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リアクション
chapter.8 friction
「片っ端から切っちゃるけえのお!」
活きの良い広島弁でソニックブレードを乱発しているのは、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)。どこからどう見ても女性型の機晶姫だが、中身はバリバリの男性らしい。
「機晶姫は皆、わしの舎弟じゃけんのお! 困っとったら助ける、邪魔されたら叩き切るのが兄貴分の務め言うもんじゃあ!」
カウントしきれないほど、ソニックブレードを放つ。どうやらシルヴェスターは、ソニックブレードが大のお気に入りのようだった。切られる蛮族からしたらたまったものではない。
と、SPが切れたのか、シルヴェスターの動きが止まった。
「こええよアイツ……ん? なんか攻撃を止めたぞ? 今だ!」
勝機と見て、襲い掛かる蛮族。
「ハーレック!! SPリチャージじゃあ!」
「分かっていますよ、先生」
契約者のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がSPリチャージをシルヴェスターにかける。
「おおお、力が戻ってくるのお!」
「……えっ」
「どうした、かかってこんかいぃ!」
再びソニックブレードを出しまくるシルヴェスター。蛮族は既に泣きそうな表情である。
「さすが先生……見事なソニックブレードです」
その様子をガートルードは、満足そうに見ていた。
瀬蓮の近くでは、国頭 武尊(くにがみ・たける)が蛮族から瀬蓮を守っていた。否、守っているというより、派手にパフォーマンスをしていた。
「全てを焼き尽くすナラカの炎よ、燃え盛り、灰を成せ! 獄炎猛竜撃!!」
武尊は長々と技名のようなものを叫ぶと、その手から炎を放った。いわゆるただの火術である。
次に武尊はショットガンを構えると、アクション映画のヒーローのように地面を転がり、「SHIT、これじゃキリがねえぜ」などとそれっぽいことを呟きながら銃を撃ち始めた。どうやら彼にとって親探しの手伝いや護衛など二の次で、最も重要な目的は瀬蓮にかっこいいとこを見せることらしかった。あわよくばそれをきっかけにして、仲良くなろうと目論んでいたのだろう。
「なんかあの人、怖いね……」
しかし、瀬蓮のそんな一言で、武尊の計画はあっさりと無に帰した。
「……」
武尊はそれまでのオーバーアクションな立ち回りを止め、スタスタと無遠慮に蛮族に向かって進む。
「あぁ、なんだこいつ、真っ直ぐ向かってきやがって! 蛮族舐めんな!」
その一言で、武尊の中で何かが切れた。
「蛮族!? こちとら天下のパラ実生だぜ! 君らのようなチンピラとは格が違うんだよ!!」
武尊は闘い方を180度変え、乱暴に蛮族の頭を鷲掴みにすると、思いっきり地面に叩きつけた。
「ひっ、ひいい、こいつやべえ!」
「おい、逃げるんじゃない! この怒りを君らで発散するんだからな!!」
無茶苦茶な言い分と共に、武尊は手当たり次第に蛮族をボコボコにした。ついでに彼らが持っていた金目のものも奪った。
武尊から逃れた蛮族たちの前に立ち塞がったのは、クロス・クロノス(くろす・くろのす)だった。
「お、こいつ女か? 教導団の服を着てるが、女なら勝てそうだぜ!」
向かってくる蛮族。クロスはそれらを一瞥すると、どこからか大鎌を取り出した。
「ひええっ、何あの武器、超こええ!」
「ふふふ……ヤンキーごときが、女だという理由だけで教導団生徒を見くびるんですか? この大鎌が、あなたたちを美味しそうだと見つめていますよ」
「ひっ、ひええ、武器もこええけど、あの女もっとこええ!」
逃げ惑う蛮族に向かって、大鎌を振り回すクロス。その刃が数名の蛮族に触れ、その場に倒れこむ蛮族。
「ふふ、お命頂戴致します」
不敵な笑みを浮かべ、傷を負った蛮族をさらにボコボコにするクロス。
蛮族たちは最早完全にびびっている。
そこに、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)とパートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が追い討ちをかける。
「シルフィーさん、光条兵器です!」
「はっ、はいっ、安芸宮さんっ!」
シルフィーから光条兵器を受け取った和輝は、その巨大な剣で狙いを定める。
