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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

リアクション


鎮護の森 〜現場審査員の受難〜
「さあ、セレス! 思い切って行っちゃえ!」
「引っかかっても死んだりしないから! ほら、一気にっ!」
 鎮護の森の、茂みの中。
 15メートルほど前方から、しきりに促してくるルカルカ・ルーと五十嵐 理沙の声に負け、セレスティア・エンジュは思い切って一歩踏み出した。
 ――パンッ!
 破裂音と共に、足元で水風船がはじける。降りかかってきた水が、巫女服姿のセレスティアをばしゃっと濡らした。
「つっ……冷たい、ですわ」
 前髪から滴をたらしてぼやいたセレスティアを見て、ルカルカと理沙はきょとんと首をかしげた。
「ほんとに、結構気をつけているつもりなのに、一歩ごとに引っかかるのよねえ」
「どんな仕掛け方してるんだろう?」
 と、口々に言う二人も、頭の上からつま先までびっしょりだった。
 おそろいの巫女服が、濡れて身体にぴったりと張り付いている。
「精神的な破壊力は結構あるわよね、はじめてかかるとドキっとするし」
 理沙が冷静に言う。
「ユニークさやインパクトに関してはもうひとつかな。ちょっと地味よね」
 ルカルカも平然とあとをつなぐ。
 そんな風に二人が言い合う間に、
「あうっ! ひゃうっ! つめたっ! ひゃああっ!?」
 セレスティアは一歩ごとに悲鳴を上げて水をかぶりながら、なんとか歩みを進めていた。
「おお、エロい声! 恋人に踏ませるってシチュはおいしいね!」
 きゃんきゃん叫びながらセレスティアを見て、理沙はぽんと手を打った。
「なるほど! びしょぬれになったら服もエロいしね!」
「んじゃ、乙女度も結構高し、てことで!」
「はう……結局びしょぬれですわ……」
 なんとか二人の元へたどり着いたセレスティアに、理沙はぽんとタオルを手渡した。
「おつかれセレス。さっ、次の審査にいこうっ!」
 くるりときびすを返して、理沙が一歩前に進み……、
 突然落っこちてきたタライが、理沙の頭に直撃した。
「きゃっ!?」
 思わずその場にしゃがみこむ理沙。
「大丈夫!?」
 あわてて理沙の前にしゃがみこもうとしたルカルカを、
「わぐっ!?」
 二つ目のタライが直撃した。
 頭を抑えてしゃがみこんだルカルカと理沙に向かって、セレスティアは首を傾げて見せた。
「何点ですか?」
「いつつ……十点満点で……七点」
「乙女度が低いわ……痛いだけだもの……」
 頭にコブを作ったルカルカと理沙が、セレスティアを先頭に押し出しながら先へと進む。
 と、茂みの中に、小さな影がうずくまっているのが見えてきた。
「……次の脅かし役?」
「わかんないけど、怪しきは引っかかる」
 理沙とルカルカが目配せし、うずくまった影に向かってセレスティアを押し出した。
「引っかかるのはわたくしですのに……」
 うずくまっていたのは、子供だった。8歳かそこらの女の子である。
「子供……? あの、あなた、どうしたの?」
 セレスティアがしゃがみこんで声をかけると、崩城 ちび亜璃珠は泣きはらした顔をはっと上げた。
「ぐすっ……ひっく……あのね、ママがいなくなっちゃったの……」
「まあ、それは大変」
 目を丸くして、セレスティアはちび亜璃珠の頭を撫でた。
「あなた、お名前は?」
「ぐすっ……亜璃珠……」
「聞かない名前ですわね……。お母さんとは、どこで待っているかとか約束していないの?」
「……してるぅ」
 ぐずるような声で、ちび亜璃珠が言った。セレスティアがぱっと目を輝かせる。
「まあ、それなら、お姉さん達がそこまで連れて行ってあげましょう。お母さんはどこで待っているの?」
「うん……あのね……?」
 にや、とちび亜璃珠が、ルビー色の瞳を細めた。
「あなたのうしろで」
 がさっ、とセレスティアの背後で茂みが揺れた。
「……え?」
 セレスティアが振り返る。ルカルカが「うん?」と首を傾げて見せた。
 その隣に、理沙の姿は、ない。
「あれ……理沙は?」
 呟きつつ、セレスティアは視線をちび亜璃珠のほうへ戻した。
 けれどそこにも、もう誰もいなかった。

