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第7部 愛


「ラリラリ出ておいで〜。捕まえたら、私がみんなから逃がしてあげるよ〜」
 月夜はプールの裏手の荒れ地“エロンの園”で、1人罠を作って待っていた。
 ピンクのガーベラを花瓶に挿して、地面に置き、その上に大きなカゴがぶら下がっている。月夜は、カゴにくくりつけたロープを握って、じっと待っている。
 すると。
「しくしくしく……」
 泣いてる声が聞こえてきた。
 狂乱から解放されたレベッカが、アリシアに支えられて泣いていたのだ。
「泣かないで。もう大丈夫ですから……」
「うん。心配かけてごめんネ……あ。月夜! 恥ずかしいところ見られちゃったナー」
「気にしないで。それより、しーっ!」
 3人が耳をすますと、
「しくしくしく……」
 泣き声が聞こえる。
「ワタシ、もう泣いてないヨ……?」
 ぴちょん……月夜がイデスエルエを自分に差した。
「わあ〜。来てくれたんだ。はじめまして。こんにちは」
「こん……にち……は……んぱ」

 ラリラリだ。

 レベッカとアリシアもイデスエルエを使って、3人でラリラリの話を聞いてあげた。
 月夜は訊いた。
「ラリラリさん。お名前は?」
「名前なんかないよ。ボク、生まれてすぐ捨てられたんだもん」
「かわいそうに……」
 ラリラリはお母さんと生き別れ、お父さんにも捨てられ、暴力と犯罪の温床“ラリラリスラム”で虐められながら育ったらしい。
 ラリラリスラムでは、自らトコロテンになって堕落していく連中がたくさんいて、その連中が街に出て人間に悪戯していたらしい。
 ラリラリはそんなところで、誰の愛情も受けることなく生きてきたのだ。
 アリシアは、訊いた。
「どうして人の多いところに来たんですか?」
「んぱー。さみしくて。みんなと……友達になりたくて」
「そうでしたか……」
「それなのに。みんなは剣でボクを追っ払ったりして、んぱぱー」
 レベッカは訊いた。
「何か、心残りがあるの?」
「んぱー。……わかんないぱー。……えーん……しくしく……」
 また泣き出したラリラリに、みんなももらい泣きした。涙でいっぱいの目を、こすっていたら……ラリラリは消えていた。みんな、目をつむってしまったのだ。
 3人は、涙を拭いて、考えた。
「やることは1つですね」
「うん、でも、ラリラリと喋れないと……」
 と、林の中を1人の少女が走っていた。
 トタトタトタトタ……
「カガチがどっか行っちゃったー。カガチー。どこー?」
 なぎこだ。
 3人が顔を見合わせる。――これだ!!!
「なぎこさーん!」
「ラリラリとお友達になりませんかー?」
「かっわいいよ!」
 瞬間、なぎこはカガチを忘れた。
「えっ! ラリラリちゃん? お友達なりますですー!」


 そして、プール前。
 大和はトコロテン患者を運んでいた。
「みんながいるのはどこですか?」
 ぴょこっと出てきたなぎこが、大和に尋ねた。
「みんな?」
「うん。みんなです!」
 アリシアが、フォローを入れる。
「なるべくたくさん。できればラリラリと関わった人たちがいるといいんですが……」
「それなら、ついてくればいいよ」
 なぎこ、月夜、レベッカ、アリシアが、大和についていく。
「こっちですよー。大丈夫ですよー。こわくないですよー」
 なぎこだけがラリラリを見えていて、ラリラリを誘導していた。


 大和が案内したのは、中庭だった。今はもうぽに夫の原風景も消えて、いつもの中庭だ。
 大和が校内あちこちから運んできたトコロテンがいっぱいいて、パートナーラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が天使の笑顔で看病していた。
「わあ。ひどいケガ……」
 大和が寝かせたのは、エルゴに食われまくった和樹のトコロテンだ。
「んぱー。食べないでぱー」
「このトコロテンちゃん。トラウマが残るね、きっと」
 ラキシスは和樹にヒールをかけ、治療した。


 やがて、みんなトコロテンから復活した。
 まだ多少「んぱんぱ」言っている者もいるが、芝生に寝っ転がりながらラリラリの事情を聞いた。
 なぎこは頑張って目を開けていたが、
「ああ! カガチ!」
 カガチを見つけた嬉しさで、瞬きしてしまった。
「わああ。ラリラリちゃんがー!」
 動転してるなぎこに代わって、荒巻さけが朝礼台に立つ。
「みんなでラリラリの願いを叶えてあげましょう! ラリラリに関わった全員でやる必要があると思いますから!」
「あの〜。さけさん。いいんですけど、ただ、僕は関係ないと思います」
 ぽに夫は、今はじめてラリラリのことを知ったのだ。
「違う! 君は大いに関係あるよ!」
 ぽに夫の原風景の中で眠っていた陽平だ。
「僕はさっき、君の中で眠っていた。そして、君の中でローゴツム様に出会ったんだ。ローゴツム様はおっしゃった。ラリラリをみんなでかわいがってあげなさいと、そうおっしゃったんだ。ぽに夫君! 君の中でだよッ!!!」
「はあ。そうですか。それなら、それでいいです。僕もやります」
 みんなが理解できない陽平の意味不明な話を、ぽに夫は理解できたようだ。
 ぽに夫は「お騒がせしました」と座った。
「そうは言ってもぱー、実際、どうするんぱじゃ?」
「そうよねぱー。もうイデスエルエもドピースも全部なくなっちゃっぱんぱしぱー」
「だいたいぱー、こっちはこんな目にあってんぱぜぇ……」
 さけも困って、何も言えない。
 そのとき、秋葉つかさが立ち上がった。
「仕方ないですね。んぱ。実は、後で使おうと思ってこっそり取っといたんですけど、んぱ。みなさんで使ってください。……ドピースです! んぱ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 シルエットが嫌みをチクリと、
「さすがは泥棒猫……」
「なによ……」

