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猛女の恋

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猛女の恋

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8・繕う人々

 夜が明けた。百合園女学院の周辺には、様々な面々が集まっている。

 正門には、オウムの歌を聴いて何とかカノンを助けたいと、リーゼロッテ・ファルク(りーぜろって・ふぁるく)ダリス・アーシェス(だりす・あーしぇす)が来ていた。
 オウムの歌を知ったリーゼロッテはダリスに訴えた。
「魔女の力を借りて本当の自分の姿を偽ってそのひとに愛されようとする・・・それで本当にしあわせなのでしょうか?私は、違うと思います。どんなに飾っても、どんなに素敵に見せようとしても最後に相手の方が見てくださるのは自分自身のこころだから。だから、本当の自分でぶつかっていかなくちゃ。私、カノンさんを助けてあげたい」
 ダリスは他人の恋愛に全く興味がなかったが、リーゼロッテにもしものことがあったらとついてきたのだ。

 ちょうど玄関に出てきたアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)ミーナ・シーガル(みーな・しーがる)が出迎える。
「ちょうどお茶会の準備をしているの。リーゼロッテ様はご招待できるけど、困ったわ。男性は入れないのよ」
 アリスは少し考えて、ダリスに「女性の格好なら入れてよ」と内緒話をするが、ミーナが断固とした口調で、
「駄目だよ!ここは男子禁制。そこでキャンプ!」

 緋桜 ケイと悠久ノ カナタ、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)もカノンと静香を心配して正門に来ている。
 こちらに対応しているのは、シア・メリシャルア(しあ・めりしゃるあ)だ。
「生徒会に相談してみるけど、今日はお茶会だから女の子なら入れると思うんだ、そのただ・・・制服貸すよ。着替えてね」
 最小限の布だけをつけたユーベルの格好を見ての、シアの配慮だ。

 ルカルカも津波の案内で、学園内にいる。ルカルカは、教導団としてきちんと名を名乗り、事態の収拾の手助けをしたかったが、せっかくのお茶会に水を差してもと判断して、非公式に学内に入っている。

ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も潜入に成功。彼も友人から借りた百合園の制服を着ている。童顔の彼の女装には無理がない。


9・真夏のお茶会

 中庭を望む石段では、フィルは、バイオリンの音を確かめている。
「カノンさんに静香さんとの時間をつくってあげたいです。たとえ言葉が喋れなくてもカノンの純粋な気持ちは伝わるはずだから・・音楽が言葉を超えるように」
「魔女にその言葉を聞かせたいわ。心配しないで。どんな状況になっても静香さんとカノンのことは護ってみせる」

 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はアリアを歌う予定でいる。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に何を歌うか、相談している。
「歌のなかで『本当の自分を見せず、偽りの自分を見せて恋を成就させても、いつかは破綻すると』カノンを説得したいですぅ。何がいいですかぁ」
なかなか決めきれずにいる。結局、恋の歌「カルメン」を歌うことに決めた。


 中庭では、ささやかな歓迎お茶会が準備されている。夏休みのため、大掛かりではないが、心のこもったゼリーやムースなど冷たいお菓子が用意されている。お菓子作りが得意なシアは、昨日から準備していたパルミア特産の甘い果実を使ったババロアを氷で出来た花のオブジェに並べている。氷の上には涼を感じさせる微かな音の出るオブジェも並べてある。眼の見えない亜津子が楽しめるような工夫だ。

 亜津子は、ロザリィヌと真崎に身支度を整えてもらっている。野々が迎えにきて亜津子の手をひく。
「今日は楽しんでくださいね」
 野々のことばに、微笑んで右手を胸に当てる亜津子。

 中庭にやってくる亜津子、痛いような視線が亜津子に集中する。
 七瀬 歩が寄ってきて屈託なく話す。
「今日は亜津子さんのためにフィルさんのバイオリン演奏と、アリアが歌われるの。なんだったかな、確か「カルメン」の曲だったかな。静香さんは歌が好きなの。亜津子さん・・・声が戻ったら、静香さんに歌ってあげてね」
 ちょっと涙ぐんでいる歩、その優しさを亜津子は感じている。
 はるなが亜津子に、焼き菓子を持ってくる。
「ほしいものがあったら、幾らでもいってね、今日は亜津子さんの歓迎会なんだから」

 ケイが亜津子の側にやってきた。突然、
「友達になろうよ」
 ケイが亜津子に明るく話しかける。
「いろんなことを話し合える友達にさ、わざわざイルミンスールから来たんだぜ、あんたと友達になるために」
 亜津子には、ケイに言いたいことは分っていた。
 胸を右手で押さえる亜津子。野々が解説「これはイエスの合図なんです」
 にっこり笑うケイ。
「ありがと!俺は勇気を出してあんたに話しかけた!あんたも勇気を出せ!」
 カナタも声をかける。
「わらわもおぬしの友となろう。わらわの魔法は確か、わらわの力が必要なときは、いつでも手助けするぞ」
 亜津子、胸に手を置いたまま頷く。

 悠希と、有栖、ミルフィは静香の側から離れない。ロザリンドも静香の側にいる。
「あれ、今日は他校の人、多いなぁ。急なお茶会なのにね。」
 静香は気にしている。
「本当にご存じないんですか?」
「えっ?」
 有栖の問いに戸惑う静香。

 リーゼロッテは、カノンがいざ静香校長先生に想いを伝えようとする、唇を奪う、心を手に入れるのいずれかの行動を起こす前に間にはいれるように、二人から少し離れた場所に待機している。