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闇世界の廃病棟(第3回/全3回)

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第5章 魂を欲するゴースト

-PM20:00-

「カード差し込めそうなところありましたか?」
「見つからないですわ・・・」
 灰色のカードを手に差込口がないか床を注意深く見ながら、陽太とエリシアの2人がDエリアの廊下を歩いていた。
「―・・・ここでしょうか」
 ハンドライトの明かりを床へ向けて確認する。
「差し込んでみますわ」
 エリシアがカードを床の差込口に入れてみると、ピピッと電子音が聞こえ床がスライドした。
「この下ですよね」
「もたもたしてないで、さっさと行きなさい!」
「あわっ、押さないでくださいよー!」
 背をドンッと押され陽太は、しぶしぶ先にハシゴ階段を降りていく。
「えっとたしか赤のカードは薬品をまとめて置いてある場所でしたっけ」
「そうですわ」
「(うぅ・・・この湿った重苦しい空気。突然お化けが出そうな感じで怖いですよね・・・)」
 カツンッ・・・カツンッ・・・。
 鉄のハシゴを降りる靴音が暗闇の中に響き渡る。
「ここは水路でしょうか?落ちても溺れる深さではいないようですね」
 コンクリートの足場から陽太がハンドライトを水路へ向けて照らす。
「奥に1つだけ資材置き場の部屋があるはずですわ」
「そこにカードキーがあるんですね」
 数メートル進んで行くとドアが見えた。
「なんとか開きそうですね・・・んぐっ、うわぁああー!」
 力いっぱいドアノブを引き、その拍子に陽太は水路へ落ちてしまう。
 ドボォオオンッ。
「何やってるんですの!早く上がってきなさいっ」
 哀れむ様子はまったくなく、エリシアは陽太に向かって怒鳴り散らす。
 ようやく足場によじ登った彼の服はびしょ濡れだった。
「へっ・・・くしっ!(うぅ風邪引きそう・・・帰ったらすぐ暖かい飲み物が欲しいですね・・・)」
 心中の中でぼやきながら、資材倉庫へ入っていく。
「引き出しの中にはなさそうですわ・・・。どこにあるのか分かりませんわ」
 空っぽの机の引き出しを覗き、ふぅとため息をついた。
「となると・・・ダイヤル式の箱の中とかでしょうか?」
「幸い耐久魔性ではないようですわ」
「かなり頑丈な金属製の箱のようですね」
 コンコンと拳で叩き硬度を確かめる。
「術で壊すのは加減が難しいですわね・・・。中のカードを壊してしまいそうですわ」
「でしたら破壊工作で箱の扉を破壊しましょう。少しの量ならC−4でも大丈夫かと・・・。火術でプラスチック爆弾に着火させて、爆発が起こったらすぐに氷術でガードしてください」
「分かりましたわ!」
 爆炎に巻き込まれないように離れた場所から火術を放ち、煙を吸って急性中毒症状を起こさないよう、すぐさま氷術で煙をガードする。
「ありましたよカード!」
 爆弾を使って破壊した箱の中から、赤いカードキーを見つけ出した。
「早くこれを皆さんの所に持っていっていきましょう」
 陽太たちは合流ポイントのFエリアへ向うため、再びハシゴに手をかけ登っていった。

-PM21:00-

「真っ暗だなー・・・、永太の視力でも見えづらいぞ・・・」
 神野 永太(じんの・えいた)は睨むようにAエリアの廊下の奥を見る。
「ですが・・・明かりを点けるとゴーストが来てしまいます」
 彼の傍らでゴーストを警戒している燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)がぼそっと呟く。
「あぁ、そうだったな」
「―・・・永太様、この細い隙は・・・」
「もしかしてそれがカードの差込口か?」
「このカードを入れればいいんだろうね」
 Aエリアで合流した綺人から白いカードキーを手渡された永太は、床の細い隙間にカードを入れてみる。
「あれ・・・認識しないね」
「もしかしたら水に濡れてしまったせいかもしれんな」
 電子部分が破損してしまったのではと思い、ユーリが眉間に皺を寄せた。
「そうなのか・・・、とりあえずもう一度試してみよう」
「反応しませんね・・・」
 不安そうな顔をしているクリスは小さな声で言う。
「あぁくそっ、また駄目だ・・・」
「今・・・何か聞こえませんでしたか?」
「カードが反応する音なんて聞こえなかったぞ」
「いえ・・・人ではない反応がこちらに接近してきています」
「こんな時にゴーストが!?」
 綺人は慌ててザイエンデが警戒する方向へ視線を移す。
 ズルリ・・・ペタッ、ズズッ・・・ズ・・・ペタン・・・ペタンッ。
 獲物を捕らえるため、人体実験によって発達させられた鋭く尖った長い爪、背骨から生えるように頭から胴体の人型がくっついていた。
「えぇいっこの、このっ。早くしないと皆お陀仏だぞ!」
 すぐ傍まで迫っているゴーストの姿を見てしまった永太は焦り、カードキーを何度も差し込む。
 ピピッと電子音が鳴り、ようやくカードキーが反応すると床が動き、中を覗き込むと鉄のハシゴがあった。
「皆っ、急いで中へ!」
 駆け込むように永太たちがハシゴを降りようすると、ゴーストが凄まじいスピードで追ってくる。
 追って来られないように床の蓋を閉じようと永太が壁際の差し込み口にカードキーを入れた。
 ガリッガリリ・・・ギリギリッ・・・ギギッ。
 鋭く尖った爪で無理やりこじ開けようと閉ざされた床を引っ掻く。
「簡単には開かないはずですから、先を急ぎましょう」
 冷静な口調で言うザイエンデに彼らは頷き、ハシゴを降りていった。
「ただの水路のようだな・・・」
 鼻をつく嫌な匂いを放つ汚水に、永太は思わず顔を顰めた。
「溺れる深さじゃないと思うけど・・・落ちないように気をつけよう」
 汚水の中に落ちないように綺人は、慎重に細い道を歩く。
「少しの間、辛抱してください・・・。ここから3つ目の部屋にあるはずです」
 ナースステーションの持ち出し記録を思い出しながら、ザイエンデが周囲をキョロキョロと見回す。
「―・・・ここか?」
「えぇ・・・」
 ザイエンデは慎重にドアを開け、亡者が潜んでいないか確認する。
「何もいないようです。今のうちに探しましょう」
「天井に何かあるよ」
 先に室内に入った綺人が天井を指差す。
「ダイヤル式か・・・。よし、永太が開けてやろう」
 部屋にあった脚立に足をかけてダイヤルに手をかけた。
「まずは番号をゾロ目に合わせてっと・・・。そんでここをこうして・・・おしっ、開いたぞ」
 開錠したダイヤルを引っ張ると、1枚のカードが床に落ちた。
「それを持ってFエリアへ行こう!」
「あぁ、皆待ってるだろうからな」
 黒のカードキーを拾い上げ、永太たち生徒はFエリアの奥にある扉の方へ向かった。