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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル
【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル 【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

リアクション

 最初は一気呵成に攻めていたイルミンスールの生徒も、ここに来てその勢いに翳りが見え始めていた。
「……頃合いね。これより攻勢に転じるわ。最前線、ラインを押し上げなさい。なるべく目立つようにね」
 状況の推移を素早く見て取った環菜が、蒼空学園の生徒に一斉に指示を飛ばす。その指示を受けて、フィールドの中央付近に位置していた生徒たちが、あえて狙って下さいと言わんばかりに豆をやたらめったらに投げ散らしながらイルミンスール陣地へと攻め入る。
「あなたたちぃ、あのうるさい蒼空の生徒たちをぶっ飛ばしなさぁい!」
 エリザベートの指示を受けて、少なからぬ生徒が迎撃に飛び出していく。しかしそれこそ、環菜が張った罠であった。
「最前線、分散しなさい。飛び出してきたイルミンスールの生徒に、蒼空学園の戦いを教えてあげなさい!」
 環菜の指示が下ると同時、最前線のすぐ後方に控えていた生徒たちが迎撃に飛び出す。その中には緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)の姿もあった。
(前回は負けてしまいましたからね。リベンジの気持ちは我らも同じです!)
(やるからには楽しみたいですし、やっぱり勝ちに行きたいですよね♪)
 他の生徒たちも似た思いを抱きつつ、クルミ大の豆を基に氷術を応用して、ちょうどサッカーボールほどの大きさに作り上げた弾を思い思いの位置に据える。

