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リアクション
みんなとクリスマス
クリスマスと言えばデート。そんな特集が組まれ、色んなデートスポットを紹介する番組や雑誌が出回るけれど、別に恋人たちのイベントではない。家族や友人など恋人じゃなくても大切な人はいるのだから、そんな人たちと過ごせれば楽しいはず。
西の建物では、そんな風にみんなで楽しく過ごせればとお茶会を企画したケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)のもとに沢山の人が集まった。
そして、少しでも沢山の人に楽しんでもらおうとリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)はこの建物を訪れ、ダンスを披露するべくみんなに外へ出て貰う。室内でするには少し危険を伴うダンスということで、どんな内容なのだろうかとワクワクしている者もいるようだ。
「寒い中出てもらってありがとう。これを使うから、室内ではやらないようにって言われたんだ」
細身の彼が取り出したのは、バスタードソードと光条兵器のアワナズナ・スイートピー。形状は巨大な日本刀を模しており、軽々と二刀流を構える姿だけでも驚くのに、それを使って踊ると言うのだから期待は高まっていく。
特にステージは用意されていなかったので、1つ1つの建物をまわることにしたが、幅広く使える分周囲にも気を配らなければと安全確認をして一礼。音楽を流す係に立候補していた水神 樹(みなかみ・いつき)は、その様子を見て預かっていた機械のスイッチを入れる。
流れてきたのは、ソビエト3巨匠と言われるハチャトゥリアンの剣の舞。バレエ組曲のガイーヌ最終章で流れることで有名なその曲は、誰しも1度は耳にしたことがあるであろう勇壮で荒々しいリズムとメロディー。それに合わせて舞う様子は我流の剣術を披露しているかのようにも見えるが、つま先やかかとで床を踏み鳴らしてリズムをとるそれはサパテアード。なんとリアトリスはフラメンコを踊っているのだ。
見たことも聞いたこともないような組み合わせに驚く一同だが、爆炎波と轟雷閃で交互に使って薔薇の花を描きながら踊る様は見事としか言えず、息もつかせぬ激しいダンスをじっと眺める。来られなかった友人に上手く説明出来る自信はないが、意外な組み合わせからなる素晴らしい出来映えのダンスは誰かに伝えたい。
舞っているのが白を基調とした燕尾服に身を包んだ、一見女性と見間違うかのような顔立ちをした細身の少年なのだから尚更だ。
大きな目を瞬かせて見ている蓮見 朱里(はすみ・しゅり)に、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は口元を緩める。ここに来ることを凄く楽しみにしていたというのに、彼女はメイド服を着ておもてなしに奔走するので、補佐をしながらも本当にそれで楽しいのだろうかと少し心配していたのだ。
そうして、リアトリスが最後に武器をしまい、両手を広げポーズを決める。踊りの終わりを告げるその様子に拍手が沸き起こり、椎堂 紗月(しどう・さつき)が声をかける。
「なぁ、良かったら俺たちと一緒に騒がないか? 人数は多ければ多いほど楽しいし」
な、とメンバーに同意を求めるように振り返り、椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)と目が合うと微笑む。今回参加したのも、彼に少しでも学園生活や人付き合いの楽しさを知って欲しいからで、色んな人がいればその分話の合う人もいるだろうという考えもあった。
「俺も構いません。幸いこの場には女性も多いし、ご安心出来るかと思いますよ」
志位 大地(しい・だいち)がにっこりと、そしてどこか哀愁漂う微笑みを浮かべる。どれだけ見目麗しい女の子が揃おうとも、自分が片思いしている少女には適わない。都合がつかないことが多々あるためショックは大きいのだが、1人でも楽しむと決めた以上は誰にも迷惑をかけまいと、悲しみを隠していた。
しかし、彼が不憫なのは同席出来なかったことよりも片思いの少女が少年だと気付いていないこと。可愛らしい顔立ちに騙されてしまうのか、リアトリスも紗月も実は男だと今の時点では気がついていないようだ。
女性によく間違われるためか、不快な顔をせずにこりと微笑んでリアトリスはその誘いを受けることにした。
「ありがとう、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな。みんなに配るプレゼントは用意してないんだけど……」
「大丈夫よ、だってルカルカたちは素敵な踊りを見せてもらったもの」
まだ少し遠慮気味の彼の手を取って、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は建物の中へと先導する。パーティはまだ始まったばかりで、丁度自己紹介などは済ませたばかりだったが、リアトリスのためにもう1度軽く自己紹介し、食事をしながら会話が続く。
「そういや、みんなは今何かはまってる? ちなみに俺はゆるスターの調教!」
そう笑顔で切り出したのは七尾 蒼也(ななお・そうや)。実は、ダンスを見に外へ出る前には女性陣が恋愛話をしようとしていたのだが、最近気になっている後輩と一緒に来ることが叶わなかった蒼也は、なんとかその話になることを回避しようと自ら話題を振ってみた。その話に食いついてきたのは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。こちらも思い人との参加が叶わなかったようで、先の大地といい男性陣は落ち込んでいる人が多いようだ。