ずばり、狙いは足。相手を行動不能にすれば、命まで取らなくても良いでしょう。
和輝の考えはいたってまともだったが、攻撃方法に少々問題があった。彼は、光条兵器の特性を活かし、蛮族のアキレス腱だけを切っていったのだ。
確かに足を狙ってはいるが、これはこれで結構性質が悪い気はする。もちろん後ほどシルフィーに治療させるつもりではいたが。
「どうして、私たちを襲うのですか? ただの機晶姫を襲って、何のメリットが?」
アキレス腱を切りながら質問する和輝に、震えながら蛮族が答える。
「だ、だって機晶姫バラして売ったら金になるかなと思って……それに女の子いっぱいいたし……」
和輝は溜め息をひとつ吐くと、「救えませんね」と漏らし、再びアキレス腱を切りに回った。
「私は……戦いを好みませんし、色々な人が傷つくのも嫌です。だから、後で治療をさせていただきますね」
和輝に切られた蛮族たちに、そう告げて回るシルフィー。
いや……だったらまず、あいつを止めてくれ……。
蛮族は声にならない声を出した。
彼らから離れ、距離を置いた蛮族たちの目に留まったのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ) と笹原 乃羽(ささはら・のわ)だ。背も小さく、可愛らしい外見をしており、教導団生でもない彼女らなら……蛮族らはやっとターゲットを見つけた、と言わんばかりにふたりに向かう。
「皆いっぱい倒して目立ってるね! 私も負けないよっ!」
美羽は元気な声ではしゃぎ、自分に向かってくる蛮族を次々と華麗な足技で倒していく。そのレパートリーは飛び蹴り、ローキック、ハイキック、かかと落としなど実に多彩である。なお美羽はかなりのミニスカートを履いており、技を繰り出す度に素敵なものがチラチラ見える。実に素晴らしい。エクセレント!
しかし、蛮族的には強烈な蹴りによってそれが見える前に視界が真っ暗になっているので、ただの蹴られ損である。
「くっ……こいつも強いのかよ! じゃあお前だ!」
蛮族の一部が乃羽に突撃する。彼女は一見幼くて小さな女の子に見えるが、その本性は麻雀と暴れることが大好きなろくでもない子であった。
「あんたたちを麻雀の役で例えると……ツモのみ、ってとこだね!」
「あぁ、何分けの分からないこと言ってやがる!」
乃羽は攻撃をかわすと、持っていた仕込み竹箒で蛮族の顔面を強烈に殴打した。
「ぐえっ」
どさっ、と力尽きる蛮族。乃羽は足元にひれ伏した蛮族を見下ろしながら言葉を投げた。
「ツモのみは500・300……ゴミってことだよ!」
その後も乃羽は「ゴミっ! 社会のゴミっ!」と連呼しながら蛮族を鈍器のようなもので殴打していく。
「ソニックブレード! ソニックブレード!!」
「瀬蓮へのアプローチが君らのせいで失敗ぞっ! どうしてくれんだこらっ!」
「ふふ、この鎌がまだ血を吸い足りないとお腹を空かしていますよ……!」
「悪しき者はこの剣でアキレス腱を切るっ!」
「あーっ、今パンツ見たでしょ!? 変態! この変態っ!!」
「社会のゴミ、世の中の役に立てないなら消えなさい!」
辺りはもう凄惨な光景が広がっていた。既に大体の人が思っていることだと思うが、一応これを言わざるを得ないだろう。
――どっちが蛮族なんだこれは、と。
既に半数以上が壊滅し、戦意喪失気味な蛮族軍だが、彼らの悲しい男の性が、戦いを止めることを許さなかった。
「おぉーっ、こんなとこに、いい体したねえちゃんがふたりもいるぞ!」
そう叫んだ蛮族の前にいたのは、サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)、そしてパートナーのヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)だった。踊り手であるヨーフィアの衣装はやたら露出が多く、そんなヨーフィアに「お色気作戦でいきましょう」と言われたサレンも、水着着用でその豊満な胸を惜しげもなくさらけ出していた。その胸の豊かさは、以前別な依頼で行った孤島で数々の生徒によって証明されている。
「ふふふ、サッちゃんと一緒に目立つことが出来て、しかもヴィネちゃんも守れる……なんて素晴らしいアイディアなの」
どうやらヨーフィアはこの現状にとても喜んでいるようだった。一方のサレンも、てっきり新人グラドルみたいに無理矢理水着にさせられているのかと思いきや、案外乗り気だった。
「ちょっと恥ずかしいッスけど、これならばっちり油断を誘えそうッスね!」