「いっけーーー!」

 それを、手にした武器や体術で、炎を纏わせて撃ち出す。熱で膨張した弾は迎撃に出たイルミンスールの生徒たちの眼前で破裂し、飛び出す豆と爆発の攻撃を同時に与えていく。そして一通りの弾が撃ち終わった後には、倒れ伏すイルミンスールの生徒たちの姿があった。
「よし、このまま戦線を押し上げるぞ! ……行こうか、遥遠」
「ええ、勝ちに行きましょう、遙遠」
 互いに頷き合い、そして二人揃って地面を蹴って駆け出す。一時的に戦力の激減したイルミンスールは、彼らの突破を止めることができない。
「やー来た来た。うーん皆元気だねー! しかしこれは大変だ、私では流石にあの数は相手できない。……時間稼ぎにでもなればいいけどね!」
 意気揚々と攻め込む蒼空学園の生徒を前に、五月葉 終夏(さつきば・おりが)がやはり氷術を応用して作り上げた小粒サイズの弾を、地面を滑らせるように走らせる。それらは駆けてきた蒼空学園の生徒たちの足を撃ち、地面に転ばせる。中にはあまりに勢いよく駆けてきたために、つまずいた拍子に地面を思い切り転がり、エリザベートを過ぎてしまう者までいるほどであった。
「ここにゴールがあればオウンゴールだね、あっはっは――」
 上機嫌で笑顔を浮かべていた終夏が、瞬時に表情を切り替え、飛んできた豆を火術で撃ち落とす。それをも潜り抜けた豆を、自らの身体を張って止める。
「っと……残念だけど、大将にぶつけさせるわけにはいかないんでね」
「あなた、なかなかいい心がけですぅ。見てなさぁい、これが私の『豆撒き』ですぅ!」
 終夏のディフェンスにより準備を終えたエリザベートが、漂わせた大小無数の豆に炎を宿らせ、上空に放つ。
「私の家で、勝手な真似はさせないですぅ!」
 エリザベートが命じれば、豆が炎をたぎらせながら、まるで宇宙から降り注ぐ隕石のように、蒼空学園の生徒を穿っていく。これにはたまらず、蒼空学園の生徒も後退を余儀なくされる。
「……一筋縄ではいかないことは分かっていても、こうも邪魔されると悔しいわね。まあいいわ、次の策は……」
 沸き起こる苛立ちを涼やかな表情の中に隠して、環菜が次の作戦を検討している時に、通信が入る。それはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)からであった。
『ボクが負けっぱなしの蒼空学園を、勝利に導いてあげるよ! ついでに、ミーミルと豊美にも話をつけておいたよ! 少なくとも、イルミン側に加担はしないって!』
「負けっぱなし、は余計よ。……でも、それは検討に値する条件ね」
 攻撃を受けたはずの蒼空学園の生徒の立ち直りが早いことも、実はミーミルが攻撃を緩衝させたのではという可能性を示唆していた。
「いいでしょう。援護を向かわせるから、あなたはエリザベートに一泡吹かせてきなさい」
『まかせて!!』
 通信が切れ、環菜が状況の推移を見守りながら、次の手を検討する。そしてカレンは、今日だけ蒼空学園の制服を身に纏い、エリザベートへ一直線に進軍していく。途中、イルミンスールの生徒を守るように酸の霧を張るジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)と目が合い、行ってくるよ! と合図をしてカレンが飛び去っていく。
「やれやれ、また良からぬ事を思いつきおって……まあよい。豊美には節分のことを教えてもらった。割と、命懸けの物の様だな」
 大半の豆は酸の霧を突破出来ずに溶かされるが、中にはそれをも突破して飛び荒ぶ豆もあった。それらを氷術を利用して作った壁で防ぎながら、ジュレールが節分というものを実感していた。
「こんな機会でもないとおおっぴらに攻撃出来ないからね〜。……見つけた!」
 蒼空学園の生徒の援護もあって、カレンはすぐにエリザベートのところへ辿り着くことが出来た。
「これでも受けちゃえ〜!」
 エリザベート直上に舞い上がったカレンが、用意した豆に邪気を乗せた『暗黒豆』をその位置からばらまく。重力と、まるで地の底に自らもろとも引きずり込もうとする邪気の相乗効果で、針のように鋭い豆の雨がエリザベートとイルミンスールのディフェンス陣を襲う。
「いた、いたいですぅ! カレン、後で覚えておくですぅ!」
「まだまだいっくよ〜!」
 エリザベートの恨み節を聞き過ごして、カレンが尚も暗黒豆の雨を降らせる。二度同じ手を易々と食うものかと、エリザベートは即座に張ったシールドで事なきを得るが、ディフェンス陣には甚大な損害が残った。
「む〜、あの攻撃は予定になかったですぅ。このままではカンナに付け入る隙を与えてしまうですぅ。早く体勢を――」
「……おまえは魔法の才能は見所があるが、人望を得ることには不得手じゃからのう。ま、おまえの主人も似たようなもんじゃがな」
「守護する者としては否定したいところですが、わたくし個人としては……ノーコメントとさせていただきますわ」
 焦りの表情を浮かべたエリザベートのところに、まるで追い打ちをかけるかのようにルミーナ、そしてアーデルハイトが蒼空学園側として現れる。
「ルミーナはともかく、どうして大ババ様までそっちにいるですかぁ!?」
「なに、ちょいと誘われたんでな、無下に断っては失礼じゃろうから乗ってみた。他校の生徒からも慕われるとは、私もなかなかに人望があるようじゃのう。ま、当然じゃがな」
 不敵な笑みを浮かべるアーデルハイトの背後では、そのアーデルハイトとルミーナを引き入れた本人である菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、敵陣深くに攻め入った同校生徒の援護を行っていた。
「うまく行くかどうか分かりませんでしたが、ここまですんなり行くとは思いませんでした。……ですがお二人とも結局、どうしてこちらに加わったのか聞けずじまいなんですよね。お二人のことですから、何かあると思うのですが」
 射程ギリギリのところから豆を飛ばし、イルミンスール生徒の行動を妨害する葉月の呟きに、周囲を警戒していたミーナが答える。
「んー、まあいいんじゃない? ワタシは、葉月と一緒ならどうでもいいし! もし葉月に豆をぶつけようとする虫がいたら、全力で駆除しちゃうからね!」
 物騒ながら頼もしい言葉をかけるミーナの相手をしながら、葉月が推移を見守る。
「さて……今日の私は、予備の身体を一つしか用意しておらん。この意味……おまえになら分かるな?」
「お、大ババ様の『残機1』……!」
 アーデルハイトのその言葉に、いつもは自信たっぷりのエリザベートが驚愕の表情を浮かべる。いつも「こんなこともあろうかと」と無数の身体を用意しているアーデルハイトが、あえて予備の身体を一つしか用意しない状態、それが『残機1』なのである。……一つは用意している辺りが抜け目ない。
「折角の機会じゃ、今日はおまえに格の違いというものを見せつけてくれようぞ!」
 ゆらり、と振り上げた杖に雷光が降り注ぎ、膨大な魔力が吹き荒れるのをエリザベートとルミーナ、そしてその場にいる誰もが感じ取る。

「天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ、
 それらに追随する数多の、炎の名を頂きしものよ、
 我に集いて一つとなり、森羅万象を塵芥と化せ!」


