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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音

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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音
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第7章 回転トラップ

「い、今・・・誰かの悲鳴が聞こえませんでした!?」
 4階から悲鳴が聞こえ、5階にいる影野 陽太(かげの・ようた)はビクッと身を震わせた。
「たしかに聞こえましたわ」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)も下の階に降りる階段の方を見る。
「ゴーストの仕業ですかな?」
 階段を登って5階にやってきた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が首を傾げて言う。
「そうやったら許せへんどすなぁ〜」
 生徒がゴーストの被害に遭ったかもしれないと、イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)は眉を吊り上げる。
 悲鳴の正体は何度も3階に落下している梓たちの声だった。
「この階に地下7階の扉を開けるスイッチがあるのね」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は進む先にゴーストがいないか、目を凝らして奥の廊下を見つめる。
「なっ、何ですかこの床。踏んだ瞬間に回りしたよ!?」
 進もうとしたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は驚き、床に転びそうになる。
「うーん・・・ちょっと厄介ねこれ。なんとか止められないかしら。」
「通り抜けられなかったら、回転床の隙間に落とされちゃいそうだね」
 回転する床を見て清泉 北都(いずみ・ほくと)は、通れなかったら4階に落とされそうと呟く。
「美羽さん、この床を通った先にレバーがありますよ」
「それを降ろせば止められるのかしら?」
「床の幅と回転速度的に、2人ずつ進んだほうがよさそうですね」
「じゃあ・・・試しに私たちから行ってみよう」
 落ちないように美羽とベアトリーチェは互いに手を握り合い床を踏んだ。
「床に合わせて回りながら行くのよ!」
「あと数歩で普通の通路にたどりつけます」
 2人は行きを合わせて残り数歩の距離を飛び、回転しない通路にたどりついた。
「たしかレバーはこの辺りですよね?」
「あれねっ」
「止めましょう」
 美羽の指差す先を見ると、床の回転を停止させる1つめのレバーが壁際に設置されている。
 ベアトリーチェはレバーを降ろして停止させた。
「次は僕たちがやってみるよ。声を掛け合ってみよう」
「そんじゃ、行くぞ。せーの・・・!」
 白銀 昶(しろがね・あきら)と北都は声を掛け合って床を踏む。
「結構、回るの早いな!」
「進みづらいよ!あぁっ、落ちるーー!!」
 北都と昶は回転に耐えきれず、4階に落ちてしまった。
「あわわっ、落ちてしまいましたよ・・・」
 落とされた2人見て陽太は頬に冷や汗を流した。



「―・・・落ちちまったか。大丈夫か、北都」
「うん、なんとか・・・」
 北都は昶に助け起こされて床から立ち上がる。
 もう一度チャレンジしようと5階へ戻る。
「無理にまっすぐ通ろうとすると落ちるんだろうな」
「回転方向と同じ方向に回りながら通ったほうがいいのかな?」
「よし、それでやってみよう」
 昶は北都の手をしっかりと握り、声を合わせて回転床を進む。
「まっ回る!」
「落ちないように、オレの手をしっかり握れ!」
 床から落とされないように、互いの手をぎゅっと握る。
「う、うん」
「もうちょいで渡りきれるぞ」
「やった、渡れた!」
 渡りきった北都はふぅっと息をつく。
「これがレバーかな?」
 回転を停止させるレバーを降ろした。
 ガコンッ。
「これで2つ目だよね」
「あといくつだ?」
「向こうに2つ、そっちの奥に1つあるから。あと3つよ!」
 遠くの方から美羽が残りのレバーの数を昶に教える。
「奥の方はオレたちのほうが近いからやっとくな」
「よろしくねー」
 そう言うと美羽は別のレバーを降ろしに行った。
「さっきの要領で行くぞ北都」
「うん、分かったよ」
 床の回転方向に合わせ、北都と昶は回りながら進む。
「よっと!ふぅ、ついたな」
「これで3つ目かな?」
 北都は両手でレバーを降ろした。
「他の2つはどうなったんだ」
「もう見つけて停止させたのかな。行ってみよう」
 様子を見てこようと、2人は美羽たちの方へ歩いていく。