というか、おそらくちょっと頭が弱かった。
「行くッスよ、ヨーさん!」
得意の格闘技で、蛮族を倒していくサレン。攻撃を繰り出す度にその胸が揺れ、蛮族はもう闘うどこじゃなかった。もっとも、こんなあからさまな胸の揺れに釘付けになっているようでは、彼らはまだ真の胸フェチとは言い難い。究極の胸フェチとは、夏の海よりも冬の室内にときめくものなのだ。水着は露出が大きい分、想像する余地があまりない。しかし冬ならば、外でコートを着ていた姿から室内に入りコートを脱ぐという過程があるため、「あの子何カップなんだろう」と想像を巡らす余地がある。ナスと女性の胸は秋が旬とはよく言ったものである。
と、そんな説明の間に、サレンは周りの敵をあらかた倒していた。
「ふー、こんなもんッスかね」
そんなサレンの後ろで、ヨーフィアが何かを考えている。
「確かにある程度目立てましたけど、何か足りないのよね……あら、こんなところにハサミが」
ヨーフィアは、その道具の使い道をひとつしか知らなかった。彼女はそっとサレンに近付き、水着の紐をハサミでちょきんと切った。
「えっ、えっ、何スか? 切れちゃったんスか!?」
大事な部分が見えそうになり、慌てて手で隠すサレン。ここまで来るとさすがに胸フェチがどうとかいう話ではなくなってくる。本能として、全ての男がサレンに目を向けた。
「ほらサッちゃん、そこは両手を広げて『切れてないッスよ』って言わないと」
「いやいや、切れてるッスよ! 思いっきり切れてるッスよ!」
ヨーフィアは集まった視線を浴びて、今度こそ満足した。
彼女たち撃退組が暴れまわっているその一方で、ボスと数名の蛮族はヴィネへと迫っていた。
「へへへ、あいつをバラして、金にしてやるぜ」
そんな彼らを通行止めしたのは、十倉 朱華(とくら・はねず)とパートナーのウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)、そして織機 誠(おりはた・まこと)の3人だった。
「騎士として、ここを通すわけには行きませんね」
ロングスピアで敵を牽制しながら誠がはっきりと口にする。
「僕は、あまり乱暴なことは好きじゃないんだ。だから、出来ればこのまま、引き下がってくれないかな?」
「朱華、どうも素直に聞いてくれないようですよ」
戦闘を避けようとする朱華を心配し、パワーブレスをかけながらウィスタリアが呟く。
「へっ、下がれと言われて下がる馬鹿がいるかよ!」
ボスが部下数名と3人に襲い掛かる。
「……仕方ないね」
朱華はスウェーで攻撃をかわすと、バスタードソードで手下の内ひとりの胸部を打つ。
「はっ!」
誠も、ロングスピアで的確に手下の鳩尾を捉え、動きを止める。
「さあ、残りはあなただけですね」
ボスに向かって誠が槍を向ける。
「くっ……畜生っ!」
ヤケ気味にヴィネに向かい突進するボス。しかし、その突進を、ウィスタリアがホーリーメイスで防ぐ。
「私がいる限り、ヴィネさんには手出しさせません。もちろん、朱華にも」
攻撃を弾かれたボスの隙を突き、誠が光精の指輪で目を眩ませ、足払いをかけた。バランスを崩れたのを見て、合図を送る。
「今です! どうぞ、やってください!」
「もう、こんなことはしないようにね」
朱華がそんな言葉と共に、ツインスラッシュを放つ。
「ぐあっ……」
どう、と地に倒れるボス。3人が辺りを見回すと、他の蛮族たちも見事に全滅していた。
「ご協力ありがとうございます」
手を差し伸べながらお礼をする誠と握手をし、朱華は言った。
「ありがとう、か。うん、やっぱり、契約者として力を得たなら、こうやって誰かからありがとうって言われるようなことをしていきたいよね。僕の方こそ、ありがとう」
そんな彼らの近くで、ヴィネが口を開くタイミングを窺っていた。
「あ、あの……」
「はい?」
「何かな?」
同時に振り返る誠と朱華に、ヴィネは頭を下げて同じ言葉を口にした。
「守っていただいて、ありがとうございます」
ふたりは顔を見合わせると、嬉しそうに微笑みあった。そしてそんな朱華を、ウィスタリアは優しく見守っていたのだった。
◇
やがて夜になり、瀬蓮たちは休息をとっていた。光のない場所では機能が停止するヴィネは、立ったまま静止していた。
――静止しているはずだった。
僅かに、それは本当に誰も気付かないくらいごく微かに。
ヴィネの指が、ぴくりと動いた。
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