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【第一章 『悪意の鎧』を攻略せよ!】


『悪意の鎧』の攻略を試みるメンバーは以下のとおりだ。

○葉山涼司
○ベア・ヘルロット
○マナ・ファクトリ
○弥涼 総司
久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)
カティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)
志位 大地(しい・だいち)
渋井 誠治(しぶい・せいじ)
ハティ・ライト(はてぃ・らいと)
島村 幸(しまむら・さち)
ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)

……デスクエスト内、『西の毒沼地』……
 一同の眼前には大きな毒の沼地が広がっていた。情報によるとこの沼の中央に『くちたしんでん』という建物があり、何者かが『悪意の鎧』を守っているらしい。
「それであの豆のように見える神殿へはどうやっていくんです?」
『悪意の鎧』の攻略はあまり人数が集まらなかったので、数を補うために涼司とともに参加を決めた大地が尋ねる。
「どこかに渡れる場所があると思うんだが……見当たらないな。とりあえず一周してみよう」
 涼司の提案で一同は沼に沿って歩いてみたが、渡れる場所を見つけることが出来なかった。そして結局沼を突っ切るという強行におよぶことになった。

 一行は体力がある程度減ったらガードナーとハティのスキル・ヒールで回復しつつ神殿を目指した。
 そして着いたところでマナのスキル・キュアポイズンで毒を治癒する。
「ガードナー、大丈夫?」
 幸がガードナーを労う。実は毒沼を渡る際、ガードナーは幸が毒に犯されないようずっとお姫様抱っこをしていたのだ。
「これくらい何ともありません。なんならずっとああしていてもよかったくらいですよ」
「もうっ」
 幸がガードナーの額を指でつつく。まるで愛の小劇場。そこには何人たりとも踏み入ることの出来ない二人だけの空間が広がっていた。
「ゆう、私重かったでしょう?」
「そんなことはないですよ」
 ゆうもカティアが毒地を踏まないよう考慮した。こちらはおんぶだ。これも捨てがたい。だが何より寡黙なゆうが実はカティアを気遣っているというところが高ポイントゲットなのだ。。
「……」
 マナはそんなことを考えながら二組の様子を不満げに見ていた。マナのパートナー・ベアもたしかに彼女を運んでくれた。ただし文字通りだ。ベアはとび職の人が角材を運ぶがごとくマナを肩に乗せ毒沼を渡ったのだ。彼女をロマンティックの欠片もない。
 しかも。
「は〜、しんどかった。マナ太ったんじゃねーの?」
 などと言って肩を回している。
「――っ」
 そんなベアの両頬をマナが無言でつねった。