「ヒーロー衣装の作成だな。如何に動きやすく、カッコイイのを作るか……今のは視界が狭いし、実戦では苦労してるんだ」
ヘルメットをトントンと叩く様子に小さく笑いも起き、これで恋愛の話から自然に遠ざけることが出来ると男性陣が落ち着いたとき、さらなる来客が現れた。
佐野 亮司(さの・りょうじ)と向山 綾乃(むこうやま・あやの)は、イエニチェリの個人的なパーティと聞きつけ、直の手伝いをするべくお菓子類の調達から配達を担当していた。事前にいくらかは用意していたが、楽しく語らいながらついつい手が伸びて足りなくなっては困ると補充分を持ってきてくれたらしい。他の建物では随分と大食らいな人もいたらしく、何度も往復したのかパーティも序盤だと言うのに疲れの色が見えていた。
「お、ここにも見知った顔がいるのか」
全ての建物へ配達していれば、その道中や行く先で友人にも会う。楽しそうな様子に羨ましくないと言えば嘘になるかもしれないが、商売人である彼が「商売抜きで人を持て成そう」という貴重な行動を友人らに驚かれながらも、パートナーと一緒に建物をまわっていた。
語らっているルカルカに代わり財布を預かっていた夏侯 淵(かこう・えん)は、山盛り買い込むよう言われていたのにお代はいらないと言われ面食らってしまう。
「しかし、おまえは商人なんだろ? これでは義賊と変わらないじゃないか」
「いや、今日は商人じゃなく執事……かな」
あまりお茶を淹れたりといったことは得意としていなかったが、淹れてあげたいと思う相手がいたなら苦手なことでも頑張れる。主催である直の講座を切っ掛けに色々学んできた亮司は、配達する先々でその腕前を披露するかのようにお茶を振る舞っているのだ。
「亮司、こっちは準備が整ったよ。いつでも大丈夫!」
お茶を淹れるくらいなら各建物でも出来るが、料理が作れるような調理場は1番大きな中央の建物くらいしかない。そこでクッキーや得意とするスコーンなど、時間が経っても美味しく食べられる物を綾乃は選んで作り、亮司の振る舞うお茶と楽しんでもらえればと、彼が仕入れてきたお菓子たちと一緒に配布してまわっていた。
「よっし、やるか!」
何が始まるんだと集まってきたみんなの目の前で、スキル「ティータイム」を発動させる。鮮やかな手際で出来上がった紅茶は心を落ち着かすような香りをしており、みんなは嬉しそうに手を伸ばす。
駆け出しバトラーのアインも、朱里にあまり迷惑をかけないよう、あのくらい出来るようにならなければとティーカップに映し出されたゴールデンリングを尊敬の眼差しで見つめている。けれども、上質なメイド服と執事服まで着てアインの素敵な様子が見たかった朱里にとっては少しつまらないのか、こっそりと耳打ちをした。
「……わかった。君がそう言うのなら、やってみよう」
綾乃が作ったスコーンを嬉しそうに手に取ったペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)に近づき、スッとジャムの小瓶をいくつか乗せたトレイを取りやすい位置で差し出す。
「ペルディーダ様のお好みの物はございますでしょうか。こちらのジャムは紅茶に入れて頂きましても――」
スコーンや紅茶と相性の良いジャム、入れたときの引き立つポイントなどを説明してくれるアインに、ペルディーダは彼のお薦めの物を選んだ。みんなで楽しくお茶会をするつもりだったけれど、意外にも執事たちに至れり尽くせりで、こんなお茶会も良いかもしれない。
「でも、亮司さんは綾乃さんがいるし、アインさんは朱里さんがいるし……いいなあラブラブで」
執事としてよりも恋人としての立場が羨ましいのか、ポツリとそんな一言を漏らす。すると、綾乃は慌てて否定した。
「違いますよ、私と亮司は家族みたいな物です。恋人だなんて、絶対無いですよ」
どうしてそんな誤解を受けたのだろうかと不思議そうな顔をしつつ苦笑混じりに言われ、ペルディーダは仲の良い2人に自分たちのような物かな、と蒼也を見た。
「確かに私は、ペルディーダ様の仰るとおり彼女を特別な存在としてお守りしていますが……」
そう平然と答えるアインに少し恥ずかしそうに朱里が微笑むと、有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が興奮気味に話の輪に交ざってきた。
「そ、そうだよね! パートナー同士でも、特別な関係って……あるよね! いや、あのっ、私はそうじゃないけどねっ?」
そうは言いながらもちらちらと紗月の様子を窺っていれば説得力はまるでない。ここは気付かないフリをしてあげて、ルカルカは話の矛先を朱里へ向けた。
「ね、ね、キスは? キスはした?」
「え、えぇええっ!? その、えっと、あの……」
どうどうと恋人宣言をされたことを冷やかすように、目をキラキラさせて聞いてくる。何て答えようかとアインを見れば、向こうも顔を赤くしてルカルカを止めるつもりで伸ばしかけた腕を言葉が見つからないのか空にさまよわせたままで、取り乱している様子が見て取れる。2人のその様子に「これはしたのね!」と何故か盛り上がる女性陣。普段は冷静な樹も興味があるのか、つられて顔を赤くしながら朱里に質問する。
「その、きっかけはどんな感じだったの? 雰囲気とか、是非参考にさせて頂きたいわ」
(わ、私まだ何も言ってないのにー!)
