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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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第一章



「いらっしゃいませ! 蜜楽酒家へようこそ」

 七瀬歩(ななせ・あゆむ)は可愛らしい微笑みで、目の前の人物を迎え入れた。
 ここは【蜜楽酒家】。タシガン空峡に浮かぶ小島の一つにある酒場だ。揉め事お断りの絶対中立地帯で、一体を根城とする空賊たちが、ひと時の安らぎを求めて訪れる場所なのであった。そんな場所で何故だかウエイトレスになってる歩に、目の前の人物こと日下部社(くさかべ・やしろ)は一言ツッコミを入れずにはいられない。
「……って何しとるんや、あゆむん」
 やはり関西弁を操る人間として、不可解な事態にはツッコム、それは最低限のマナーである。
「なんだ、やっしーさんかぁ。えへへ、バイトさせてもらってるんだー」
「バイトて。何もこんな物騒な所でせえへんでも……。あゆむんなら、もっと良いとこでバイト出来るやろ」
「だってすごいと思わない? 普段はライバル同士の空賊の人達がこんなに集まってるのに、ここでは皆ルールを守って争わないでいられるんだよ。あたし、思うんだ。仲良く出来る人達で集まって仲良くしてても、それって本当の平和じゃないんじゃないかなって。だから、このお店の平和は勉強になると思うんだ」
 それを聞いて、やっしー……じゃなかった、社はうんうんと頷いた。
「あゆむんは立派やなぁ……。でも、酔っぱらいには気をつけるやで。ほれ、見てみい」

 ◇◇◇

 社の指差すほうでは、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が酔っぱらいに捕まっていた。
「へっへっへ、ねーちゃん。こっち来てオジサンのキノコ汁を飲まねぇか?」
「きゃっ! や、やめてください……!」
「採れたてキノコ山盛りの絶品スープだぁ。ビタミンB2が豊富なんだぜ、へっへっへ」
「知らない人のキノコ汁は飲んじゃ駄目ってお母さんが……。ああん、放してっ……」
「ちょっとちょっと、その辺で勘弁してあげて下さい」
 よいではないかよいではないかと迫るオジサンに、見かねた戦部小次郎(いくさべ・こじろう)は間に入った。
「ウップ……、なんだ兄ちゃんもキノコ汁が飲みたいってか?」
「いえ、そのお気持ちだけで結構です」
「あと、ご気分が優れないのでしたら、トイレは向こうですわよ」
 顔面が肌色と青のグラデーションに染まったオジサンに、小次郎の相棒、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は優しく微笑んだ。オジサンはしばし目を白黒させたが、やがて照れくさそうに「へへへ、すまねぇな」と笑いながら、おぼつかない足取りでトイレへ向かって行った。気遣われたのが嬉しかったのだろう。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。危うくキノコ汁を飲まされる所だったよ」
「……まあ、美味しそうでしたけど。予想はしていましたが、騒々しい場所ですね」

◇◇◇

 そこへ、店内を巡回していた生徒たちが戻って来た。
「お帰りなさい。何か収穫はありましたか?」
 小次郎が尋ねると、月島悠(つきしま・ゆう)リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は顔を見合わせ感嘆の息を漏らした。
「……なんというか、想像以上の規模の酒場で驚いた」
「奥にもう二つ、大きなフロアがあったわ。しかも、どのフロアも空賊で満員。立派なショウステージもあったし……ああ、そうそう。二階にも客席があるのよ。上からショウを観れるようになってるの。次の蒼空歌劇団はここでやるように提案してみようかしら?」
 興奮する二人を微笑ましく見つつ、御凪真人(みなぎ・まこと)は店内を見回した。
「タシガン空峡の空賊が集まる店ですからね……。随分と繁盛しているのでしょう」
「これだけ人が集まれば大儲けだろうな……、あ、観てみろ、真人。ステージで芸者が三味線弾いてるぞ」
「芸者なんて甘いわよ、悠くん。奥のフロアではインド人が派手に火を吹いていたわ」
「……悠くん、リカインさん。一体何を張り合ってるんですか」
 苦笑いを浮かべる真人だが、気持ちはわからなくもない。エスニックな雰囲気の店内には、あらゆる人々が集まっており、そこには人種や種族の垣根はない。混沌としてるとも言えるし、調和してるとも言える。その光景には、この店に訪れる者をどこか心躍らせる力があった。
「……それで、バッドマックス空賊団は見つかったのか?」
 壁に背中を預けグラスを傾けていた閃崎静麻(せんざき・しずま)は、ふと真人に声をかけた。
「探してみたのですが、どうもまだ現れていないようですね」
「そうか。それじゃ、もう少し待つ必要があるな……」
「あの、お酒のおかわりもってこようか?」
 絶賛ウエイトレス中の歩が尋ねた。静麻のグラスが空になったのを見つけたようだ。
「ああ、これの事か? 酒じゃなくて烏龍茶だよ。……てか、俺はまだ未成年なんだが」
「ご、ごめんなさい。静麻さん、大人っぽいからつい……」
 そんなに老けてみられるのだろうか……、静麻のハートは若干へっこんだ。
「……まだ時間があるようですし、どうです、トランプでもしませんか?」
「こんな事もあろうかと、小次郎さんが用意してきたんですの」
 小次郎とリースが提案すると、暇を持て余していた一同は賛成した。
「じゃあ、大富豪でも……って、社くん、何してるの?」
 大量の酒瓶を抱えて、バーカウンターから戻って来た社の姿に、リカインは眉を寄せた。
「なに、ブルの奴が来たら、ちょいと接待したろ思ってな。その準備や」

