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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第12章 良薬口に苦し

-PM14:00-

「はぁ・・・重かった・・・」
 静麻とレイナは帰り道の途中、北都たちに手伝ってもらい、イルミンスールの校舎内へなんとか運ぶことができた。
「それじゃあ、僕たちはそろそろ帰るよ」
「あぁ、手伝ってくれてありがとうな」
 壁に寄りかかりながら、静麻は北都へ片手を振った。
 美雪子とメイベルたちも治療に必要なマンドラゴラを受け取ると、百合園の学園へ帰っていく。



 葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、ヴァイシャリー邸の窓の外を見ながらメイベルたちの帰りを待っていた。
「まだ帰ってきませんね・・・。ラズィーヤさんは薬膳粥とコーンポタージュに、まったく手をつけられない状態ですし・・・」
 冷え切ってしまった料理に見て、可憐は不安そうな顔をする。
「静香校長も何か召し上がった方がいいですよ?」
「私たちが何か美味しいの作るよ」
「ううん、そんなにお腹空いてないから大丈夫だよ」
 気丈に振舞いながらも、静香は明らかに看病で疲れていた。
「そう・・・ですか・・・」
 彼女が無理している様子を、可憐は心配そうに見つめる。
「メイベルですぅ。入りますよー」
「どうぞ」
 コンコンッとノックし、メイベルは戸を空けて室内に入ってく。
「もの凄く大きいマンドラゴラを採ってきたから、きっといい薬ができるよ」
 美雪子が横から顔を覗かせる。
「本当ですかー!?これでやっとラズィーヤさんの病を治せますね」
「よかった!これで一安心ね」
 嬉しそうに可憐とアリスは微笑み合う。
 彼女たちは百合園の家庭科室へ向かった。
「薬といえば粉薬とか丸薬・・・それに飲み薬やカプセルがあるよね。どれにしようか?」
 シルエットは思いつく限りに、薬の飲み方を言葉で並べる。
「ミーが一番飲みやすいと思うのはカプセルだネ!」
「お食事を召し上がっていないようでしたから、飲み薬の方がいいかもしれませんよ」
「そうね、そうしようかしら」
「イルミンスールで栽培してたのをもらったから、それも加えてみよう」
 アピスはリリから貰ったマンドラゴラを箱から取り出した。
「早くエキスが煮だせるように、細かく潰そうよ」
「丸ごと煮ると思ったんですけど・・・そういう方法もあるんですね」
 気絶から目を覚ましたマリアンマリーのアイデアに、マルシャリンは関心したように頷く。
 他の生徒たちもようやく目を覚まし、家庭科室へ集まってきた。
「このサイズですから、わたくしが細かく斬りますわ」
 魔法草をナトレアが10cmくらいの大きさに刻んでいき、ボールの中へ移す。
「では叩きますぅー♪」
「えいっ!」
 メイベルと津波がメイスで殴りつけるようにマンドラゴラを叩きつけた。
 潰し終えたのを今度は鍋に入れ、30分ほどコトコト煮込み、黄緑色のエキスのみ取り出すためにザルでこした。
「匂いはしないようだね」
 セシリアがエキスに鼻を近づけさせ香を嗅ぐ。
「お味はどうなのかしら?」
 エキスをスプーンですくったジュリエットは、一口味見をしてみる。
「どんな味なんですぅ?」
「ミカンのような・・・レモンのような・・・甘酸っぱい不思議な味ですわ」
「ただ飲んでいただくのも味気ないですわね」
「どうするの?」
「でしたらカキ氷なんかどうですか。フルーツなんか添えたりして」
「そのほうが美味しく食べて元気になれるわね」
 ヴァーナーのアイデアに、アピスたちが頷いた。
 魔法草のエキスを冷凍庫で凍らせ、フルーツを沢山添えたカキ氷を作った彼女たちはラズィーヤが眠っている部屋へ持って行く。
 静香が食べさせてやると、マンドラゴラの即効性のおかげで彼女の顔色が少し良くなった。
 百合園生徒たちはほっと安堵した。



 一方、イルミンスールでは樹たちが運んできたマンドラゴラを煮出したエキスに、ズィーベンが黒焼きにしたイモリとトカゲ、コウモリの羽などを加えてしまっていた。
 エキスは毒々しい紫色へと変色する。
「・・・なんとも不気味じゃのう」
 ズィーベンの作業をファタは顔を顰めた。
「ボクたちが飲むわけじゃないから問題ないよ」
「(あぁ・・・これをアーデルハイト様に・・・)」
「それはそうじゃが・・・」
 いつも無邪気に暴れすぎるアーデルハイトに、今回ばかりはナナとファタは同情の色を隠せない。
「―・・・!」
 それを見たリリも、魔法草で作ったリンゴゼリーを手にしたまま一瞬凍りついた。
 アーデルハイトに飲ませようとすると案の定、暴れて逃げ出そうとする。
「皆で取り押さえるのじゃ!」
 ファタたちがいっせいにアーデルハイトの身体を捕まえた。
「いやじゃぁああ!」
 いつもなら魔法で逃れられるが、魔力が枯渇してしまっている今は簡単に取り押さえられてしまった。
「さぁ〜大ババ様、お口を開けてくださぁい♪」
「―・・・いっいやじゃぁっ!」
「あらら、そんなこと言っていいんですかぁ?この美味しそうなゼリー・・・私たちが食べちゃいますよぉ?」
「うぅ・・・」
 ゼリー欲しさにようやく観念したアーデルハイトは、ズィーベンお手製の薬を飲む。
「ぁあぁああっー!!」
 アーデルハイトの壮絶な叫び声が校舎中に響き渡った。

担当マスターより

▼担当マスター

按条境一

▼マスターコメント

今回のシナリオは珍しく太陽がまだ高い位置にある午後に終わりましたね。
その変わりにだいぶ体力を消耗しているかと思います。
イルミンスールと百合園、それぞれ相応しい処方の仕方になりました。
大ババ様もイイ年なのでこれくらいはちゃんと飲んでくれているでしょうね。
(絶叫を聞こえないふりをし・・・)
1回目のこのシナリオでは、アウラネルクの説得をした方と、マンドラゴラを引き抜いた一部の方々に称号をつけさせていただきました。

次回はアーデルハイトたちの病状が明らかになることでしょう。
ひょっとしたらまた妖精さんに会えるかもしれませんね。
それではまた次回でお会いいたしましょう。