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アトラス・ロックフェスティバル

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TRACK 08

 通のあいだでは今回のフェス最高のベースとして知られる永夷 零(ながい・ぜろ)が登場した。手にしたカスタムベースは『ORE−ZO』。パートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)はドラムス担当だ。
 ふたりのあとから少し遅れて、一人の少女がギターを背負って入場した。どうやらギター兼ボーカルが見つかったらしい。
 『@LAST』(アット・ラスト)の演奏が始まった。


『アクアリウム』

作詞作曲:高萩陽子


ケータイの液晶ごし あなたのメッセージ
すぐ近くなのに 手がとどかないね
メール打つのも もどかしいな

お気に入りの着メロも 今は鳴らないで
頭の中に あなたの声が
再生中よ 静かにしてて


透き通る 画面の向こう
キラキラ 言葉が泳いでる
私だけの アクアリウム



 零お得意のシャウトもなく、ベースの熱演に反して会場はさほど盛り上がらなかった。
 ギターの少女は申し訳なさそうにしながら舞台袖に帰って行った。零とルナは肩をすくめ、同じく退場する。


TRACK 09

 さて午前の部も終わりが近づいてきた。
 ステージ上に立ったのはとてつもない巨漢であった。人間と言うよりもトロールである。ある意味、パラ実生の鑑のようなやつだ。

「こういうのは一番上手いやつが最後を飾るもんだ。オレが吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)、そしてこいつが下僕のアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)よ。
 てめえらおとなしく俺の歌を聞きな! おい、アイン!」
 合図を受けて、犬の姿をしたゆる族が年代物のカセットテープの再生スイッチをガチャっと押し込む。
 ザーッというノイズのあと、マイクを指先でトントンと叩いたり、

「あ゛ーーーッ! あ゛ーーーーーっッ!!」

という大声が聞こえたりしたあと、すさまじく下手糞なたてぶえの音がピー、ピヒョーと流れ出した。このあたりで会場全体が動揺している。

 まずい。
 こいつは間違いなくヘタだ。

 しかし会場の空気など一切読まず、無情にも竜司リサイタルが開催されたのである……



『オレは強いぜ吉永竜司』
作詞作曲:吉永竜司


オレは 強いぜ 吉永 竜
どんなに 強いやつも
の竜司には かない

オレ名前を聞いただけで 
気の弱いやは気絶しまくり
う二度と立ち上がれない




 後に渡部真奈美はこう述懐した。

「あー……あのフェスさ、『Music can kill the Dragon!』が合い言葉だったろ……あのときは、音楽はホントにドラゴンを殺せるなーって思ったよ……」