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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

  20:00

 神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と連れ立って、パーティー会場からこちらへ移動してきた。
 スケートを存分に楽しみ、パーティーを満喫した後で、雪合戦も佳境に差し掛かっている頃だろうかと考えていた。
 観戦席でユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)を探す。彼だけは開幕からずっと観戦していたのだ。
 後から来る彼らのために、ユーリはおこたを確保してくれていた。
「ユーリ、今どうなってるのかな?」
「…結構面白いと思う。しかしむしろ雪合戦という範疇から外れている、ように思う」
「雪合戦なのに、火事が起きていますね…あれは何ですか?」
「…おそらく、雪玉製作用の雪山を燃やして、敵の戦力を削ごうとしているようだ」
「小さな子までいるみたいだけど、大丈夫かな?」
「…いや綺人、あの子供の投擲力は、あなどれないぞ」
「へえ、あんなにちっちゃいのに」
「…ほかにも流鏑馬や辻斬り、身体能力の限りを尽くしたバトルもあった」
「楽しそうでよかったですわ」
 ユーリはこくりとうなずいた。

 エル・ウィンド(える・うぃんど)は夜を待っていた。暗くなれば光が際立つ、そうすれば自分は間違いなく目立つことができるはず!
 そうして敵の目をひきつけて、勝利を収めるのだ。白組の我ら【サイサリス】は、敵の目を引くことによって撃破の隙を引き出す高度な戦闘集団なのですよ!
「うわー! なんか光ったのが出てきおった! サングラス装!着! エルさん対策や!」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)は知人の姿にはしゃいで雪玉を投げつける準備を始めた。
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)はそれを遮った。
「あいつは俺の獲物だ!」
「はいはいわかったいってらっさい、邪魔せえへんから」
 彼は既にサングラス着用である。バリケードから身を乗り出して、二人だけで戦う気満々だ。
 足をかけて、エルの目の前までジャンプする。
「赤は血の赤、炎の赤! イルミンスールの紅蓮の爆破魔ここに参上!!」
 名乗りついでに火術で背後を爆破する、演出はばっちりだ。テカテカ光る奴は叩き潰す!
 ちょっとだけエルはうらやましかった、そんな名乗りは用意していなかったからだ。このままでは彼にインパクトを食われてしまう。
「光の使者! エル・ウィンド! 赤組には既に敗北が用意されていますよ!」
 光術で自身を輝かせ、胸を張ってポーズを決めた。メラメラするやつは、無駄に温室効果に貢献しないでいただきたい!
「馬鹿なこと言ってられんのも今のうちだぜ、俺の炎で雪ごと燃やしてやっかんな!」
「いえいえ、ボクはCOOLに行かせていただきますよ、子供の相手なんてしてらんないなー」
 ウィルネストはカチンどころではなく、ガッチンときた。言葉だけでののしりあう時間は終わり、実技でのののしりあいが始まった。
 雪玉を投げれば炎術で叩き落され、溶けた雪をかぶれば雷術で狙われる。仕掛けたスネアトラップが回避されて地団太を踏めば、氷の塊が頭上をねらっている、という風な暴れ方だった。
「うわっ!」
 ウィルネストが吹き溜まりに足をとられて転ぶと、エルはわざわざ近寄って雪玉をぽいぽい放り込む。おちょくっているのだ。ウィルネストは石詰め雪玉を握りしめた。
 あたりはウィルネストの炎とエルの雷で雪がとけ、ドロドロになってきている。二人とも何度か転んで服がぬれ、冷えが襲いはじめた、はずなのだが。
「でもお前、なんでそんな平気そうなんだよ?」
「言ったじゃないですか、ボクはCOOLに行きますって、忘れたのかなー?」
 ウィルネストはぴんときた。エルに飛びついて、彼のぴかぴかのダウンベストの下からカイロをむしりとった。
「ほら! これでクールだぜ!」
「わー! カイロ返せー!」
 もうこうなると魔法対決でも雪合戦でもなんでもなく、魔法を使った子供のけんかでしかない。
「へっへっへ、エルにはそれがお似合いだ! 寒さと俺にガタガタ震えてろ!」
「キミこそ、お先真っ暗でしょうね! ボクの栄光を羨めばいいんです!」


 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は派手な紫の和服という出で立ちでフィールドを踏んだ。
 【サイサリス】の一員として名乗りを上げ、その身をもって敵の目をひきつける役割を買って出たのだ。
『すばらしい、ダンスと回避、なんという戦闘術の融合と昇華なのでしょう!』
『……ほう……あれは、一度手合わせ願いたいものだな…』
「あ、あのひとすっげえ…」
 社は感嘆しつつ、それでも雪玉を投げる手は止めない。なぜならば全ての雪玉を、リアトリスは避けてしまうからだ。
 ただ、リアトリスは避けていた。
 ただただ、避け続けていた。
 飛び交う雪玉を、一筋の優雅さも揺らがせることなく、すべての動きをフラメンコに取り込んで回避しきっていた。
 見るものすべてを魅了し、やがて戦意をも薄れさせてしまうような見事なダンス、しかもそれを着物でだ。
「ていうか、攻撃してこんのやろか?」
 リアトリスはただ踊る、しかし今度は剣を取り出し、剣舞の様相を呈してよりダイナミックなものになってきたが、それでもこの踊り子に攻撃の意思はない。
 そうなるともう、すごい、の一言しか出てこないのだ。
 くたびれて、後方でかまくらを作って引っ込んでいたセシリアとレイディスも顔を出し、この素敵な剣舞を鑑賞している。
「レイ、雪玉千本ノックの続きをするかえ?」
「いや、なんか邪魔したくないよな」
「私もじゃ、これはずっと見ていたいぞ」
「あかん、これは俺ら一旦退散すべきや、ていうか、だんだん皆テンションおかしなっとるよな…」
 多分、皆疲れてきているのだ。彼らはひとまず身を隠して休息を取るべきだという意見を交わした。