「何をぼけっとしているんですの陽太。彼らに習ってわたくしたちも、掛け声で合わせて飛びますわよ」
「落ちたりしないですよね・・・」
「失敗を恐れていたら進めませんわ!」
 残りのレバーを降ろしたかどうか北都たちが見に行くと、床の前で進もうとしているエリシアが陽太の腕を引っ張っている。
「行きますわよ、せーのっ!」
「あぁあわわっ」
 陽太が床を踏んだ瞬間にぐるんと右回転する。
「め・・・目が回る〜」
「何をやっているんですの陽太。早く進みなさい!」
「そっそんなこと言われても、はぅああぁあーー!!」
 回転力に耐えきれず、2人は床に落とされてしまった。
「いったた・・・。もうっ、陽太がもたもたしているから落ちてしまいましたわ」
「すみませんエリシア」
「もう一度やりますわよ」
 エリシアは陽太の手を引っ張り、無理やり立ち上がらせた。
 階段を登って5階についた2人は再び床に飛び乗る。
「あわぁあっ、落とされる!あーーっ」
「何やっているんですの、まったくもう!!」
 またしても数秒で4階の廊下に落ちてしまった。
「まだまだ・・・諦めませんわよ」
 その後、20回も失敗してしまい、落下の衝撃で負った傷で2人の身体はボロボロだ。
「だ・・・大丈夫?」
 傷だらけのエリシアと陽太を見て北都は心配そうに言う。
「―・・・こ、これくらい平気ですわ」
「そう・・・?ならいいんだけど・・・」
「なんとしてでもやり遂げてみせますわ。行きますわよ、陽太!」
 床に倒れそうになる彼をエリシアが引きずり起こす。
「せーのっ、右足・・・左足、右足・・・左足・・・!」
 同時に進むために足踏みを合わせようとエリシアが声に出す。
「ついにやりましたわよ陽太。レバーの傍にたどりつきましたわ」
「はぁ・・・や、やっと・・・つきましたか」
 体力の限界に達しそうな彼はすでに疲れきっていた。
「これを降ろせばいいんですの?」
 エリシアは力を込めてレバーを降ろした。
「残りあと1つですわね」
「やったわね!」
「見事やり遂げてみせましたわっ」
 駆け寄ってきた美羽に、エリシアが笑顔を向ける。
「あとは私に任せて」
 美羽とベアトリーチェは手を握り合い、回転床へ飛び乗る。
「あとちょっと・・・。次の掛け声でジャンプするわよ。せーの、今よ!」
 ダンッと床を踏み、通路へ飛び移った。
「これが最後のレバーね」
 ガコォンッ。
 レバーを降ろし、床の回転を停止させた。
「やりましたな」
 ゴーストが襲撃してこないか周囲を警戒していた玲とイルマが駆け寄る。
「地下7階の扉のロックの解除装置はどこかしら?」
 近くに解除装置がないか、美羽は辺りをキョロキョロと見回す。
「あれですかな?」
「―・・・あった!」
 美羽は玲が指差すを方見ると、高さ1mの機械があった。
「解除ボタン・・・どれ?」
 赤や水色などのボタンが操作パネルに沢山あり、美羽はどれを押していいか迷ってしまう。
「うーん・・・この緑のやつかな」
 北都が隣から覗き込み、それらしいやつを見つけて押してみた。
 ビーッと音が鳴り、緑のボタンがONの表示になった。
「よかった、これで地下7階の扉が開いたね」
「そうね、あとは地下にいる生徒たちに任せよう。(待ってなさいよ姚天君!今度こそ絶対にヘルドさんの仇を取ってやる!!)」
 仇をとろと美羽は心の中で呟いた。
「あっ、これ。3階にいる人に渡さなきゃ。ちょっと行ってくるね」
 そう言うと北都は回転床のレバーを1つ上げて4階に降り、斜めに傾く廊下から自ら落ちて昶と共に3階へ行く。



「この辺にいると思うんだけど。どこにいるのかな?」
 マジックボトルを渡そうと北都は譲葉 大和(ゆずりは・やまと)たちを探す。
「北都さん!こっちですよ、こっち!」
 大和は片手を振って北都に呼びかける。
「今そっちに行くよ」
 3階で待っていた大和に渡そうと北都が駆け寄っていく。
「はい、これ」
 ボトルと銀の鍵を大和に手渡す。
「ありがとうございます」
 受け取った大和は割らないよう、大事そうに抱える。
「もし途中でゴーストと遭遇してしまったら戦いづらいですから持っていてください」
 ボトルをラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)に渡した。
「あれ?3人足りないような・・・」
 大和と一緒にフラスコを探し出した3人の生徒がいないことに気づいた昶が首を傾げる。
「歌菜殿は・・・・・・歌菜殿は、わしたちを庇って、ゴースト兵どもに捕まってしまったのじゃ」
 九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)が俯きながら言う。
「そうだったのか・・・そりゃ心配だな。それを合成したら助けに行くのか?」
「優先すべきことが他になければのう。途中で放り出して助けに行くことを望んではおらんじゃろうから」
「そうか・・・じゃあ後は頼んだぞ」
 他の生徒たちと合流しようと向かおう大和たちに片手を振って見送った。
「大和ちゃん!頑張ろう?歌菜おねえちゃんに会わせる顔が無いよ?」
 ラキシスは大和を見上げて言う。
「歌菜殿がヌシに託したチャンスを無駄にする気か?今は歌菜殿を信じてヌシのなすべき事をせよ!歌菜殿も水竜王も助けたいならなおさらじゃ!」
 未だに決めかねている大和を睨み、忍が強い口調で言い放つ。
「ボクや忍ちゃんだって辛いんだよ・・・。最後に皆で笑えるように、今が踏ん張り時だね!」
「ラキ、忍取り乱してしまいすいませんでした・・・。今しばらく、俺を支えてください」
 厳しく優しいパートナーたちの言葉に、ようやく決心した大和は笑顔で見つめる彼女たちに笑顔を返した。



