ、目立つよ?」
「……(この服と図体で匡を悪目立ちさせてる気がして滝汗考え中)」
 四人と二人は、しばらく向き合うが。
「……味方、か? 匡」
「そのようですねえ、クロ(くすり」
「わいはマリー」
「カナリーちゃんだよ♪」
「さあここは危ない。とりあえず、廃墟の中に入るでーアリマス!」
 黒炎とマリー&カナリーは、オークの見張りに気づかれないように、慎重に、慎重に、廃墟のなかへと入り込んでいった。



6‐03 峡谷

 さて、温泉へと、一直線に向かっていたのは、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)である。
 騎鈴隊長に行った上申は、「負傷兵の療養施設および現地住民の保養施設が建設可能か調べたい」というものだったが、宇都宮にはもう実は一つ、気にかけていることがあった。
「景色もいいってことだし、報告通りの効能なら、負傷した人もゆっくり傷が癒せそうね」と、笑顔を見せる宇都宮ではあったが、ナドセの短剣をにぎりしめる彼女は、キング目撃情報のことがずっと頭から離れなかったのだ。
「お姉さま……」
 ときどき深刻な面持ちを見せる、そんな宇都宮のことを心配そうに見つめる、セリエ。
 もしキングを見かけたら、きっとお姉さまは部隊長の仇を討とうと、戦うことを選ぶかも知れない……もしそうなったときには、ワタシがお姉さまのことを守らなきゃ、と、思いながら。
「あっ、お姉さま!」
 そうしてちょっと暗い気持ちでいたセリエだが、少しその表情が明るくなった。
「わっ、きれい」
 丘陵から続いていた森を抜けると、幾らか開けた場所で、その先は崖になっており、眼下には、広大な森と、峡谷を西から東へ流れる大河が見渡せた。空が少し曇っているのが残念だが。
 しばらく、その光景を見つめる宇都宮と、セリエ。
 よく見ると、大河のそこここで、点ほどの大きさにしか見えないが、ボートが散らばっており、親指ほどの砦の周囲では、敵か味方か、沢山の兵がどよどよと動いているようだった。
「もう、戦いは、始まっているのでしょうね。皆……。セリエ、私達は私達の任務を遂行しましょう」
「ええ、お姉さま」



6‐04 垂の旅

 こちらは、外れの村へと足を伸ばす、朝霧 垂、ライゼ・エンブ。
 北西に向かう朝霧は、イレブン達に続いて一乃砦に寄り、騎狼を借り受けていた。ペットの世話も完璧な朝霧は、難なく騎狼も手懐けてしまった。
 一乃砦を見下ろす、岩山を駆け上がる朝霧。
 騎狼に乗ったメイド。
 その後ろに、ちょんとつかまる、小さな剣の花嫁。
「おおっ。良い風景だな。見てみろよ、ライゼ。
 ……なんだ、めずらしくこわがってるのな。たまにはこういうライゼも可愛いかも」
 振り落とされないよう、必死で朝霧にしがみつくライゼだった。

 その後しばらくは、山林に囲まれた草地を行く道のりになった。
 方角は、こっちで合っている筈……
 そう言えば、この辺には全然、オークも出る気配すらないな。
 朝霧は、木陰を見つけると、一旦そこへ騎狼をつなぎ、ライゼをひょいっと、騎狼の背中から下ろしてあげた。
「ふうっ。あんなにがたがたゆれるんだもん。垂、よく平気だよね」
「ははは。この狼、お菓子とか食べるかな? ほら……うまいか? よく見ると、愛嬌のある顔だよな」
「そうかなー」
 朝霧は、ギ、ギ、と鳴く騎狼をぱしぱしとなでた。
「ねっ 垂がパラミタへ来た理由ってなに? 夢とか?」
「ど、どうしたんだ急にまた。ライゼらしくないぞ?」
「ううん。なんでもないっ」
 木陰からのぞく、空には厚ぼったい雲がゆっくりと流れていく。今も、この峡谷を巡って戦いが行われているとは思えないような、穏やかさだった。