  21:00

 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はパーティーが一段落ついた頃を見計らって、こちらにやってきた。
 生姜をきかせた甘酒、シナモンをきかせたホットミードなど、ちょっとアルコール分の含まれるホットドリンクを携えている。
 まず下のショップで食事やドリンクを提供している野乃に挨拶をした。
「こんばんわ、私はアルコール飲料など持って来ましたんで一杯どうですか?」
 そういってカートに積んだ大きなポットを取り出した。保温機能があるので雪の中でも熱々を保っている。
「甘酒とホットミードです、温まりますよ」
「甘酒もいいですわね、ミードは確か蜂蜜酒でしたわね」
「そうです、ミードのほうはアルコール分が高いんで、気をつけないと。そこでちょっとお願いがあるんですよ、うっかりカップを補充し忘れて、足りなくなりそうなんです」
「はい、ありますけど、ちょっと出してこなくちゃですわ。先に観客席のほうで、ラズィーヤ様達へご挨拶はどうですか? すぐにお届けにあがりますので」
「そうですね、ではお願いします」

「甘酒やホットミードなどお持ちしました
よ、ホットミードのほうはアルコールが大目なので、弱い人や未成年の人はだめですよー」
ようやくアルコールが出てきたか、とちょっとアーデルハイトはうれしそうだ。見た目は10歳でも、中身はとんでもないので流石に誰も飲酒を突っ込まない。
「アーデルハイト様、ラズィーヤ様、こんばんわ。甘酒とホットミードいかかです?」
「ではわたくしは甘酒をいただきますわ」
「ではミードのほうをもらおうかの」
 生姜がきいて暖まりますわ、とラズィーヤが喜んでいて、ほわほわとアーデルハイトも少し頬を染めていた。

 白砂 司(しらすな・つかさ)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は、二人してそろりとアーデルハイトたちのおこたをうかがった。
「…アーデルハイトとラズィーヤは、せっかく雪合戦に来たのに見物だけなのか」
「…みんなでやったほうが楽しいですよね、まあ私はおこたでぬくぬくしたいですが」
 そう、あのベストスポットおこたを狙わない手はないのだ。あの場所を賭けて勝負というのはどうだろう?
 観客席だからといって、安全地帯であるという道理はないはずだ。いかなる場所も戦場の一部だということを思い知るべきである。
 それに個人的には、二人の雪玉アクションも見てみたい。
 …あとちょっと、冷凍ミカンがたべたいな、と思っちゃった司である。
 ショップに飲み物などを取りに行くふりをして、雪玉などを用意しはじめた。

 葛葉 翔(くずのは・しょう)はアーデルハイトにアルコールが入ったと知って、行動を起こし始めた。
 ちょっとは判断力が鈍って、普段と違うテンションで、挑発もうまくすれば乗ってくれるんじゃないか、と考えたのだ。
 外で頭ほどの大きさの雪玉をいくつか作成、小脇にかかえてスタンバイ。
 血沸き肉踊る阿鼻叫喚の雪合戦、そのルールにのっとって、正々堂々と彼はババ様に挑むのだ。
「アーデルハイト・ワルプルギス、いざ尋常に勝負だ!!」
 口上を述べて観客席に飛び込むなり、雪玉をアーデルハイトに向かってブン投げた。
 その射線上に、涼介がたまたま割って入った。アーデルハイトのミードのお代わりを注ぎに来たのである。
 しかもその傍には、カップの追加を届けに来た野乃までいたのだ。新しいカップに注いでいたミードが吹き飛び、彼らの逆鱗に触れた。
「ふふふ、当てましたね。ここは観客席ですよ。当てるならフィールド内だけにしてくださいね」
「食べ物を無駄にしちゃいけないんですよ…? ちょっと個人的にお話をさせていただけません?」
「も、申しわ…け…」
「万物の根源たる以下略フリーズバレット!!」
 冷静なようでいて実は真逆な呪文省略でビビる翔を氷付けにし、彼を担いで涼介は観客席を出て行った。
 とりあえず外に放置するが、救護室の傍なのは彼なりの温情である。

「あら、あなたがたも何をなさろうと?」
 司達は物陰からつかみ出した雪玉を手にしているところを、野乃に見咎められた。
 なんでもない、無関係であるということを、雪玉をぽいと捨てて証明しなければならなかった。
 さもなくばきっと『個人的なお話』が待っているからだ。
 自分達の使っていたおこたへそろそろと戻り、おとなしく観戦に戻った。平和が一番ですね。

 司君、きっとご機嫌なババ様は、頼めば冷凍ミカンくらいきっと分けてくれたと思うのだ。ただ誰もそんな勇気がなかっただけで。
 サクラコさん、きっとラズィーヤ様は頼めば快く相席させてくれたと思うのだ。ただ誰もが行きたいけど遠慮していたというだけで。

「なんだ、あれで終わりか。つまらんのう」
「とりあえず、アーデルハイト様、魔法をお仕舞いくださいな。あなたが出ればここが吹き飛ぶだけでは済みませんわ」
「うーむ、もうちょっと気骨があるやつがおってもよかったがのう…」