 ◇◇◇

 蜜楽酒家の船着き場。
 早瀬咲希(はやせ・さき)は小型飛空艇を着陸させた。
「小型飛空艇でループ系の機動は無理があるみたいね……」
 彼女は飛空艇のテスト飛行を終え、帰って来た所だ。テストしてみた結果、インメルマンターンやスプリットS、バレルロール等のループ系(宙返り)の機動は危険である事が発覚した。実際に彼女が試してみたのだが、その負荷に耐えきれず、危うく放り出されて雲海にダイブする所だったのだ。
「実戦では、ヨーヨー系の機動で戦術を組み立てて……」
 ぶつぶつとシミュレーションを行う彼女に、外で風に当たっていた白砂司(しらすな・つかさ)は話しかけた。
「……確か教導団の早瀬だったか。性能確認とは抜かりがないな」
「教導団航空科に所属する人間として、装備の確認は基本事項だもの。司さんは何を?」
「ちょっとフリューネについて思う所があってね……」
「フリューネ……って、噂の女義賊の……?」
「義賊か。弱者に施しを行うフリューネの行動は、わからなくはない。だが、それが正しい手段だとは俺には思えない。法とは強者と弱者が寄り添うためにある誇りだと俺は思う。強者は誇りをもって守り、弱者は誇りをもって信じる。市民に支持されていようと、彼女は空賊だ。法を信じる俺には賛同出来ない」
 二人が会話する近くに、荷運びをする作業員の姿があった。
 今井卓也(いまい・たくや)と相棒のフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)だ。学生服では目立つのではないかとの配慮から、ツナギを着込んで変装し、バッドマックス空賊団を探している所だ。
「こんな小汚い扮装をさせおって……、折角の俺の美貌が台無しではないか」
「ただでさえフェリックスは目立つんだから、しょうがないだろ?」
「どうせ変装するのであれば、優雅な空賊にでもなればよいものを……」
 ため息を吐く相棒を他所に、卓也は双眼鏡で船着き場を警戒していた。
「……ん? い、いた。ブルを見つけた!」
 事前に受け取った手配書で、ブルの人相と船の形状を照らし合わせる。間違いなくブル本人だ。
「どれ、俺にも見せてみろ」
「あ、ちょっと……」
 卓也から無理矢理双眼鏡を奪い、フェリックスもその姿を確認した。
 【ブル・バッドマックス】は浅黒い肌をした大男だ。筋肉質な大男ではなく、肥満体型の大男である。ブラックレザーのジャケットを着込み、ごつ目のシルバーアクセサリーで飾っている。スキンヘッドの下には、見るからに醜悪な顔が乗っていた。フェリックスの美の基準からほど遠い存在だ。
「なんだ、あの泥ブタは。顔も悪いが、頭も悪そうだな……」
「泥ブタって……、まあ、手配書によれば知的とは言えない人間らしいんだけど……」
「泥ブタ退治では気が乗らんな。俺としては女性の危機を救うような仕事のほうが良いんだが……」

 ◇◇◇

 その一時間後、蜜楽酒家では。
「よっ! 大将! 良い飲みっぷり! 惚れちゃうよ!」
「はぅ☆ ボク惚れちゃいそうですぅ☆」
 日下部社と相棒の望月寺美(もちづき・てらみ)がバッドマックス空賊団に混じって大宴会の最中であった。
 先ほど用意した酒(度数の強いものばかり)を、空賊たちに振る舞って、しこたま飲ませている。
「よーし、気分が乗って来た所で……、折角だから、ボク歌っちゃいますぅ☆」
 可愛いマスコットキャラを目指す寺美としては、ここは愛嬌を振りまいて場を盛り上げたい所である。
「彼、女、い、る、の? ヘイッ! いっき! いっき!」
「ぷはーっ! 空気人形の彼女ならいまーす!」
「はっはっは。そかそか、兄さんも切ないなぁ。ほれ、俺のおごりや、じゃんじゃん飲んだって!」
 それにしても、この社、コミュ力高過ぎである。