「――朱里、少し外にいかないか?」
あわあわと質問攻めで困っているのを見かねて、アインは女性陣の輪から朱里を連れ去るように腕を引く。ヒーローがヒロインを助けに来たようで、キスについて聞けなかったことが残念なような、そんな助けに憧れているような感嘆の声が上がる。
「おう、ごゆっくり。ここは任せな」
亮司がひらひらと手を振って送り出し、きゃあきゃあと盛り上がる女性陣を止めることは出来ない。蒼也の努力虚しく、場内は恋愛話で持ちきりだ。
「……楽しそうですね」
ポツリと大地が呟き、肩身の狭い男性陣は重苦しい雰囲気を会場の隅に漂わせながらやけ酒ならぬやけ紅茶を煽っている。
「俺だって、この冬こそはって思ってたんだぜ? 冬なら寒いからどうどうと寄り添ったり出来るし……」
「俺なんて、好きだって言ってくれる子は牙竜という正義の味方が一番輝く姿を一番見られるのは悪の側なんて言うんだぜ? そんなに恋愛経験が多いわけじゃないが、今片思いしている子も同じ考えかと思うと……俺は彼女の側で輝いていたいのにさ」
「俺はいつも都合が合わなくて、まともにデート出来たのなんて……マスター酒だ! 酒をくれっ!」
そう亮司に掴みかかるが、残念ながら彼はマスターでもなく酒も苦手なため、落ち込んでいる男性陣に振る舞われる酒は無い。それを不憫そうに眺める淵は、未成年にくれてやる酒は無いと1人こっそりブランデーや日本酒等色々な酒類を「命の水」と称して飲んでいた。
「せっかくのパーティだしあたしも素敵な出会いがないかなあ……」
「焦らなくても、まだまだこれからだよ。でも確かに、幸せそうな人を目の前にすると羨ましいよね」
ペルディーダの呟きにケイラがフォローを入れると、ルカルカは嬉しそうに微笑む。
「ふふ、みんなよりも一足早く花嫁ちゃんにはなっちゃうかもね。けど、樹も素敵な恋愛をしてるんだよね?」
「え、ええ。出逢ったのも恋人になったのもこの学舎だったから、今日も一緒に来られたらと思っていたのだけれど……」
「凄ーい! やっぱり、愛の雫とか噂になったくらいだし、この学舎には恋愛の神様でもいるのかなぁ」
凪沙の発言に、ルカルカは得意げな笑みを浮かべる。誰か手に入れたらしいという噂は広まっていたものの、誰だったかというところまでは聞いて無かった樹は驚いた顔をして彼女を見る。
「まさか、ルカルカさんが?」
「うん! お陰様で、彼と婚約も無事出来たわ」
より一層盛り上がる5人に少し圧倒されながらも、紗月はそうやって盛り上がれることが少し羨ましく思う。もし自分にも気になる人が居たならば率先して話題に混ざれたかしれないが、それでも女の子たちのテンションについていくのは困難だったかもしれない。
「恋する女の子ってのは凄いな。アヤメはいないのか? 気になる子」
素敵な恋人を作りたいとは思っていても、中々ピンとくる出逢いが無い自分と違い、もしかしたら彼は気になる子がいるのかもしれない。凪沙も含め、普段そういう話をしないので場の空気を利用してお互いの恋愛感について話してみようと思ったのだが。
「残念だけど、恋愛もあまり興味ないな。紗月はいい女だと思うが」
「……は? アヤメ、俺男だぞ……?」
あまりの素っ頓狂な答えに目を丸くしていると、今度はアヤメが一瞬だけ驚いた顔をする。まさか、契約してから今までずっと女だと勘違いしていたのだろうか。
「……そうなのか? まぁ、この際男でもいいさ。紗月、お前俺のモノになれ」
紗月より10cm程高い身長を活かして、上から覆い被さるように顔を近づける。女の子だったならばクールな男性に見つめられてドキッとする瞬間かもしれないが、いくら見た目が可憐な女の子であろうとも中身はばっちり健全な男の子の紗月にとって、この状況は違う意味でドキドキ物だ。
「だー! 人の話聞けー! ……って迫ってくんな発情猫ー! お前酔ってんのか!?」