 デスクエストはRPGといってもランダムエンカウントではなく、アクションRPGだ。戦闘不能になったらすぐに画面上から消え、前回のセーブポイントからやり直しとなる。そこからまた戦闘に参加することは出来るのだが、デスクエストは町の宿屋でしかセーブが出来ない。それはこの場合ではまた毒沼を渡らなければならないことを意味し、つまり戦闘不能になった生徒は事実上リタイアということになる。
 一同に緊張が走る。神殿の入口が開き中に入ると、そこはドーム状になっていた。そして中央に濁った白色のローブを着た三メートルを超える巨人が立っていた。
「お前が『悪意の盾』の守護者か?」
 涼司が訊く。すると巨人が合成音っぽい声でかえしてきた。
「われは だいしんかん メルキオス。あくいのたてが ほしくば われをたおしてみせよ!」
 メルキオスが両手を頭上へとかかげる。手に光の珠が生み出され、そこからミラーボールに乱反射する光のように幾筋もの熱光線が放たれた。
「うおっ! いきなりやる気満々かよ!」
 涼司が飛びのくようにしてそれをかわす。一同が散開した。
 熱光線は床を焼きながら一人一人を追ってくる。みんな熱光線を回避するので精一杯だった。そんな中、『蒼空の花婿』のベアと総司が攻撃に転じる。
「決めるぜ、総司!」
「おうよ!」
 二人が熱光線の軌道を見切り、挟むようにしてメルキオスとの距離を縮める。
 そして。
「「おっらぁ!」」
 ベアがスキル・轟雷閃を、総司がスキル・爆炎波を繰り出した。メルキオスが地響きを立てて倒れ伏した。
「ベア!」
 マナがぴょんぴょんと跳ね、大きく手を振っている。
「あはは。マナちゃん、あんなにはしゃいじゃって。応えてやれよ」
「んだよ、あいつ。恥ずかしいなぁ」
 ベアが照れくさそうに後頭部を掻きながら手を振りかえした。
「違う違う! 後ろ!」
「後ろぉ?」
 二人が振り向く。地面が隆起していた。否、それは地面ではない。倒したはずのメルキオスだった。
「おのれ にんげんどもめ! わが しんのちから みせてやろう!」
 メルキオスの身体が膨れ上がり、新たに六本の腕が生えてきた。そして四つの魔法陣を展開して自身を囲むように防御壁を生み出す。
「ぜつぼうに ふるえるが いい!」
 メルキオスが計八本になった腕から火球を繰り出してきた。それがベアと総司に着弾する。
「ふぉ――――!」
 尻に火がつくとはまさにこのこと。二人は飛び跳ね、そして転げ回りなんとか沈下する。
「まさかやつが形態変化系のボスだったとはな」
「この俺としたことが……油断したぜっ」
「君たち……。お尻押さえながらそんなこと言っても格好つかないわよ」
 マナが呆れながら突っ込んだ。
 メルキオスは雨のように火球を降らせてくる。自身は展開した防御壁により守られているのでやりたい放題だ。
 大地がローグらしい軽快な足取りで火球をかわしながら眼鏡のフレームを中指で持ち上げる。
「まったく弾幕シューティングゲームじゃあるまいし。なんですか、この量は。これでは近づくこともままなりませんね。少しでも隙があれば、防御壁を壊して攻撃を叩き込めるのですが」
「それなら私がその隙を作りましょう」
 そう言うのは幸だった。
「出来るのですか?」
「少しお時間をいただければ」
「幸、まさかあれを使う気ですか?」
 ガードナーの問いに幸が頷く。
「実践では初めてですがやるしかありません。呪いなんかで死ぬわけにはいきませんからね。私はまだガードナーと一緒にいたい……」
「幸……」
 幸とガードナーが見つめあう。愛の小劇場再び。
「それはもういいですよ」
 大地がぐいっと二人を引き離した。我に返ったガードナーが照れ隠しで咳払いをする。
「失礼っ。では幸のために援護をお願いします」
「わかりました。涼司! みんなを集めてください!」
「おう!」
 幸が目をつむり集中、SPを溜め始める。それを囲むようにして一同が彼女を守った。火球が雨が勢いを増す。
「うわあああああああ! もう駄目だ!」
「誠治、その顔なかなかいいですよ。参加した甲斐がありました」
 スキル・スプレーショットで掃射しながら火球をかき消している誠治を、彼の撃ち漏らしをホーリーメイスで排除しているハティが楽しそうにからかう。
 なんとかしのいでいる一同だが、延々と降り続く火急に徐々に疲弊していく。
「みんな、頑張って!」
 マナがスキル・リカバリを使用する。癒しの光が一同を包み込んだ。
「お待たせしましたっ」
 目を開けた幸の瞳が金から紅蓮へと変色する。
「恋の障害お命覚悟! これでも喰らいなさい!」
 幸がかっと眼を見開く。彼女の視線がライフル弾のようにメルキオスを射抜いた。これはスキル・鬼眼だ。
「ぐぅ う うう」
 メルキオスが一瞬だけ怯み、火球の雨が止んだ。
 一瞬。だがそれだけで十分だった。
 その隙をついて一同が飛び出す。
 大地が持ち前のスピードを活かし跳躍、リターニングダガーを逆手に持ち替えた。
「ふっ」
 鋭く息を吐きながら左上方の魔法陣を十字に切る。魔法陣が四分割され消え去った。それと同時にベアと総司のコンビが右上の魔法陣を破壊する。
 カティアはスキル・バーストダッシュで左下の魔法陣の一つへと滑走した。
「させる ものか!」
 メルキオスがそんな彼女に向かって火球を放ってきた。しかしカティアはスピードを緩めなかった。このままでは直撃してしまう。
 彼女に当たるかと思われたそのとき、火球が弾けて消えた。
 ゆうがスキル・シャープシューターで射撃したのだ。打ち合わせなどしていない。しかしカティアはゆうが援護してくれると信じていた。
「こらカティア! 無理をするな!」
 普段は丁寧な物言いのゆうがきつい口調でカティアをとがめる。それだけゆうが彼女を大切に想っているということだ。カティアが背中から聞こえてくるゆうの声に表情を和らげた。しかしすぐに戦士の顔へと戻る。
「はっ」
 カティアがスキル爆炎波を繰り出す。魔法陣の一つが爆発とともに砕け散った。
 涼司が最後の魔法陣を壊す。メルキオスを覆っていた防御壁が消失した。
「今だ、誠治!」
 涼司が叫ぶ。
「オレ!?」
「誠治といったら君以外誰がいますか?」
 自分を指差しきょろきょろと辺りを見回している誠治にハティが呆れながら突っ込む。
「で、でもオレそんなキャラじゃなくね!? いいのか? これってトドメってやつだろ」
「いいと思いますよ。いくら誠治が地味でヘタレで、今回参加したのも呪いが怖かったからだったとしても、人生に一度くらいは魅せ場はあるものです」
「お、おまえな〜……」
「おやおや。私、間違えたこと言いましたっけ? ところでトドメをささなくていいんですか? 機を逸しますよ」
 誠治はくつくつと笑うハティへの文句を呑み込む。
 そして。
「……ちっくしょう。言われなくてもやってやるぜ!」
 アサルトカービンを構えスキル・シャープシュウーターを発動、彼の撃ち出した弾がメルキオスの胸を貫いた。
「ぐあああああああああああ」
 メルキオスが断末魔の叫びをあげる。そして崩れるようにして消えていった。
「倒したのか……?」
 涼司が呟く。そのとき、一同の頭上から漆黒の鎧がゆっくりと降りてきた。涼司がそっと受け止める。するとテロップで『りょうじは あくいのよろいを てにいれた』と表示された。