「ん―――ッ! ん―――ッ!」
 後ろから口を押さえられた理沙の声は、どんなに必死に張り上げても、ルカルカやセレスティアには届かなかった。
「無駄よ……? うふふ、じたばたしないの」
「んんん―――!?」
 理沙は、自分を押さえつけている女性……崩城 亜璃珠を見て、いやいやとかぶりを振った。
「いやいや出来るのも今のうちよ……? すぐに、あなたのほうからすがり付いてくるように仕立ててあげるから」
「ん―――!」
「さあ、とりあえず跪きなさいな……わたしのかわいい下僕候補さん?」
 暗い茂みの中で、赤い瞳を輝かせ、亜璃珠はにやりと微笑んだ。

「理沙……どこへ行ったのかしら……」
 目を伏せて歩くセレスティアの肩を、ルカルカは元気にぶっ叩いた。
「へーきへーき、きっとどっかで分かれ道に入っただけだって。大池まで出て待ってれば、すぐに会えるよ」
「そう……ですわね……」
 進む先を覆い隠す背の高い雑草は、だんだんとその密度を減じ始めていた。
 涼しい風が草を透かして吹いてくる。大池が近いのだ。
「ほらほら、もうすぐ大池にとーちゃくだよっ」
 勤めて明るい声で、ルカルカは茂みをかき分けた。
 二人の前に、大池へと続く開けた一本道が広がった。
「鎮護の森、クリアー! もう少し進んで理沙を待とう? ねっ」
 ルカルカは、セレスティアの手をぎゅっと握って、開けた道へと導いた。
「ありがとう……ルカルカさん」
 自然、すこし安堵したような表情になって、セレスティアがルカルカの後に続く。
「――……その子、だあれ?」
 悲鳴のような声と共に、桐生円がルカルカの肩を掴んだ。
 びくっ、とルカルカは垂直に飛び上がり、背後を振り返る。
「だっ、だだだれっ!? 脅かし役!?」
 問われた円は、まるで殴られでもしたかのように目を見開いて、ふら、と後ずさった。
「だれ……? いま、誰って言ったの……? ルカルカ、私のこと知らないって、そう言うの!?」
「え、だってあの、ルカルカはあなたのことホントに知らないよ?」
「ひどいっ!」
 叫んで、円はその場にへたり込んだ。
 下着の線が浮くほど薄手の、サイズ大き目のワイシャツだけを着た円は、ふるふると震えながら細い肩を抱く。
「あんなに……愛してるって言ってくれたのに……あんなに……何度も何度も許したのに……。知らない……だなんて」
 うっ、と嗚咽して、円は両手で顔を覆った。
「あなたに抱かれてから、ボク……男の人じゃぜんぜん満足できなくなっちゃったんだよ……? あなたに捨てられちゃったら……ボクはどうすればいいの……?」
「えーっと、待って待って、ルカルカの頭を全部ひっくり返しても、そんなヒメゴトは欠片も出てこないんだけど……?」
 うーん、と頭を抱えたルカルカから、セレスティアは一歩、遠ざかった。
「あれ? セレスさん?」
「あ……あはは、あの、お取り込み中みたいだから、わたくし、その辺で時間潰してますわね?」
「ちょっ!? セレスさん!? なんか誤解してない!?」
「ごごご、ごゆっくりーっ!」
 きびすを返すと、セレスティアは茂みの奥へと駆け込んだ。

「び、び、びっくりしちゃった……。まるでドラマの中のお話みたいなんだもの……」
 高鳴る胸を押さえて、セレスティアは茂みの中を漫然と進んでいた。
 ふと、目の前に、長い黒髪を散らした女が立っている。
「……あれ? あのう、どなたでしょうか?」
 恐る恐る、セレスティアが声をかけると、ゆっくりゆっくり、女は振り返った。
 片手に、ぼろくずのようにずたずたになった未確認生物をぶら下げて、藤原優梨子は、耳まで裂けた口をほころばせる。
「あら……華奢で落としやすそうな首ですね。いただけるんですか?」

 あらん限りの悲鳴を上げて、何度も転びかけながら、セレスティアは鎮護の森を逃げ回った。
 どれほど走っただろう、いきなり頭に鈍い衝撃を感じて、セレスティアはその場にしりもちをつく。
「いっつ……あ、れ?」
 セレスティア、ルカルカ、理沙が、まったくおなじようにしりもちをついて、ぶつけた頭をさすっていた。
「理沙、ルカルカ、無事だったのですね……?」
 セレスティアが震える声で言うと、ルカルカと理沙は声をそろえて否定した。
『まさか! すっごいひどい目に遭ったわよ!』
「……ええと、点数にするとどれくらい?」
 セレスティアが聞くと、ルカルカと理沙は一瞬、うつむいた。
「……思い出したくない」
「胸にしまっておこう」
 二人の意見に、セレスティアも大きく頷いて同意した。