 アーデルハイトが唱える魔法は、リンネやエリザベートが使う『ファイア・イクスプロージョン』をより強力にした魔法。火種に豆を用いているので列記とした豆撒きである。
「……本気ですかぁ?」
「私はいつだって本気じゃぞ? まあ一つ受けてみい……
 ファイア・レージ!
 軽口を叩くように、アーデルハイトが杖を振りおろせば、エリザベートを爆心地とした超巨大爆発が巻き起こる。生じる熱風と粉塵に皆が目を閉じる中、一人アーデルハイトが、意外なものを見たとでも言うような表情を浮かべる。
「……ほう。来るか、あの絶望的な状況で」
 一方のエリザベートも、自ら張ったシールドに思ったより衝撃が来ないことを不思議に思っていると、自分の眼前に一人の少女が盾となって立ち塞がっていたことに気付く。
「エリザベートちゃんは私が守りますよぉ!」
 声を上げた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、魔法の衝撃でふらつきながらもエリザベートを守るように立ち続ける。それを見て、アーデルハイトが満足したかのように微笑み、杖を下ろす。
「……エリザベート。おまえも存外、生徒に慕われておるのじゃ。それを忘れるでないぞ」
 呆然とするエリザベートに背を向けて、アーデルハイトがその場を後にする。傍にルミーナが駆け寄って、声をかける。
「今の一撃……見た目こそ大層なものでしたが、威力は加減しましたわね」
「さて、何のことじゃろうな。私は疲れた、休ませてもらうぞい」
 挨拶代わりに杖を振って歩き去っていくアーデルハイトを見送って、ルミーナが環菜のところへ戻っていく。
「ねえ葉月、結局アーデルハイト様は何がしたかったのかな?」
「察するに、あれが『イルミンスール流』なのでしょう。……とても蒼空学園には真似出来そうにないわね」
 そして、一連の展開に首を傾げるミーナの問いに、葉月の代わりにやって来た環菜が答える。
「カンナ様。……この後はどうされるのですか?」
 葉月が環菜に尋ねる。今なら、全員で攻め込めば勝利を確定させるだけの差をつけることは難しくはないだろう。
「……そうね。各生徒はその場で待機。指示があるまで攻撃は控えなさい」
 しかし環菜は、それ以上の追撃を指示しなかった。
(……勝負にしては、甘い判断ね。もしかしたら、ここまで勘案しての行動なのかしら。だとしたら……大変ね、イルミンスールを制するのは)
 自陣へ歩いていく環菜、バイザーの奥で微かに笑った、ように見えた。

「うわ、みんなボロボロだな。まあ、まだやる気はあるみたいだし、回復すれば大丈夫かな? あ、フォルクス、これ頼んだ。多分しばらく豆飛んでこなそうだし、持ってるの重いし」
 フィールドの端で、和原 樹(なぎはら・いつき)がまだ『死体』の札を掛けられていない生徒たちを癒しの力で再び起き上がらせていく。
「ぐっ……お前、我だって渡されても重いだけだ。……なるほど、こうしてアンデッド部隊が作られていくのだな」
「いや、それは流石に無理だろ。精神的に疲れたら、たとえ回復されたって動けないだろうし」
 樹から、盾として使用していた、凍らせたタライを先端に取り付けたメイスを投げ渡され、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が呻き声をあげる。
「そうだ、あの子もちゃんと癒してあげないとな。……それ!」
 樹が、癒しの力を明日香にも施す。回復を受けた明日香とエリザベートが何やら話しているのを見て、樹が呟く。
「しっかし、凄い魔法だったよな。それを受け止めちゃう校長とあの子も凄いけど」
「ふむ……我には、見た目ほど威力が出ているとは思えなかったのだが……今となっては確認のしようがないな。幸い蒼空学園からの攻撃も止んだ、できればイルミンスールに勝ってもらいたいからな。樹、張り切って癒していくぞ」
「えー、俺もう疲れたよ。俺はショコラちゃんと掃除してるから、フォルクス一人で頑張って。……ショコラちゃん、一緒に掃除しようか」
「……うん。お疲れ様、樹兄さん」
 フィールドに散らばっていた豆を掃除していたショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が、樹に労いのキスをくれてから、掃除を再開する。コロコロと転がる豆を掃除するのはショコラッテにとって楽しいらしく、一心不乱に豆を追いかけていた。
(やれやれ……確かに、アンデッド部隊は樹の言う通り、無理なのだな。どれ、もう少し、皆を癒していくとしよう)
 そんな樹とショコラッテを見遣って一息ついたフォルクスが、イルミンスールの生徒に癒しの力を施していく。
「エリザベートちゃん、大丈夫ですかぁ?」
「私は問題ないですぅ。……あなたは、いいのですかぁ?」
「うんっ。回復してくれましたしぃ、それに私、エリザベートちゃんラブですからぁ」
 にっこりと微笑んだ明日香が、エリザベートの頭をなでなでする。
「む〜、ミーミルにもよく頭をなでられるですぅ。そんなにいいのですかぁ?」
「エリザベートちゃんが可愛いからですよぉ。なでなで〜なでなで〜」
「よく分かりませぇん……ですが、あなたがそうしたいのなら、好きにするといいですぅ」
 そう告げた直後、エリザベートは明日香にむぎゅ、と抱きつかれる。
「エリザベートちゃん、ちっちゃくて柔らかくて可愛いですねぇ……」
「ちっちゃいって言うなですぅ。私も十年後には綺麗なれでぃになって、大ババ様を驚かせてやるですぅ」
「え〜、いいですよぉ。エリザベートちゃんは今のままでいいんですぅ」
 キャッキャウフフとじゃれ合う明日香とエリザベート、女の子同士だからこそ微笑ましい光景であった。

 そうこうしている間に、イルミンスールの生徒がエリザベートのところに集まっていく。皆、まだまだやる気は十分だ。
「あなたたちぃ、さっきは不覚を取りましたが、今度はそうはいかないですぅ。次こそ蒼空学園をコテンパンにしてやるですぅ!」
 エリザベートの命令を受けて散ろうとした生徒を、でも、と呟いてエリザベートが引き止める。
「……ケガには気をつけるですよぉ?」
 その言葉に、生徒たちは互いに顔を見合わせて、そして笑顔で頷いた。