 一方、5階へ向かおうとしている梓たちはまだ4階にいる。
「―・・・はぁ。さっきので何回落ちたんだ?」
「聞かないでくださいよ・・・正直へこみそうです」
 もう数えたくもないと、遙遠はぐったりとした表情になってしまう。
「あれ、どうしたの?」
 5階に戻ろうと4階に来た北都が声をかける。
「さっきから何度進もうとしても、床から滑り落ちてしまって・・・どうしても通り抜けられないんですよ」
「ちょうど皆のところに戻るところだから一緒に行く?」
「えぇ、ぜひ。ご一緒してくれると助かります」
 やっと床を通れると思い、遙遠はほっと安堵の息をつく。
「ここ通るの難しかったんだよね」
「やっぱりそうなんですか・・・」
「たしか・・・ここ含めて15箇所だったかな?」
「ちょっと待て、そんなにあるのか!?」
 疲れきって床に座り込んでいた悪徒が冗談じゃないと大声で言う。
「うん、マジックボトル探しに来た時、たしかそれくらいだったかな。でも上の階ために15箇所、全部通るわけじゃないよ」
「そんなにあったら進める気がしない!やってられんっ」
「でも・・・ここにいたら、ゴーストに襲われるかもしれないよ?」
「(兵の服を着てるし、いざとなったら言い訳でもなんでもしてやる)」
 心配そうに言う北都の言葉にも、その場から悪徒は動こうとしない。
「動けない人を無理に連れて行くわけにも行きませんし。ゴーストが出す酸に中をやられるかもしれませんけど」
「な、中って何だ?」
 遙遠の言葉に危機感を覚えた悪徒が立ち上がる。
「中といったら、内臓に決まっているじゃないですか」
 涼しい顔で遙遠はさらりと言い放つ。
「まっ、待て置いて行くな。俺も一緒に行くって!」
 そんな恐ろしいことを聞いて1人ぼっちで置き去りにされてはたまないと慌てて後を追う。
「―・・・さて、問題の床ですね」
「上手く進まないと、すぐ落ちちゃうからね」
 北都たちは左右のバランスをとりながら進む。
「なんとか1箇所目、通れたな」
 昶は北都の手を引き、滑らない廊下に飛び乗る。
「あぁっ!」
 壁際に設置された放電のトラップに、遥遠は足元を狙われてしまう。
「大丈夫ですか遥遠」
 遙遠は滑り落ちそうになる彼女の腕を掴み、床に引っ張り上げる。
「―・・・えぇ、なんとか」
 落ちそうになりながらも、生徒たちは互いに協力しあって順調に進む。
「うーん・・・どっちですか?」
 8箇所目を通ると、2つの分かれ道がある。
 左と右どっちに進めばいいか、遥遠は昶の方へ向いて聞く。
「たしか右だったな。この辺りはオレたちと一緒に行動してくれて上の階で待っている生徒たちが倒した機械兵とレーザーしかいなかったし。道の途中で襲われる心配はないぜ」
「それなら安心ですね。えっと、右ですよね」
 数m進むと最後の1箇所にたどりついた。
「ふぅ、ここを通れば5階に行けるんだな?」
 通路を進もうと、梓は落ちないようにゆっくり歩く。
「うぁっとと・・・、危ねー・・・」
 床が左側に傾いてしまい、慌てて右へ寄る。
「やっと通れたー!」
 梓は疲れたように、ぐーっと背伸びをした。
 階段を登って5階へ行くと、生徒たちが待っている。
「お帰りなさいー」
 帰ってきた北都と昶に向かって、陽太が片手を振る。
「無事に戻ったようですな」
 戻ってきた彼らを見て玲はほっと息をつく。
「ただいま、待っててくれたんだね」
 北都が陽太たちの元へ駆け寄ろうとした瞬間、“待てっ!”と昶は叫んだ。
 彼の方へ振り返ると、キラーパペットが天井に突き立て、北都を見下ろしている。
 首を掴もうと狙うゴーストの手から逃れようと床に伏せる。
 玲は北都を助けるため、雅刀の切っ先をゴーストへ向け、力を込めて思いっきりターゲットの頭部へ投げつけた。
 床へ落ちた亡者にイルマがアシッドミストを放ち止めを刺す。
「危なかったどすなぁ〜」
「あ・・・ありがとう」
「いつこのようにゴーストが襲ってくるか分かりませんからな。それがしが周囲の警戒と守りを務めますぞ」
「うん、分かった」
 警戒と守りを担当するという玲に北都はこくりと頷く。
「それじゃあ皆無事にここへ来れたことだし。少し休憩しよう」
 体力を回復させようと、美羽たちは5階でしばらく休むことにした。