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夢のクリスマスパーティ

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夢のクリスマスパーティ
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 割と危険なケーキが出来るそばで、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は着々と順調にケーキ作りを進めていた。
 白地の布に猫の足跡模様がアクセントで付いた、ちょっと可愛らしいエプロンをつけた佑也を見て、お湯を沸かしていたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がくすくすと微笑んで言った。
「まるで休日のお父さんみたいですね」
「……お父さんってほどの年でもないんだが」
「でも、お父さんが家族のためにクリスマスケーキを作ってるようにも見えますよ?」
 フィリッパの言葉に、佑也は少し照れながら、それを否定した。
「じ、自分で食べるためだからな。別に誰かのために作ってるわけじゃ……」
「あらあら、そうなのですか? では、ご自分用なら、おうちに帰って、ゆっくり食べないとですね。朝野さんご姉妹が、お持ち帰り用の箱を用意してくださってますので、後でお持ちしますね」
「ああ、ありがとう」
 佑也はお礼を言い、計量器とにらめっこした。
「200g……よし、ぴったり」
 ケーキ作りは初めての佑也だったが、几帳面な性格が功を奏し、教本を見ながら、うまくスポンジを焼き上げていた。
「初めてにしては割と上出来……かな」
 佑也がスポンジの出来に満足したとき、向こうの方で悲鳴が聞こえた。
「ええええ、なんでこんなふうになっちゃうの!?」
 どこかで聞き覚えのある声のような気がしたが、ケーキ作りの指導役であるメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)に「型から出して冷ましてくださいなぁ」と言われ、佑也は作業の方に集中した。
 悲鳴を上げていたのは、実は佑也のパートナーのアルマ・アレフ(あるま・あれふ)だった。
 お互い、内緒でケーキ作りに来ていて、かつ、ケーキ作りの人数が多かったので、顔を合わせることはなかったが、初めてでもうまくいっている佑也に比べ、アルマの方は大惨事になっていた。
「ね、ね、チョコケーキってこんなにへにょっとしたものなの?」
 アルマの訴えを聞き、真菜が困った顔をする。
「普通は違うかと。あ、アルマさん、割烹着にチョコがついちゃいますよ!」
 料理自体したことがない上に、ロクに計量をせずに自分量でやるので、ますますひどくなる。
「もう少し、レシピどおりにやった方がいいかと……」
「り、料理で大事なのはハートよ! 想いがこもってれば、何だって美味しくなるんだから!」
 すでに大分失敗しているのに、アルマはまだあきらめる気はないらしい。
 無事にアルフにケーキを作らせるのが、真菜のクリスマス最大の難関となった。

 一方、神野 永太(じんの・えいた)はパートナーの燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が家庭科室に運んできたケーキの材料の量を見て、頭を抱えていた。
「材料のメモちゃんと読みましたか?」
「はい。読みました。書いてあった分量×10買ってきただけです」
「買ってきただけって……」
「1ホールだけでは、腹の足しにもなりませんので。でも重いので、宅配にしてもらいました」
「宅配代までかかってるんですか!?」
「大丈夫です。カードの限度額までは行かなかったようなので支払えました」
 ザイエンデが丁寧にカードを返してくれる。
「……年末はお金がなくなりやすいのに」
 どれだけ減っているかということを永太は考えないことにした。
「しかしこれ、本当に10ホール分なんでしょうか……気のせいかもっと多い気が……」
「あの、もし良かったら、それで大きなケーキを作らない?」
 有り余るほどの材料を見て、そう声をかけてきたのは百合園のお嬢様藤枷 綾(ふじかせ・あや)だった。
「大きなケーキ?」
「うん! ウェディングケーキのように大きくて、綺麗で、みんなで飾り付けできるようなそんなケーキ」
 睫の長い赤い瞳をキラキラさせ、綾は提案した。
「せっかくのクリスマスだもの。みんなの思い出に残るようなケーキにしたいの。どうかな……?」
「素敵ですね!」
 真菜が綾の提案に目を輝かせた。
「あの、神野さん、もし、よろしければ材料使わせていただけますか? 後でみんなで材料費は援助しますので……」
「うん。みんなが楽しんでくれるなら喜んで」
 永太が言うと、ザイエンデが少し悩んで、こう答えた。
「わたくしが食べる分がちゃんと確保できるなら喜んで」
「……ザイン」
「もちろんザイエンデさんにはいっぱい食べてもらうようにするよ!」
 綾がにこっと笑うと、永太が小さな溜息をついて、ポンと綾の肩を叩いた。
「いっぱいなんてこと言ったら、大変なことになりますよ」
「大変なこと?」
「1ホールくらいペロッと平らげてしまいますから。カレーとかだって……」
「カレーは飲み物です」
 永太の言葉を遮って、ザイエンデが断言する。
「……今の言葉で良く分かった」
 綾は『大変なこと』の意味を理解した。