 ドピースは、用務員室の段階でくすねていたので、結構な量があった。
 ラキシスが人数を確認し、
「えっとえっと……トメさんとメガネの知らない人も入れて、うんと人じゃない人もいるけど、とにかく118。118人いるよ!」
「1人一滴ずつ、気をつけて使えば、なんとか足りそうですね」
 しかし、真人が呟く。
「でも、イデスエルエがないと、ラリラリを見ることはできないんですよね……」
 すると、アリア教徒の周が声をあげる。
「心眼だ! 心の眼で見るんだ!」
 そして、アリア様を見つめ、心の眼で裸を想像した。
「いやっ……」
 ガツッ!
 周は沙耶にぶん殴られて倒れた……。
「しかし、心眼はいいんじゃないぱ?」
「ドピース中だから、いけそうぱ気もするぜ」
「心眼で見ようぱぱー」
 すると、ルカルカがみんなを鎮める。
「それは無理だよ。ルカルカがもう試したんだ。何も見えない」
「いや、んぱんぱルー。それは違うぱ」
 ナガンが手鏡を見せながら、説明を始める。
「ナガンはこの鏡を見て、自分を愛したんだ。でもぱよお、よく考えてみてくれ。鏡に映ってるナガンは、本物のナガンじゃねえ。所詮は虚像……やれやれ……恥ずかしいな……」
 雉里が代わりに立ち上がる。
「つまり、物理的な目では見ていなかったと。これで、詰み。本気でラリラリに惚れたい! という気持ちがあれば見られるってわけよ!」
 みんな、納得しながらもクスクス笑う。
 ナガンは恥ずかしそうに、背を向けた。
「ああ。どうせ、ナガンはナルシストだよっ。んぱーっ!」


 みんな、目にドピースを差していく。
 上を向いて、目をつむって、全員が差すまで待機している。
「おーい。みんぱー! ドピースは行き渡ったかー?」
「オッケーぱー!」
「いつでもいいでござるぱよー!」
 ぽに夫の原風景で呪文を教わったと言い張る陽平の指揮の下、みんながまとまっている。
 しかし、トメさんが苦戦している。つぶらな瞳にうまくドピースが入らないのだ。
「師匠〜! 何度も失敗してたら、なくなっちゃいますよ〜!」
「師匠! 失礼します!」
 ガッ!
 ラーフィンがトメさんの顔を押さえ、プレナが瞼を無理矢理広げ、そっと差した。
「よーし! みんな。準備はいいな! ラリラリを見たら、ヨーシヨシヨシって言うんだ! ……いくぞッ! せーの!!!!」
 パアア!
 みんなが一斉に目を開けて、空を見る。まだ何も見えない。
 静寂が中庭を包み……
 やがて少しずつ、ラリラリが見えてくる……

「ラリラリちゃーん!」
「ラリラリ……剣で斬ろうとしてごめんな」
「ラリラリさん……かわいいね。んぱっ!」
「無理矢理お経なんて聞かせて、悪かったのう」
「ラリラリ。キミも一緒に昼ドラ見ようよ!」
「野球拳大会、また見に来てほしいでござるよ」
「蚊取り線香グレネード、すみませんでした」
「どこでも、掃除するよ」
「ラリラリちゃん。あたしもね、おねえちゃんと生き別れたんですよー」
「今度、ドロップキックのやり方教えるよー」
「大切な人を失った気持ち、わかります……」
「手芸部に入らなーい?」
「ヨーシヨシヨシ。ヨーシヨシヨシ」
「ラリラリ! 俺と愛し合わないかっ!」

 空に浮いてるラリラリは、涙をポロポロ流しながら、嬉しそうだ。
 はじめて誰かに愛されて、やさしい声をかけられて、嬉しそうだ。
 そして、みんなが叫んだ。「ヨーシヨシヨシ」ではなく、

「ラリラリ! ……だいすきっ!!!!!」

 ラリラリは透明度が増して、最期の言葉を残して消えていった。
「みんな、ありがとう。んぱぱっぱあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

担当マスターより

▼担当マスター

菜畑りえ

▼マスターコメント

みなさん、おつかれさまでした。

みなさんのハチャメチャなアクションのおかげで、
途中、というかほぼ全編とんでもなく混沌としましたが、
どーにかこーにかラリラリに成仏してもらうことができました。
いやあ、書いてる私もほんっと楽しかったです。

ちなみに、脳みそがトコロテンってのは、お気づきでしょうが、
手塚治虫の名作「三つ目がとおる」の第1話に出てきます。
たしか、みんなトコロテンになっちゃった方が幸せな世界になるとかなんとか……
そんなこと言ってたような言ってなかったような記憶があります。

称号は、ランダムにテキトーにお配りしております。
活躍の度合とか、アクションの善し悪しとか、あんまり関係ありません。そのつもりで。

なお、私はいつ次のシナリオをやれるかわからないので(修学旅行でのぞき部やりたいんですけどね)、
このたび、告知用にブログを作りました。
「んぱんぱにっき」で検索してみてください。よろしくおねがいします。

あーー。あわわあわわ。
三途の川で、ラリラリがこっちを見て怒ってます。
所詮はドピーズ効果による「作られた愛」だと思ったのかもしれm……んぱー。んぱー。


※追記。
リュースさんの口調が間違えてたので修正しました。すみませんですー