その騒動に注目されているとは露知らず、凪沙が止めに入るまで2人は迫られているようにも取っ組み合いをしているようにも見える体制で攻防戦を繰り広げていた。
さて、先ほど出て行った朱里とアインの2人はと言うと、上着などを掴んで出てきたというのに冷やかされたことで火照っているのか、着ることなく建物周辺を歩いていた。
「あ、あの。……ごめんね?」
「どうして君が謝る?」
「だって、答えられないのってアインに失礼だったかなって……」
凄く大切な、思い返すだけでも幸せになれる特別な物。そう感じてはいても人に話すのは照れくさいし、かと言って話さないことで無かったことにしたいと思ってるだなんて思われたくない。朱里は俯いて、どう答えるべきだったんだろうと考えた。
「……大丈夫、伝わってる」
それは自分だって同じ。朱里を大切な人だと主張したい反面、あのことは2人だけの秘密にしたいとも思う。ああいうことを恥ずかしげもなく公言する人もいるだろうが、自分もそれを得意としないので朱里が似たような考えで良かったと優しく抱きしめる。
「ありがとう、アイン。……あのね、プレゼントがあるんだ!」
いつまでも腕の中にいたいけれど、誰が通るとも分からない庭園の中では少し恥ずかしい。それを誤魔化すように、少し大きめの声を出すと上着と一緒に持ってきた紙袋から白いマフラーを取り出して、そっと首にかけてやる。
「小さい頃はね、よくお祖母ちゃんに編んでもらってたんだ。編みながら、少し思い出しちゃった」
えへへ、と物悲しげに小さく笑う朱里を強く抱きしめ直し、首もとから垂れるマフラーの端を見る。シンプルな飾り編みが施されているそれは、きっと1目1目にいろんな思いが込められているのだろう。
「あ……でもアインは機晶姫だから、こういうのって必要なかったんだよね。迷惑、だったかな……」
黙ってしまったアインに不必要な物をあげてしまっただろうかと不安に襲われるが、すぐにアインは微笑みを見せてくれる。
「君の暖かい気持ちが伝わってくる……ありがとう」
戦士として過ごしてきたアインは、きっと自分が感嘆に想像出来ないくらい辛い思いや悲しい思いをしてきただろう。寂しげな表情をすることの多かった彼が、こうして少しずつ笑顔を見せてくれるようになってきている。それが自分たちとこうして平和な日常を過ごしたからだとしたら、幸せを感じてくれているようで嬉しく思う。
そうした思いと安堵感から朱里も微笑み返すと、アインは引き寄せられるように口づけた。
「すまない、贈り物を貰えると思わず何も用意してなかった。迷惑だったろうか?」
「う、ううん! そんな、迷惑なんて……凄く幸せだよ」
はにかむ彼女を見て、その笑顔をいつまでも守りたいと思う。それは契約者としての使命ではなく、感情が乏しかった自分に最近芽生え始めた物。
「こういう気持ちを、愛しいと呼ぶのだろうな。教えてくれたのが君で、本当に良かった」
「アイン……」
失意のどん底にいた自分を救ってくれて、微笑んでくれるようになって、好きになってくれて。最初は少しのことで幸せを感じていたはずなのに、1度贅沢になるともう戻れない。もっともっと彼と一緒にいて、いろんな表情を見て、たくさんくっついていたい。ぎゅう、と強く抱き返して言葉に出来ない思いも全部伝わってしまえばいいのに。
「……寒くはないだろうか。僕はもう少し、君と庭園を見て回りたいのだが」
「平気だよ、アインと一緒だもん」
みんなに配るつもりだった手作りクッキーの小袋も持ってきてしまったから、あとで戻らなければいけない。けれど、あと少し、もう少しだけ2人きりでいたい。同じ気持ちの2人はしっかりと手を繋いで、庭園を見て回るのだった。
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