 思わぬゲスト(社)が、場を多いに盛り上げてくれたおかげで、ブルは上機嫌で酒をあおっていた。
「よう、あんたがブル・バッドマックスかい?」
「……あん? なんだ、てめぇ、ここいらじゃ見ねぇ顔だな? 新参者の空賊か?」
 ブルの前には現れたのは、瀬島壮太(せじま・そうた)だった。
「まあ、そんな所だ。実は天下のブル大将に耳寄りな話を持って来たんだ」
 そう言うと、壮太は左手の人差し指に装着されたアーマーリングを見せた。女性の上半身を模したデザインが施されたシルバーリングである。
「どうだ、いいオンナだろ。これはタシガンのとある宝石商から奪った一点物の高価な品だ」
「……ほう、やるじゃねぇか」
「どうやら、あんたもシルバー系は好きそうだな?」
 ブルの身につけたアクセサリーに目をやりながら、壮太はしめしめとばかりに笑った。
「そこの流通ルートと輸送ルートはすでに把握してあるんだ。で、どうだ? オレを仲間に入れてくれねーかな? 商船に襲撃を掛けたい所なんだが、俺一人じゃ心もとなくてよ。あんたらみたいな豪傑に是非とも手を貸して貰いたいんだ。宝はもちろんあんたの物だ。オレはちょっとおこぼれを貰えりゃそれでいい」
「悪い話じゃなさそうだな。どれ、ちょっとその指輪を見せろ」
 ブルが指輪に触れようとした瞬間、壮太の左手が引っ張られるようにぐんと上に伸びた。
「なんだ、どうした?」
「い、いや……、なんでもねぇ……」
 壮太はそっと口元に指輪を寄せ、指輪型機晶姫であるパートナー、フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)に小声で話しかけた。
「ちょっと姐さん。いきなり動いたらマズイって」
「だってあいつ、私に触ろうとしたのよ? 気をつけてよ、壮ちゃん」
「大丈夫だって。姐さんには指一本触れさせねぇから……」

 とそこへ、朝霧垂(あさぎり・しづり)と相棒のライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が現れた。
「おいおい、俺を抜きにして入団の話なんかしてんじゃねーよ!」
「なんだぁ? てめぇも希望者かぁ?」
「あんた最近噂になってるブルだな? 強い男は好きだぜ、俺を仲間に入れてくれよ」
 垂は腕組みをしながら、超強気な態度で入団を迫った。まあ、空賊界隈では強気なルーキーはそう珍しいものではなのだが、メイド服を着た強気なルーキーとなると非常に希有な存在と言うほかない。ブルは複雑な表情を浮かべて、どう見てもメイドにしか見えない垂を見つめた。
「まあ、最近汚れ物が溜まってるからな……、メイドがいると助かる……かも?」
「なに言ってんだ、大将。俺はメイドの仕事がしたいんじゃねぇ、戦闘担当だぜ!」
「戦闘担当!? そ、そうか。最近のメイドはドンパチもこなしちまうのか……、すげぇな。まあ、突っ立ってないで、座れ。おい、誰かこいつらに酒を持って来てやんな! 一番安い奴だぞ!」
 ブルがそう言うや否や、テーブルの上に酒が置かれた。
「これをどうぞ、私からのお近づきの印です」
 酒を持って来たのは諸葛亮孔明(しょかつりょう・こうめい)だった。
「お目にかかれて光栄ですよ、ブル殿。あなたの勇名は空峡中に轟いております。どうやら、入団のお話の最中のご様子。ならば、どうでしょう、私もあなたの配下に加えては頂けないでしょうか?」
 そう言いながら、孔明は奥の席で様子を見守る相棒の風祭優斗(かざまつり・ゆうと)に目をやった。
 お任せください、優斗殿。必ずやこの任務果たして見せましょうぞ……。
「……なんだか知らねーが、今日は随分入団希望者が集まるな。これも、俺が有名になった証拠だな。よし、てめぇら、全員まとめて俺が面倒みてやるぜ! しっかり俺のために働けよ!」
「ありがとうございます。手土産に持参した酒が大量にあるので、後ほど船のほうで飲みましょう」
「ガッハッハッハ! 気が利くじゃねぇか!」
 高笑いするブルの元へ、団員が息を切らせて駆け込んで来た。
「お頭! ツァンダから商船が出港したって情報が入りやしたぜ!」
「どれ、一仕事と行くか。野郎共! また一つバッドマックス空賊団の伝説を作っちまおうぜ!」