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ぼくらの栽培記録。

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ぼくらの栽培記録。
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4日目

「二号が死にましたわ……」
 リリィが涙を堪えながら呟いた。
 朝、温室に行ってみると──冷たくなっている二号を見つけた。
「……二号? 二号??」
 翡翠が声をかけても反応しない。
 首にストッパーをかけておいたのだが、まるでその上に眠るようにして息絶えていた。
「もう目を覚まさないのか? 管理人が持ってきたおかしな植物だろ?」
「失礼な奴だな……もともとそいつは生命力が弱かったんだ、運命だった。それだけのことさ」
 一号がなんでもないことのように言った。
 弱肉強食。
 自然界は厳しい。
「お前らは大丈夫か?」
「元気にきまってんだろ!」
「当たり前のことぬかすなよ!」
 みんなはその言葉を聞いて苦笑した。
「この子……埋めますわね」
 リリィがは二号を持ち上げた。
「あ、自分も手伝います」
 翡翠も一緒に鉢を持ち上げ、二人は、少し離れた場所に穴を掘った。
「綺麗な花、咲かせられなくてごめんなさい……」
 土を掘り起こしながら、リリィは服が汚れることも気にせずに、鉢の中から二号を取り出し、そっと寝かせた。
 マッチョ顔が、今ではもう果物が萎びたようにしわしわになっていて、顔かどうかすら分からない。
「ゆっくり眠れよ……」
 レイスが小さく囁いた。
「──おい繭!」
「はいっ!?」
 いきなり四号に声をかけられた繭は、びっくりして背筋を伸ばした。
「アイツに、お前がやった水……最後にかけてやってくれねえか?」
「?」
「……好きだって言ってたからよ」
「っ!」
 繭は口元を押さえた。
「…分かり…ました……」
 言うが早いか、繭は駆け出した。
──もっとたくさん飲ませたかった……飲ませてあげられたら良かった。
 繭は泣きそうだった。


4日目)10時:雨  担当 遠鳴 真希 ケテル・マルクト


二号が死にました……ごめんなさい…ごめんなさい……

力不足でした…

助けられなくて、ごめんね…

二号がいなくなって、鉢は3つになっちゃたよ。寂しいです。

他の子たちも、ちょっと元気がなさそう。回復してくれていると嬉しいんだけど……



「真希さんたら…、どこへ行かれたんでしょうか?」
 ケテルはきょろきょろと辺りを見回した。
 さっきまで日誌をつけていたはずの真希が、目を離した隙に消えていた。
「………」
 ふいに、ケテルは日誌を広げてみた。
「日誌の文字が滲んでますね……泣いていた…んですね」
 しばらくして二号のお墓の前で俯いている真希を見つけると、ケテルはそっと寄り添い、真希が落ち着きを取り戻すまで…黙ってずっと側にいた。

「腹へった〜、めし〜めし〜」
 さっきの空気を払拭するように、植物たちが騒ぎ始めた。
 皆は苦笑しながらも、ゆるやかに過ぎていく時間の有難さを痛感していた。
「本当に大食漢だねぇ」
 弥十郎は焼きたてのホットケーキを持ってきた。
 卵、小麦粉、お砂糖とミルクがあれば簡単に作れ、それに卵のたんぱく質、小麦粉の炭水化物、ミルクの脂質と栄養価も高そうに思えたからだ。
「最初は、オーソドックスなホットケーキ。途中で飽きるかもしれないから、メープルシロップ、オレンジソース、溶かしバターも持ってきたよ」
「うまそ〜! くれくれ〜」
「ちょっと待って、きっと熱いと思うから」
 弥十郎はふーふーと息をかけて十分に冷ました。
「このくらいでいいかな?」
 まるで彼女にするように、慈しみをこめて食べさせる。
「はむ……んぐんぐ」
「ん? おいしい? 良かった」
「……何も言ってねえだろ」
「もうちょっと甘い方が良かったかな」
「おい話を聞けよ」
「まだ熱いから、十分に冷まそうね。はい。アーン」
「………」
 何を言っても無駄だと感じたのか、素直に口を開ける植物たち。
 唇を突き出しておかわりを求めることから、気に入ってるのは言うまでもなかった。
「しかし…これは…なんと珍しい」
 斉民が興味深そうに見つめながら、しきりに自分の資料に書き込んでいく。
 いつかこの球根を手に入れた別の者が困らないように、詳細にマニュアル化していっていた。
「不思議な生き物……」
「低コストでおなか一杯食べられるから良かったねぇ」
 弥十郎が優しく微笑んだ。
「……ホットケーキにはやっぱり飲み物が必要だよねぇ」
 北都が『タシガンコーヒー』を持って立っていた。
 コーヒーを飲めば香り豊かに育つかもしれない。
「でもまぁ好みもあるから、甘いのが好きなら砂糖とミルクを入れてあげるよ。いっそガムシロップをあげた方がいいかな? 私的にはブラックが一番なんだけどねぇ」
「ガムシロップのみはマズイだろう」
 ソーマのツッコミを無視して、北都はコーヒーを飲ませる。
「うへっ! 苦ぇ!」
 渋い顔をして一号は身悶えた。
「え? そうかぁ? 俺は美味いけどなぁ」
「俺も」
 三号と四号はブラックが気に入ったようだった。
「本当はタネ子さんの蜜、あげたかったんだけど……」
 北都はちらりとソーマを見上げる。
「いつタネ子さんの蜜を取ってきてくれるのぉ? 結局この前は途中で引き返しちゃったし…」
「そのうちな」
「………」
「そのうち!」
 つまらなそうにしながらも、北都は頷いて見せた。

「綺麗なお花を咲かせて、桜井校長に喜んでもらいたいです。そのためには……」
 ロザリンドは手にした包みを開いて中を覗きこんだ。
「いっぱいありますよ? クッキーとかチョコレートとかスポンジケーキとか、私の料理の練習で失敗したものばかりですが大丈夫ですよね? ちょっと焦げたり、味付けが濃かったり薄かったり間違ってたりするだけですから」
「うぇ?」
「決してパートナーが逃げ出して処分に困っているとかではないですから」
「ちょちょちょちょっと待て〜〜〜〜」
「それにしても変わったお花ですね? お顔ですかぁ」
「変わってるのはお前の頭だ!」
「はい、沢山食べてねー」
 ロザリンドは根元に埋め始めた。
「お、お、お、おおおぉい。……ツッコミづれぇな。食わせろよ」
「え? あ、お口に?」
「そうだよ! あ、でもその丸焦げのやつはそのまま埋めとけ」
「はーい」